カレッジでの学生生活は4年間…
去年は仲間と大騒ぎして楽しんだあの行事。
今年はあなたと2人きりで。
そう、2人でコッソリと約束したよね。
愛情と友情のはざまで
その手の先にあるもの
「カガリ!そっちは終わった?」
「まだだ!あと少し…」
「ディアッカ、当日のスケジュールなんだけど…」
いつも以上に賑やかなカレッジでは沢山の学生がキャンパスを走り回っていた。
熱い陽射しが照りつける夏がようやく終わり、心なしか冷たい風が吹く季節になった。
季節は秋…
秋の最大のイベント、学園祭が1週間後に迫っていた。
「じゃあ、当日の役割分担と時間配分はこれでいい?」
「…異議な〜し!」
責任者を任されたミリィはテキパキと仕事を進めてくれる。
まだ当日まで何日もあるのに、準備は着々と進んでいた。
「人数が少ないからね、しっかりと分担して頑張ろう!」
このカレッジの学園祭は主にサークルの出店がメインとなっている。
けれど、サークルに所属していない学生も多く、その学生達は何人かで集まって催しをするのが大きな特徴。
達もまた、どこにも属さないグループだった為、同じ科の友人と数人で集まってお店を開く事になっていた。
やっぱり学園祭と言えば学園生活のメインとも言える一大イベント。
そして、カレッジに入学して2年目…
学生生活にも慣れ、楽しくなって来たからこそ、参加したいとも思えるようになった。
「、帰ろうか。」
「うん。」
今日の作業はほぼ終わり、はアスランと共にカレッジを後にする。
学園祭の準備が忙しい中、カガリ、ミリィ、ディアッカと5人揃って帰る事は少ない。
今日もまた、とアスランは2人きり。
アスランと出会って1年半…
付き合い初めて10ヶ月…
2人で歩いていれば自然と手を繋ぐようになったし、一緒に居るのが当たり前になっていた。
共に過ごす時間が増え、互いを想い合う時間が増え…
けれど、互いの想いは褪せる事無く逆に強くなるばかり。
いつも一緒に居られればいいのに…
そう感じているのは片方だけではない。
言葉には出さないけれど、もアスランもいつもそんな気持ちで接していた。
「今日はこれくらいで足りるかなぁ…。」
帰りがけに2人が立ち寄ったのはスーパー。
「そうだな…十分じゃないかな…。」
2人で持つカゴの中には沢山のフルーツやお菓子の材料。
「そろそろヤバイと思うのよね…毎日食べてばっかりなんだもん。」
「は少しくらい太ったって大丈夫だよ。」
「嫌よ。私だって色々と気を遣ってるんだからね。」
他愛の無い会話をしながら、2人はレジへと向かった。
「うん。これなら安心して売れるね。」
「ちょっと甘過ぎないか?」
「何言ってるの。甘くないクレープなんてクレープじゃないって。」
学園祭でクレープ店を出店する事になり、2人は連日アスランの家で練習を重ねていた。
お菓子作りが得意なはともかく、男であるアスランには初めての試み。
けれど、の熱心な指導の甲斐あって商品として出せるまで上達したのだった。
「、クリーム付いてる。」
「えっ?どこどこ?」
アスランの作ったクレープを美味しそうに頬張っていたを見てアスランは笑みを零した。
「ここ。」
「きゃ…」
ほっぺたに付いた生クリームをアスランに舐められ、は頬を染めた。
「…やっぱり甘いな…。」
「私は好きだけど?」
「そう?」
そんながあまりにも可愛くて…
アスランはそのままの唇にキスを落とした。
「学園祭…楽しみだね。」
「そうだな…。」
去年はまだカレッジに慣れたばかりで…
学園祭も皆で見て回って楽しむだけだった。
でも今年は参加して楽しもうってディアッカが言い出して…
まだ準備の段階だけど、見てるだけでは楽しめない場の雰囲気を味わいながら走り回ってる。
「空いた時間は一緒に回ろうね。」
「あぁ。」
付き合い始めて初めての学園祭はワクワクとドキドキが一杯。
一緒に手を繋いで色んなお店を回ったり…
カレッジの中でデートが出来るなんて…
そう思うだけで今から楽しみで仕方が無い。
「ありがとうございましたぁ〜!」
学園祭当日…
予想に反してクレープ屋は大盛況だった。
お店の前には常に長蛇の列。
甘い物好きの女の子が笑顔でクレープを買っていく。
…と思えば、意外にも男の子のお客も多く、その為売り上げも予想以上に上々だった。
「あ〜忙しい!何でこんなに客が多いの!?」
丁度、売り場を任されていたとアスランは休む間もなく走り回る。
ひたすら焼く、売る…の繰り返し。
「男の人も多いなんて…予想外なんだけど…」
「ホラ!喋ってる暇があったら手を動かす!」
「分かってるわよ〜!」
もはや学園祭を楽しむどころじゃない…
早く交代してアスランとのんびり過ごしたいよ〜!
