ある誕生日の一日
「誕生日おめでとう、シン」
そんな一言が聞こえたと思ったら、頬に柔らかな感触。
自室には自分一人しか居ないと思っていたシンは、あまりの驚きで椅子から転げ落ちそうになる。
寸でのところでシンは体重を後ろへ戻すことに成功。
床へのダイブは危機一髪、避けることができた。
フゥ・・・と一息をつく暇も無く、シンは声をかけた人物へと振り返って言葉を投げかけた。
「危ないだろっ?!いきなりそういうことするなんて反則だっ///」
「だって今日はシンの誕生日だから驚かそうと思って・・・」
「・・・」
「ごめんね、怒らせちゃって」
シンが""と呼んだこの少女。
彼女はシンの同期であり、正式にお付き合いをしている大切な人。
生まれつき性格が天然少女で、人とは少し違った行動をすることが多い。
普段はからキスをすることなんて滅多に無いのだが、今日はシンの誕生日ということもあって勇気を出したのだ。
そんな大切な彼女にいきなり不意打ちのキスをされて、内心動揺しまくりのシン。
顔もかなり真っ赤に染め上がって、まともにの顔を直視することができないでいた。
いつまで経っても斜め下を見つめるシンに不安になったは、覗き込んで彼の表情を確かめる。
「シーン・・・?」
「ぅわっ・・・!///」
かなりのアップで突然視界の中に現れたに再び驚き、今度は見事に後ろに倒れこむ。
ダイブした場所が運良くソファーだった為、怪我をすること無く倒れることができた。
しかし何やらお腹のあたりにいつもとは違う重さを感じて、そちらに目をやった。
「な・・・なんでがっ・・・」
「いたたっ・・・」
シンのお腹に乗っていたのは誰がどう見ても。
実はシンが後ろに倒れそうになった瞬間、は咄嗟にシンを助けようと彼の服を掴んだが、
握力が足りなくてシンと一緒にそのままソファーに倒れこんでしまったのだ。
「ごっ・・・ごめんねっ。さっきから私・・・シンに酷いことばかりしてて・・・」
『せっかくの誕生日なのに』と言葉を小さくしながら続けた。
次第に涙目になりながら、俯いて小さくなっていく。
別にのせいじゃないのだが天然ゆえの性格なのか、彼女は自分のせいだとすっかり思い込んでいて。
シンは彼女に聞こえないようにそっと小さくため息をつくと、両腕をの背に回して抱きしめた。
「俺の方こそごめん。その・・・の気持ちは凄く嬉しいよ」
「・・・・シン・・・・」
「誕生日覚えててくれたのも嬉しいし、俺の為に何かしようって思ってくれたのが・・・なんか・・・」
「え?」
「その・・・上手く言えないけど・・・愛を感じるっていうか・・・」
「・・・っ!///」
シンは最後の一言がものすごく恥ずかしかったのか、先程よりもさらに頬を赤く染めていた。
それでもにはシンの真っ直ぐな想いが伝わったのか、彼女の頬もまたほんのり赤くなる。
嬉しそうに、そして幸せそうに笑みを浮かべたを見たシンは、そっと彼女の頬にキスをした。
「ありがとう。」
「今日でシンのほうが一つ年上だね」
「でも同期なのは変わらないよ」
「そうだけど、年上なシンっていつもよりも頼りになりそうだよ」
「いつもよりって・・・」
喜んでいいのか悪いのか、微妙な褒め方をされて苦笑を浮かべるシン。
にとってはかなりの褒め言葉のつもりで、彼女自身は満足している様子。
彼女が笑顔ならそれでいいか・・・とシンは再び笑顔に戻ると、抱きしめる腕の力を少し強めた。
「・・・シン?」
「今日は少しだけ俺の我が儘聞いてくれたりとか・・・してくれる?」
「えっ?我が儘・・・?」
「例えばいつもとは違うキスをしてみたりとか」
「えぇっ・・・?!////」
「それともいつもよりも長くキスしてみるとか?」
「シンっ///」
意地悪そうに笑みを浮かべてをからかうシン。
だけどただの冗談なんかじゃなく、本当は少しばかり本気な部分もあったりしていた。
は『しょうがないなぁ』と呟くと、自らシンの唇に自分のそれを重ね合わせる。
「・・・っ?!」
ほんの数秒しかなかったけれど、確かにからのキス。
シンはあまりに突然のことに呆然としながら、ポカンと口をあけたままを見つめる。
しかしすぐに正気に戻ると、今度はシンから顔を近づけてゆく。
再び唇と唇が触れ合おうとする瞬間に、はそっと小さな声で言葉を重ねた。
「今日だけだからね・・・?」
「わかってるよ」
お互い了承したのか、彼女の言葉ごと飲み込むようにシンは優しく口付けた。
甘い甘い素敵な誕生日を迎えることができて、シンは本当に幸せそうな笑顔を始終浮かべていた。