ホントの言葉




















「ちょっとハイネ!どういう事なの!?」







扉が開くのと同時に響いたのは女の声。





急だったにも関わらず、部屋の中に居た青年は動じないまま振り返った。








…せめてノックはしろよ。女のたしなみだろ?」





「そんな事はどうでもいいから答えてっ!!」







人の忠告は聞けよな…。




そう言いたかったが、これ以上怒らせるのは厄介というものだ。




付き合いが長い分、彼女の扱いだって手馴れたものだ。













「答えろも何も…話の意図が全く見えないぜ?」






あんまり刺激するのは良くないとは思うが…




主語を付けてくれないと流石の俺だって理解不能だ。








「…フェイスに任命されたって…本当なの?」







襟元を掴んでいたの手が次第に弱まっていった。







「あぁ…本当だ。

 議長からの直々の指令でな…来週地球に降りる。」







珍しく真剣な面持ち…




本当…なんだ…







「いつ…帰って来る?」




「まったくの未定。例の新型艦に配属されるみたいだからな。」







「ミネルバ…?」




「そう。流石詳しいな。」





「仕事なんだから当たり前でしょ。」








「ま、とにかくそういう事だから、暫く会えなくなるな。」





大きな手が私の頭をポンと撫でる。







「…3歳しか違わないんだから子供扱いしないで。」















任務なんだから仕方ないって分かってる。





ハイネは優秀で…それを議長も認めてくださって…





出世したんだもの…喜んであげなくちゃいけない。






でも、地球なんて遠い…遠すぎる…






ただでえ忙しくてロクに会えないのに…






私だって本当は同じパイロットになって戦いたかったのに…。






適性試験でパイロットには向いていないと診断された私は諦めざるを得なくて…






気が付けば軍本部で地味な仕事ばっかり…。









ハイネともっと一緒に居たいなんて言ったら不純かもしれないけど…




私にとってハイネは誰よりも大事で…失いたくない人で…





ハイネにとってはただの幼馴染かもしれないけれど…





3歳しか違わないのに子供扱いするし…妹程度にしか思っていないのかもしれない。









でも…『好き』だなんて言葉にしてしまったら…






今までのような関係ではいられないかもしれない…









それが…怖い…


































「やぁ、。」






「あ…隊長…ご無沙汰しております!」








翌日…




いつもの通り、軍本部での仕事が始まる。





相変わらず、同じ様な事務処理の繰り返し。







書類を届けに行く途中で、ある人に呼び止められた。
















「前線の方は如何です?」






「そうだな…やはりハイネが抜けた穴は大きいな。」







ハイネが以前所属してい隊のホーキンス隊長…





とても優しくて頼れる方で…





何度かハイネを交えて食事をさせて頂いたりした。









「来週発つと言ったかな…ハイネは。

 どうだ?もう準備は終わってるのか?」






「…暫くは戻れないと言っていましたから…」







「寂しくなるな…」






「…はい…」













寂しそうに俯くの頭に軽く触れたのは隊長の大きな手…








「…隊…長…」






「まぁ…俺も開戦でなかなか戻っては来れないが…アイツよりは会う機会も多いだろう。

 たまには食事でも行こう…な?」







「…気遣ってくださってありがとうございます。

 隊長も無理はなさらないで下さいね。」










…」







頭を撫でていたその手が肩へと下りたその時…










!こんな所で何を…っと…隊長!」







の後姿を見付けたハイネがに声を掛ける。








「あ…ハイネ…」





「よう!準備は順調か?」





「…はい!」





「今じゃお前の方が階級は上なんだ。そんな畏まらなくてもいいだろう?」






「いえ、今がどうであれ、隊長は尊敬する方に変わりませんから。」





「そう…か…

 じゃあ、俺はこれで失礼する。会議の時間なんでな。

 、また連絡する。」






「…はい。お疲れ様です。」























「隊長と何話してたんだ?」






「ん?ハイネが居なくなったら寂しいだろう…ってね。」







「そうか…」







「私、人見知り激しいから親しい同僚も少ないでしょう?

