ピピピピッ…ピピピピッ…
「ん…」
耳元に纏わり付くアラーム音がやたらと煩く感じた。
そう言えば…
今日は何時に起きる予定でアラームを設定したのだろうか?
ピピピピッ…
ピッ…
ようやく手を伸ばし、枕元で鳴り響くアラームを停止させた。
「………」
まだ半分眠った意識のまま、上半身を起こす。
隣のベッドに居る筈のルームメイトの姿は無い。
ディアッカの奴が俺より早起きとは…
珍しい事もあるものだな…
バサ…
「…ん…?」
自分専用のベッドの掛け布団には何故か不思議な膨らみが…
まさかディアッカの奴…
寝惚けて!?
バサッ!!
「な…っ!?」
「…ん…?…もう朝…?」
「な…な…」
持ち上げた布団から姿を見せたのは褐色では無かった。
色白で…
サラサラと広がるロングヘア…
「あ…イザーク、おはよう。」
「何でがここにっ!!」
サプライズ
「イザーク?早く着替えて食堂行かないと…朝食終わっちゃうよ?」
何事も無かったかの様に、はベッド脇に置かれた上着を羽織る。
は至って平常心…
上は軍支給の水色のインナー。
下はちゃんと赤の軍服を身に纏っていた。
何も…無かった…だろう。
やましい事は…何も…
じゃなくて!!
「今日の朝食、何だったっけ?」
「…」
「気分的にはスクランブルエッグかなぁ…。」
気が付けばイザークは身支度を整えていた。
流石と言うか…
「何でここに居る?ディアッカは何処だ?」
「ディアッカ?知らないよ?」
はサラッと答えると、先立って部屋を出た。
1人きりになった部屋を改めて見渡す。
間違いなく…自分の部屋…
「イザーク?食堂行かないの?」
再び顔を出したがイザークを促す。
「あたし、もうお腹ペコペコなんだってば。」
「…」
「ん?」
「何で俺に付いて来るんだ?」
食事の時は目の前に座って何事も無く談笑。
その後も自分の部屋に戻るつもりは無いのか…
は何故か自分の後を付いて来る。
「今から射撃訓練に行くんでしょ?」
「あぁ。」
「じゃ、私も射撃訓練。」
そう言うと、はイザークの前を歩き始めた。
サラサラ…揺れる髪。
毛先からは甘い香りが漂う。
何を…考えているんだ?
ヴェサリウス唯一の赤服の。
天真爛漫と言うか…自由奔放と言うか…
無邪気で悪戯好きで…同性で見たらディアッカに良く似ている。
その証拠にとディアッカは気が合うらしく…
昨夜も部屋に来て遅くまで話し込んでいた。
それに巻き込まれて夜更かしをしていて…
朝起きたら何故か同じベッドでが寝ていた…と。
何がどうなって朝になったのか…全く記憶が無い。
酒を飲んでいた訳では無いし…疲れていたのか?
今日に限って、何故かディアッカやアスラン、二コルの姿も見えない。
今日は特別な任務も無く、急な指示が無ければ非番。
トレーニングと射撃訓練でもして、余った時間は読書でも…と考えていた。
「イザーク!次は何する予定?」
「何?」
まだ付いて来る気…なのか?
「…俺は…」
「あ…待って!当ててみせるから。
…トレーニングルーム…でしょ!?」
「…そうじゃなくて…」
「あれ?ハズレだった?」
「いや…目的地は合ってるんだが…」
「よし!じゃ行こうっ!!」
「ちょっ…っ!!」
強引に袖口を引っ張るに気圧されて、イザークはトレーニングルームへと向かった。
「あ〜っつぅ!!」
トレーニングルームへと入って数十分。
いつも通りのトレーニングをこなしていると、が先に口を開いた。
「イザークっていっつもこんなトレーニングしてるの?」
「非番の日はな。」
そう言っての方に視線を向けると、額からキラキラと雫が零れ落ちる。
汗で濡れた長い髪…
頬は赤く染まり、艶っぽい唇に思わず視線が集中してしまう。
「…やっぱ違うよね…”赤”は…さ。」
「お前だって”赤”だろう?」
「そうだけど…やっぱり男の子は違うって言うか…。」
いくら技術でカバーしても体力の差は埋めようが無い…。
射撃のテクニックだって、ディアッカとニコルには何とか勝つ時はあるけど…
イザークとアスランには未だ勝った事は無い。
あの集中力は一体何処から来るんだろ…。
何て言うか…
銃を構えた時のイザークの瞳って…
ドキッとする。
あの鋭い視線が一点を捉えて…トリガーを引く瞬間。
心臓が止まっちゃいそうになるんだよね…。
「…どうした?」
「…え…?」
気が付けばイザークはトレーニングを終え、額に滲む汗をタオルで拭いていた。
「あ…もう終わり?」
「あぁ。シャワーでも浴びて…」
「…?」
そこで急にイザークは黙り込んだ。
「何?どうしたの?」
困った様に眉間にシワを寄せたイザークは躊躇いながら口を開く。
「まさかお前…シャワールームにまで付いて来るつもり…」
「いっ…行かないわよっ!!」
あたしは変態か…っ…
「…な…ならいいんだっ!」
イザークは頬を少し赤く染めると、足早にシャワールームへと入ってしまった。
全く…
は何を考えているんだ?
