君が望む暁


  PHASE−01 予期せぬ出逢い












!何をしている!遅れるぞ!!」



「あっ!はい!姉様!!」



真新しい真っ白なシャツを羽織ったは姉の後を追って部屋を飛び出した。



「おはようございます!」


部屋を出ると、廊下では2人の男性が姉妹を出迎えた。



「おはようございます。」


「おはよう。車の手配は出来ているのか?」




「はい。工業カレッジのレンタルエレカで移動するように…との指示を受けております。」



「分かった。では急ごう。」


「はい。」







ナタル姉様に続いて私と彼らも廊下を移動する。


一見、迷ってしまいそうな構造のこのホテル内でも姉様は冷静に道を選ぶ。


そんな姉様の後姿を見ながら、私は小さく溜息を吐いた。







オーブ首長国連邦のコロニー、ヘリオポリス。


ここへ来て3日…。



連合の領土で生まれ育った私にとって、驚く事ばかりのこの土地はどうも落ち着かない。



平和で安全で…


私と同年代くらいの子達はごく普通の学生として日々過ごしていて…。


育った環境の違いを痛感させられた。





「どうした?」


工業カレッジに隣接して建てられたホテルの廊下からはカレッジの中庭が見えて…


その明るい芝生の色に目を奪われていると、隣を歩いていたノイマンさんがそんな私に気が付いた。



「あ…いえ。楽しそうだな…って思って。」



「まぁ…な。に比べたらお気楽な人生なんだろうな…。」


「いえ…別に私は…」




ノイマンさんは私の事を妹の様に可愛がってくれるお兄さんの様な存在。


姉1人の私にとって、姉とは違った頼もしさを感じる人。








「何をのんびりしている!時間はそんなに無いんだぞ!?」



「「はい!済みません!!」」


同時に叫んだ私達は顔を見合わせて笑い、小走りでナタル姉様の後を追った。




















「だからぁ…そういうんじゃないってば!!」




レンタルエレカポートに着くと、そこには数名の学生の集団が並んでいた。



ピンク色のワンピースに赤毛の少女が数名の女子に囲まれ、何か問い詰められている様子…。



「あ!ミリアリアなら何か知ってるんじゃない!?」


「…何が?」


「フレイったらね、あのサイ・アーガイルに手紙貰ったのよ!」


「えぇ!?うっそ!知らないわよ!?」


「だからやめてってばぁ…!!」




楽しそうに談笑する輪にナタル姉様が近付く。


集団の前で立ち止まった姉様は軽く咳払いをした。




「…乗らないのなら…先によろしい?」



丁寧な言葉の中に棘を感じさせる一言に、一同は押し黙った。



「あ、はい。どうぞ。」



輪の中に居た少年の1人が返事を返す。




振り返ったその少年と…瞳がぶつかった…







栗色の髪の毛がサラサラと風に靡いて…


私と同じ、紫のつぶらな瞳が妙に愛らしく感じた。



男の子相手に可愛いだなんて失礼かも知れないけれど…


同い年くらいか…それより少し下か…



幼さの見え隠れする少年も、大人の集団の中に1人混ざる私に何か疑問を抱いた様だった。








「では…お先に失礼。」



ナタル姉様に続き、私達も素早くエレカに乗り込む。




工業カレッジに似つかわしい4人組に、一行も何か違和感を感じていた。

















「何とも平和な事だな…。」



「え…?」


自動操縦のエレカの運転席に座る姉様が小さく呟いた。


その言葉は苛立ちを含んでいるようで…いつもよりもトーンが少し低かった。




「あれくらいの年で前線に出ている者も多いというのに…」



姉様の一言に、隣に座っていたノイマンさんは私を見て悲しそうに微笑んだ。




「中立国だもの…仕方ないですよ…。」


「中立国…か。」


姉様の苛立ちを宥めるように放った一言で、それ以上は何も言わなかった。



















所定の更衣室に入った私と姉様は、設けられたロッカーの扉を開く。


指定の場所に置かれた、真新しい制服…。



着ていたシャツを手早く脱ぎ、その衣装に袖を通す。



スカートを好んで着ない私にとって、膝丈のタイトスカートは少し窮屈に感じられた。


襟元をきつく締め、少し乱れた髪の毛を鏡の前で整える。



「出来たか?」


「あ…はい。」


「行くぞ。」



規定の制服とはいえ、姉様と同じ物を身に纏うのは何だか億劫だった。


昔から何においても比べられてしまう私と姉様。


バジルール家において、姉様と私の9歳の年齢差など関係なく…

常に姉様と同じ様に厳しく育てられた。



なのに、姉様との差は開くばかり。



『ナタルがあなたの年には出来ていた事なのよ?』


母様の口癖…



そのセリフを言われるのが嫌で…いつも一生懸命頑張った。


けれど…努力に対して付いて来ない結果…



結果が全てのバジルール家において、過程など誰も目に留めてはくれない。











!」


「あ!はい!!」



極秘裏に開発された新型の戦艦に配属された事は名誉と言っても良い事。


もし…それが私だけであったら手放しで喜んでいただろうに…。


姉様と私…


共に配属になったというだけで、私の実力では無いのだと…そう思ってしまう。



それが事実なのか…

私がマイナス思考なだけなのか…




艦長の待つブリッジに向かう私たちがシャフトに差し掛かったその時だった…。










「何だ…?この音は…」



外から聞こえる僅かな爆音…


こんな平和そのもののこの衛星で…






「!!姉様っ!!」




ードォン!!






先程とは比べ物にならない爆音が鳴り響き…


私達を囲む壁が激しく崩れる音がした。





…っ!!」



直後に襲い掛かった衝撃により、私の視界は遮断された…。




















【あとがき】

始まってしまいました…キラ本編沿い。

基本的にヒロイン視点で展開するお話になりそうです。

とてつもなくマイナス思考のヒロインです…

ちょっと暗くないか…この子…

これからキラや色んな人に出逢い、世界を広げる事によって少しずつ成長したらなぁ…と。

とりあえずこのお話はSEEDまで書いて…

その様子を見て運命編に繋げるかどうか考えたいと思います。

一応、私のメイン作品は『戦場の歌姫』ですので…(汗)


それでは…こちらも長い連載になりそうな予感ではございますが、お付き合い下さいませ☆







2005.6.22 梨惟菜











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