「お疲れ様!後お願いね。」
ようやく交代の時間になって、私とアスランは解放された。
「まさかこんなに忙しいとは思わなかったね〜。」
「だな。」
差し出された手を絡め、ようやく2人きりのデートが始まる。
…と思ったその時…
『お呼び出しを申し上げます。
本日、午後1時より開催のミス&ミスターコンテストにエントリーされている・さん、アスラン・ザラさん。
至急、メインステージまでお越し下さい。』
「「…は…?」」
構内に流れたアナウンスに私達は耳を疑い、顔を見合わせた。
「コンテスト…って何?」
「いや…俺が聞きたいんだけど…」
確かにそんなコンテストがあるのは知っていた。
一応、学園祭の目玉イベントだったし…。
けれど、自分達には関係のないイベントだからあまり興味は無かった。
「今…エントリーされている…って言った…よね?」
「俺にもそう聞こえたけど…。」
でも、お互いに心当たりも無く…
どうするべきなのかと互いに頭を抱えていた時だった。
「あ!いたいた!!アスラン!!」
「…カガリ…」
カガリが2人を見つけて駆け寄ってくる。
「何してるんだ!早くしないとコンテストが始まるだろ!?」
「「…はい?」」
2人の腕を強引に引っ張るカガリに、嫌な予感が…
「あの…カガリ?」
「何だ?」
「私達…エントリーした記憶なんて無いんだけど…まさか…」
「私がエントリーしたんだ。」
「「はい!?」」
「あまりに希望者が少なくて、他薦してくれって頼まれたんだよ。」
「だからって何で!!」
「お前達なら優勝も出来るんじゃないかな…って思って。」
もしかして…
カガリの目的って優勝商品ですか…?
このコンテストが目玉となっている理由の一つ。
それは優勝商品の温泉旅行ご招待券でもあるのだ…。
「何でこんな事に…」
気が付けばステージに立たされていた私達…。
会場の参加者掲示板に写真が貼り出されていた事にさえ気付いていなくて…。
それが原因でお店も大盛況だったとは…
こんな大舞台に立たされて注目浴びちゃって…
ただでさえアスランは女の子に人気なのに…
気になるのはそればっかり。
アスランは本当にモテる。
容姿は勿論、勉強だってスポーツだって出来るし、家柄だって良いし…。
付き合い始めてからはだいぶ減ったけど、昔はラブレターとかも凄かった。
いつも誰かに呼び出されて告白とかされてたし…。
あぁ…これ以上アスランを人前に晒したくない…
一方、アスランも同じ様な事を考えていた。
…自分はともかく…
をこんな人前に出して…
これ以上人気が出たらどうするんだよ…。
は可愛い。
容姿は勿論、ちょっとした仕草とか…コロコロ変わる素直な表情とか…
見ていてこっちまで心が安らぐその笑顔とか…
可愛いし、スタイルだって良い。
ちょっとドジな所とか、守ってあげたいと思わせる要素を沢山持っていて…。
きっと本人は気付いていない。
はモテるんだ。
こんな大舞台に立たされていながらも、お互いの心配ばかり。
ステージで何が起こっているのかさえもどうでも良くなっていた。
「では、今年のミス&ミスターの発表です!」
気が付けばイベントは終盤に差し掛かり…
今年の優勝者が発表されようとしていた。
「今年のミス&ミスターは…
・さん、アスラン・ザラさんに決定です!」
「「は!?」」
「いやぁ…私の予想通りだったな♪おめでとう!」
温泉のご招待券を手にステージを降りて来た2人を出迎えるのはカガリ。
「今年の冬は温泉でのんびり出来そうだな。」
「いや…誰も誘ってないし…」
「まぁいいじゃないか。それより、そろそろ後夜祭の準備をしないと間に合わないぞ?」
コンテストのせいで学園祭デートは台無し。
気が付けば空はうっすらと赤く染まっていて、そろそろ後夜祭の時間が迫っていた。
「大変!急いで支度しなくちゃ!アスラン、また後でね!」
「あぁ。」
最後の目玉は後夜祭のダンスパーティー。
学生は正装に着替え、講堂に設けられたダンスフロアでダンスを楽しむ。
カレッジの行事の中で、一番カップル誕生率の高い行事。
「よし!完璧だな!」
この日の為に、カガリ、ミリィと内緒で選んだドレスを身に纏う。
カガリは黄緑色の…ミリィはピンク色のドレス。
そして私は淡い水色のドレスを選んだ。
軽く化粧をして、派手すぎないアクセサリーを飾り…
「わぁ…」
講堂は沢山の人で溢れ返っていた。
既に何組かの男女がフロアでダンスを楽しんでいる。
「じゃあ、私達は約束があるから…」
「え!?嘘!」
「だってアスランと2人で居たいでしょ?」
カガリとミリィは笑顔で私を置き去りに…
アスラン…何処に居るんだろう…
フロアの広さと人の多さでなかなか見つからない…。
ドレスの所為で歩きにくいし…
アスランが探してくれるのを待ってた方がいいのかも…
ひとまず、壁際へと避難した私は壁に凭れて会場を見渡した。
煌びやかな明り…鮮やかなドレス…
本当にこれが学園祭なのだろうかと疑ってしまうくらい、華やかな場所。
「あの…」
「…え…はい?」
急に1人の男性が声を掛けて来た。
「…さんですよね?今日のミスに選ばれた…」
「え…あの…」
「コンテスト、見ました。凄く素敵でした。」
「あ…ありがとう…ございます。」
他に言葉が浮かばず、不本意ながらもそう返すしか無い。
「あの…もしご迷惑でなければ、1曲お相手願えませんか?」
「え!?」
「1曲だけでいいんです!お願いします!!」
1曲だけって…私と!?
