甘い我が侭
ディアッカ・エルスマン
「なぁ…いつまで怒ってんの?」
「…………」
何度同じセリフで問い掛けても決して彼女からの返答は無い。
ベッドの方に身体を向けて床に座り込む彼女は微動だにせず、ディアッカは思わず頭を掻いた。
「なぁ〜。悪かったって。」
「…………」
一度怒ると本当に厄介なんだよな…。
意地っ張りな彼女と喧嘩をすると宥めるのにいつも苦労する。
それでも楽しいと思うのは、それを含めて好きだから。
でも今回は喧嘩とはちょっと違った類のもので…。
自分に非があると理解しているだけに困っていたのだ。
だからこそ、素直に謝罪の言葉を述べているのだが…
肝心のお嬢様はそれでも許してくれる気は無いらしい。
「なぁ〜。〜。」
「…………」
まだ無言…。
今回は相当頭に来てる…な…。
「悪かったって!」
痺れを切らしたディアッカは、後ろから可愛い彼女を抱き締めた。
「触んなこのバカ!!」
「イテッ!」
お腹の前で交差された手をがパチンと叩くと、間抜けな声が聞こえた。
「ディアッカなんか嫌い。」
「だからぁ…俺が悪かったって。いい加減許してくれよ。」
「許す許さないの問題じゃない。」
「じゃあ何?」
「それ以前の問題だもん。」
そう言うと、背後からハァ…と溜息が漏れた。
「そりゃあね、バレンタイン前日に寝込んでた私だって悪いわよ?」
でも風邪なんて不可抗力じゃない。
普段、気を付けてはいるつもりだったけど…引いちゃったものはしょうがないじゃない。
「だからって普通、受け取る!?」
「…だからそれに関しては俺が完全に悪かったって…。」
ようやく起き上がれるようになったのはバレンタインの2日後。
手作りする予定だったチョコの材料が残ってて…
少し遅れちゃったけど作ろうかな…って思ってたのに。
ディアッカの部屋に行って絶句した。
机の上に置かれたチョコの山に…
どうしても断れなかったとかで全部受け取って来てるの。
私が寝込んでるのによ!?
それで大激怒。
「私だって…渡したくなくて渡さなかったんじゃないのよ?
渡せなかったの。ってか作れなかったの!」
「そりゃ…十分分かってるよ。伝染るから来るなって言ったのはだろ?」
「で、その間にチョコ受け取ってデレデレしてたんだ?」
「だから誤解だ!」
ダメだこりゃ…
一度切れたには何を言っても聞きやしない。
「大体、俺にはお前だけだって何度も言ってんだろ?」
「どうだか…。」
「…信じてないのか?」
「あのチョコの山を見て信じろって?」
「たかがチョコだろ!?」
「たかが…じゃ無いっ!バレンタインのチョコでしょ!」
気が付けば俺もムキになってて…いつもみたいに口論になっていた。
バカバカしいとは思う。
でも、ショックだったんだよ。
俺の気持ち、に伝わってなかったんだ…って気がして…。
「はぁ…」
また今回も自己嫌悪。
いつもそう。
ディアッカと喧嘩しちゃうといつもこんな風に落ち込んでる。
だって…悔しいんだもん。
負けず嫌いだからついムキになっちゃう。
私は悪くないんだ…って思い込んじゃう。
ディアッカってモテるんだもん。
カッコいいし…何でも出来るし…女の子に優しいし…
私と付き合い始める前には色々遊んでたって噂もある。
だから疑っちゃう。
彼氏の事、信じられないなんて最低な彼女だと思う。
信じてない…って言うか…不安なんだよ。
本当に私の事だけを思ってくれてるなら…他の女の子からのチョコなんて受け取らないでしょう?
