「はぁぁぁ…」





深い溜息と共に真っ白な息がフワリと広がる。




真っ白に降り積もった雪は陽の光に照らされ、キラキラと輝いていた。





そんな幻想的な世界を目の前に、私の気分は下降気味で…





目の前にある光景を視界に入れては複雑な想いに駆られるのだった。








「私…失敗しちゃったかなぁ…。」







小さな声で呟いてはみるものの、誰一人聞いていないこの一言に返事など当然返っては来ない。



































Winter again

























「そうそう…もう少し腰を落として…」




「…こうですか…?」




「えぇ。そうです。そのままゆっくり体重を前に掛けて…」






「まぁ!進みましたわ!!」
















それにしても…



何を着ても様になるのね…ラクスって…






フワフワのピンク色の髪の毛に真っ白なウェア…



ゲレンデの男を一瞬で虜に出来るんじゃないか…って思っちゃうくらいに似合ってる…。





これでスキー初心者なんて…完全にツボだなぁ…。





なんて思いながら、そんなラクスに手取り足取り指導をしている彼…





本来なら…キラの役目だった筈なのになぁ…





目の前にはラクスと並ぶ、彼女の『元婚約者』。















「アスラン…」






スキー教室を眺めているのも飽きてきたから…



重い腰を持ち上げた私は2人の元へとスキーを滑らせる。







「私、折角だからちょっとコースに出てみるね。」





「え…でも…」





「大丈夫よ。慣れてるもの…。アスランはしっかりとラクスに教えてあげて。」





…済みません…私…」





「いいのいいの。気にしないで…ね?」






申し訳無さそうに見つめるラクスに悪気は無いのだから仕方が無い。






「気を付けるんだぞ。」




「分かってる。じゃあ、頑張ってね〜。」






笑顔で手を振り、リフト乗り場へと方向を定めた。






























「はぁ…」





何が楽しくて1人でリフトに乗ってるんだろ私…







大体…キラがいけないのよ…


















週末の連休を利用して、私とアスラン、そしてキラとラクスの4人でスキー旅行に出掛ける事になった。





いわゆる…「Wデート」ってヤツ。





1日目は地元を観光して、2日目の今日はスキーを楽しんで…




その予定だった筈なのに…





今朝になってキラが急に風邪で寝込んでしまった。






ラクスは心配だから付き添うと言ってたんだけど…




『折角来てるんだから勿体無いよ…ラクスも楽しんで来て…』




その一言でキラは1人、ホテルで留守番する事になったのだ。





幸い、熱も無いから今日1日休めば問題無いだろう。










だけど…




そこからが大誤算…。





アスランは私にスキーを教えてくれる気満々だった。




ところが、肝心の私はスキー経験者。




しかも、お父様が大のスキー好きで何度も通ってる程の…。





だから当然コースだって普通に滑れるし…




で、全くの初心者のラクスに付きっきりでアスランが教える事になってしまった。












「…スキー初めてですって言った方が良かったのかな…。」





…なんて思ってはみたけれど…




それこそ計算高い女じゃない。





スキーの滑れる自分が悔しい…って言うのも何だかおかしな表現…。





でも…もしも滑れなかったら…




今頃は手取り足取り…丁寧に指導してくれてたんだろうなぁ…。







脳裏に先程の光景が蘇る。







アスランってば…あんなにラクスとくっついちゃって…。




そりゃあ…仕方無い事なんだけどさ…。



分かってるんだけど…妬いちゃうのが普通じゃないの…。






もう少しその辺気付いてくれたっていいと思うんだけど…。























そうこうしている内に、リフトは頂上へと辿り着く。








慣れた動きでリフトから降りたは頂上から麓を見下ろした。







…まだラクスにはコースはキツイ…よね…




あの分だと今日は1日ずっとアスランは付きっきりだろう…。





いっそホテルに戻ってキラの看病を付っきりでしてやろうか…











そう思いながら、滑ろうと思ったその時…













「あれ??」





「え?」






こんな所で自分の名を呼ばれるとは思っていなかった。






「ディアッカ…イザークも…何でこんな所に…」






「そのセリフ、そのままそっくり返す。何でこんな所にいんの?」




しかも1人で…










「…アスランとキラとラクスと来てるんだけど…キラが風邪で寝込んじゃって…。

 ラクスはスキー初心者だからアスランが下で教えてる。」






「…へぇ…それで1人で…ね。

 …って事はは経験者ってワケ?」





「まぁ…それなりに…。」







「フン…どうせアスランはお前に教える気満々だったんだろう?