シャワーを頭から浴びながら、銀糸に指を絡める。
程好い温度のお湯が汗を洗い流して行く。
自分に付いて来る理由を問い掛けても返事をはぐらかす。
の真意が全く掴めない。
ディアッカ達の姿を見掛けないというのもおかしい。
決して広い艦内ではないのだ。
意図的に姿を消している…と考えた方が正解かも知れないが…
これは何か?
新手の嫌がらせなのか?
「はぁ…」
無意識に1つ、溜息が零れた。
「……?」
「…お疲れ。」
シャワールームを出ると、廊下の前にはの姿。
壁に凭れる格好でその場にしゃがみ込んでいた。
「まさかお前…」
少し濡れた毛先は…シャワーを浴びた所為では無い…
「ずっとそのまま居たのか…!?」
シャワーも浴びずに?
「いや…だってあたしがシャワー浴びたらイザークより時間掛かるし…
その間に姿を消されても困るなぁ…って思って…。」
「…お前、一体何を企んでいる?」
「何って?」
「朝からずっと付き纏って…何がしたい?」
「…ストーカーじゃないから安心して。」
「そんな事は聞いて無い!」
「…っくしゅっ!」
話の合間にがクシャミを1つ。
汗をかいてシャワーも浴びずにこんな所に居るから…
「…ったく…さっさとシャワーを浴びて来い。」
「ヤダ。」
「だから何のつもりで…」
「…くしゅっ!」
再びクシャミ…
「…分かった。ちゃんとラウンジで待っててやるから行って来い。」
「…ホント?」
「あぁ。約束する。
このまま風邪なんか引かれたら俺の責任になり兼ねないだろうが…。」
「イザーク、お待たせ。」
数分後…
シャワーを浴び終えたがラウンジを覗き込む。
イザークはラウンジの隅で本を開いていた。
「あぁ…早かったな…」
「…待たせちゃ悪いと思って…」
パタン…と本を閉じたイザークはに視線を向ける。
後ろで1つに束ねた長い髪がフワフワと揺れる。
笑顔になったは嬉しそうにイザークの隣に腰を下ろした。
「今日は平和だねぇ…。」
「まぁ…軍人という立場で言えば”平和”なんだろうな…」
イザーク・ジュールという一個人の視点から見れば…そうとも言えないのだが…
「…次は何処へ行くんだ?」
「へ?」
「は予定は無いのか?」
「いや…あたしは別に…」
急に意見を求められ、は困った顔ではにかむ。
「…俺もやろうと思っていた事は済ませたしな…
食堂で何か飲むか?」
「え…いや、食堂はまだちょっと…」
言葉を濁しながら、は拒絶の意を示す。
「そ…そうだ! 本!!
