失って気付く、大切な物の愛おしさ・・・
でも、二度と戻る事の無い幸福な日々をただ悔やむばかり・・・
あなたを心から愛して・・・
あなたに心から愛されて・・・
そして、その手を離してしまったから・・・
もうあの頃には戻れないのだろうか・・・
7Days Love
<<1>>
「何かしっくり来ないんだよなぁ・・・。」
久しぶりに袖を通した軍服。
真新しいそれは、軍から新たに支給された物で、ディアッカは規定通りに襟をしっかりと締める。
その色はかつて与えられた赤ではなく、一般兵用の緑。
鏡の前に立ち、自分の姿を照らし合わせては溜息を繰り返していた。
「仕方ないだろう。降格処分で済んだだけでも有難いと思え。」
不満そうに口を尖らせるディアッカの傍らで、白い軍服の上着を締めるイザークの姿があった。
停戦から半年・・・
評議会で戦後処理に追われていたイザークとディアッカはようやく軍に復隊する事となった。
先の大戦の終盤で隊長に命じられ、その任務を全うしたイザークは、正式に隊長として就任した。
戦艦を与えられ、軍からの期待も大きい。
そして、イザークの弁護によって何とか除隊を免れたディアッカもジュール隊への配属となる。
「で?今日のスケジュールは何からだっけ?」
「きちんと確認くらいしておけ。これからMSのシュミレーションだ。」
キリッとした表情でディアッカに背を向けたイザークは必要な書類を手に部屋を出る。
一見、普段通りに振る舞う彼に、ディアッカの表情は複雑だった。
イザークとが別れて3ヶ月・・・
毎日、何事も無かったかの様に職務をこなすイザークをずっと見て来た。
感情の起伏が激しいイザークなのに、この3ヶ月は妙に穏やかで・・・
時折、怒鳴られる事は良くあったけれど・・・。
それでも怖くて彼女の話題には触れる事が出来ないまま、時は流れる。
時々、地球に居るアスランに連絡を取っての様子を伺っていた。
イザークと別れて戻った時にはどうしようもない位に取り乱していて、なだめるのに必死だったらしい。
それでもは何とか笑顔を取り戻し、今では以前と変わらない毎日を過ごしている。
安心したような・・・複雑な気分だった。
正直、ディアッカには罪悪感もあった。
には決して言わないで欲しいと言われていた事をイザークに知られてしまった事。
それによって、愛し合っていた2人が別れの道を選んでしまった事・・・。
いずれ訪れる問題だとは思っていたけれど・・・あまりにも早すぎて・・・。
「ディアッカ!!何をしている!時間に遅れるぞ!!」
「あぁ、悪い!今行く!!」
「やっぱ腕、鈍ってんな〜」
シュミレーションの結果を片手にディアッカは呟く。
久しぶりの訓練・・・
操縦は体が覚えていたから難なく動けたが、成績は以前と比べると少し劣る。
「まぁ・・・イザークは心配ないだろうな・・・。」
そう思ってイザークが訓練を行うブースを覗いた時だった。
見学していた兵士達の間からざわめきが起こる。
「何?イザークの奴、派手にやらかした?」
「いえ・・・それが・・・」
ディアッカに声を掛けられた兵士は戸惑いながら視線をモニターに向けた・・・。
「イザークが・・・負けた?」
「久しぶりの感覚だな・・・。」
コックピットと同じ造りのシートに体を落としたイザークは懐かしい感覚で機動の準備に入る。
操縦は体が覚えている・・・
皮肉な話だな。
『では始めます。』
開始のランプが点灯したその時だった・・・。
「・・・っ・・・何だ・・・?」
突如、イザークの体に異変が起こる・・・。
体が・・・動かない・・・
さっきまでは異常も無かった筈なのに・・・。
握ったレバーが動かない。
肩から指先にかけて、凍り付いたような感覚に襲われる。
何が起こったのかも分からないまま、ブザーが鳴った。
「どうしたんだよ・・・相手、一般兵だろ?」
仮にもイザークは隊長なのだ。
元赤服のディアッカでさえ、イザークに勝った事は無い。
いくらしばらくぶりとはいえ、開始5秒で撃ち落されるなんて有り得ない話だ。
「腕が・・・動かなかった。」
「は・・・?」
イザークの真剣な面持ちにディアッカは顔をしかめた。
「機械の設定ミスかとも思ったんだが、異常は無かったらしい。」
イザークはギュッと拳を握る。
さっきの違和感はもう無くなっていた・・・。
何故・・・動かなかった・・・?
「特に異常はありませんね・・・。」
診察を終えたイザークに対して医師は答えた。
「健康状態も良好ですし、特におかしい所は見つかりませんでした。」
「そんな馬鹿な・・・確かに体が硬直して・・・。」
「シュミレーション時以外にその状態は起こりましたか?」
「いや・・・その時だけだ・・・。」
「う〜ん・・・」
腕を組んで考え込む医師の表情は固かった・・・
「ひょっとすると・・・精神的なものが原因かもしれないですね・・・。」
「精神的なもの・・・?」
「何かが原因でMSに乗る事を心の奥底で拒んでいる可能性があるかもしれない・・・という事です。」
MSを拒んでいる・・・
心当たりはあった。
今頃になって鮮明に思い出す・・・。
地球軍のシャトルを撃ち落した瞬間。
初めて愛した女の家族が乗ったそのシャトルを俺が撃ち落した。
だから・・・MSに乗るのが怖い・・・?