「何?まだ仲直りしてないのか?」
翌日…
いつもなら向かい合って朝食を摂っている筈の名物バカップルの姿が無い。
ディアッカはイザークと一緒に居て、は1人ポツンと隅のテーブルに居た。
「あ…アスラン。おはよう。」
「おはよう。隣、いいか?」
「勿論。」
「…って言うか、喧嘩じゃないから。」
「じゃあ何?」
「…我が侭なんだよ…私の。」
「だったらが折れれば済む話じゃないのか?」
「それは嫌。私が負けず嫌いなの、知ってるでしょ?」
「…そういう問題か…?」
「どうだろうね…。」
モテる彼氏を持つのは大変。
いつも幸せな気持ちと裏腹に不安と嫉妬心が付き纏う。
これでも精一杯我慢してるつもりなんだけどなぁ…。
やっぱ我が侭…なんだろうな…。
いつも私の事を一番に考えて欲しいだなんて…。
「おい、!!」
食後に廊下を歩いていると今度はイザークに声を掛けられた。
「いい加減許してやれ。こっちが迷惑する。」
拗ねられて落ち込んだディアッカが愚痴を零すのは決まって同室のイザーク。
どうやら昨夜も遅くまで付き合わされたらしい。
「…分かってるんだけど…。」
「本当にお前は頑固だな。俺の恋人じゃなくて良かったぞ。」
「私だってイザークみたいな彼氏はお断りだよ…。」
「とにかく、お前が折れれば済む話なんだろう?」
「…ここで折れてもまた同じ事繰り返すもん。」
私…我が侭だから…
同じ様な事が起こったらまた同じ様に拗ねるんだよ。
「本当に面倒だな。俺は恋愛なんてゴメンだ。」
「…見てみたいけどね。恋するイザークの姿…。」
「…居るんだろ?」
何もする事がなくなった夕方…
普段ならディアッカと2人でどちらかの部屋で過ごすんだけど、今日はそれも無い。
部屋でベッドに伏せながら雑誌を捲っていると、ドアの向こうからディアッカの声がした。
「居る…けど…」
「話があるんだ。入ってもいいか?」
いつもとちょっと違うトーンの声…。
怒ってる声でも無いし、弾んでる声でも無い。
「待って、今開ける。」
起き上がり、扉のロックを解除した。
「…って何これ…」
扉の向こう側に立つディアッカが持っていたのは1つの箱。
「にプレゼント。」
「…私…に? 開けてもいい?」
「あぁ。」
受け取った箱のリボンをそっと解く。
「…っ…」
中に入っていたのはチョコレートのケーキだった。
「これってまさか…手作り…?」
「あぁ。料理ならともかく、お菓子なんて作った事無かったからな…でも食べれる味だとは思う。」
「ディアッカ…。」
「俺からのバレンタインのチョコ…って事で。」
普通は女の子が好きな人に贈る物なのに…。
「それくらい俺がの事が好きだって伝えたかったんだよ。
…少しは伝わったか?」
いつものトーンに戻ったディアッカの声に目頭が熱くなるのを感じる。
黙って首を縦に振ったはディアッカの胸に飛び込んだ。
「ごめん…私…」
「いや…今回の事は俺が悪かったし?」
「でも…私も言い過ぎたって反省してた。なのに素直になれなくて…。」
「素直じゃないのは前から分かってた。」
「…それに私…凄い我が侭だし…。」
「それも知ってる。」
「それでも…好きでいていいの?」
「…いいに決まってるだろ? 俺にはだけだって。」
上目遣いで見つめるに笑みが零れた。
「…大好き…。」
「俺も。」
頬を伝う涙を拭った後には触れるだけのキス。
今の2人なら、それだけで十分愛は伝わるから。
【あとがき】
意地っ張りなヒロインも久々に書きました。
ディアッカ夢でこんなヒロインを書くのは結構楽しいです。
ディアミリを見てる所為かなぁ…。
尻に敷かれるディアッカってなかなか素敵だと思うんですよね。
ちょっと甘々〜っぽくしたつもりですが…。
一応、設定はクルーゼ隊時代…なんですけどね〜。
久々にディアッカ夢を書いたので何だか気恥ずかしいです。
2006.3.4 梨惟菜