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RING
「さぁ…どうしようか…」
静まり返った深夜の食堂で考え込む女性が1人…
目の前に置かれたレシピを確認しながら頭を抱える。
料理なんて生まれてから今日までに何回作ったのだろうか…。
恐らく、片手で数えられてしまう程度に少ないのだろう。
しかし、その数回の記憶さえ曖昧なんて…正直、女として恥ずかしいものだ。
そんな私が料理を作ろうだなんて…愛の力ってつくづくふしぎなものだと思う。
でも実際、何から手をつけたらいいのか全く分からない状況。
誰かに教えて貰うとか…手伝って貰うとか出来たら苦労はしないのに…
誰にも秘密の恋って正直大変だ。
だって…相手が相手なんだもの…
「あ…えっと…ダリア?」
「!?」
あたふたとする私を背後から呼ぶ声…
驚くのも当然だ。
夜勤のブリッジクルー以外、ほぼ全員が寝静まっている筈…
「あ~えっと…アスラン?何…か?」
先日、ザフトを抜け出して来たアスラン・ザラの姿がそこにあった。
私よりも年下なんだけど、大人びていてしっかりしていて…割と話し易い。
「ダリアこそ…こんな時間に何をしているんだ?」
「え!? えっと…私は…水を飲みに…ね…」
我ながら苦しい言い訳だっただろうとは思うけれど…
他に筋の通る答えなんて瞬時に思い浮かぶはずが無い。
「ア…アスランこそ…こんな時間に何を!?」
そう、問題はそれ!
何でこんな時間にパイロットがウロウロしてるのよ!?
「あぁ…俺はジャスティスの調整をしていたんだが…」
そう告げるアスランの片手に掛けられていた物は…白い上着。
彼が以前着ていた赤い物でも…現在使用しているオレンジ色の物でも無い。
「先に上がったフラガ少佐が忘れて行ったから届けに行く途中だったんだ。」
こんな深夜にわざわざ…
律儀な性格だな…と何度も彼に対してそう思った。
「でも丁度良かった。頼めないか?これ…。」
そう言ってアスランは目の前にその上着を差し出す。
「え!?私が!?何で!!」
声が裏返っていたのが自分でも分かった。
彼の名前が出ただけでこの反応じゃ…先が思いやられるな…。
「何でって…君の方が少佐と親しいだろう?」
「親しいって言うか…いや…」
「俺はまだ余り話した事が無いし…頼むよ。」
「え!?ちょっ…待っ!!」
半ば強引に押し付けられる形になってしまった…。
「悩みが増えちゃった…」
それにしても…大きな上着…
広げてみると、その幅広さで自分の腕が痛くなりそう。
微かに香る、男物のコロンの香り…。
さり気ない香りで…ちっとも嫌じゃない。
むしろ…好きな香りだったりするんだけど…。
「大人の男の人…なんだよね…」
伸ばしていたそれを、今度はギュッと抱き締めてみる。
「…??」
何か異物感を覚え、その箇所を探ってみるとそこは胸ポケット。
罪悪感より好奇心が勝り、そこへ手を差し入れていた。
「指…輪…?」
ポケットから出て来たのは、紛れも無く指を飾る装飾品。
しかも本物っぽい石がキラキラと光を放っていた。
デザインやサイズから見て…明らかに女物…よね??
つまりその…少佐が誰かの為に用意した物…?
瞬時に頭に浮かんだのは、この艦の長である彼女。
…って言うか、他に思いつかないし。
あぁ…何て言うか…自分で傷口を広げたってヤツ?
決定的な物証を目にしちゃったら戦意喪失…よね。
最初から勝てるなんて思ってないけどさ…
でも…折角のチャンスだし…ね…。
念の為、周囲を確認。
人の気配は無し。
「ちょっとだけ…失礼しま~す…。」
流石に薬指には申し訳無いかな…なんて意味不明な遠慮があって…
左手の中指にそれをゆっくりと通してみた。
「…キレイ…」
自分の指に納まった指輪を照明にかざし、目を細める。
「…艦長が羨ましいな…」
ヤバイ…目頭が熱くなって来た…。
何感傷的になってんだ私…
永遠の片想いだって事は覚悟して来た事なのに…。
「…アレ…?」
…嘘…でしょぉ!?
すんなりと入った指輪が何故か抜けなくなってしまっていた。
関節で引っ掛かり、いくら力を入れても抜ける様子は無い。
「ちょっ…冗談キツイよ…」
よりにもよって人様の…それもフラガ少佐の指輪を…
ヤバイなんてレベルじゃない!
