「アスラン、お前に婚約の話がある。」




いずれはあるだろうと…

コーディネイターとして…ザラ家の一人息子として生まれた時から覚悟は出来ていた。



けれど…

14歳は早過ぎじゃないか…?





「その…お相手は…?」




「お前も名前くらいは知っているだろう。クライン家のご令嬢だ。」


「…クライン家…?」




















Twins




















「初めまして。・クラインです。」


「ラクス・クラインですわ。」





目の前には同じ顔が二つ…


フワフワのピンク色の髪…妖精のような微笑…




プラント最高評議会議長、シーゲル・クライン氏の令嬢は瓜二つの双子で有名だ。


2人は名を馳せる程に有名なアイドルで…


あまりに似過ぎていて、区別が付かない。



その話も有名だった。


俺は実際、顔を拝見するのは初めてなんだけど…。



メディアに興味の無い自分を呪おうか…




















「では…わたくしは席を外しますわね。」



ラクス嬢が立ち上がり、部屋を後にする。




残されたのは俺と、双子の姉、嬢の2人。







俺に婚約話が持ち上がった相手は姉の嬢の方。


双子なのだからどちらでもいいのでは…?と疑問に思ったのだが…


僅かな差で嬢が適合性が高いらしい。


いかにも父らしい人選だと思う。












「お茶のお代わりはいかがですか?」


「あ…いえ。大丈夫です。」



「そうですか。アスラン様は…どんな葉がお好きですか?」


「そう…ですね。紅茶はあまり詳しくなくて…

 でも、淹れて下さった紅茶はとても美味しいです。」


「それは良かったです。お口に合うか心配だったので…。」





フワリと微笑んだ彼女に思わず頬が熱くなった。



綺麗に微笑む人…だな…
















「でも…婚約だなんて急なお話よね…。」


「え…あ…そうですね…。」



「私は…いずれ父の選んだ方と…って覚悟は出来ていたんですけど…

 まさかこんなに早くお話を頂くとは思っていなかったからビックリしてしまって…。」



「俺も…同じです。」



さっきまでは…そう思ってた。



「そう…よね?まだ早過ぎますわよね?」




でも…嬢に会ったら何だか…


胸の鼓動が速くなる…



この気持ちは何だろう…






「…アスラン様…?」



「え…っ…?」


「どうかなさいましたか?」


「あ…いえ、大丈夫…です。」



貴方に見惚れていました…とは言える筈も無く…


彼女はまだこの婚約に戸惑っている様子だったから。



俺は既に乗り気になっているんだけれど…






「まだ…先の話ですよ。とりあえずお話だけでしょう。」


「そうですね。」


「これからお互いの事を知って行きましょう。」


「はい。宜しくお願い致します。」



彼女はまた…綺麗に微笑んで、丁寧に頭を下げた。




















、アスラン様とはどうですか?」



それから、アスランは2日に1回のペースでクライン邸を訪れる。


その度に抱えられた花束がを楽しませ…心を和ませた。




彼と過ごす時間は楽しくて…そしてあっという間で…



気が付けば、彼が帰ってしまった後、次に彼が訪れる日が待ち遠しくてたまらなくなっていた。





「優しくて…素敵な人よ。お相手が彼で、本当に良かったと…。」




そう言って微笑むはあまりに綺麗で…


その笑顔が心からの物だと分かるラクスも、同じ様に微笑んだ。





「そうですか…では、少し試さないといけませんわね。」



「…え…?」



「いえ、こちらの話ですわ。」



ラクスがこうして微笑む時は、必ず何かを企んでいる時。


ラクスと私はとても似た外見だけれど、実は中身は別人の様。




けれど、外見だけでは区別が付かない為、間違われる事も多くて…。



それが私の悩みの種でもあったりして…。








「ねぇ…ラクス。」


「はい?」


「私達…似ているわよ…ね?」


「えぇ。瓜二つですわ。お父様も間違えてしまわれるくらいですもの。

見分けが付くのは使用人のアリスさんくらいですわ。」


「そう…ね。」



そう言われると少し心配…。


アスラン様は…気付いてくれるかしら…



、ちょっとお願いがありますの。」


「…なぁに?」


「明日、午前中にお買い物をお願いしたいのですわ。」




















「いらっしゃいませ。アスラン様。お待ちしておりました。」




いつもの様に、クライン邸を訪れた俺を迎えるのはこの家のご令嬢。



使用人も沢山いる筈なのに、出迎えてくれるのは必ずこの家の人間で…

それが俺にとってはとても嬉しい事。





「こんにちは。お久し振りです。」


「急にお時間の変更をお願いしてしまって申し訳ありません。」


「…いえ…」







『明日はいつもより2時間早くいらして下さいませんか?』


昨夜、彼女から届いたメール。


それに応じてその通りの時間に訪れた。





「あの…」


「はい?」



躊躇いながらアスランは目の前に立つ彼女に声を掛ける。



「今日は…嬢は…?」



そう問われ、目の前の少女は目を丸める。



「よく…分かりましたわね。わたくしがでは無いと…」




そう。


アスランを出迎えたのはではなくラクス…。





「自分の婚約者ですから…」




そう返すと、ラクスは嬉しそうに微笑んだ。



「それを聞いたらも喜びますわ。」















その時、玄関の扉が開く。





中に入って来たのは、双子の姉。



「アスラン様…?今日はいつもよりお早いですね…。」


ラクスに頼まれた買い物に出ていたが、玄関に立つアスランに驚いた。



それを聞いて、アスランはラクスへと視線を向ける。




昨日のメールはラクスが送ったものだったのだとようやく悟った。






「ラクス嬢…どうしてそんな事を…」






「申し訳ありません。貴方を試させて頂きましたの。」







の洋服を着て…

の様に振る舞って…


それでと見間違うようならば…と。



、安心して下さいな。アスラン様はの婚約者に相応しいお方ですわ。」



「え…?」



















「どうして私ではないと分かったんです?」


「…確かに2人はすごく似ていますが…笑った時の仕草が…違うんですよ。」


嬢には、笑った時に右手を口元に添える癖があった。


それをアスランに聞かされ、自分やラクスでさえ気付かなかった事に気付いた彼に驚く。




「似ているようで似ていないんです。お2人は。」




そう言ってくれた事が本当に嬉しくて…


こうやって自分と妹を瞬時に見分けてくれた彼に胸が高鳴って…。





「アスラン様…お願いがあります。」


「何でしょう?」



は躊躇いがちに…頬を染めて俯きながら口を開いた。




「これからは…アスランとお呼びしても宜しいでしょうか…。」


「俺も…そうお願いしようと思っていました。」







クライン邸のサンルームには今日も眩しい笑顔の花が咲く。





















【あとがき】

む…

ヒロイン、天然じゃない気が…

ラクスの姉設定で同じく天然系…とのリクだったのですが…

瞬時に『外見もそっくりの姉妹』という設定が思い浮かびまして…

双子の姉妹にさせて頂きました。

ラクスがちょっとだけ黒いです。

個人的にはちょっと気に入ったこの1作…。


沙迦羅様、リクエストをありがとうございました。

これからも宜しくお願い致します♪






2005.6.25 梨惟菜









TOP