君が望む暁

   PHASE−12 砕かれた心



























「キラ…」






フレイの甘い声が耳を掠める。







何故…抵抗しないのだろう…





耳元で囁かれるそれは、自分が求めていたものと違う筈なのに…




ベッドに沈められた体は、麻酔がかけられたようにその自由を奪う。








「キラ…大丈夫よ…私が貴方を守るから…。」







優しく囁かれたその声は甘い誘惑となってキラを誘う。














ずっと…サイが羨ましかった。




フレイは憧れの存在で…サイは僕の友達で…





だから…いつも2人は輝いて見えていたんだ。








僕がフレイに抱く想いはきっと恋と呼べるもので…




けれど、フレイにはサイが居た。





叶わない恋なのだと、ちゃんと解っていた。





けれど今…その憧れた彼女が目の前に居る。







僕を守ると言ってくれて…傍に居ると言ってくれる…。





















『あんな風に想われて幸せじゃない…。』







「…っ…!!」







フレイとは違う声が脳裏を掠めた。




黒い髪…自分と同じ紫の瞳…




小さい体で大きなものを背負っている彼女…。




でもいつも自分を気遣ってくれて…笑いかけてくれて…





そんな彼女は…きっと僕に対して何の感情も抱いていない。





あの言葉がその証拠だ…。





でも…離れない…







例え僕を求めてくれていなくても…



違う場所を見ているのだとしても…





気付いてしまったから…





本当の気持ちに…






















「ごめん!」





「…キラ!?」





覆い被さっていたフレイの腕を押す。




彼女は驚いた表情で見つめ返して来た。







「ごめん…僕には…出来ないよ…。」





予想外の答えにフレイは瞳を大きく開いた。






キラは自分に気持ちがある…




そう思っていたフレイには自信があった。





キラへ偽りの愛情を注ぐ事で彼の心を支配して…




そして…ボロボロに傷付いて死んで行けばいい…。






唯一の肉親であった父を失ったフレイに、失うものなど他に無かった…。






キラも同じ苦しみを味わえばいい…









「キラ…どうして…」





「好きな子が…居るんだ…。」







その言葉を聞いてすぐ、フレイの脳裏にはの姿が浮かぶ。






彼女もキラの事を想っていた…それは知っている。




けれど、自分の計画を進める上で彼女は邪魔者に過ぎなかった。





彼女に恨みは無いし…同じ女性として憧れる部分もあったけれど…






でも…それでもコーディネイターに対する憎しみの方が勝っていた。




















「僕の事…何とも思ってないのは分かってる。

 でも…好きなんだ…。

 その気持ちに気付いてしまったから…ごめん…。」








揺れる紫の瞳。



目の前に居る少年の瞳に宿るのは、自分では無い他の少女の姿…





フレイは唇を噛み締める。








決めたの…許さないって…




パパを殺したコーディネイターを絶対に許さないって…
















「それでも…私は貴方を守りたいの…。」







「フレ…」






言葉を返す前に塞がれた唇…




目を閉じる彼女からは微かに涙の雫が零れる…。

































、今大丈夫か?」






一通りの仕事を片付け、椅子に深く腰を沈めた時だった。






静まり返った医務室を訪れたのはノイマン。






「…大丈夫ですよ。何かあったんですか?」







笑顔で迎え入れてくれた彼女に遠慮しつつ、ノイマンはベッドに腰を下ろした。







「あ…今お茶入れますね。」





「いや、いいんだ。すぐに仕事に戻るから。」




「そうですか?」






何かあったのだろうか…?




頭上に疑問符を浮かべつつ、は再び椅子に腰掛けた。







「なぁ…」




「はい?」





「今の仕事、楽しいか?」




「え?」






何を唐突に…




今の仕事って…軍医としての仕事って事…よね?





