「は…?」



「だから、仲を取り持ってくれって言ってるんだ。」




アスランの突然の言葉に、カガリは目を丸くする。


クラスメイトのアスランが突然言い出したのは、友人であるに自分を紹介して欲しいというお願い。


アスランに想いを寄せているカガリにとっては、不愉快極まりない言葉。




カガリは深く溜息をつく。


は隠しているつもりなのだろうが、がアスランに想いを寄せている事もバレバレな話で…。


つまり、カガリが仲介してしまえばすぐにまとまってしまう話なのだ。



だからって、そう簡単に自分の想いを諦めるのも癪というものだ。






「お前、無神経だな。」


「は…?」


今度はアスランが目を丸くしてカガリを見つめる。



「やっぱり気付いてなかったか。」


「だから、何が?」


「私はアスラン、お前が好きなんだよ。」


「はぁ?」




そこまでハッキリ言っているにも関わらず、冗談はやめてくれという様な目でカガリを見る。



そりゃあ…そうだろう。


普通に考えたら、誰だってそう思う筈だ。


仮にも女の子が、好きな人に対して「お前」呼ばわりするとは考えにくい。





「だから、そう簡単に他の女との仲を仲裁する訳には行かないんだよ。
 しかも、私の友達なんだぞ?」



「いや…カガリには悪いけどな、俺は彼女の事が…。」




恋をすると周りが見えなくなる…


これは正に今のアスランの為に在る様な言葉だとカガリは思った。


人が告白をしているのに柔らかく断った上に、自分の要求は取り下げない。






「分かった。取り持ってやってもいいぞ。」



「本当か!?」



「ただし、一つだけ条件があるんだ。」


















スパイな彼女




















「はぁぁぁ…」


「いい加減にしろ!これで何度目なんだ!?」


「だって…無意識の内に出てるんだもん。しょうがないじゃない…。」




イザークは隣の席で何度も深く溜息をつく幼馴染に苛立ちを感じていた。


「そこまで気になるなら、アイツのクラスに行って来たらいいだろう?」


「だって…用事も無いのに行くなんて不自然じゃない…。」



「用事なんか自分で作ればいいだろうが…。」


「?どうやって…?」


「辞書を貸して欲しいとか…色々あるだろう?」


「そっか!イザーク!アンタ頭良いじゃない!!」




それを思い付かないお前は馬鹿だと思うが…


そう言いたいのは山々だったけれど、後が怖いからイザークはその言葉を呑み込んだ。




「よし、そうと決まったら行くわよ!」



「は?何で俺まで一緒に行かなきゃならんのだ!」



「いいから付き合え!」



はイザークを強引に立たせると、そのまま引きずるようにして廊下へ出た。





















の目的地は、友人のカガリのクラス。



そこにはがずっと想いを寄せている相手も居て…。



お互いに顔見知りではあるものの、特に仲が良い訳でもなく…


廊下で擦れ違ったら挨拶する程度のもの。



そんな彼に会いたくて仕方ない



でも、カガリも彼が好きなんだと悟ってしまった最近では、会いに行く勇気がなかなか出ない。



直接カガリに言われた訳じゃないんだけど、カガリの彼を見る目は一目瞭然で…。



よりにもよって、友人と同じ人を好きになっちゃうなんて…。











そうやって考え込んでいる内に、カガリのクラスの前へと到着した。



恐る恐る中を覗き込むと、窓際で談笑するカガリとアスランの姿が目に映る。



どうやら、タイミングが悪かったらしい。


楽しそうに話す2人の姿を見るのが痛くて…。



私は咄嗟にドアの陰に隠れてしまった。











「じゃあ、日曜日の10時、遊園地の入り口で待ち合わせだ。」



「あぁ…分かったよ。」





はい!?


日曜日!?

遊園地!?




これは…明らかにデートの約束ってヤツじゃ…



の背筋が凍り付く。


無意識の内に眉間にはシワが寄せられていて…。


その恐ろしい形相に、イザークは思わず一歩引いた。





確かに自分にとってはちょっと怖い存在ではあったが、ここまで恐怖を感じたのは初めてかもしれない…。



静かに漂う冷気…



イザークは静かに距離を置こうとした…。



が、その時、によって進行を阻まれてしまう。





「イザーク、日曜日って暇…よね?」






















「アスラ〜ン!こっちだ!!」





珍しく女の子らしい格好をしたカガリがアスランを手招きする。



その後を追う様に、ゆっくりと歩み寄るアスラン。





「…ちょっと…何よあの格好は…」


「何って…デートだったらお洒落するのは当然じゃないのか?」



「だって、遊園地よ!?遊園地にスカートなんて反則じゃない!」


「何なんだ…その理屈は…」






陰から2人の様子を見守るのは、とイザーク。


イザークは折角の休日を台無しにされ、テンションは低かった。



それでもに逆らったら後でどんな嫌味を言われ続けるか分からない…。



でもまさか…アスランの事に関しては内気で奥手なが尾行なんて行動に出るとは思わなかった。




そこまであの男がいいか…?




