Sweet & Bitter

  ムウ・ラ・フラガ






















「あ〜眠い…」







頭を掻きながら廊下を歩く姿は正直、良い男とは言えない。





それも周囲に誰も居ないから出来る事で…





決して他人にそんな隙を見せる男では無い。




















「ん…?」







食堂に入ると、何やら珍しい光景が目の前にあった。









「はい、キラ!!ノイマンさんも…。」









笑顔で何かを渡しているのは女性陣。





その中に自分の可愛い恋人も混ざっているから首を傾げた。














「あ…ありがとう…。」





「有難く受け取らせて貰うよ。」











「あ…ムウさん!!」






先に気付いたのはミリアリア。





…と同時に彼女も笑顔で振り返る。








「ムウ!コレ、女性陣から♪」







「何だコレ…」






手渡されたのは小さな箱…




綺麗にリボンが巻かれているそれはプレゼント…なのだろう。










「あ…今日って…」





「そ、バレンタインだよ〜♪」








ニコニコと屈託の無い笑顔が俺に向けられた。







本当にコイツは…天然なのか計算なのか…





そんな顔で微笑まれたらいくら俺でもグラッと来るだろ…











「…サンキュ…。」







「これで全員に渡したよね…。」





「そうね…。」










…って…





え…!?







ちょっと待て!!








!?」





「え?なぁに?」






「女性陣からって…」






「だから、私とミリィでしょ、マリューさんにカガリとラクス。」






いや…それは分かってるけど…









「数が多かったから手作りじゃなくてごめんね。」









そうじゃなくて…








俺は他の野郎共と同じ扱いなのか!?







仮にも俺は恋人だろ!?









「いけない!行かなくちゃ!!」








俺の疑問などお構い無しに、は駆け足で食堂を後にしてしまった。




























…中身も普通のチョコ…か…





特に俺にだけ何か特別な仕掛けがあるという訳ではなさそうだ。






せめて何かメッセージを添えるとか…







それくらいしてくれたっていいんじゃないか?





















本当に…という少女は理解に苦しむ子だ。






20代後半の俺に対して彼女はまだ10代後半。







年齢差を気にした事は無い。







確かに歳はずっと幼いけれど、それを感じさせない強さを内に秘めていて…



だからこそ惹かれた。







時折見せる寂しげな表情は年相応だが、それでも強くありたいと務める彼女の姿は俺の支えでもあった。
















空白の2年間の間に…彼女はまた強くなった。















俺を失って…それでも必死に前を向いて歩いていた。












だからこそ…彼女が愛しい。












記憶を失くしている間も、常に何かが足りない気がしてならなくて…








それは…だったんだ…。












そして再び一緒に居られるようになって…







俺は今、凄く幸せな気持ちで一杯だった。










幸せだからこそ、彼女の一挙一動が気になって仕方が無くて…






バレンタインなんて些細な事かもしれないけれど、それでもやっぱりからの『特別』が欲しい。









俺は他の男とは違うんだって…確かな物が欲しい。










…って何か俺、女々しいな…。



































「う〜」






勢いで作ってみたものの…



やっぱりコレはちょっと…問題アリ…かなぁ?









出逢ってもう4年になるけれど、実は初めてのバレンタイン。






初めて出逢った年のバレンタインは戦争の真っ最中。






2度目、3度目のバレンタインは一緒に居る事さえ出来なかった。





…って言うか、この世にはもう居ないんだ…って…思ってた。







信じたくないけれど、目の前で起こった現実を受け入れるしかなくて…





でも新しい恋なんてとても出来なくて…。








そして、彼は再び私の前に現れた。








『ネオ・ロアノーク』と名乗って…。














悲しくて…でも嬉しくて…やっぱり切なくて…














全ての事を忘れてるなんて…信じられなかった。










だから彼が記憶を取り戻した今、私達にとって初めての『バレンタイン』が訪れた。











クルーの皆には女性陣からチョコを贈るって決めてた。





だから…恋人であるムウには何か特別な贈り物がしたくて…






試行錯誤した上に用意した物…





それを今更になって躊躇っている自分…。














自信が…無いのかもしれない…。
















喜んで貰えるか…





受け取って貰えるのか…





迷惑じゃないかな…








そんな不安が脳裏を過ぎって…




肝心のバレンタイン当日




綺麗にラッピングまで施したものの、渡す勇気が無くて自室で右往左往している状態。






























、居るか?』









扉の向こうから聞こえたムウの声に、肩がビクッと跳ね上がった。








「う…うん!」












部屋のコードは知ってるから、返事さえすれば勝手に入って来る。







咄嗟の出来事に、隠し場所さえ思い付かなくて…







慌てて包みをベッドの中に押し込んだ。






















「ど…どうしたの?」






「…何かなきゃ部屋に来ちゃダメか?」






「そ…そんな事無い…けど」








「じゃ、いいだろ?」







「あ…っ…」








ムウは真っ直ぐベッドに向かって…そこに腰を下ろす。








い…いきなりピンチ!?