「えぇと…楽しいと言うか何て言うか…」




返答に困る質問…




確かに自分から名乗り出てしている事ではあるけれど…




軍医が居ないこの状況で少しでも自分の力が役に立てば…と思って志願した。




だから、楽しいとか考えた事なんて一度も無かった気がする。










「…正直言って、無理してるように見えたんだ。」





「私が…ですか?」






「付き合いも長いしな、の性格は把握してるつもりだと思う。」




「ノイマンさん…」





「人前では決して泣かない所とか、バジルール中尉譲りだよな…。」





「ノイマンさん…」





「だからこの場所を選んだのか?」








1人の時間の多いこの場所を…





誰にも気兼ねなく泣ける場所を…







「…違いますよ。」




?」




「私、役に立ちたかったんです。医者として必要とされたかったんだと思います。

 私が…・バジルールがアークエンジェルで出来る最善の仕事が…ここにあるんです。」







姉様の妹だから…



バジルール家の人間だから…





そんな肩書きを取り除いて生きたいと思うから、学ぼうと決めた医学。





その知識を少しでも役に立てたいと思ったから志願した軍医への転属。








確かに最初は逃げたかったのかもしれない。




ブリッジという空間で自分に出来る事など限られていて…




姉様というプレッシャーと戦いながら頑張ってきた。




でも…そんな風に生きるのは苦しいから…








そして…




傷付いて帰って来る人達を救う事が私に出来るのなら…




1人でも多くの人間を助けてあげたいと思うから…。
















「戦うんじゃなく、救う…それが私に出来る事…

 そう気付いたんです。」


















































ビーッ!!







「敵襲か!?」





突如、艦内に響いたアラートに、鍛えられた軍人の体は素早く反応する。





地球へと降下してから、周囲の様子は穏やかなもので…この音を聞くのは久し振りのような気もする。






ノイマンはすぐさま立ち上がり、医務室を飛び出した。





もまた、状況を把握すべく、ブリッジへと通信回線を開く。













「何があったんですか!?」






『周囲に敵と思われる熱源反応があります!』





「!?」






























「もう誰も死なせるもんか!」






ベッドから飛び出したキラは素早く上着を羽織り、部屋を飛び出した。






誰も死なせない…僕が守る…




この艦も…この艦の人達も…



もう誰1人失うものか…!




















キラが部屋を飛び出して数秒後…





医療器具を持ったが同じく格納庫へと向かっていた。






キラと同じ決意を胸に秘めて…







彼の部屋のある通路に差し掛かった時、部屋からキラが飛び出して行く姿が見えた。





キラがまた…ストライクに乗らないといけないんだね…。






キラが戦ってくれなかったら…私達はきっと助からない。




キラのお陰で私達は今こうして生きている…。




それは解ってるけど…でも…


















閉まりかけていたキラの部屋の前を通過したその時…







「…え…?」






フワリと甘い香りが漂う。




その香りにつられて視線を部屋の中へと向けてしまったその時…




見てはいけない光景を目にしてしまった。







キラのベッドに…赤い髪…









フレイが…キラのベッドに…?







停止する思考回路。





小刻みに震える手…





私の体は持っていた物を落とさないように守る事が精一杯だった。












解ってる…





キラはフレイが好きで…




フレイもキラを気にしていて…







でも…こんな光景…見たくなかった…。







心のどこかで願ってた…






私の思い違いであって欲しいと。



































【あとがき】

やっと更新ですね…ハイ。

スランプに陥ったと思ったら次は私生活でバタバタと…(汗)

早く完結させたいのに、いつになるんだか(汗)

『戦場の歌姫』のペースで行ってたら既に終わってる筈なのになぁ…アハハ…

キラのお話はアスランとは違って書きにくいんです。

何せ主人公ですからね…出番も多かったわけですし。

アスランのお話は勝手に想像とオリジナルで進めちゃえばいいんですが…

ってキラも既に原作から脱線して書いてますけど…。







2005.11.15 梨惟菜











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