おくりもの
「ねぇ…シン?」
ごく普通の日の午後…
ベッドに転がって天井を仰ぐシンを覗き込んだは問い掛ける。
「…何?」
「もうすぐ誕生日だね。」
「え?」
そう言われ、ベッドから身を起こしたシンはカレンダーに視線を向けた。
「ホントだ…」
「何それ…自分の誕生日、忘れてたの?」
「うん。」
「呆れた…。」
元々、何事においても無頓着だって事は良く知っているけど…
まさか自分の誕生日まで忘れてるとは思わなかった。
「ね、誕生日、何が食べたい?」
「え?」
「私がご馳走作ってあげる。」
そう言うと…シンはさも迷惑そうな顔で見つめ返して来た。
「何よその顔…。」
「いらない。」
「は?」
「だから、いらない。」
ただ一言だけ…。
「何で?」
「の料理には期待できないから。」
「な…っ…」
確かに…料理はあんまり得意じゃないけど…
だからってそんな言い方しなくたっていいじゃない。
って言うか、この日の為に密かに練習してたのに、そんな風に言われるとちょっとカチンと来る。
「ちゃんと練習したんだってば!ケーキだって作れるのよ?」
更に…疑うような眼差し…
「ホントにいいって。どうせその日は朝からスケジュール一杯だし。」
「…つく…」
「は?」
「シンのそういうトコ、すっごいムカつく!!」
目の前にあったクッションを思い切りシンに投げ付け、部屋を飛び出した。
「何それ…最っ低!」
膨れてラウンジに駆け込んで来たを迎えた女性陣がシンの行動に怒りを露わにした。
「確かにの料理は美味しいとはいえないけど、その言い方はどうかと思うわぁ…。」
「ルナマリア…それ、ちっともフォローになってない。」
「でもだいぶ上達したよねぇ?料理の腕。」
「でしょ?やっぱメイリンは優しいなぁ〜。」
誕生日にケーキとか焼いてあげたくて…
密かに練習して、その味見の犠牲者になっていたメイリンはそれを良く知っていた。
「何ならシンに痛い目に合わせる事も出来るが…?」
「いや…レイ、それはいいっす…」
レイが言うとシャレにならないんだって…
「誕生日までにプラントには戻れないしなぁ…」
今は任務中で、宇宙へと出ているミネルバ。
予定ではプラントへと戻るのはまだ1週間先。
シンの誕生日は明後日…。
「ちょっと言い方が悪かったかな…」
午前中の射撃の成績が悪くて…
結果的にに八つ当たりみたいな事…
怒っても当然だよな…俺が悪いんだよな…
でも……
正直、の料理はお世辞にも美味しいとは言えない。
そりゃあ…一生懸命作ってくれてるのは分かるんだよ。
分かるんだけど…
「、いる?」
とりあえず、謝ろうと思いの部屋のインターホンを鳴らす。
…返事が無い。
ラウンジにでも行ってるのかな…?
少し待ってみても反応が無いから、立ち去ろうとした時だった。
プシュー
「あ…ルナ…」
部屋から出て来たのはではなくて、同室のルナマリア。
眉間にしわを寄せ、ちょっと怒っている様にも見えた。
「あ…もしかして寝てた?」
起こされて機嫌が悪いのかもしれない…
「起きてたけど?」
「じゃあ何で怒ってんの?」
「アンタが最低だからよ。」
「は?」
ルナマリアを怒らせるような事をした覚えも無いし、最低呼ばわりされる記憶も無い。
「何だよそれ…」
「なら会いたくないって言ってるわよ。」
「え…」
「を怒らせたシンが悪いんだから。」
「それは…」
やっぱルナに愚痴ってたんだ…
当然と言えば当然んなんだろうけど…
「とにかく出て来てって言ってくれよ。」
「知らないわよ。あたしには関係ない。」
何でルナマリアまで怒ってるんだよ…
「それは全面的にお前が悪いな。」
「レイまで…」
「から話は聞いている。一方的な言い方をしたお前が悪い。」
部屋に戻ると、今度はレイからのお説教が待っていた。
何だよ…俺には誰も味方が居ないのかよ…。
「誕生日を祝いたいと言ってくれたに対してその言い方は失礼だ。」
「それは…レイはの料理の腕、知らないから…」
「知っている。」
「え?」
「さっき、昼食を作って貰った。」
別に全く問題無い味だったが…?