イザーク、本たくさん持ってるでしょう?」
「…? あぁ…」
「最近退屈してるから何か読みたいなぁ…って思ってたの。
ね、何かお勧めの本、貸してよ。」
「…じゃあ…俺の部屋でいいのか?」
「うん!」
部屋にはやはり誰も居なかった。
薄暗い部屋に明かりを灯すと、見慣れた光景。
「本当、色々と揃ってるんだねぇ…。」
本棚の前へと立ったはクルクルと本を眺める。
「適当に選んでいいぞ。」
「うん、ありがと〜。」
は適当に1冊選ぶと、ディアッカのベッドに腰を下ろして本を開いた。
イザークもまた、自分のベッドに腰掛け、本を開く。
静かな空間に、ページを捲る音だけが暫く続いた…。
「…もうこんな時間か…」
本を読み終えたイザークは時計に目を向ける。
時刻は既に夕方…。
「ホントだ…」
もその声に本をパタンと閉じた。
「終わったのか?」
「うん。面白かった。ありがとう。」
立ち上がったは本を元の場所に戻す。
「…」
「何?」
の後姿を見つめながら、イザークが名前を呼ぶ。
「何かあったのか…?」
「何かって?」
「いい加減、俺に付き纏う理由を教えろ。」
「…ハァ…」
その言葉に、が小さく溜息を吐いた。
「ディアッカに言われたの。」
「何をだ?」
「今日一日、イザークと一緒に居ろ…って。」
クルリと向きを変えたがイザークの前に座り込む。
「イザーク、今日誕生日でしょう?」
「誕生日…?」
言われてカレンダーに目を向けると、確かに…
「忘れてたんだ?」
「すっかり…な。」
「イザークらしいなぁ…。」
クスクスと笑いながら、が目を細めた。
「で?誕生日と何か関係あるのか?」
「あの…ね…」
は言い難そうに俯く。
「ディアッカが…
『俺からはと一日デート権をプレゼントだ』…って…」
「な…!」
ディアッカの奴…!
「それでお前は引き受けたのか!?」
「そう。」
「そこにお前の意思は無いのかっ!」
「だ…だって!
『イザークはお前に惚れてるから大丈夫だ』って言うからっ!」
「な…っ!!」
再びイザークの顔が真っ赤に染まる。
ディアッカの奴…勝手にペラペラと…!
「それ…本当なの…?」
「は…?」
「本当に…私の事…」
イザークが…私を好き?
本当に…?
冗談とかじゃなくて…?
「…ディアッカの言う通りだ…
俺は…に惚れてる。」
イザークの言葉にの頬も赤く染まる。
「で?はどうなんだ?」
ディアッカに言われてどう思った?
何を思って奴の言葉に従ったんだ?
「…好きじゃなきゃ…一日中付いて回ったりしない…。」
は口元を押さえて顔を逸らした。
困ったような…照れたような…
普段では決して見る事など無いの素顔。
思わず手が伸びた。
「イザ…ク?」
の手を取り、そっと腰を抱き寄せる。
少しずつ近くなるイザークの顔に、反射的に瞳を閉じた。
胸が…ドキドキする…
「イザーク!居るかぁ!?」
タイミング悪く、ディアッカが扉を開く。
「あ…悪ぃ…」
ディアッカの目に映ったのは、キスまであと数センチのイザークと。
「ディアッカ…貴様ぁ!!」
「わ!イザーク!ストップぅ!!」
拳を握るイザークの手をが押さえる。
「離せっ!!」
「あのね!食堂にパーティーの準備してるの!」
「…何…?」
「私がイザークを見張る役で、ディアッカ達が食堂で準備してくれたの。」
だから怒らないで…ね?
上目遣いにがイザークにお願いする。
「チッ…仕方が無いな…」
「ふぅ…危なかった…」
「ディアッカ、先に行ってて?」
「了解。」
に言われ、ディアッカは一足先に部屋を出た。
「黙っててごめんね?」
「いや…もう気にしていない。」
「本当?」
「あぁ。」
「良かった。じゃ、食堂行こう?」
「そうだな。」
笑顔になったは立ち上がると扉へと向かう。
「…でもね…」
「どうした?」
「イザークが好きなのは本当だから…ね?」
「…っ…」
反則的なの笑顔に、イザークの頬が赤く染まる。
トン…と床を軽く蹴ったはフワリと身体を浮かせ…
ちゅ…とイザークに口付けた。
「お誕生日おめでとう…イザーク。」
「それにしても…薬の効果は抜群だったな。」
「…薬?」
「昨日イザークに飲ませた紅茶の中に睡眠薬を…な。
じゃないとを隣に寝かせるなんて芸当、出来ないだろ?」
「あ…この計画は全部ディアッカの提案ですからね?」
「ディアッカ…貴様…」
「わ〜!ディアッカ、落ち着いてっ!!」
【あとがき】
イザークのお誕生日…
3日も遅くなってしまって本当に済みません(汗
しかもギャグ?
これは…ギャグに分類されるんですかね?
ふとお仕事中に浮かんだネタなのですが…
たまには振り回されるイザークもいいかなぁ…なんて思っちゃいまして…
甘くなくてすいません…本当に…
イザーク、お誕生日おめでとうございます♪
2006.8.11 梨惟菜