「はぁ!?」





「何だお前!何も聞いてなかったのか!?」







昼下がりの午後…



いつもの様にに会いにアスハ邸へ足を運んだ。





しかし、肝心のは不在。






その不在の理由を双子の姉、カガリから聞かされて驚愕した。










もだいぶ渋ってはいたんだけどな…。

 私が絶対に嫌だと言ったら、渋々了承してくれたんだ。」





「何でカガリが行かないんだ!顔は同じなんだからいいだろう!?」





「冗談じゃない!私がそんな事をするタイプだと思うか!?」





「…それは…」





確かに…の方が…相応しいと言ったらカガリは怒るだろう。




そりゃあ、仮にも自分の彼女だ…。




自慢したくないと言えば嘘になるけれど…






「とにかく!場所は何処なんだ!?」
























スポット























「じゃあ、次はこれに着替えてくれるかな?」






「…はぁ…」






手渡された洋服を見ながら溜息を吐く。





この季節には少し早い…パステルカラーの春物のワンピース。





長袖ではあるけれど、生地は薄手。





今居る場所が外で無かったのが幸い…と言うべきかもしれない。











多数の人間が走り回る空間を後にしたは更衣室へと足を進める。







「あ!さん!」




呼ばれて振り返ると、短い赤髪がサラリと目の前で揺れた。








「…あ…」




「お疲れ様。さん、本当スタイルいいのね〜。

 一般人にしておくには勿体無いわよ。」




「そんな…ルナさんには敵わないですよ…。」





普段、雑誌でしか見る事の出来ない有名人が自分の目の前に居るなんて…。



最初は緊張したものの、いざ会話を交わしてみるとごく普通の女の子。




同性から憧れの存在として扱われている、現在大人気のモデル。




モデルのルナマリア・ホークと聞いてその名を知らない女子が居るのだろうか…。








そんな彼女が雑誌の次号の特集で『春のスクールスタイル』をテーマに撮影をする事になって…



友人役に同年代の素人を使いたいと編集長が言い出して…




偶然、その編集長がお父様の知り合いの方で…





私かカガリのどちらかにお願いしたいと言われたのが数日前の事。



散々嫌がるカガリに半ば拝み倒された様な状況で今に至る。






…って言うか…



人気モデルと並んで雑誌に載るなんて…身の程知らずもいい所。













「でも…さん、本当にモデルになっちゃえば?」





「…えぇ!?」




「楽しいわよ〜。可愛い服は色々着れるし、気に入った衣装は格安で譲ってもらえるし…。」




「いえ…私は…」




どう考えてもやっていける世界じゃない。






「あ、もしかして彼氏が嫌がる人?」




「え…っ…?」




「編集長が言ってたわ。妹のさんには素敵な彼氏が居るらしいって。」





そう言われ、は真っ赤に頬を染める。




「彼氏、一緒に来てないの?」



「あ…撮影の事…言ってないから…。」



「そうなの?」




「わ…私、着替えないと!」








話を遮ると、慌てて部屋の中に駆け込んだ。







「…可愛い反応するのね…。」





























「はい!じゃあ次は場所を入れ替わってみようか!」






撮影はスムーズに進む。




プロのモデルであるルナマリアがに優しくアドバイスすると、もすぐにそれに従う。





の容姿も決してルナマリアに劣っては居ない。





色鮮やかな春物の衣装をヒラヒラとさせながら、周囲のスタッフ達を納得させていた。



















「お疲れ様!20分休憩入れます!」





「お疲れ様でした〜。」




ちゃん、今の内に次の衣装に着替えてくれる?」




「あ…はいっ!」






い…忙しい…



撮影ってこんなに目まぐるしいスピードなのね…。



ホント、目が回りそう…。






次の衣装と飲み物を手渡され、更衣室へと入る。

















アスランに黙って来ちゃった…。





もしかしたら今日も家へ来てくれたかもしれない…。




ちゃんと言っておくべきだったかな…。



でも恥ずかしいし…。



カガリに口止め、しておけば良かったかな…。










慣れない事ばかりで戸惑いは多いけれど…




モデルなんて貴重な体験は滅多に出来る事じゃないし…。





色んなお洋服が見れて勉強にもなるし…。




あと少しの我慢…よね…。

























「…ちゃん、お客さんが来てるよ。」





更衣室から出ると、スタッフの1人が私に声を掛けてくれた。





「…お客さん…?」





「セットの裏で待ってもらってるからね。」





「…はい、ありがとうございます。」








お客さん…誰だろう…。




首を傾げながら言われた先へと向かうと…