イザークはの想い人に目を凝らす。





確かに…容姿は悪くない…な。


成績も学年トップクラスだし、スポーツ万能。


女子からの人気も凄まじく…競争率は高い男だ。





だからこそ、ありきたり過ぎてつまらない気もするが…。


大体、そんなに人気のある男と付き合った所で、後になって苦労するのはなのに…。






「尾行するだけの行動力があるなら、さっさと告白すればいいだろう?」



「だって…相手は私の友達なのよ!?
 2人が付き合ってるなら…横恋慕になっちゃうじゃない…。」



「いや…その友達を尾行するお前もどうかと思うが…。」



「煩いなぁ…って!!話し掛けないでよ!見失っちゃったじゃないっ!!」






イザークとの会話に気を取られている内に、2人を見失ってしまった。



「もう最悪!!探さなくちゃ!!」




はイザークの手を引いて走り出した。
























「アスラン、約束、分かってるのか?」



「ちゃんと分かってるよ。」



「だったら腕を組むとか…手を繋ぐとか…。」


「あのなぁ…俺は今日1日デートに付き合うって承諾しただけだ。
 君の恋人になったつもりは無い。」




アスランの言葉にカガリは不機嫌そうに頬を膨らます。



「そんな顔したってしないからな。」




アスランも負けじとカガリに対抗する。



周囲はアトラクション待ちでベタベタするカップルばかり。


だからこそ、微妙な距離を置く男女は逆に目立つのだ。





「まだ時間掛かりそうだから飲み物でも買って来る。
 カガリはここで並んでてくれ…。」




















疲れるな…。


売店へ向かう途中、アスランは何度も溜息をつく。




彼女との仲を取り持って貰う代わりに、今日一日付き合ってくれ…。



それがカガリの出した条件。



それで彼女との仲裁役をしてくれると言うのなら安いものだと思ったが…。





正直、終始くっつこうと迫って来る彼女には疲れかけていた。




早く帰りたい…。





重い足取りで売店に向かったその時、目の前で痴話喧嘩らしきものをしているカップルを発見した。





見覚えのある2人にアスランの足が止まる。












「…君……?」



「…へ?」




名前を呼ばれたは思わず振り返る。



「ア…アスラン…!?」



偶然にも発見してしまった彼女に一瞬顔が綻んだが、次の瞬間には表情が硬くなる。





「えっと…デート…?」



は一緒に居たクラスメイトと手を繋いでいた。


名前は知っている…。



イザーク・ジュール。



彼女の幼馴染で同じクラス。


席も隣同士で、移動教室の時に通り掛るといつも何か話している…。



…そういう関係だ…って事か…






「や、コレは違うの!ただの幼馴染!!
 偶然、遊園地のチケット貰っちゃって、行く相手も居なかったから!!」



嘘付け…わざわざ自腹購入させた癖に…


そう言いたそうなイザークの足を軽く蹴り、は慌てて手を離した。





「アスランこそ…こんな所で何してるの?」



「あ…俺は…」



しまった…


こんな所で男が1人だなんて明らかにおかしいじゃないか…




「もしかして…カガリとデート…とか?」


「えっ!?」



「2人、仲良いもんね…羨ましいなぁ…。」








「いや…確かに一緒なのはカガリだけど…
 俺もホラ!偶然にチケットが余ってたからってカガリに…」


「でも…好きなんでしょ?カガリの事…。」



「違う!俺が好きなのは君…!!」




思わず漏れてしまった本音にアスランは慌てて口を覆う。




「「えっ…?」」





アスランの言葉にとイザークは同時に目を丸めた。







「良かったじゃないか。」



「イザ…」



ようやく解放されそうな予感がしたイザークはの肩を軽く叩き、背中を押す。





「俺は忙しいんだ。もう帰るぞ…。」



「え?ちょっと…」






「アスラン!遅いじゃないか!順番来ちゃったから抜けて来たぞ!!」



更にそこへカガリが現れた。




「え?…?」



何故ここにが居るのか…。


状況が全く掴めていないカガリは首を傾げる。





「俺達は邪魔者だ。行くぞ。」



「は?え?何だお前は…」























ガタン…




気まずい雰囲気の中、2人は観覧車の中に居た。




「「あの…」」



更にタイミング悪く、2人同時に言葉が出る。



「あ…アスランから…」


「いや、の方が先に…。」










「さっきの言葉…ホント?」



「え…?」



「私を好き…って…。」



「あぁ…えっと…本当だ。」




アスランは赤くなりながら視線を逸らした。



何やってんだ俺は…


そんな中途半端な言い方したら彼女が困るに決まってるじゃないか…






「そうじゃなくて…!!」



「え…?」



アスランは正面を向き直すと、の目を見てもう一度言った。





「君が…が好きだ。俺と付き合って欲しい!!」




今度は言葉を濁さず…真剣な表情で自分の想いを告げる。





「わ…私も…アスランが好きです。」



「本当…に…?」



は俯いたまま、黙って頷いた。



「嬉しいよ…。」


アスランは狭い車内にしゃがみ込むと、俯くを下から見上げた。




、キスしても良い?」



「へ?」



「キスしたいな。」




突然のお願いには動揺が隠せない。



「ダ…ダメ!!」



「どうして?」


「い…今、顔真っ赤だから!!」



「そうだな。凄く赤い。」



そう言われ、一層頬を赤く染めるにニッコリと微笑むアスラン。



「でももう無理。我慢出来ない。」





そう言うと、アスランは断りも無くの唇に口付けた。






、好きだよ。」











それから観覧車が地上に到着するまでの数分間…


アスランはの隣に座ったまま手を離してくれなかったらしい…。



















【あとがき】


久し振りに甘い系にしてみました。

今回は思い切りカガリをお邪魔虫にしちゃった〜♪

…って言うか、カガリ意地悪…?


カガリ⇒アスラン×ヒロイン 的な設定大好きで、リク頂いた時にはウハウハでしたよぉ♪

書いてて楽しかったです。

前半軽くギャグになってしまいました。

ヒロイン、幼馴染のイザークに対しては相当強気です。

イザークがビビッてますからね…。


リクくださったゆな様、いつもありがとうございます。

これからも仲良くしてやってくださいね♪





2005.4.19 梨惟菜





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