君が望む暁

 PHASE−10 決意






















「今まで守ってくれて…ありがと。」





避難民の少女から手渡された紙の花。




幼い少女は母親に手を引かれ、地球軍のシャトルに乗り込んだ。








「キラ!!」




私服に着替え、シャトルに乗り込む列を眺めていたキラを呼ぶ声。





「トール!皆も!!」



振り返ると今まで一緒だった仲間達が揃って現れた。





自分以外の全員は、軍服のまま…。



その様子にキラは首を傾げた。







「これ…」




トールが差し出したのは1枚の紙切れ。





「除隊許可証。」



「え…?」




「俺達、残る事にしたからさ。」




「残る…?」






残るって…アークエンジェルに…地球軍に…?







「フレイが志願したんだ。1人残しては行けないからさ…」





サイは苦笑しながらそう答える。





「フレイが…志願…?」







何故彼女が…?




必死に考えを纏めようとしたその時…






「おい!乗らないのか!?」




いつの間にか全員が乗艦を済ませ、誰も残っていなかった。




「待ってください!こいつも乗ります!」





トールがキラの背中を押す。





「これも運命だ!じゃあな!お前は無事に地球に降りろ!」




「元気でね、キラ。」




「生きてろよ!」




「何があってもザフトには入らないでくれよ!」







笑顔で手を振り…4人は姿を消した。







残る…?










『ありがとう。キラ。』






フワリと…脳裏を掠めた甘い声…




初めて彼女の名を呼んだあの日に見せてくれた…柔らかい笑顔…





彼女を守る事が出来て良かったと…



その瞬間に感じた想い。





何故そう感じたのか…あの時には漠然としか考えなかったけれど…







今なら何となく分かる気がする…






僕は…





















その頃…大気圏を目前に再びザフトの攻撃が始まっていた。





アークエンジェルを守る為、提督率いるメネラオスを始めとした連合軍の艦隊が布陣を敷く。







しかし、相手はあの奪われたG4機…




ストライクも使えない今、連合軍は圧倒的な不利。





けれど…ここでアークエンジェルを落とす訳にはいかない。



















「敵の狙いは本艦です。本艦が離れない限り、このまま艦隊は全滅します!」





追い詰められ、マリューは苦渋の選択を迫られた。




しかし、提督の思いを知るからこそ、この方法を選ぶしかない。




メネラオスへと通信を開いたマリューは、アークエンジェルの単独降下を申し出た。









「アラスカは無理ですが、この位置なら地球軍制空圏内へ降りられます!」






『相変わらず無茶な奴だな…マリュー・ラミアス。』




「部下は上官に習うものですから…。」







『いいだろう!アークエンジェルは直ちに降下準備に入れ!限界点まできっちり送ってやる!

 送り狼は1匹も通さんぞ!』
















「総員!直ちに降下準備!」







マリューの掛け声と共に、皆は降下準備へと入った。












「修正軌道、降角6.1、シータプラス3…」



「降下シークエンス、フェイズワン…大気圏内突入まであと10分…」












軍医として働くもまた、応援でブリッジのシートに座っていた。





必死に目の前のキーを叩き、作業を進める。





何としてでもこの艦を無事に地球へ降ろしたい…。




その気持ちは皆同じ。





そんなの瞳は微かに潤んでいて…先程まで流していた涙の所為で瞼は腫れていた。














「デュエル、バスターが先陣隊列を突破!」



「メネラオスが交戦中!」





連合のメビウス隊でGを止めるのは到底無理な話で…


このままでは艦隊全滅は時間の問題となった…。
















『艦長、ギリギリまで俺達を出せ!何分ある!?』








格納庫で待機していたフラガ大尉が叫ぶ。





「何を馬鹿な…『俺達』…?」






『俺達』…?





フラガ大尉の言葉に引っ掛かりを感じるのはマリューだけでは無かった。




この艦で出撃が可能なのは今はフラガ大尉しか居ない筈…




まさか…







『カタログスペックではストライクは単体でも降下可能です!』









キ…ラ…?






モニターに映し出されたのは紛れも無くキラの姿…





キラが…どうして…







『このままじゃメネラオスも危ないですよ…艦長!!』





戸惑うマリューはなかなか出撃命令を出す事が出来ない。




間もなくこの艦は大気圏へと突入する。




この危険な状況で2人を出撃させてもいいものなのか…









「分かった!ただし、フェイズ3までには戻れ!

 スペック上では可能でもやった人間は居ないんだ。中がどうなるかは知らないぞ。

 高度とタイムは常に注意しろ!」





『はい!』






「姉様っ!!」



「バジルール少尉!!」





通信が切れるのと同時に、とマリューが共に声を上げる。






「ここで本艦が落ちたら、第八艦隊の全ての犠牲が無駄になります!」





眉一つ動かさず…ナタルはキッパリと言葉を返す。



















キラが…戻って来てくれた…。





それは…彼女を…フレイを守る為…?




1人志願した彼女と…それを追って残ったミリアリア達の為?








でも…また会う事が出来た…。







嬉しさと…悲しさが入り混じる。





この気持ちを何と表現したらいいのか分からないけれど…




でも…また私はキラと言葉を交わす事が出来る…。





その為にも、今を乗り切らなくては…


































「キラ!キラ!戻って!!」





限界点を2分切ってもストライクは戻らない。




それどころか、アークエンジェルから大きく離れてしまい…



その間にもアークエンジェルは降下を続ける。












「艦、大気圏突入!」







「キラ!!」






アークエンジェルが大気圏内に入るのと同時に、離れた位置にあるストライクもまた大気圏に飲み込まれて行く…






「艦を寄せて!!」




「しかしこのままでは着陸地点が大きくずれます!」





「ここでストライクを見失ったら意味が無いわ!!」






マリューの指示でノイマンは艦をストライクへと寄せる。






「キラ!応答して!!」




その間にもミリアリアは何度もキラに呼び掛けるが返事は一向に返って来ない。







この状況で大気圏内に突入したら…コックピット内の温度はどこまで上がる…?




それを想像したは次第に蒼ざめる…






ようやくストライクの傍まで艦が寄せられ、そこへストライクが着艦した。






「ストライク、着艦しました!!」












「キラ…!!」







居てもたってもいられなくて…私はシートから離れる。





!!」




姉様の叫び声に振り返りもせず、ブリッジから飛び出した。







アークエンジェルは大気圏内へと突入し…艦内はその衝撃で大きく揺れる。





でも、そんな事に構ってはいられない。





幾らコーディネイターでも…キラが無傷な筈が無い…っ…























【あとがき】

やっと地球降下ですか…

未だ、それらしい絡みが無いんですけど…ねぇ…

ヒロイン、軍医にしたものの、キラが戻って来る場面に同席させたくて無理やり座らせてみたり…

ま、いっか(投げやり)

ようやく地球に降下して…そろそろドロドロの三角関係の予感♪

昼ドラっぽくしたいなぁ…なんて思っちゃったり…ね。

フレイは嫌いでは無いんですが…申し訳ない。

ヒロインとキラの愛の為に悪役になっていただこうと思います。








2005.10.3 梨惟菜











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