 色々と気遣って下さるの。」







確かに見えた…





隊長の手がの肩に添えられていた。






あんなに…親密だったか…?










「ハイネ?どうかした?」





「あ…いや…何でもないぜ。」







「…疲れてるんじゃない?ここ数日バタバタしてたんだし。

 早めに帰って休んだ方がいいよ?」









何だか今日のハイネは様子が変…?




いつもよりテンションが低いような…





やっぱり…新しい環境に慣れるのは大変。






もう少しで会えなくなるから…少しでも一緒に居たいと思うけど、それは私の我侭だから…。






















「いや…疲れてなんか無いぜ。

 お前、今日は定時に上がれるのか?」





「え…うん…。」






「じゃあ、晩メシでも食べに行かないか?

 特別手当が出たんだ。奢るぜ?」






「え!?本当!?」






ハイネを気遣って沈んでいたの表情がぱあっと明るくなる。





ハイネに食事に誘って貰えるなんて本当に久し振りだ。





いつも前線に居るハイネとはなかなか時間が合わなくて…。







「あぁ、夕方迎えに来るから、何が食べたいか考えとけよ?」






「うん、楽しみにしてる!!」








軽く小突かれた額に手を添え、は嬉しそうに返した。



































じゃないか。今日は良く会うな。」





「隊長、お疲れ様です。」







帰り際に隊長と本日2度目の遭遇。





「何だ?やけに嬉しそうだな。」




「え?」





自然と頬が緩んでいたのに気付かなかったは指摘されてもまだ笑顔だった。









「もう上がりか?」






「はい♪」






「俺も丁度上がりなんだ。良かったら食事でも一緒にどうだ?」






「え…っ…」




突然のお誘いには表情を少し曇らせた。







「もしかして、ハイネと約束でもしてるか?」





「…はい…折角誘って頂いたのに済みません…。」






「気にするな。また今度誘うから。」





「あ…良かったら隊長もご一緒に如何ですか?」





「え?」






「ハイネが地球に降下したら一緒に揃う機会もだいぶ減りますし…。」






本当は2人きりで…なんて思ってたんだけど。




やっぱり誘って貰ったのに断っちゃったし、悪いよね…。



































「…あれ…?」






軍本部の入り口で待っていると、と一緒に隊長の姿が見えた。






帰りがけに一緒にでもなったのか…






楽しそうに談笑する2人の姿に苛立ちを感じた。









「あ!ハイネ!!」





俺の姿を見付けたは笑顔で駆け寄って来る。





いつもと変わらない…昔から同じ笑顔。








「お疲れ。」






「ハイネもお疲れ様。ちょうどそこで隊長とお会いしたの。

 でね…隊長も一緒に…ダメかな?」






「は…?」







「ハイネが地球に降りちゃったら3人で食事なんてなかなか出来なくなるでしょう?」







らしい…優しい気遣いだ。





俺が隊長を慕っていたのは事実だし…




そんな風に言われたら断れる筈が無い。








「あぁ、そうだな。」





普段通りの笑顔で答えるハイネに少し残念な気もしたけど…





3人で食事に行く事にした。



































「じゃあ、気を付けて帰れよ。」






「隊長もお疲れ様でした。」







食事を済ませ、はハイネのエレカの助手席に乗り込む。





「ハイネ…ちょっといいか?」




「…はい…?」







隊長に呼び止められ、運転席の扉に掛けた手を引いた。















「…死ぬなよ…。」





「…はい。」







「お前にもしもの事があったら誰より悲しむのは誰か分かってるな。」






「…はい。」






脳裏に掠めるのは、小さい頃から共に過ごして来た少女の姿。









「それと…躊躇ってる様なら俺も容赦しないぞ。」





「え…?」






「俺は本気だからな。

 お前にその気が無いなら、お前が不在の間に掻っ攫うのも有り…だよな?」





「なっ…!」






「少しは自覚しろ。

 お前の幼馴染はいい女だぞ。」



























そんな事は分かっている。





妹の様に思っていたは気付けば大人の女になっていた。






