失って気付く、大切な物の愛おしさ・・・




でも、二度と戻る事の無い幸福な日々をただ悔やむばかり・・・





あなたを心から愛して・・・


あなたに心から愛されて・・・







そして、その手を離してしまったから・・・





もうあの頃には戻れないのだろうか・・・















7Days Love


   <<5>>
















「え?ラクス達、どっか行くの?」



久々の休日にも関わらず、早起きに慣れてしまったその体はごく普通に目を覚ます。



起き上がって部屋を出ると、リビングではラクスや子供達が何やら支度を整えていた。





「あら、お早うございます。早いですわね。」



ニッコリと微笑んだラクスはの元へと歩み寄る。



「今日は子供達を連れてオノゴロへ遊びに行って参りますわ。
夕方には戻りますので、お留守番をお願いしてもよろしいでしょうか?」



「え・・・それは構わないけど・・・私だけ留守番・・・なの?」



「いえ、イザーク様にも残っていただく事になっていますから、昼食は2人分作って差し上げて下さいね。」



「え!?ちょっと待っ・・・」




イザークと島に2人きり!?

冗談でしょう!?



そう言おうとしたのだけれど・・・

ラクスの細長い人差し指が私の唇に当てられた。





「ちょうどいい機会ですわ。お2人には一度、ゆっくりとお話する時間が必要です。」



逃げてばかりでは何も変わりませんわよ?