レイはサラッと返し、パソコンに向かった。
…マジで…?
レイって味覚オンチ…?
「だからぁ、相当練習して上達してるんだって!」
お説教3人目…
「ケーキだって何回も練習してその度に味見させられてる私が言ってるんだから。」
こっちの身にもなってよね…とメイリンは頬を膨らませた。
じゃあ…本当に練習してたんだ…
そりゃ…俺が全面的に悪いって責められても反論できない。
早く謝って許してもらわないと…!
「シン、何をしているの!?」
急いでの部屋へと行こうとしたら、艦長に呼び止められた。
「え…あ…」
「集合時間はとっくに過ぎているのよ?早くしなさい!」
「あ…」
訓練の時間だった事をすっかり忘れていた。
「す…済みません!すぐに行きます!」
カチッ…
時計が0時を指した。
9月1日…
俺の…17歳の誕生日だ…
深く溜息を吐く…。
もしかしたら許してくれて…おめでとうを言いに来てくれるかも…って思ったんだけど。
30分が過ぎてもその気配は無かった。
「はぁ…」
眠れなくて…上着を羽織って部屋を出る。
「シンのバカ…」
デッキで1人…宇宙を見ながらケーキを頬張る。
仲直りのきっかけが掴めないままシンの誕生日がやって来て…
どうせ食べて貰えないなら…
昼間に作っておいたケーキを1人で食べてやろうとヤケになっていた。
これ…全部食べちゃったら凄いカロリーだよなぁ…
でも…もういいや…
流石に半分も食べると段々気持ちが悪くなって来て…
明日、ルナ達にあげようかな…
そんな事を考えていた時だった。
「…?」
同じく、眠れぬ夜を過ごしていたシンがの姿を見つける。
「……」
「、怒らないで聞いてよ。」
「……」
それでも何も言ってはくれない。
「ってば!」
背を向けるの肩を掴んだその時…
「コレ…」
肩越しに見えたのは、半分になったホールケーキ。
「何よ…コレはルナ達の分なんだから…」
手を振り払おうとすると、シンの腕がを抱き締めた。
「ちょ…っ…離してよっ!私まだ怒ってるんだからっ!」
「でもコレ…俺の名前が入ってる…。」
ケーキの上には『Happy Birthday SHIN』の文字…
「いらないって言ったじゃない…。」
「ゴメン…」
「私の料理、美味しくないんでしょ?」
シンの指が生クリームをひと掬いし、口に運ばれる。
「…美味しいよ…。」
「期待できないって言ったくせに…。」
「ゴメン…酷い事言って…。」
「シンなんか大っ嫌い…」
「俺は大好きだけどね…。の事。」
「…っ…」
ポロポロと零れる涙が宙を舞って…
は体を反転させてシンに抱き付いた。
「ホントにゴメン…。俺が悪かったよ…。」
「シンのバカ…」
「うん…。」
「でも…そんなシンが好きな私はもっとバカだよ…。」
「…」
「シン…17歳おめでとう。」
「ありがとう。」
「「う…気持ち悪い…」」
翌朝…
と俺はケーキの食べ過ぎでダウンしていた。
「そりゃあ…夜中にホールケーキを丸ごと食べたら気持ち悪くもなるわよ…。」
本当は一日ビッシリだったスケジュールも休みを貰う事になり…
「今日は2人で仲良く寝てなさい。」
折角の誕生日なんだし?
ニコニコと笑顔を見せたルナマリアは2人を置いて部屋を出て行った。
こうしてと2人で居られるなら…不幸中の幸い…かな?
【あとがき】
シンちゃん、ハッピーバースデー♪
実はシンちゃんの誕生日を調べてなくて…焦りました。
イザークの時同様、何作かに分けたかったのですが、遅かったです(汗)
…という事で、シン夢は1話完結の短編です。
17歳かぁ…若いなぁ…。
2005.9.1 梨惟菜