「凄い人だな…」
想像以上の人の多さに、一生懸命フロアを隈なく探す。
こんなに人が集まるとは正直思っていなかった。
を見つけ出す自信はある…が…
今日のはドレスを着て綺麗に着飾っているんだよ…な…?
どんなドレスを着ているのだろうか…
髪型は?化粧は?
そんな事を考えながら、壁際へと移動したその時…
淡い水色のドレスに包まれたを発見した。
想像通り…いや、それ以上に綺麗なに息が止まりそうだった。
ところが…
の目の前には、彼女に向かって手を差し出す男の姿…。
そりゃあ…昼間にはコンテストで優勝して注目も浴びている訳だし…
それに加えて綺麗に着飾っている訳だし…
言い寄られてもおかしくは無い…けど…
実際に目の前にしてしまうと自分の中にドロドロと醜い感情が沸き上がって来る。
「あの!」
の元へと駆け寄ろうとしたその時…
「え…?」
目の前に、数名の女子。
「アスランさん!私と踊って下さい!」
「いえ!私と!」
「1曲だけでいいんです!お相手をお願いします!!」
「あ…アスラン…」
差し出された手にどう断ったらいいのか迷っていたその時…
逸らした視線の先にアスランの姿が映った。
が、アスランが見ているのはこっちではなく…
目の前には綺麗なドレスを着た女の子が何人も…
紺のタキシード姿のアスランはいつも以上にカッコよくて…
お昼にはコンテストで優勝しちゃった訳だし…
そりゃあ…人気があって当たり前なんだけど…
「あの…ごめんなさい…」
「え…?」
「私、踊る相手は1人だけ…って決めてるんです!」
「悪いけど…約束している相手が居るから…」
「1曲だけでいいんです!お願い!」
何度も断っているのに、女の子達は諦めてくれなくて…
こんな事をしている場合じゃないのに…
その時、急に腕を勢いよく引っ張られた。
「…!?」
腕を絡めて来たのはで…その顔は怒っているように見えた。
「…アスランは私の彼氏なの!だから他の誰とも躍らせないんだから!」
「…」
「やっと見つけたと思ったら…女の子に囲まれちゃってさ…。」
「だって言い寄られてただろ?」
「…ちゃんと断って来たもん。アスラン以外の人となんて絶対に踊らないもん…。」
「俺だって以外の子なんて興味ないよ。」
一緒にお店見て回れなかったし…
コンテストには無理やり出場させられちゃうし…
ダンス申し込まれちゃうし…
本当に散々な一日。
でも…
こんなカッコいいアスランが見れたら…
改めてアスランに視線を向ける。
私より大きい背…
ビシッと決まってるタキシード姿…
背筋を伸ばして凛と立つその姿は…確かに他の女の子の注目を浴びてもおかしくはない。
本当…カッコいいよ…ね…
そっと手を伸ばし、アスランの手に自分のものを重ねる。
そうしたらアスランも同じ様にその手を握り返してくれて…
色んな事があったけど、一緒にここに居る事が出来て幸せ。
アスランは確かにモテるけど、私がアスランを好きって気持ちは誰にも負けないから…。
フロアに鳴り響く音楽が終わり、また別のワルツが始まった。
「嬢…」
隣に立っていたアスランが跪き、手の甲にキスを落とす。
「私と踊って頂けませんか?」
「…喜んで…。」
顔を見合わせ、笑顔になった2人はダンスフロアへと姿を消す…。
この手の先にあるものは常にあなただけ…
互いにそう祈りながら…。
【あとがき】
うわぁ…
何だかゴチャゴチャと色んな要素を詰め込みすぎてしまいました!
リクエストの内容としては『ミス&ミスターコンテスト』と『ダンスパーティー』だったのですが。
そこまでを繋げるのに色々と考えてしまいまして…
こんな仕上がりで本当に申し訳ないです…。
学園祭ネタ、実はこれで2作目になるのですが…
学園祭って結構ネタが絞られてしまうんですね…。
でも書いていて楽しかったです。
学生に戻りたいなぁ〜。本当に…。
ユーリ様、リクエストありがとうございました。
ご希望通りに行かなくて本当に済みません(汗)
2005.10.18 梨惟菜