ラクスは小さく呟き、再び微笑んだ。
























「じゃあ、悪いがを頼むぞ。」




一方、家の外ではアスランがイザークに念を押していた。



今日一日、イザークとを2人きりにする。


ラクスが出した提案にアスランとキラも快く承諾した。




さすがに2人きりになれば何か進展があるだろうと予測して・・・。






と2人きりにしてどうするつもりだ・・・?」



「一度ゆっくり話でもしないと・・・何も変わらないだろ?
いい意味でも、悪い意味でも・・・な。」





ここへ来てもう5日・・・。

残された時間は今日を含めて3日・・・。



自分の中で何も変わっていないのは十分に承知している。


けれど、自らの手で壊してしまった信頼を修復するのは簡単じゃない。




は初めて好きになった女・・・。


正直、どう扱っていいのかも分からない。




女の口説き方も、慰め方も知らない自分・・・。

まして、自分が傷付けて別れを告げた女・・・。



もしかしたら・・・他に好きな男がいるかも知れない女・・・。





















悩んでいる内に、アスラン達は島を出てしまった。





黙々と部屋の掃除をするに、無言で外を見つめるイザーク。



そんな時間が静かに流れて行く。






















「イザーク、お昼ご飯作ったから食べない?」



気が付けば時計は正午を過ぎていて・・・


それまでずっと外を見つめていた自分に驚いた。


何を考えていたのかさえも思い出せない・・・。


ただ、無心で海を見つめていた・・・。





「あぁ・・・悪いな。」




テーブルにはの手料理が並ぶ。


イザークは黙っての目の前に腰を下ろした。










こうして2人で食事をするのも本当に久し振りだった・・・。


の手料理を食べるのも・・・。



の料理はイザークの好みの味に味付けされていて・・・。


そんな話などした事も無かったからか、それが少し嬉しかった。




と自分が過ごした時間は本当に短い。


まるで何年も一緒に過ごしていた様な気持ちになった事もあった・・・。


けれど、僅か1週間だった・・・。



出逢って、惹かれ合って、恋に落ちて・・・。


全てがまるで恋愛映画のようなスピードで展開して・・・。






結論を出すには早過ぎたのかも知れない・・・。


もう少し話し合って・・・共に過ごして・・・


それからこれからの事を考えれば良かったのかも知れない・・・。















色々と考えている内に食事は終わり、は手早く片付けを始めた。



キッチンに立つの姿に目を細めながらイザークは思う。



が自分の部屋に来て夕食を作ってくれたあの夜の事を。


夜景を眺めながら、が語った戦争に対する、平和に対する思い。




まだ・・・こんなにも愛しい・・・。








が・・・愛しくて堪らないんだ・・・。
























「ちょっと・・・砂浜を散歩してくるね。」





あまりに静かな空気に耐え兼ねたはエプロンを外し、椅子に掛けた。



外の空気でも吸って気分転換して来よう。



ラクスに話し合うようにって言われたけれど・・・

いざとなると話のきっかけも掴めないし、何よりイザークは何も話してくれない。



こんな重い空気の中で話なんてする気にもなれないし・・・。







「なら、俺も行こう。」




イザークは意を決して立ち上がった。




「え・・・でも・・・。」





「話をしたいと思っていたんだが、どうもここでする気分になれなくてな・・・。」



「・・・私も・・・そう思ってた・・・。」





胸の奥で何かが音を立てて弾ける。



期待と不安が同時に押し寄せ、鼓動を速める。



ドアを開けると、眩しい陽射しに襲われ、目が霞んだ。

























「昨日・・・来てたんだってね。ラクスが言ってた。」



「あぁ。ラクス嬢に用事を頼まれてアスランとな・・・。」




「モルゲンレーテにも来てたんでしょう?
だったら声を掛けてくれたら良かったのに・・・。」




そう言ってみたけれど、実際は逆だった。


あの時、思いもかけずイザークが現れて声を掛けられたら・・・。


きっとどう対応して良いか分からなかった・・・。



正直、そこでイザークと会わなかった事に安堵している自分が居て、少し悲しかった。









「あぁ。そう思ったんだが、仕事も忙しそうだったし、誰かと話してたからな・・・。」



「・・・誰か・・・?あぁ、ノイマンさんかな?」




ノイマン・・・


アスランが元アークエンジェルのクルーだとか言いかけていたな・・・。



「彼ね、前の戦争でアークエンジェルの操縦してて・・・
私、造船課に入ったばっかりの頃は右も左も分かってなくて色々と教えてもらったの。
キラも言ってたけど、大人でしっかりしてて、頼れる人なのよ。」



柔らかく微笑みながら話すに、イザークの顔は無意識の内に不満を訴えていた。








俺の前で俺以外の男の話をするな・・・



そんな想いが心を支配して、頭がどうにかなってしまいそうだった。





他の男と幸せになれと言ったのは俺だ・・・。


だから、文句を言える立場では無いんだ。


逆に俺は、それを祝福してやらなくてはならない・・・。





イザークはギュッと拳を握り締める。




が隣で仕事の話をしていたが、耳に入って来なかった。










「随分と・・・仲が良いみたいだな。楽しそうだったし・・・。
少し心配していたんだが安心した。」



思ってもいない事を思わず口走ってしまう。

こんなひねくれた性格、どうにかならないものだろうか・・・。




イザークの言葉に、は思わず顔を上げた。




眉間に皺を寄せるイザーク・・・。



普段から無愛想な彼の心を読もうと思っても、表情からは何も伺えない。



ディアッカならすぐに判ってしまうんだろうな・・・。












イザークの言葉が頭を駆け巡る。


それは・・・私の事はもうどうでもいい・・・って事?


これで安心してプラントに帰れるって・・・


そういう事なの・・・?












「な・・・んで・・・」




は震える声で口を開いた。



・・・?」



「何で今更・・・私の前に現れたの?」


の顔を覗き込むと、瞳は涙で潤んでいた。







「言ったよね?他の男と幸せになれって・・・。
もう私の事愛せないって言ったよね!?なのにどうしてここへ来たの!?」




抱え込んでいた想いが爆発する。


誰にも言えなかった想いが溢れ出る・・・。




「私は・・・頑張って忘れようとした!!
もう終わった恋だから・・・引きずらないようにって・・・。
やっと・・・やっと忘れられると思ったのにどうして・・・!!」




どうしてまた・・・私の心をかき乱すの?

どうしてそんな事言うの・・・?




