「…この花…」



海辺に造られた慰霊碑…。


俺はあの日以来、初めてここを訪れた。




あの日…


俺から家族を奪ったこの場所…




今は沢山の花が植えられ、咲き乱れている。



かつて…俺が涙を流した憎き場所…。


こんなに綺麗な場所になった今でも尚憎い…。




















花束が繋ぐ2人の恋























『チューリップの花言葉…知ってる?』



『え…?』











ふいに頭を過ぎったのは…俺が愛したたった一人の女の子の姿…。



彼女の口癖だった…。



チューリップが大好きで…

俺はいつも彼女に同じ花を贈り続けたのを覚えてる。






「……まさかな…」




慰霊碑の前に捧げられた赤いチューリップの花束に目を細める。


今、何処で何をしているのか分からない彼女…。



あの時、離れ離れになってしまった彼女…。


無事で居るのかも分からないまま、俺はオーブを飛び出した。




ここにはもう…居たくなかったから…


彼女に会わないまま、俺はこの国を捨てたんだ…。




















「随分…変わったんだな…。」



オーブを捨てて2年…。


戦火に焼かれたオノゴロも復旧を遂げ、今では華やかな街並みを取り戻していた。



その街の変わり様にシンは深く溜息をつく。



嬉しいような…悲しいような…

複雑な気分だった。



家族を失った憎しみの詰まる国…。

けれど、彼女と出会って恋をして…共に過ごした国…。















「おばさん!いつもありがとう!!」




向かう先から聞こえる声に、シンは思わず立ち止まった。



聞き覚えのある…少女の声…


その声は、角に建つ小さな花屋から聞こえて来た。





まさか…




花屋から飛び出して来た少女に目を見開く。





間違いない…


彼女が…俺が愛した恋人のが目の前に居た…。










「…え…っ…?」



嬉しそうにチューリップの花束を抱えた彼女は迷わずこっちへ駆け寄って来て…

目の前に呆然と立ち尽くす少年に気付いた。





「シ…ン…?」




















『なぁ…いい加減教えてくれよ。』


『だぁめ。ちゃんと自分で調べて来なさい!』
















戦争が私から奪った物は沢山あった。



家族を失った…。


大事な友達を失った…。



そして…

愛していた恋人を失った…。









大好きだったシン…


連合からの攻撃を受けたオーブ…。


市民は揃って避難したけれど、その最中に私は家族と離れ離れになった。



シンと同じ船に乗りたかったけど…見つからなくて…。




再びオノゴロに戻った時、家族がすでにこの世に居ない事を知らされた。


シンの家族が亡くなった事を知った…。



けれど、被害者の中にシンの名前は無かった…。





だから、きっとどこかで生きている…


そう信じて…私は待つ事にしたの。


















「シン…本当にシンなの…?」


こそ…本物…なのか…?」




お互いに半信半疑で…

何度も何度も問い直しては確認する。










互いに夢では無い事を確認したその時、の瞳からは涙が零れ落ちた。






「シン…会いたかっ…」


そう言い切るより先に、シンがを抱き締める。


懐かしい香り…温もり…感触…


夢じゃない…


シンが…シンが戻って来てくれた…。





















「ね?シンは今どこに住んでるの?
色々調べたのに…ちっとも見つからなくて。」


未だ涙の痕が残る頬…

の蒼い瞳を見つめながら、シンは返事に戸惑う。



「シン…?」

どうしたの…?





「俺…今はプラントに居るんだ。」


「そう…だったんだ…」




道理で探しても見つからないワケだ…。



「こっちにはいつまで居られるの?」


「いや…すぐに戻らないといけないんだ…。
休暇…そんなに長くないから…。」


「休暇…?」


「俺…ザフトに志願したんだ…」



「え…っ…?」








ザフト…?



シンが…ザフトに志願…?


軍人になったって事…?







「どう…して…」


「俺…2年前より強くなったんだ!もう何も出来ない子供なんかじゃない!
だから、俺と一緒にプラントに行こう!」



「何を…何を言ってるの…?」





強くなった…?


何も出来ない子供じゃない…?






