Please Kiss Me
「っ♪」
「ひゃあっ!!」
突然背中に感じた圧力に、は思わず声を裏返した。
「ホント、可愛い反応してくれるよなぁ…。」
嬉しそうにの首筋に両手を絡めるディアッカに、の頬はどんどん赤くなる。
「ちょ…こんな所でっ…」
こんな所…とは、ボルテールの通路であり、いつ誰が通過するか分からない公共の場。
ただでさえ恥ずかしがりなにとって、ディアッカの大胆とも言える行動に惑わされるばかり。
「誰も来ないって。」
「で…でも…っ…」
「それとも俺の部屋、行く?」
耳元で囁かれた意味深な一言に、更に真っ赤になった。
「…冗談だよ。」
本当は大真面目だが、本気だなんて言ったらそれこそ泣き出し兼ねない。
何よりの泣き顔が自分の弱点である事は本人が良く知っていた。
「そろそろ行かなくちゃ…時間に遅れちゃう。」
時間…
その言葉にディアッカの顔が僅かに歪んだ。
「そう…だな…俺も説教はゴメンだな。」
そう言うと絡めていた腕を解放する。
側に居られる事は凄く幸せな事だけど、時々思う。
を誰の目にも触れさせたくない…と…。
そう思う自分は異常なのだろうか…。
「では、議会にはそのように報告しておきますね。」
「あぁ、頼む。」
仕事中のは凄く真剣な眼差しになる。
普段のフワフワとした空気からは全く想像出来ない顔だ。
そんなギャップも俺のツボだったりして…。
可愛いし、仕事は出来るし…
「じゃ、部屋に戻ろうぜ。」
打ち合わせを終え、を連れて隊長室を出ようとしたその時…
「あ…先に戻ってて。隊長にちょっと用事があるの。」
「…あ、じゃあ待ってるから早く済ませろよ。」
「あ…その…長くなると思うから…先に戻ってて。お願い。」
「…じゃあ…そうするわ。」
いつものならあんな言い方しないのに…
そう言われてしまっては大人しく引き下がるしかない。
廊下を1人歩きながら考える。
ジュール隊の隊長であるイザークと、隊長補佐をする俺。
そして、このボルテールの官制とイザークの秘書役を兼任する。
だから自然と2人きりになる事も多く、一部のクルーの間では2人の仲を勘違いしている奴も多い。
の彼氏は俺だっての。
ところが、肝心のは付き合っている事を隠したがる。
恥ずかしいって気持ちも分かるけど…俺的には不満っつーか…。
俺は自慢して歩きたい位、に惚れてる。
先にに目を付けたのも俺で、必死に口説いたのも俺だった。
何だかんだ言って、俺の方が圧倒的にに惚れてる。
「、今度の休暇、何処に行きたい?」
「え…」
久し振りに2人で過ごす時間…話題は次の休暇の話。
今回は3日あるから…
俺の計画としては、1日は買い物で1日は映画でも見て…
最後の1日は2人でのんびり過ごそうとか思ってんだけど…
「あ…1日目ね、ちょっと約束があるの。ゴメン。」
「約束?誰と…。」
「えっと…イザークと…。」
「イザークぅ!?」
何だよそれは…
冗談だろ?
彼氏そっちのけでイザークと約束だぁ!?
「イザークと約束って、何するワケ?」
「ちょっと買い物に…」
「俺も一緒に行く。」
「だ…ダメッ!!」
「何で?」
「その…あんまり人に見られたくないって言うか…」
「…意味わかんねぇ。」
「…ディアッカ…ゴメンね…。
でも残りの2日は一緒に居られるから…その…。」
「もういい。」
「え…?」
「他の男と出掛ける彼女と過ごす気になんてなれねぇ。」
「ディアッカっ…」
「イザークと何処でも好きなトコ、行けば?」
大人気ない…
俺、何やってんだ?