 大誤算だったな…。」






「う…」





痛い所突かれちゃった…。





「何なら俺達と一緒に滑る?少しは妬いてくれるかもしれないぜ?」






「…遠慮しとく。1人で滑りたい気分だし…。」





「あっそ、じゃあ先行くぜ。」





「うん、またね…。」










華麗に滑り始めた2人の背中を見送りながら…








「さ、ひと滑りしますか…。」





もまた、急斜面を下り始めた。










































「だいぶ形になって来たな…。」





「ありがとうございます。アスランのお陰ですわ。」





「本当ならキラが教えたかったんだろうけどね…。」






アスランは苦笑しながらキラが1人過ごすホテルへと視線を向ける。





本当、肝心な時に頼りにならない奴だな…。










「そろそろが降りて来る頃でしょうか…。」






「あぁ…そうですね…。」










がコースに出てからそろそろ40分といった所か…





ゲレンデに目を向けるアスランを見たラクスがクスリと笑う。









「…私、先にホテルに戻りますわ。」




「え…?」






「キラが心配ですもの。それに、アスランを独り占めしていたらに申し訳無いですし…。」






「ラクス…」





とゆっくりお過ごしくださいな。」




「…ありがとうございます。」























…とは言ったものの…




肝心のの姿が見当たらない。




の腕ならもう麓に辿り着いていてもおかしくない時間だとは思うんだが…。





まさか変な男に声を掛けられてる…とか…?








上がって探すべきか…ここで待つべきか…





悩んでいると、次第に重い雲が空に立ち込め始める…。





また降り出しそうな天候になって来たな…。







黒い雲に更に不安が募る…。























「あれ?アスラン?」





「…ディアッカ…イザークも…」






「お前、何してんの?ラクス嬢と一緒じゃなかったのか?」





「え…?何で知って…」





「上でに会ったんだよ。」





「それでは!?」






「いや…一緒に滑るかって誘ったら1人で滑りたいって言うからさ…。」





「言っておくがもう1時間以上前の話だぞ…。

 俺とディアッカは麓に着いてから喫茶店で一服していたからな…。」






…幾ら何でも…遅すぎないか…?






…まだ降りて来てないのか!?」






「…多分…」






「おい…天気、やばくなって来たぞ…」





「あぁ…ちょっと上から探してみる。

 悪いが…麓でが降りて来るのを待ってくれないか?擦れ違うと厄介だし…。」






「…仕方無いな…頼まれてやる。」





「…済まない…」

























「あ…降って来ちゃった…」






黒い雲が空を包み始めて数分後…





チラチラと雪が舞い始めた。





掌に落ちては消える雪の結晶を眺めながら、は寂しげに歩き始めた。





気が付けば周りに人影は無い。




この天気だ…今から滑る物好きは居ないだろう。






「まだ半分…かなぁ…。」






板は重いし…雪で思うように歩けないし…




踏んだり蹴ったりだよ…最悪…





アスラン…心配してるかなぁ…。





こんな山の上じゃ携帯の電波も届かないし…



って言うか、携帯持ってないんだった…。







これは地道に歩いて降りるしかないなぁ…と思いながらも足取りは重い。







2人きりじゃないけど…楽しみにしてたのになぁ…。






サクサクと雪を踏む足音だけが銀世界に響く。





雪って雨と違って音がしないんだな…なんて考えながら…。














っ!!」





「え…?」







雪を踏みつける音しか聞こえなかった世界に、自分の名を呼ぶ声。





幻聴…?






!!」






じゃない…?