…?」



シンが掴むの肩が小刻みに震えていた。



「何で…ザフトになんか志願したの…?」


「…決まってるだろ?を守る為…戦争を終わらせる為だよ。」











パシッ…






「な…」



の右手がシンの頬を叩いた。


突然襲い掛かる痛みに驚くシン。


の瞳には、再び涙が溜まっていた。







「守る為に志願した!?本気で言ってるの!?」



…?」



「力があったら…何でも守れるの!?力で全てを片付けてしまうの!?
そんなやり方で本当に平和な世界が訪れるとでも思ってるの!?」



たった2年の間に…

シンは変わってしまったの…?





誰よりも家族を大事に…愛してた幼いシンの面影は何処にも無かった。



ただ…手に入れた力があれば何でも守れると…


そう思い上がるようになってしまった…。






「シンじゃない…そんなの…私が好きだったシンじゃないよっ!!」





は持っていた花束をシンに投げ付け、その場を走り去った。



!!」






















『しょうがないから教えてあげる…。』


『なになに!?』



『チューリップの花言葉はね…』

















「永遠の愛情…」












『私、ずっとシンの事だけが大好きよ。
だから…何処へ行っても最後は私の所に戻って来てね…。』



















…」



やっぱりは慰霊碑の前に居た…。


捧げられたチューリップの花を握り締めながら…。






…聞いてくれ…。」


からの返事は無い…。


けれど、シンは一生懸命に言葉を選んで語り出した。








「目の前で…俺の目の前で父さんや母さんや…マユは死んだんだ。」


その話を初めて耳にするは、ゆっくりと顔を上げて振り返った。




「俺だけが助かったんだ…俺だけが…
それが納得行かなくて…自分だけが生き残った事が許せなくて…。」



「シン…」


「どうして…どうして守ってやれなかったんだろう…。
俺に…家族を守るだけの力があったら…そしたらこんな事にはならなかったのに…。」






シン…



「そんな事…言わないで…」


…」



の温かい手がシンの頬に添えられる。



「自分を責めないで。シンは何も悪くないの。
シンだって…私だって…まだ14の子供だったわ…。
何も出来なくて当たり前なんだよ…平穏な世界で育ったんだから…。」



少し腫れたシンの頬を優しく撫でる…



「叩いたりして…ゴメンね…。私…悔しかったの。」


「え…?」



「シンはこうやって自分の道を歩いてるのに、私は2年前から何も変わってない。」




いつまで待っても戻って来ないシン…


なのに、時間だけが無常にも過ぎて行く。


それが悲しくて…やるせなくて…


このままシンが戻って来なかったら…




そんな不安を抱えながら生きて来た。










「シン…時間、大丈夫なの?」



「え?あっ!!ヤバイっ!!戻らなきゃ!!」



時計を見ると、戻らなければいけない時間はとうに過ぎていた。

また艦長に叱られる…




…俺と一緒に来ないか?艦長に話して…許可して貰うようにするから…」



「シン…」




シンの言ってくれた言葉が純粋に嬉しかった。


けれど…





「ゴメン。私は行けないや…。」


!?」




どうして…


シンの瞳は無言でそう訴える。



「シンの気持ちは嬉しい。でも…私がその艦に行ったところで出来る事は何も無いの。」


「でも!」


「私はここでシンを待ってる。
戦争が終わって…迎えに来てくれるのを待ってる。
だから…必ず私の所に戻って来て欲しいの…。お願い。」



迷いの無いの力強い瞳が真っ直ぐにシンを捉える。


本気なのだと悟ったシンはそれ以上強要出来なかった。









「絶対に…迎えに来るから…。」


「うん。待ってる。」



シンから花束を受け取ったは、一輪抜き取ってシンに渡した。



「コレが私の気持ち…ね。」


「うん。俺も同じ気持ち…。」






永遠に愛してる…




だから…再び共に過ごせる事を祈って…


この花に互いの想いを乗せて…







この別れは永遠の別れじゃないから…












【あとがき】


…と言うか懺悔でしょうか…(汗)

無駄に長い…

リクを頂いた通りに書いていたら悲恋になりそうになりました…。


一生懸命に修正しているウチに訳分からない展開に…。


よくよく考えたら、初のシン夢でしたね。

結果的にまとまりの無い作品になってしまい、申し訳ないです。

沙羅様、いつもありがとうございます。

こんなんで満足いただけるか分かりませんが…。

またいつでも感想聞かせてくださいませ☆





2005.5.11 梨惟菜








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