「なぁ、今日くれたチョコ…。」





「え?」





「皆、中身は同じ…なんだよな?」







「…まぁ…皆さん平等に…ね…。」








「…っておかしくないか?

 の恋人である俺が?キラ達と同じ扱いか?」






う…




やっぱそう来ますか…





当然と言えば当然なんだけど…






私が逆の立場だったらそう思うし…。





むしろ、大激怒…だよねぇ…。



















「あの…ね…あるんだけど…諸事情により渡せなくなりまして…」






「…諸事情って何だよ…」









「いや…その…あはは…」






何とか誤魔化そうと苦笑いしてみる。










「笑って誤魔化そうったって騙されないぞ?」





「え…ぅわっ…!!」








ムウに腕を引かれて…




私の身体はあっと間にベッドに倒れ込んでいた。





そしてムウに組み敷かれている。














「んじゃあ…がプレゼントって事でいいのか?」






「や!ストップ!!ちょっと落ち着こうよ!ね?」







「じゃあ納得いく理由を…」










ガサッ…







ベッドに体重を掛けたその時、布団の下で何か音が聞こえた。









「わ!ストップ〜〜〜〜!!」






必死に止めようとするの身体を押さえたまま、手探りでベッドの中にある物を取り出した。








「何だコレ…」









ラッピングされた袋が1つ…









に視線を向けると、真っ赤な頬を隠すように両手で顔を覆っていた。










「…コレは何だ?」






「…プ…プレゼント…です…。」







「俺に?」





「…の予定でした。」








「予定って何だよ…開けるぞ?」






止めようにもこれだけ拘束されてたら思うように動けなくて…







目の前でムウはその袋を開け始めた。













「コレ…」






中から出て来たのは、手編みのマフラーだった。






手編みとは思えないくらいに丁寧に編まれていて…店に出してもおかしくないんじゃないか?












「こんなに綺麗に編めてるんだったら自信もって渡せばいいのに…。」







「綺麗とかそんな問題じゃなくて…。」








そう言うと、はベッド脇に置いてあった雑誌を手渡した。












「そこ、書いてあるでしょう?

 バレンタインに欲しい物、貰ったら困る物ランキング。」







特集のページを開くと、確かにそんな内容の記事が書かれていて…







『貰ったら困る物』ランキングの1位には…



『手作りの物』





そう書かれていた。












「仕上がってから読んだの。興味本位で。」







手作りは重いとか…引くとか書かれてたら…流石に躊躇うでしょう。













「なるほどね…それでか…。」







もう一度マフラーを眺めた後、自分の首にそれを巻いてみた。










「似合う?」






「……無理…してない?」






「する訳ないだろ?気に入っちゃったし?」







ようやく解放してくれたかと思ったら、今度は膝の上に抱きかかえられていた。














「この本、ちゃんと読んだ?」






「え?」







「手作りが困るのは、相手が本命じゃない場合。」









そう言われてもう一度目を通してみると…。











『本命の子からの手作りなら嬉しいけど、それ以外の子からだとちょっと重い。』






そう書かれていた。














「俺は本命だから問題無いの。分かった?」






「ムウ…。」








「手先の器用な彼女で俺は安心だね…。」







そう言うと、そっと触れるだけの口付けを落とす。










「俺、嫉妬深いからあんまり焦らさないでくれよな?

 本当にあのチョコだけかと思ってヒヤヒヤしたんだぜ?」






「ご…ごめんなさい…。」






「罰として、今日は外出禁止。」





「えぇ!?」






「朝まで一緒に居てもらうからな?」




































【あとがき】

う〜わ〜

久々にムウさん夢書きましたが…

どうなんだコレ…。

今回は珍しくムウさん視点が多めにあったりして…。

今までのはヒロイン視点がメインな作品ばかりでしたが…

今回は「拗ねてるムウさん」が書きたかったのです。

そして甘く甘く…ね♪



2006.3.1 梨惟菜












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