この声は…









「…アスラン…」






振り返ると上からスキーで滑り降りて来るアスランの姿。







「…遅いと思ったら…何してるんだ?」








を探しながら滑り始めて数分…。




中腹くらいまで降りて来ただろうか…。





はコースの隅を歩いて下山していた。








「どうしたんだ?何かあった?」






1人だった事に安心したような…複雑な気分だった。








「…考え事しながら滑ってたら…初心者の人が後ろから突っ込んできて…」






「避け切れなかったのか…。」




そう問い掛けるとはコクンと頷く。







「…足、捻っちゃったみたい…。歩けない痛みじゃないんだけどね…。」





流石にスキーで降りるには痛むから…板を担いで歩く事にしたんだけど…。





雪山を下るのも容易じゃなくて…。










「…1人にしてごめん…。」





「…気にしてないよ。それよりラクスは?」





「キラが心配だって先に戻ったよ。」





「…そっか…。」













「…だいぶ強くなって来たな…吹雪くかもしれない…。」





「そうだね…急いで降りないと…。」





「そうだな。、ちょっとコレ持って。」





「?」






アスランに差し出されたのは彼の持っていたストック。








「…っ…きゃあっ!!」






その次の瞬間には私の体が宙に浮いていた。




正確には抱き上げられていた…だけど…。







「アスラン!何…っ…」






「このペースで下山したら遭難しかねないだろ…。」





「でも私重いし…それに…っ…!!」






「何言ってるんだ。十分軽いじゃないか…。」





「私なんて抱えてたらバランス取れないでしょ!?」





「…、俺の腕前、見た事無かったな…。

 大丈夫だ。こう見えても結構自信はあるんだぞ?」






そう言いながら…




アスランは板を抱えたままのを抱き、華麗に山を下って行く。



































「これで大丈夫。」





「…ありがとう…。」







「ちょっと腫れてるけど、日常生活に支障はないよ。」





「でもこれじゃ明日は滑れないね…。」





「…そうだな…。」







アスランと一緒に滑りたかったんだけどな…。







「そう言えば…キラはもう大丈夫なの?」





「あぁ。1日寝たら回復したみたいだ。明日は滑るって言ってた。」





「そっか…。」




じゃあ明日はキラがラクスに付っきりなんだ…。





「…だから…」




「…?」





「明日は2人でゆっくり温泉にでも入ろうか?」




「…へ…?」





「ここの温泉、捻挫に効くらしいよ。」




「で…でも折角来てるんだからアスランも行って来たら…?」






「キラとラクスの邪魔なんてしたくないよ。が居なかったら面白くないし。」





「じゃあ私も行く…。だから…」




「ダメだ。明日は俺と一緒に安静にしてる事。」





「ちょ…アス…!」






宥めるように優しい声を掛けられたと思ったら…




そのまま唇を頬に寄せる。




それだけで私の顔は真っ赤。








「予約すれば貸切の露天風呂もあるみたいだし…今から予約して来ようか?」




「バ…バカっ///」




「…これでも本気なんだけどな…。」





「わ…私、拗ねてるんだからね!」







「…何を?」






…分かってる癖に…




笑顔で知らない振りしちゃって…性格悪い…っ








「私の事…ほったらかしにした癖に…。ずっとラクスに付きっきりで…」





「それ、嫉妬って言うんだよ。」




「…違うもん!!」





「俺だって拗ねてるんだけど?」




「…何を…?」





がスキー、上手だから。」





「私は悪くないでしょ!」





「悪いよ。俺が教えてあげたかったのに…。」







そんな…メチャクチャな…っ…







「色々と計画立ててたんだけどな…誤算だらけだよ。」




「ちゃんと先に確認しないアスランが悪いんじゃない。」





「まぁ…それも認めるけど…。」







驚かせようと思って言わなかった私も悪いんだけど…。







「じゃあ聞くけど…」




「…何?」





そう言いながら、耳元に唇を寄せて小さく囁いた。







の苦手な物は何?」




俺が克服してあげるよ…。






























【あとがき】

…す…すみません!

『アスランとスキー』というリクだったのですが…。

一緒に滑ってないじゃんか!!

アスランに手取り足取り教えて貰うのが理想かな…と思ったのですが…

それじゃあありきたりかなぁ…なんて思ってみたりして…。

アスランの大誤算って言うのもまた一興かな…なんて…

ふうら様、こんな感じでいかがでしょう?

一応、スキー経験者ではあるのですが…ここ数年ご無沙汰ですね…。

どちらかと言えばスキーよりスケートの方がお好みです。

スケートは山まで行かなくても気軽に出来ますし…。

と言いつつ、私の住む県には何とスケート場がありません!

…アリエナイ…








2006.1.16 梨惟菜










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