「アスラン!?」




セットの裏でルナマリアと談笑しているのはアスランだった。





!」




私の姿を見るなり真顔になったアスランが駆け寄って来る。






「…どうしてここに!?」




「…カガリから聞いた。モデルだなんて…何で言ってくれなかったんだ?」




「えっと…ごめんなさい…。今日1日だけで済む事だから…と思って。」




そう言い訳すると、アスランは眉間に皺を寄せた。





「…怒って…る…?」



「ちょっと…な。」




「ごめんなさい…。」






悲しそうに俯いたを見て、アスランは頬を緩めた。





「大丈夫だよ。ちょっと心配だったんだ。」




「心配…?」




「プロのモデルと一緒だって聞いたから…男だったらどうしようって思ってね…。」




「まさか!男の人だったらちゃんと断るわ!」
















「あの…お楽しみの所悪いんだけど…。」





「「あ…」」



側に居たルナマリアが躊躇いながら会話に割り込んで来た。







さんの噂の彼氏…よね?」




「えっと…はい…。」




お互いに顔を見合わせ、頬を染めながら返事する。














「そろそろ撮影始めます!」




「「はい!!」」





















「…本当に悪いんだけど…」



「え?」




撮影中、ルナマリアが小さな声でに囁く。







「私、彼の事、気に入っちゃった。」




「え!?」






ルナマリアの爆弾発言には思わず顔を向けてしまう。






「ちゃんとカメラ見てなきゃダメよ!」





「あ…ごめんなさい…」













「確かに彼、さんの彼氏かもしれないけど…恋愛は自由よね?」






「…ルナさん…」





「先に宣戦布告、しておくわね。」









本気なの…?




本気でアスランの事を…?









カメラを見つめながら、更にその先で見守ってくれているアスランの姿を視界に入れる。






アスランの表情は穏やかで優しそうで…。





スポットライトを…フラッシュを浴びている自分を見られるなんて恥ずかしいけれど…。





思わず笑みが零れる。





















2ショットの撮影を終わらせた後、残された1人ずつの撮影へと入る。





先に済ませるように指示されたを残し、ルナマリアは一目散にアスランの元へと駆け寄った。












スタイルも良くて可愛くて…




性格だってハキハキしてて女の子らしいし…





そんな人に言い寄られたら…




そう思うだけで不安が募る。





















「はい!OKです。お疲れ様〜。」





「ありがとうございました!」






ようやく全ての撮影が終わり…は安堵した表情になる。










「次!ルナちゃんお願い!」




「…はぁい…」





さっきまでの表情に比べると冴えない顔…





何故か擦れ違う瞬間に緊張が走る。







「…手強いのね…アスランさんって…。」




「え?」





「この後どこか行きませんか?って誘ったらアッサリと断られちゃった。

 『と2人でデートするから遠慮します』ですって。」






「アスラン…。」







「あ〜あ。もっと何処かにいい男、居ないかしら…。」

























「…どうしてルナさんの誘い、断ったの?」




「え…?」





彼女の撮影を見学しながらアスランに問い掛ける。







「どうしてって…何で?」




「聞いてるのは私なのに…。」





が居るのに他の女の子と出掛ける筈無いだろう?」






そう言われて何だか顔が熱くなる…。








「ルナさん、私よりずっと可愛いもの。スタイルだっていいし…。」





「確かにそうかも知れないけど…基準は人それぞれだろう?

 俺にはが一番可愛く見えるよ。」






「…アスランって…恥ずかしい事、平気で言うのね。」




「本心だからね…。」










でもそれが嬉しくて…思わず笑顔になってしまう。








「でも…ちょっと妬けるな…。」





「何が?」





「雑誌が発売されてが注目を浴びたら困るな…って。」







「そんな筈無いよ。メインはルナさんなんだから…。」








ホラ…




やっぱり鈍いんだから…。





自分がどれだけ魅力的なのか…はちっとも分かって無いよ。




そんな鈍感な部分も含めて好きなんだけどね…。

























【あとがき】

大変お待たせしました。

毎回一言目はコレですね…本当に。

ヒロインが1度限りのモデル…という設定でした。

もう少し女のバトルみたいなのが書ければ良かったんですが…

また微妙な仕上がりですね…済みません。






2006.1.8 梨惟菜











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