「…っ…もう追い付かれた…っ」
後方にはレイとシン。
機体の性能の差は歴然。
でもここで落とされる訳にはいかない。
『、1対1は圧倒的に不利だ。』
「うん。」
『まずはシンを止めよう。シンもレイや議長に利用されているだけだ。』
「分かった。」
迫り来る攻撃に備えて体勢を整える。
数時間前まで同じ場所で戦っていた仲間なのに…
どうしてこんな事をしなければいけないの?
戦場の歌姫 〜Destiny〜
ACT.5 惑わされし心
「ちっ!!」
攻撃を避ける事が精一杯。
せめて1機だけだったら押さえる事も少しは楽なのに…
レジェンドの前に出たのはシンのデスティニー。
『シン、やめろ!』
アスランの叫びが響いた。
『何でアンタがこんな事…っ…!!』
「シン、アスランの話を聞いてっ!!」
『聞け、シン!議長の…レイの言う事は確かに正しく、心地よく聞こえるかもしれない!
だが、彼らの言葉はやがて世界の全てを殺す!!』
『え…』
『シン、聞くな!!』
一瞬、戸惑いの言葉を発したシンにレイが叫ぶ。
「レイ!!」
割り込んだレイがグフに向かってビームを放つ。
『惑わされるな、シン!!』
『…シン…どうしても撃つと言うならメイリンだけでも降ろさせろ…
彼女は関係ない…俺が巻き込んでしまっただけだ…!!』
『その必要は無い…彼女は既に貴方と同罪だ。
…その存在に意味は無い。』
「レイ!どうして!!」
メイリンは私やアスランとは違う…
アカデミー時代からの仲間…そうじゃないの!?
どうしてそんな冷淡な事が簡単に言えてしまうの…!?
私の知っているレイが脳裏を掠める。
笑顔を見た事はほとんど無かったけれど、決して冷たい人では無かった。
私を気遣ってくれたレイは優しかった。
耐え切れなくて涙を零した私を優しく宥めてくれたのはレイだった。
そのレイを私は知ってる…
『シン!レイっ!!』
既にそこには話し合いと言う解決法は存在しなかった。
レイは迷わず…
そしてシンは躊躇いながらも剣を抜いた。
2機はアスランの乗るグフへと直進する。
「アスランっ!!」
咄嗟に私の体は動いた。
剣を抜いてレジェンドの前へと立ちはだかる。
『!』
「…私がレイを抑えるから!
シンをお願い!目を覚ましてあげて!!」
『…』
「レジェンド相手じゃ私も長くは持たない…お願い!」
『…分かった…』
『…どうして貴方も分かってくれないのです!?
このまま戦いを繰り返した所で世界は変わらない!そうでしょう!?』
「…だからって議長の言葉が正しいとは私も思えない!」
『だったらどうすればいいんです!?
どうしたら世界から争いは消えるんだ!?』
「レイ…」
『俺はギルを信じています…だからこうしてここに居る!
だから…妨げとなるものは排除しなければならない!』
それが例え…貴方であっても…
「…くっ…!」
スピードもパワーもケタ違い…
こんな最新鋭の機体相手に何分も持つ筈が無い…
でも私が落とされたらアスランも間違いなく助からない…
アスランがシンを説得してくれる事を祈るしかない。
その可能性に賭けるしかない…。
レイの意思はあまりに固い。
その揺るぎ無い信頼は議長以外の人間には向けられる事はきっと無い。
『!俺は貴方を撃ちたくない!』
「だったら…こんな事はもう止めて…私達を行かせて!」
『行かせる訳にはいかない…貴方達は知り過ぎている…』
「けれど、ザフトの敵になる為に行く訳じゃないわ!」
『信じる訳にはいかない…俺はザフトの軍人ですから!
今ならまだ間に合います!貴方の命の保障だけはします!』
「…私の命だけ…?」
『貴方は巻き込まれただけだと、俺の口から議長に伝えます!だから…』
どうしてそこまでして彼女だけにこだわるのだろう…
その理由を未だ知らない。
彼女が手の届かない所へと行ってしまう…
あの男と…離れて行ってしまう…
それが許せない。
彼は彼女を悲しませてばかりなのに…どうして彼女は彼を選ぶのだろうか…
その理由が…俺には分からない…
『戻ってくれないと言うのならば…』
「レイ…?」
せめて俺自身の手で…沈めてしまうしか無いのか…?
「…っ…!」
急にレジェンドの動きが変わった。
いや…これが本来の姿というべきなのかもしれない。
本来の力をまだ全て出してはいないのだ…
そして、その全力が出されたらこんな量産機など簡単に破壊出来てしまうんだ。
…震えてる…
操縦桿を握る私の手は汗ばんで…小刻みに震えていた。
さっきまで酷く痛んだ右足に感覚は無い。
麻痺してしまったから?
額を冷や汗が伝う。
もう分かってる…この機体は数秒後には落とされる…
『貴方が手に入らないのなら…
この手で落とすだけだ…』
「…レイ…っ!!」
一瞬にしてグフの正面へ回り込んだレジェンドはの乗るグフ目掛けてビームを放った。
『…アスラン…っ…!!』
もう1機のグフに叫び声が届き…通信が途絶えた…
「…っ!!」
後方でのグフが音を立てて海中へと落ちる。
「…アスランさん!!正面っ!!」
「…!?…しまっ…」
反応が遅れた…!
避け切れない!
「シン!…やめろっ…!!」
「…きゃあぁっ!!」
シンの刃がもう1機のグフを貫いた。
先のグフと同様に海へと沈み…海中で大きな爆発が発生する。
「…はぁ…はぁ…っ…」
手が震えてる…感覚が無い…
『よくやった、シン』
「え…」
『俺達の任務は終わった…戻るぞ。』
アスランやさんを撃つ事が任務…
仲間だったのに…仲間だと思ってたのに…
こんな終わり方ってアリかよ…
俺は正しかったのか…?
これで…良かったのか…?
胸が酷く痛む…
涙で滲んで前が良く見えない…
裏切ったのはアスランとさん…
だから…俺は間違ってない…そうなんだよな…?
そう自分に言い聞かせ、シンはレイを追って基地へと機体を走らせた。
ACT.5 惑わされし心
end
【あとがき】
5章完結です。
この章は少し短くなりました。
悩みに悩んだアスラン脱走。
どうしてもミーアが邪魔でヒロインを守るアスランが書けなかった…
むしろヒロインの方が勇ましい感じでね…ヘタレっぷり全開になりそうでした。
またまた更新が遅くなって申し訳ありません。
6章も気長にお付き合い頂ければ幸いです。
2007.2.11 梨惟菜