「だから、危険だから俺が行くって言ってるだろ?」



「いざという時にアークエンジェルにキラ君1人はもっと危険だと思いますけど?」




「だからって女の子を1人で捜索に出すのも危険だろ…。」



「そんなに心配しないで下さいよ。少佐には休んで貰わないと。
だから、スカイグラスパー1号機、お借りしますね。」






心配するフラガや他のクルーを押し切り、はスカイグラスパーに乗り込んだ。











二人きりの戦争















「ついてないな…。」



小声で呟いたアスランはイージスから何とか救難信号を送ろうと試みるが…

電波状況が悪くそれも困難だった。




よりにもよってこんな何もない島に不時着してしまった。


その上、地球軍の戦闘機らしき物まで発見して…

更に中から出て来たのは女…。





本人は地球軍じゃないって言ってるが…。


一体何者なんだ…?






深い溜息を1回ついたアスランはゆっくりとイージスから降りる。




目の前にある洞窟に目を向けたが、中に入る気も起こらず…。




雨も止んだし…少し周辺を散策するか…。





















「何なのよコレ…小さな小島ばっかりでキリが無いわ…。」



カガリが遭難したと思われる周辺は何百もの小島が密集していて…。



恐らくはこの島のどこかに居るとは思うんだけど…。



これじゃあ探しようが無い…。


片っ端から探していく…?





それしか方法が無いと悟ったは仕方なく手当たり次第探す事にした。








ビーッ!!







「…へ?何!?」






探し始めた矢先、スカイグラスパーに異変が起きた。



「ちょ…何コレ…故障!?」





それなりの訓練は受けているものの、戦闘機なんてほとんど乗った事が無い


対処法も分からず困惑するばかり…。




「やだぁ…どうしよう…」




手当たり次第にボタンを押してみるものの、反応は無い。


それどころか高度は少しずつ下降して行く…。




















「捜索に出た人間がそ遭難してどうすんのよ…。」




運良く近くの島に着陸したは溜息をついた。



故障の原因も分からないし…。


結局、騒ぎを大きくしただけか…。





ここに居てもしょうがない…。


もしかしたらこの島に居るかも。




は外に出て捜索を始めた。












「大体カガリがいけないのよ…。勝手に戦闘に出たりするから…。
困るのは私やキサカさんだって知ってるクセに…。」



こんな時に独り言が言えるのはここが無人島だからと分かっているからだろうか。



少しでも寂しさを紛らわせようと独り呟く。








ガサッ…









「…何!?」





入り込んだ森からの物音に咄嗟に銃を構える。



ここ…無人島…だよね?





慌てて構えてみたものの、実戦なんて経験した事が無い



それなりの訓練は受け、キサカと共にカガリの護衛を任されたものの、キサカの腕だけで十分なのだ。











意を決したは銃を構えたまま、物音のした草むらへと飛び込んだ。


















「「な…!!」」












その先に居たのは、赤いパイロットスーツに身を包んだ少年。










…ザフト!?



何でここに…!!



はキュッと表情を引き締めると、濃紺の髪の少年を鋭く睨んだ。










女…!?



何でまたこんな所に女が居るんだ…?



アスランも驚きを隠せない。



先程の金髪の少女と言い…何故こんな島に女が居るんだ?





銃の構え方は上等。


それなりの訓練は受けているらしい。



でも、服装からみて地球軍ではなさそうだ…。





緊迫した雰囲気の中でアスランは冷静にその少女を観察する。






深い青の瞳に、長い栗色の髪の毛を後ろで一つにまとめたその少女…。


年齢は自分と同じくらいだろうか…。




正直、見た瞬間には綺麗だと感じてしまったその容姿…。



確かにそれなりの訓練は受けているんだろうが、実戦経験は無いと見た。



銃を持つ手は僅かに震えている…。
















「銃を下ろせ。俺は君と戦う意思は無い。」



少年の一言には一瞬目を見開く。






「…あなた…ザフトでしょう…?」



「そうだ。でも君とは戦うつもりもないし、君を撃つつもりも無い。
…と言うか、銃を持ってないしな…。」




迂闊だった…。


無人島だから警戒する必要も無いと思ったから、イージスの中に銃を置いて来てしまっていた。




俺とした事が…こんな油断をするなんてな…。




でも、目の前の少女は人を撃てるような子にも見えないし…。







気が付けばアスランは両手を見せて何も持っていない事を示していた。






それを確認したはゆっくりと銃を下ろす。










「俺はアスラン・ザラだ。…君は?」



…。。」





警戒する気配も無く自己紹介をする彼に、気が付けば自分も名乗っていた。







「ちょっと…その腕…怪我してるじゃない…。」



アスランの腕から血が滲んでいるのに気が付いたは無意識の内に駆け寄っていた。



「あぁ…ちょっと油断して…。」



「脱いで。手当てするから。」



「大丈夫だ…。こんなのかすり傷だから…。」



「何かあったら大変でしょう?いいから早く!」














言われるがままにパイロットスーツのチャックを下ろす。



露わになった腕からは鮮血が流れ出ている。



その様子には顔を顰めた。




カバンから包帯を取り出すと丁寧に腕に巻いて行く。





その細い指先にアスランの視線が集中する。






冷静に考えてみると、女の子とこんなに接近した経験なんて無い。



甘いシャンプーの香りが鼻を霞める。



今までにない鼓動の高鳴りに戸惑いが隠せない。





何なんだ…?この動悸は…。












一方、も戸惑っていた。



勢いで手当てをすると言ってしまったけれど…


彼の鍛えられた体を見ると、相手は男なんだと実感してしまう。




しかも正規の軍人だ。





簡単に警戒を解いてしまった自分が不思議だった。




さすがはコーディネイター。


整った容姿に言葉を失う…。





今までに見た男の子の中ではダントツで美形なんじゃないだろうか…。




ドキドキが治まらなくて…


包帯を巻く指先が震える…。














「これで…大丈夫だと思うから…。後でちゃんと見て貰ってね。」



「あぁ…済まない。と言っても俺も救助待ちの身だからな…。
いつ戻れるか分からないんだけど…。」




「…あなたも…?」



「アスランでいい。」



「…アス…ラン…」




深みのある声に、心臓がまた跳ねた。



出逢って1時間も経っていないのに…。


こんなにも彼を意識してしまうのはここに2人しか居ないから…?