きっと周りの男は放ってはおかないだろう…。








何度も想いを告げようと思った。





誰よりも愛しているのだと…。






けれど、側に居る事も出来ない自分がを幸せにしてやれるのだろうか…





そんな不安が付き纏う。





まして、自分は軍人だ。






いつ死んでもおかしくない場所に常に居る。





自分にもしもの事があったら…




















「…ハイネ?」






いつの間にか真剣に考え込んでいたハイネはの声が耳に入っていなかった。







「え?」





「…聞いてなかったでしょ…。」





「…悪い。」






「まぁいいけど…大した話じゃないし。」





「そっか。」


















不意に空いてしまった間に、は窓の外に目を向けた。







こうしてハイネの隣に座る事があと何回出来るのだろうか…。






常に危険な場所に居るハイネには常に死の危機が隣り合わせ。






本当に…見守る事しか出来ない…





何て無力なんだろう…

















そんな事を考えていたら、エレカが急に止まった。






「…ハイネ…?」






「ちょっと外に出ないか?」






「外?」








ハイネに促されてエレカを降りると、眼前に広がる海と月。






程よく吹く風に揺られ、の髪が頬を撫でた。













やっぱり…今日のハイネは変だ。







疲れてたのに無理して誘ってくれたの…かな…。

















…」






「え…」









不意に伸ばされた手に引かれ、気が付けばハイネの腕の中に居た。









「ハ…ハイネ!?」





突然の事にはただ戸惑う。






力強い腕に驚きはしたけれど、苦しくは無い。





強く…けど優しく抱き締められていた。










「そのまま動かないで聞けよ?」





「……はい…」










「俺はこれから地球に降りる。いつ戻って来れるか分からない。」






「うん。」







「地球では何があるか分からない。もしかしたら死ぬかもしれない。」







「ハイネなら大丈夫だよ…。」






「あぁ。でも大丈夫だなんて保証は何処にも無いだろ?」






その言葉には黙り込み、代わりにハイネの袖をギュッと握り締めた。






そんな事考えたくない…





ハイネは無事に戻って来てくれるって信じたいから…













「こんな時に言うのは卑怯じゃないかって思ったんだけどな…

 言わずに何かあったらきっと後悔するから。」





「ハイネ?」






「好きだ。」







耳元で…小さく一言だけ告げられた。







「ハイ…ネ…」






思わず涙が零れた。








「柄にも無い事言っちまったな…。」





体が離れたその後にはいつものハイネ。






「まぁ…そういう事だから…」





照れ隠しなのか、ハイネはすぐに背を向けてそう告げる。






「ちょっと待ってよ!」





慌てて袖を掴み直すと、ハイネは慌てて振り返る。









「…言い逃げなんてずるい…。」






…」





「私もハイネが好きなのに…。」







ずっと言いたくて躊躇ってた言葉をハイネがくれた。




それが嬉しくて切なくて…






「だから…無事に帰って来て。」





「そうだな。約束する。」








大きな手が頬を包み込み…




月明かりで浮かぶ2人の影が一つに重なる。









「愛してる。」






























【あとがき】

書いてて恥ずかしかったです…

ハイネ苦手なんだもん…

丁度 『きよしとこの夜』のゲストが西川氏の回を見ながら書いておりました。

うわ〜見られてる〜(勘違い)

どうしてもハハイネのキャラが掴めなくて…

本当にこんなんで大丈夫なのかなぁ…って。

しかも勝手にホーキンス隊長登場。

全く登場してないキャラなので勝手に作っちゃった状態ですね…

果たして彼は若いのか?

もしかしたらアデス艦長みたいな人かもしれないのに…

まぁ、ここでは若い兄貴みたいな感じで読んで下さい(汗)


さて…

翼姫嬢、如何でしたでしょうか?

あぁ…また職場かメールでいじられるのかなぁ…




では、読んで下さってありがとうございました。







2006.6.8 梨惟菜











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