Sweet & Sweet

   キラ・ヤマト





















「キラくん!コレ、バレンタインのチョコレート!」






「あ…ありがとう…」





「私のも受け取ってくれる!?」






「あ…うん…。」




















「出遅れちゃったわね…。」





「えっ!?」






少し距離を置いて様子を伺う私の元に、ミリアリアの見透かした一言が突き刺さった。






「予想以上のモテっぷりじゃない…。」





「…うん…。」













恋する乙女達にとっての一大イベントの真っ最中。





朝から色鮮やかにラッピングされたチョコレートを持った女子で教室は大賑わい。






そしてその輪の中心に居るのは…クラス1の人気を誇り…



私の想い人でもある彼…











は用意してないの?」





「…してる…けど…」





あんな風に色んな女の子に囲まれちゃってると渡せないって言うか…




渡したくないって言うか…








クラスの女子は勿論、他のクラスの女子までもが集まって来てる状態…










ピンクやオレンジの包装紙にくるくるのリボン…





高級そうなチョコや手作りっぽいチョコまで、多種多様な品揃え…











渡せない…なぁ…こんなの…
















カバンの中に眠る、彼に宛てて用意した物に溜息が漏れた。






よく考えたら…手作りのチョコなんて生まれて初めてだった。







特に料理が得意な訳でも無い。







でも…キラに恋をして初めてのバレンタインだから…





想いを伝える事は難しいかもしれないけれど…




でも、普通にお店でチョコを買ってラッピングしてもらうだけじゃ他の女の子と同じだと思ったから…









一生懸命頑張って作ったけど…




今更ながらに後悔している自分が居たりする。








こんな見栄えのしないチョコ…渡せないよ…






















「…渡さないの?」






ミリアリアの手の中には皆と同じチョコレート。






何でも出来るミリアリア…




料理も凄く上手だから、きっとチョコも手作りなんだろうなぁ…






トールが羨ましい。




私が男の子だったら、きっとミリアリアみたいな子を好きになる。











もう少し手先が器用だったら良かったのに。





































「サボっちゃった…」










何となく気分が沈んじゃって…勉強する気が起こらない。





こんな天気の良い日は屋上でのんびりするのが一番だ。







誰も居ない…私だけしか居ない…







今日だけで何人の女の子がキラに告白するのかな?






本気の子はどれくらい居るのかな…?




そう思うだけでどんどんと気分は沈んで行っちゃう。












手の中にはチョコレート。







いっそ捨てちゃおうかな…






食べちゃえ…って思える様な美味しい物でもないし…





















「良い天気だなぁ…」






「本当、良い天気だね。」








…え…?