相手はザフトなのに…。


仮にも今は地球軍の戦艦に乗っている私が、ザフトのパイロットと2人きりだなんて…。












「君は…?何でこんな所に居るんだ?」



「…でいいよ…。」



「あぁ、分かった。…な。」




そう言うとアスランは目を細めて柔らかく微笑んだ。















「えっと…友達が…遭難しちゃって…探しに出たんだけど…。
自分が乗ってた戦闘機も故障しちゃったみたいでね…。」



「それで動けない…ってワケだ。」





黙って頷くに、アスランは無意識の内に微笑んでいた。



少なくとも救助が来るまでは一緒に居られる…。


そう心の中で喜んでいる自分が居た。






不思議な気持ちだった…。



知り合ってもう2年になる婚約者にも抱いた事のない感情。



いっそ、このまま救助が来なくてもいい…なんて不謹慎な気持ちまで抱かせてしまう少女。








「あ…また雨…。」




予告の無い雨に2人は木陰に入った。


幸い、森の中だから木々が雨を避けてくれる。



でもこのままでは冷えてしまう…。



かと言って洞窟に連れて行くと2人きりじゃなくなるし…。




邪な考えが浮かぶ…。


アスランはブンブンと首を左右に振ると立ち上がった。





「アスラン…?」


「すぐに戻るから…ここで待っててくれないか…?」





そう言うと、は黙って頷いた。




















洞窟へ戻ると焚き火の前でスヤスヤと眠る少女が居た。



彼女が眠っている事を確認したアスランはイージスに置いてあった毛布を抱え、再び走り出す。




は言われた通り、木の下に座り込んで待っていた。



膝を抱えて小さくなるその姿に愛しさを感じる。







「俺の機体に1枚だけあったから…。」



隣に座ったアスランはそっと毛布をに掛けた。



「でも…それじゃあアスランが寒いでしょう…?」



「俺は大丈夫だよ。コーディネイターは丈夫だから。」



「でも…私だけ使うなんてやっぱり悪いよ…。」




そう言うと、はアスラン側の毛布を伸ばしてアスランの肩に掛けた。



「こうしてれば少しは暖かいと思うから…。」





頬を染めて俯くにつられ、アスランも紅潮する。



結果、2人で一つの毛布に包まる事になった為、2人の距離は一層縮まった。



時折触れ合う肩…。



このまま時間が止まってしまえばいいのに…。





互いに口には出せないで居たが、心の中では同じ想いを抱いていた。



















「雨…止んだね…。」



「そうだな…。」







雨が止んで雲間から星空が見える。



それでもこの距離を保ちたい2人は黙って寄り添う。





夜が明ければきっとキラ君が捜索に来てくれる…。



そしたらアスランとは…。



それが悲しくて寂しくて…。



はアスランに寄り添った。




「……?」


突然、自分の胸の中に入り込んで来たにアスランの鼓動が高鳴った。




「何か…アスランと居ると落ち着く…。」


ここからではの顔が見えない…。


の言葉に頬が熱くなるのを確かに感じた。




「俺も…。と一緒に居ると落ち着くよ。」


「本当…?」



は顔を上げてアスランの顔を見る。



薄暗い闇がその表情を隠す。


でも、アスランは確かに目の前に感じて…。




「こんな気持ち、初めてだ…。を連れて行きたいと思うくらいなんだから…。」



「でも…それは無理なんだよね…。」





2人には互いに帰るべき場所があって…


その道が交わる事は無い…。




戦争が…私達を離してしまう…。




「でも…どこに居ても私はアスランの事が好き。」



「俺も…が好きだ。」




重なった想いに惹かれあうように、寄せ合う唇…。



離れたくない…

離したくない…




互いの存在を確かめ合う様に、2人は何度もキスをした。






















「絶対に死なないでね。」



「あぁ。約束する…。」







夜明けの光が2人を照らす。


このまま2人でいられるなら…ずっと夜でもいいと思ってしまったけれど…。


戦争が終わらない限り、一緒に過ごす事は出来ないから…。





「戦争が終わったら…絶対に迎えに行く。だから、待ってて欲しいんだ。」


「うん。待ってる…。」





力強く抱き締め合った2人は、互いに背を向けて歩き始めた…。



















【あとがき】

いつもお世話になっている同盟に掲載していただく為に書いた夢です。

SEED24話『二人だけの戦争』の横入りシーンです。

と言ってもカガリ無視状態になっちゃってます。

長い上に最後はなんだかシリアスになっちゃってすいません。

これで少しでも癒される方がいれば幸いです。


他にも横入り夢がご覧になりたい方がいらっしゃいましたら、
リンクから『キラ・アスラン・シンは渡さない!同盟』に飛んでみてください。

2005.4.5 梨惟菜






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