好きな人と一緒に居る為だったら…


どんな事だって我慢したいって思うけど。



それでも譲れないものはある。




それは、私だけの特権なんだから…。
















Only You













「ちょっと!!」



怒りを帯びた声で叫ぶのは同僚のシホだった。



同じジュール隊の赤服で、2人だけの女性隊員の1人。




女の子は2人しか居ないんだから、仲良くしたい気持ちはあるんだけど…。



シホがこうも挑戦的な態度だとそうもいかなくて…。




だって…負けず嫌いなんだもん。










「何?」



「また他の隊の女子から文句が来てるわよ。」



「あぁ…イザークの事?」



「だからぁ、名前で呼ぶの、やめなさいよ。」



「仕方ないじゃない。昔からの癖なんだもん。」











私、は元クルーゼ隊所属のMSパイロット。



戦争の終盤で隊を与えられたイザーク・ジュール率いる隊に転属になり、実質上は彼の部下になった。



でも、ずっと一緒に前線で戦って来た仲間だし…。


今更『ジュール隊長』なんて呼ぶのも変な気分…。





だから、昔と変わらず名前で呼んでいるんだけど…。



軍の女性陣から大人気のイザークを馴れ馴れしく呼ぶ女は不快感を与える存在らしい。



別にそんな陰口は気にしてないんだけどね…。




それを事在るごとに言って来るシホ・ハーネンフース。



まぁ…見てれば分かるけど、彼女もイザークに想いを寄せる1人らしい。



だから私の存在が気に入らないんだろうなぁ…。


イザークと一番親しい女の子だから…。











「ジュール隊長の人気はだって良く知ってるでしょ?」


「そりゃあね。アカデミー時代からかなりの人気だったし?
隊長になったら更に株も急上昇よねぇ…。」



「だったら少しは考えて行動してよね。
いつも他の女子から文句言われるの、私なんだから。」






何だそれ…。


自分だってそう思ってるくせに…。







「だったらその女子達に言っといてよ。
言いたい事あるならシホを通さずに私に直接言えって。
その気があるならいつでも受けて立つわよ?…ってね。」



























「私がイザークって呼ぶの、反感買ってるみたい。」



「何だそれは…。」




無造作に置かれたクッションを軽く投げて遊ぶ私の傍らで、イザークは白い上着を脱ぐ。



「ジュール隊長殿は先の大戦で人気度も上がりましたからねぇ〜。
女性からのお誘いとかは無いのですか?」



「何だ…妬いてるのか…?」



「そんなワケないじゃん。煩い女が嫌いだってのは私が一番良く知ってる。
言い寄って来る子なんて居ないんでしょ?」



「興味も無いしな…。」






自室に居る女性の客の目も気にせず、イザークは着替え始める。



私の前では恥じらいも無く着替えられるってワケ?



ま、気を許してくれてるカンジで嬉しいんだけどさ。








さすがに上司と部下が恋愛関係にあるのはまずいらしく、私とイザークが恋仲にある事はほとんどの者が知らない。




この隊で知っているのはディアッカだけ。




普段、皆の前では仲が良く見えてもそれなりに口論もするし…。


まさか恋人同士とは誰も思わないだろうな…。







私はあのイザーク相手でも平気で文句は言うし、言い負ける事だって無い。



気が強くて意地っ張りで…。




だから、他の女子も文句は言いたいんだろうけど、怖がって言わないのだ。







ま、言って来た所で負ける気はしないけど…。





私だって生半可な気持ちでイザークと付き合ってる訳じゃないし?



本気でイザークが好きだって言う女の子が来たって譲るつもりも毛頭無い。



まぁ、陰で色々言われてるのも知ってる。


『ジュール隊長に陰で色目を使ってる』とか、

『ジュール隊長の弱みを握ってる』とか…。





私、相当の嫌われ者なのねぇ…。









ずっと同じ隊に居るシホでさえ、最近は私に嫌味を言ってくる始末。



女って怖いわ。



男が絡むとすぐに本性が出るって言うか…。


それは私も同じなのかな…?

















!」






「へ?何?」





色々と思考を巡らせている内に、着替えを済ませたイザークが隣に腰掛けていた。




「何…じゃないだろう。お前、恋人と居る時に考え事か?
随分といいご身分だな。」





「…ジュール隊長殿のお陰で苦労が耐えませんから。」



「…何故2人きりになった時だけ『ジュール隊長』なんだ?
普通は逆だろう?」



「他の女の子に対する牽制になるから…。」






抱きかかえていたクッションをベッドの隅に放り投げる。



空いた手で思い切りイザークを抱き締めた。








「何だ…寂しいのか…。」




「たまには甘えたい時だってあるのよ。」




「仕方ないな…。」








ポンポンと頭を軽く撫でながら抱き返してくれる腕の強さに愛を感じる。



愛されてるなぁ…私。





イザークの好みのタイプがか弱い子じゃなくて良かった。




だったらその辺の女子には敵わないもん。





















「イザークって趣味悪いよね。」



「馬鹿にしてるのか…?」



「だってさ、私みたいな女と付き合ってくれるの、イザークぐらいしか居ないよ?」




ジュール隊の他の男と言ったら、私に怯えて近寄りもしない。



そんなに怖がらせてるつもりはないのに…何でかなぁ…。














「俺に付き合える女なんてお前ぐらいしか居ないと思うが?」




「そう…?」




「俺は裏表のある女は嫌いだ。」




「あはは。なるほどね。」




そりゃあ、私ぐらいしかいないわね…。



そう思うと何だか嬉しくなっちゃう。






「でも、少しは女らしくしようと思ってるのよ?」



「…しなくて良い。」



「何でよ。」




「他の男に言い寄られたら面倒だろ…。」


「あり得ないって。皆怖がって近寄りもしないんだもん。」






それは当然だ…。


俺が裏で近寄らないように牽制をしているんだからな。




ハキハキしてて物怖じしない…。


裏表が無くて誰にでも平等に接する…。




そんなを気にしている男はたくさんいるんだ。



なのに無自覚だから困るんだ…。



かと言って関係がバレてしまったら、が転属させられる可能性は高いからな…。







「今のままので十分だ。」



「そんな事言われたら…自惚れちゃうよ?」



「勝手にしろ。」



















【あとがき】

久々のイザリク夢…。


色々と細かく設定をしていただいたにも関わらず…

何やらそのご希望に応えられたのかどうか…という仕上がりになってしまいました。



まずは強気なヒロインという事で…。

それなりに強気になっている筈なのですが…。

いまいち表現し切れていない部分が多くてすみませんです…。


反イザシホもテーマの一つだったのですが…。

あんまり出番ないし…。


設定は一応、種運命の方ですね。

イザーク白服になってますから…。


もしくは、種〜運命の間という設定で…。




こんな仕上がりになりましたがいかがでしょうか…。

桜子様、リクありがとうございました。

また遊びにいらしていただけると嬉しいです。

感想・文句ありましたらいつでもおっしゃって下さい。



2005.4.9 梨惟菜







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