そういう事なのか・・・?
「1週間だ。」
基地に戻り、上官に報告をしたイザークはそう言い渡される。
「1週間の休暇を与える。」
「それはどういう・・・」
「MSに乗れない隊長など必要無いのだよ。」
冷たく言い放たれた言葉に、イザークは反論出来なかった。
「1週間後にもう一度シュミレーションを行う。
それでも乗れないようなら、君には評議会へ戻ってもらう事になるな。」
「了解・・・しました・・・。」
「そりゃあ・・・隊長が前線に出ずに母艦でお留守番・・・って訳には行かないんだろうしなぁ。」
突然の休暇を与えられたイザークは戸惑いながら自宅へと戻った。
何故か後を付いて来たディアッカは一緒に上がり込み、何やらタンスをあさり始める。
「そういう貴様は何をしている・・・」
人様のタンスを無断で開け、しかも自分の私服をカバンに勝手に詰め始める。
「何って・・・お前、今日から休暇なんだろ?」
「だから何だ・・・その行動と何か関係あるのか?」
「プラントに居たって何も解決しないだろ?オーブ行きのシャトル、手配しといたから。」
「何を勝手に!!」
「じゃあ何?このまま何もしないで乗れるようになるとでも思ってんの?
それとも、評議会に戻ってオッサン達のお相手でもする?」
結局、ディアッカに反論出来なかったイザークは強引にシャトルに押し込まれた。
に会って来いと・・・
そういう事なのか・・・?
今更会ってどうなる・・・
会って今の問題は解決するのか・・・?
考える事が山ほどあったイザークにとって、地球までの時間はあっという間だった。
「イザーク!」
空港に降り立ったイザークを聞き覚えのある声が呼ぶ。
「アスラン・・・貴様、何を・・・。」
「ディアッカから連絡を貰ってたから迎えに来た。久し振りだな。」
「ディアッカの奴・・・」
「から聞いてるだろ?俺達、離れ小島で生活してるんだ。
何も無い所だけど、不自由はしないと思うぞ。」
「いや・・・俺は・・・」
適当にホテルを取るつもりだったんだが・・・
「何の為にここまで来たんだ?会わないと意味がないだろう?」
「は・・・どうしている?」
「元気さ。今は・・・な。」
その言葉に安堵する。
まだ、俺の事を引きずっていたらどうしようかと思っていたが、心配は無用だったな。
「でも、戻ってきた時は散々だったんだぞ。
ロクに食事は取らない、夜もあんまり眠れてないみたいだったし・・・。」
「悪かったな・・・それは俺の責任だ。」
「仕方ないさ。事情は俺も聞いてる。
今回の件はまだには言ってない。ディアッカに口止めされてるからな。
自分から切り出さないと意味が無いってさ。」
「・・・そうか・・・。」
島に着いたのは夜遅くだった。
「イザーク様、ようこそいらっしゃいました。」
そう言って笑顔で迎えたのはラクスだった。
「ラクス嬢、お久し振りです。お元気そうで・・・。」
「イザーク様も・・・お変わり無い様で安心しましたわ。」
ラクスに勧められて中へと入る。
「キラ、イザーク様ですわ。」
キラと呼ばれた茶髪の少年はイザークへと視線を向けた。
「初めまして・・・キラ・ヤマトです。」
キラ・ヤマト・・・
ストライクのパイロットか・・・。
「初めまして。イザーク・ジュールだ。」
「あれ・・・は?」
『』
その名にイザークの眉がピクリと動いた。
「なら子供達を寝かし付けてくれていますわ。」
そう言って子供達の寝室に目をやると、ちょうどタイミング良くドアが開いた。
3ヶ月振りに見る、の姿にイザークは言葉を失う。
少し・・・痩せたか?
相変わらず愛らしい顔・・・
小柄なその体は更に一回り小さくなった様に見えた。
「・・・久し振りね・・・イザーク。」
「・・・あぁ。」
はイザークを見ると目を細めて柔らかく微笑んだ。
【あとがき】
1話・・・長っ!!
書いてて疲れました。
読んでても疲れただろうなぁ・・・スミマセン。
地球編へと突入致しました。
イザークに危機が訪れましたね。
地球へと降りるきっかけがなかなか見つからなくて・・・。
色々と試行錯誤した末がコレ。
こんなんでいいんだろうか・・・。
地球編のテーマは『心の成長』ってカンジで。
イザークとヒロインちゃんにはここを乗り越えてもらおうと思います。
では、ここまで読んでくださってありがとうございました♪
2005.3.27 梨惟菜