「キ…キラ!?」








「サボりなんて珍しいね。隣、いい?」








「え…あ…うん。」











不意打ちだ…










「キラも…授業、サボっちゃったの?」








「うん。」









「何かあった?」







「朝から何だか疲れちゃって…」










「…チョコ…一杯貰ってたもんね…」









「………」










私…何か悪い事言っちゃったかな…






キラは急に黙り込んで俯く。














「…甘い物、あんまり好きじゃないんだ…」





「え?」






「だから沢山貰ってもどうしようかな…って…」










知らなかった…




甘い物、苦手なんだ…





背中に隠したままのチョコをギュッ…と握り締めた。
















「そ…そうだったんだぁ…。

 確かに、男の子って、甘い物大好きか苦手かのどっちかが多いもんね…」






「僕は苦手な方だったみたいだね…。」








嬉しいような…悲しいような…複雑だなぁ…







渡す前に発覚して良かった…かなぁ…














は?」





「え…?」





は誰かにあげたりしたの?」







「…私…?」







渡したかったけど…もう渡せないや…












「私は…こういうイベントってあんまり興味無いんだ。

 ミリアリアみたいに作るのが上手な訳でも無いし…。

 それに…私の気になってる人は甘い物苦手みたいなの…。」











「そう…なんだ…。」










「でも…モテるのは羨ましいなぁ…。

 チョコくれた女の子の中に本命、居ないの?」









「残念ながら…バレンタインには興味無いみたい。」










「そう…なんだ…」




































キーンコーンカーンコーン…












「あ…もう授業終わったんだ…」







気が付けば1時間…2人で色んな話をしていた。






こうしてキラと2人きりで話をするなんて本当に久し振りな気がする。










「そろそろ戻ろうか…。」







「あ…」






「…どうしたの?」








「あ…え〜っと…私、もう少しここに居る。」









「…そう?」











壁に凭れたまま話してたから誤魔化せたけど…




背中にはキに渡そうと思ってたチョコが隠れている訳で…








背中のチョコを見られる訳にはいかないんだ…。


























「ねぇ…」





「…え?」






「本当に…無いの?」






「何が…?」








「チョコレート。」









「え…っ…」









屋上と校舎を繋ぐドアに手を掛けたキラが振り返る。




そして、私と瞳がぶつかった瞬間…





彼の足は再び私の元へと歩み寄った。




















「チョコって…え…?」






「どうしてずっと手を後ろで組んでるの?」







もしかして…








「甘い物は苦手だけど…好きな子からなら喜んで受け取るのに…。」







「キ…」






キラの手が伸ばされて…私の手首を優しく掴む。










「あ…っ…」






「やっぱり…」







手の中にあるチョコレートの箱に、キラは目を細めた。








「そ…それはっ…」






ご丁寧に、箱を結ぶリボンの隙間には『Dear.Kira』と書かれたカード…






バカじゃないの私…










「貰ってもいい?」





「だ…駄目!!」






「どうして?」







「だって…失敗しちゃったし、絶対に美味しくないし…それに…」








「義理チョコだから?」






「違っ…」







義理なんかでわざわざ作ったりしない…





本当は誰よりもキラに渡したいって思ってて…でも渡せなくて…







急に目頭が熱くなって来た…










「……!?」







「だ…って…私…っ…」







ポロポロと零れ落ちる涙にキラは焦ってしゃがみ込んだ。








「ゴメン…ちょっとからかい過ぎたね…」







「キラ…ずるい…っ…」







「え…?」








「一杯貰ってるじゃない…私のチョコなんて…」









「でも、本当に欲しかったのはからのチョコなんだよ?」









わざと目の前で他の子から受け取ったりして…





でも逆効果だったみたいで焦って追い掛けて…








「僕が好きなのはなんだ。」






「キラ…」







「だから…の気持ちが欲しいんだ。」









貰えるかな?











「本当に…私のでいいの?」






「だから、のじゃないと意味が無いんだってば。」






























の方がずっとずるいと思うなぁ…。」






「…どうして?」







結局2人は次の授業も仲良くサボっていた。





お日様に照らされながら…





右手には好きな人からのチョコレート。





左手には好きな人の右手。







両手に幸せを抱えたキラは不満そうに呟く。












「だって…バレンタインって女の子が好きな好きな人に告白する日でしょ?」







「あ…」









「まだからの告白、貰ってないんだけど?」








結局、想いを伝えたのは僕の方で…





そんな状況がちょっと不満だったりするんだけど。















「私も…キ…キラの事が…」






「僕の事が?」






「えっと…その………あっち向いててくれない?」







目の前で見つめられてたら何も言えないよ///







「どうして?」





「どうしても!」






真っ赤になるに笑みを零しながら、再び目線を青空へと向ける。














「キラの事が…好きです。」



























【あとがき】

おいおい…バレンタインっていつだよ?

そう思った方、沢山いらっしゃると思います。

10日以上経過してますね…ハイ。

思いがけず風邪で寝込んでしまい…そのまま企画が流れる流れる…

ネタ自体は色々と考えていたのですが、意識が朦朧としてまして…

とりあえずバレンタイン夢、キラ編です。

微妙な黒キラ様降臨…みたいな。

普段黒キャラってほとんど書かないのですが…

種キャラの中で黒化するとしたら彼しかいないだろう…みたいな。

確信犯的なキラ、素敵だと思います♪

…という訳で、遅くなって申し訳ありません。

他のキャラも随時更新して行きたいと思いますので気長に待ってやって下さい。

ホワイトデーには…メインキャラ程度は…






2006.2.23 梨惟菜












TOP