休暇初日、俺は1人プラントの街に居た。
目の前には、他の男と一緒に歩く彼女の姿…。
尾行だなんてカッコ悪ぃ…と思いつつも大人しくしていられなかった。
何でイザークと一緒に買い物なんてしてんだよ。
しかも無防備なフワフワの笑顔…
俺以外の男にそんな笑顔、向けんなよ…。
「どうした?元気がないな。」
「え…そう…かな…。」
「やっぱりディアッカ以外の男と歩いているのが違和感なんだろう?」
「う…ん。 でも、ディアッカと来る訳にはいかないしね。」
「そうだな。早く用事を済ませて会いに行ってやれ。」
「…機嫌直してくれるといいんだけど…。」
ディアッカ、凄く怒ってた。
ちゃんと事前に言ったとはいえ、ディアッカ以外の男の人と街を歩いてるんだもん。
例えそれが私やディアッカと親しい間柄のイザークでも…
怒られて当然…なんだよね…。
とイザークは、色んなショップに入っては手ぶらで出て来た。
それを何度も何度も繰り返す。
大きなショッピングモールで、2人の姿はごく普通のカップルに見え、更に嫌な気分になった。
何か情けなくなって来た…
いい加減、下らない事は止めて帰ろうかと思ったその時…
ショップから出て来たの手に大きな紙袋が抱えられていたのを目にする。
…もしかして…
今日のデートの意味が何となく理解出来た気がした…。
何も分かってなかったのは俺…って事か…。
「…寝てる…」
は以前渡された合鍵を使ってディアッカの部屋に入った。
インターホンを鳴らしても返事が無くて…
もしかしたら怒ってどこかに出掛けてるのかも…
そう思って部屋に入ったら…ベッドに横たわって眠っている彼の姿。
「疲れてるのかな…。」
ベッドの前に腰を下ろし、右手を彼の金糸に伸ばす。
普段は綺麗に纏め上げた髪も、今日は下ろされていて…
外では見れないディアッカの姿…。
「ゴメンね…ディアッカ。
遅くなっちゃったけど…お誕生日、おめでとう。」
小さく呟いて…そっと頬にキスをした。
いくら相手が寝ているとはいえ、頬にキスだなんて恥ずかし過ぎる…。
気が付けば頬は熱を帯びていて、慌てて離れようとしたその時だった。
「…きゃぁっ!」
突如伸ばされた手がの腰を抱き寄せる。
「初めてじゃねぇ?」
「え…?」
何が? …といった表情ではディアッカの瞳を見つめる。
「からのキス、初めてだろ?」
「…っ…!!」
ディアッカの言葉はの頬を更に赤くさせる。
何でこんなに可愛いんだろう…コイツ…
そう思いながら、ディアッカはの額に唇を寄せる。
「ディアッカ…っ! あのっ…!!」
もう怒ってないのかな…?と思いながらも、はディアッカの胸を押して距離を作った。
ちゃんと謝らなくちゃ…
今日はディアッカの誕生日だった。
休暇が1日早ければ、昨日の内にプレゼントを買って、日付が変わった時に渡したかったけど…
それが出来なくて、でもプレゼントを用意する事は内緒にしたくて…
ディアッカの誕生日なのに、イザークに買い物に付き合って貰って…
何をどう謝ったらいいのだろう…
続きの言葉が見つからずに戸惑っていると、目の前の彼は目を細めて微笑んだ。
「分かってるって。」
「え…」
微笑んだディアッカの見つめる先は、プレゼントの入った袋…。
「悪い。単なる嫉妬。」
「ディアッカ…」
「だって誕生日なんだぜ?ずっと一緒に居たいじゃん?
なのにそんな情けねぇ事言えないし?しかもイザークと約束なんかしてるし…。
いくらイザークが相手だって俺は嫉妬するっての。」
「…ごめんなさい…」
ディアッカの本音が漏れたその時、は少しだけ瞳を潤ませて俯いた。
「あ〜だから、悪いのは俺なんだって。」
「違っ…私が…」
ポロ…っと一粒の雫が零れ落ちた。
ディアッカは慌てて指でその雫を掬う。
「ん〜じゃあ、仲直り、するか。」
「…仲直り?」
「そ、プレゼント。」
「あ!そうだった…」
は慌てて袋を抱えると、ディアッカに差し出した。
「…お誕生日、おめでとう。大した物じゃないけど、受け取って下さい。」
「あぁ。サンキュ。」
やべぇ…
マジで可愛くて堪んねぇ…
「それともう一つ…」
「え?」
「こっちにもプレゼント♪」
「…えぇ!?」
ディアッカが指差した場所は自分の唇。
「今度はこっちにキスして?」
「で…でも…っ」
「誕生日プレゼントと仲直りの印…って事で、な?」
「うぅ…」
俺が何か言う度に頬を染めてくれるも大好きで…
こんな顔、他の奴には絶対に見せたくない…と思った。
恋人の顔は俺の前だけでいい…
俺だけにしか見せないがもっともっと沢山増えればいい…
は観念して目を瞑る。
ちゅっ
触れるだけの、らしい可愛いキス。
他の奴に自慢なんか出来なくてもいい。
も俺の事を考えてくれてるって…伝わったから…。
だから2人だけの時は目一杯甘えてやろう。
が困るくらいに…な。
【あとがき】
ようやくアップ出来たディアッカのお誕生日夢…です。
6日遅れ…ですね。
ディアッカ、おめでとうございます。
今回は嫉妬するディアッカ…にしてみたんですが…
どっちかと言うと、ディアッカ視点の方が多めでしたね。
ヒロインがディアッカに何を贈ったか…と言うのは…ご想像にお任せします。
というか、考えてませんでした(笑
あくまでもメインはヒロインからのチュウ…だったので。
2006.4.4 梨惟菜