私の事をもう愛せないって言うなら、もう放っておいてよ・・・。


もう会いに来ないでよ・・・。




まだ愛してるのは私だけなんだって・・・

そんな惨めな想いしなくない・・・。




溢れる涙を隠す様に、はその場にしゃがみ込んだ。


小刻みに震える体・・・。





抱き締めたい・・・


ただ純粋にそう感じたイザークは、震えるに手を伸ばしていた。



イザークの手が肩に触れた瞬間・・・


ビクッと反応したは思わずその手を払い除けた。




イザークに顔を見られない様に・・・


は顔を伏せたまま家へと走る。



涙が風に乗り流れて行く様を、イザークは黙って見つめる事しか出来ない・・・。






また・・・俺が彼女を傷付けた・・・。


がまだ俺を想ってくれていた事・・・

初めて曝け出してくれた本音・・・。



なのに俺は・・・。


また・・・彼女を突き放すような事を・・・

























夕方になり、ラクス達が島に戻った。


しかし、静まり返ったリビングに居るのはイザーク1人。



「イザーク・・・は・・・?」


「・・・部屋だ。」


決して視線を合わせないイザークにアスランは眉を寄せる。



どうやら、悪い方向へと向かってしまったらしい。


そう悟ったアスラン達は表情を沈ませた。










「お帰りなさい・・・。楽しかった?」


ラクス達の帰宅に気付いたが自室から顔を出す。


赤く腫れ上がった瞼に一同は困惑した。




思っていた以上に悪化していた2人の関係に言葉を失う。



2人は想い合っているのだから、2人きりにすれば解決するだろうという考えが甘かったのだろうか・・・。




「疲れたでしょう?今晩ご飯の支度するから・・・。」




目頭を押さえたは掛けられたままのエプロンに手を伸ばそうとした。



その時、その手をイザークが掴む。



「イザ・・・」



「ラクス嬢、済まないが夕食の支度をお願いできますか?」


「ちょっ・・・」


「分かりました。お任せ下さいな。」





イザークはの手を引いたまま、外へと連れ出した。






















「イザーク!離して!!」




手首を掴んだまま離す気配の無い彼に何度か抵抗はしてみたものの、敵う筈も無く・・・。




再び砂浜へと足を運んでいた。




立ち止まったイザークは掴んでいた手を解放する。


赤く染まったの手首・・・。










「どうしてこんな事・・・」



「悪い・・・強引だったな。
でもこうでもしないと話を聞いてくれないと思ったんだ。」



結局、自分の気持ちは何も話せていないままだった。


勝手に嫉妬して・・・思ってもいない事を口にして。


そしてを怒らせて泣かせた・・・。













「俺も・・・もう会わないつもりだった・・・。
俺はを傷付けたし・・・許されない罪も犯した・・・。
には相応しくない男だから・・・忘れると心に誓った。」





「ならどうして・・・」



「乗れないんだ・・・。」


「え・・・?」


「MSに・・・乗れなくなった。」





イザークの言葉が、の心を突き刺す。




「医者に精神的な原因があると言われた。俺にも心当たりがある。
にも・・・何となく見当は付いているだろう・・・。」



「シャトルを・・・撃った事・・・?」



「それで・・・軍から休暇を与えられて・・・ディアッカに追い出された。
に会えば・・・何か変わるかもしれないと言われて・・・。」



違う・・・

そうじゃない・・・


単純にそんな理由だけじゃない・・・







「だが・・・今気付いたんだ・・・。そんな事は口実に過ぎないんだ・・・。
俺は・・・俺はただ・・・」




そう・・・俺はただ・・・



に・・・・もう一度に会いたかったんだ・・・。」




MSに乗れなくなるとか・・・そんな事はどうでもいいんだ。


乗れないのならそれが俺に与えられた罰・・・。


それで償えるのであれば・・・それで構わない・・・。



けれど・・・


だけは・・・手放したくなかったんだ・・・。








「俺は・・・だけは失いたくない・・・。
自分勝手かもしれない・・・
だが、の事だけはこの手で守って・・・幸せにしてやりたい・・・。」




イザークの震える声に、は言葉を失った・・・。





イザークに突き放されて・・・

すごくショックで・・・悲しくて苦しくて・・・


それは自分だけだと思ってた・・・。



けれど、イザークはもっと重いものを背負っていた。


私の家族を殺してしまったという負い目。


私は気にしていないと言ったとしても、イザークには一生心に残る傷。



それは・・・失った私と同じ位に深い傷。





ううん・・・それ以上かもしれない・・・。






もしも逆の立場だったら・・・


私がイザークの家族を奪った者だったら・・・



その苦しみに独りで耐えて行ける・・・?


知らないまま・・・イザークを愛して行ける・・・?












「もう・・・いいから・・・」


の腕がイザークの背中に回される。


イザークが一瞬、体をビクッと強張らせた。


「苦しまないで・・・独りで抱え込まないで・・・。」


・・・」



「私、初めてあなたの話を聞いた時あなたを憎んだわ。
大事な家族を奪った・・・憎むべき相手だった思った・・・。」



でも・・・思えなかった・・・


ううん。


思えなくなっていたの・・・。




自分の想いを伝える事に不器用なあなた・・・


自分の為ではなく、プラントの為に必死に戦っているあなた・・・。




平和を願う思いは同じだと分かったから・・・。


歩む道が違っていただけだから・・・。






「もし、償いたいって思う気持ちがあるのなら、私の側に居て。」




私を・・・

私だけを愛して・・・。



私を一番失いたくない大事な物にして・・・。













「愛してるの・・・。イザークだけを愛してる。」












沈み行く夕陽を背に、2人の影が1つに重なり合う。



ゼロになった2人の距離を祝福するかの様に照らされた夕陽は、辺りを夕闇へと変えて行く・・・。




夕凪に当たった唇は冷え切った互いの心を再び引き寄せていった・・・。


















【あとがき】


長かった・・・


1話並に・・・いや、それ以上に長かったかも・・・


1話にまとめるか分けるか・・・すごく悩んだのですが、

全7話のこだわりが捨てきれず・・・

読んで下さった方を疲れさせる結果となってしまいましいた。

すみませんです・・・。



ようやく互いの想いをぶつけ合ったわけです・・・。

この日をどんなに待ち侘びた事か・・・。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

残り2話、甘甘路線で行けるといいのですが・・・。


最近甘甘書いてないから不安・・・。





2005.4.3 梨惟菜





TOP | NEXT