「痛っ!何よコレ~!」
抜けない…
全然抜ける気配がしない…
ホント勘弁してよ…
今度は違う意味で目頭が熱くなって来た…
こんなの…少佐に見つかったら軽蔑される!
そう思った矢先…背筋が凍る事件が訪れた。
「…ダリア?」
「うえっ!?」
この声はまさしく…
一番会いたいけれど、今は一番会いたくない相手の声…
「フ…フラガ少佐!? ど…どうしたんですかっ!?」
とっさに背中に回したのは自分の両手。
「格納庫に上着忘れたのに気付いてさ…取りに行く途中。」
「あ…えっと…上着なら…ここに…」
椅子に掛けられたままのそれに視線を送る。
「あ…アスランが届けに行く途中だったみたいで…頼まれたんです。
これから伺おうかな…って思ってた所で…」
「そっか、サンキュ。」
私の目の前でその白い上着は彼の腕へと通される。
「…アレ…?」
ぎくっ…!
フラガ少佐は真っ先に胸ポケットに手を入れた。
いきなりピンチ…!!
その後、上着に備え付けられた全てのポケットを確認した後に首を傾げた。
「ど…どうしたんです…か?」
「いや…ポケットの中身がカラッポだな…って思ってさ。 何か見なかったか?」
「な…何かって…?」
「あ…いや…小銭とか…結構細かい物を色々と入れる癖があって…。」
細かいも何も…私が見つけたのは指輪だけですとも…。
そう言いたいけれど…
『私の中指にあります♪』なんて言えるものか!
「いえ…見てない…ですよ?」
明らかに視線が泳いでいる状態で言葉を返す。
その不審な行動に彼も疑いの眼差し。
「その手…何持ってるんだ?」
「え…? …ひゃあっ!!」
逃げる隙も与えられず、彼に両腕を引かれる。
正確には『持ってる』じゃなく『嵌めてる』なんですぅ!!
「コレ…」
目の前に引き出された手を見て少佐の動きが止まった。
「すすすす…すみませんっ!
偶然見つけちゃって…興味本位で嵌めたら抜けなくなっちゃって…!!」
中指に軽く食い込んだ指輪を見て少佐は顔を綻ばせた。
…綻ばせた…?
「そりゃ…抜けなくなって当然だろ。」
「はい?」
「コレは中指のサイズじゃなくて薬指のサイズに合わせて作ったんだからな…。」
「え?」
「困ったな…先に見つかるなんて迂闊だった…。
…その前に何とかして抜かないとなぁ…。」
「あの…少佐…?」
「うん?」
「怒らないんですか?」
「何で?」
怒るどころかそんな私を見つめる少佐の顔は柔らかい笑顔に満ち溢れていて…
「コレ…艦長への贈り物…でしょう?」
「艦長の?何で?」
「何でって…」
私が質問している筈なのに、逆に問い返されてしまう。
「自分の誕生日に…ってのもどうかと思ったんだけど…何かきっかけが無いと渡せなくてさ…。」
「??」
左手を持ち上げた少佐は…そのまま私の中指に唇を落とした。
「…っ…!?」
「コレが俺の気持ち。受け取ってくれるか?」
少佐の…気持ち…?
「本当は俺の手で薬指に通したかったのになぁ…。」
「え…私…えっと…」
「ダリアの気持ちも確認せずに勝手に用意して悪かったな…。」
フラガ少佐が…私を…?
「でも…コレを見て自惚れてもいいかな…って思ったんだけど?」
少佐が指したのは…私の背後に並べられたケーキのレシピと材料。
「あ…っ…!これは…!!」
「ケーキの材料…だよな?」
「う…えっと…その…」
「明日を楽しみにしてていいのか?」
「でも私…料理とか本当に苦手で…期待しないで欲しいんですけど…。」
「愛があれば何でもアリ…だよ。」
Happy Birthday…少佐…。
【あとがき】
ドジなヒロインも珍しい…。
空回り空回りで振り回されるのもまたいいかなぁ…と。
指輪ネタ…先日体験したのですよ。
仕事前に中指に嵌めてたら抜けなくなって焦ったぁ…
痛いんですよね…本当に。
まぁ、帰って石鹸使って洗ったらすぐに抜けたんですけど…。
ムウさん、お誕生日おめでとうございます!
って事で、ムウお誕生日記念夢とさせて頂きます。
2005.11.29 梨惟菜
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