それは…あなたと私を繋ぐ唯一の糸。
ただ…願うことは
『Dear.
本日の地球も晴天だ。
眩しい位の陽射しに照り返して輝く海。
一緒に連れて来てやりたかったと心底思うぜ。
ま、俺は任務を伴って降下してる訳で、無茶な話なんだけどな。
でも戦争が終わったら連れて行ってやるよ。
次の休暇には必ず帰る。
だから待っててくれよな?』
「ホント…筆まめなんだから…。」
クスリ…と笑みを零しながら返信のボタンを押す。
手馴れた手付きでキーを叩き始めた。
『Dear.ハイネ
元気そうで何よりです。
あなたからこうして毎日メールが届くと安心する。
今日も無事なんだな…って実感するから。
距離は遠く離れているけど身近に感じるわね。
電波状況が悪くなかったら顔を合わせて話が出来るのに…。
でも戻って来てくれる事を楽しみに今はメールで我慢します。
色々と大変だとは思うけど、無理だけはしないでね。
来月の誕生日までには戻れるのかしら…
出来れば2人だけでお祝いがしたいです。
それでは…明日もあなたが元気でありますように。』
文字だけの会話なのに心が温まるのは何故だろうか。
送信のボタンを押したは側にあるベッドに倒れ込んだ。
枕元には写真立てが1つ。
年頃の女性のベッドにしてはシンプルな物だった。
「…もうあなたの香り…消えちゃったよ…」
青で統一されたシックな部屋。
机とパソコンとベッドと…
生活に必要な最低限の物しか揃っていない部屋は酷く静かで…
今では珍しいアナログな時計が時を刻む音を奏でる。
生活感の無い部屋…
家に居る事の方が少ないのだから、豪華にしたって無駄なだけだと彼は言った。
きっと、私がここで過ごす事など当時は考慮していなかったのだろう。
彼の居ない部屋で彼の代わりに過ごす事になった私…
ハイネ・ヴェステンフルスの恋人になって3年目の夏が終わろうとしていた。
「へぇ…ハイネさんってマメな人なのね。」
「私も驚いたわ。
今までこんな長期間も離れた事、無かったからね…。」
「毎晩メールが届くなんて…愛されてるじゃな〜い。」
「ふふ…そうだといいんだけどね…。」
いつもの昼休み…いつもの場所…
同僚との会話は他愛も無く、プラントは至って平穏無事。
天気だって決められた時間に雨が降って…
だから安心して外でお弁当を広げる事が出来る。
まだ見ぬ地球という場所ではそうは行かないとハイネは言っていた。
慣れてみるとそれもまたいいもんだ…って。
私の知らない外の世界で…彼はプラントの為に戦ってくれている。
だから…私達はこうしていつもと変わらぬ生活を送る事が出来るんだ…。
「もうすぐヴェステンフルス隊長の誕生日なんでしょう?」
「あぁ…うん…。」
「それまでに戻って来てくれるといいわね。」
「今の情勢を考えたら厳しい気もするんだけどね…。」
「ミネルバ…大変みたいね…」
「…うん…」
それから数日…
軍本部で働く私の元には様々な情報が流れ込んで来る。
ハイネの乗る最新鋭の戦艦、ミネルバは出陣しては喜ばしい結果を届けてくれる。
それだけ…前線に出ているという事だ。
「ハイネ…」
数日前から途絶えたメール。
私から送ろうかと毎日メールは作ったけれど、最後の送信ボタンがどうしても押せなくて…
ハイネも頑張ってるんだから…私も頑張らなくちゃ…
そう思って、送られぬままの想いをしまい込んだ。
「!ヴェステンフルス隊長が!!」
「…え…?」
『戦闘中に仲間を庇って被弾したって…』
ハイネ…
『一命は取り留めたみたいだけど…まだ意識が戻らないって』
ハイネがそんな…
気が付けば友人に背を押され…地球行きのシャトルに飛び乗っていた。
私が地球に降りた所で何が変わる訳でも無い。
そんな事は分かっているけれど…行かずにはいられなかった。
黙ってハイネの帰りを待っているだけなんて…イヤだ…
「ん…」
頬を撫でる風が、曖昧だった意識をゆっくりと呼び覚ます。
穏やかな風だった。
ふと…そんな和やかな感情が脳裏を掠める。
「ハイネ? 気が付いたの?」
ふと…
求めていた声が耳を支配する。
定かでは無かった視界は次第にクリアになり…
「……?」
今ここに在る筈の無い存在が…そこにはあった。
「地球って素敵な所ね…色々と新鮮だわ…。」
今目の前にある彼女の姿は幻か…?
花瓶の花を取り替えながら彼女は淡々と続ける。
「本当に天気の操作が出来ないのね。 驚いたわ。」
夢では…無い…
いや…
夢であって欲しく無い…
それが俺の本音だった。
「ハイネ?大丈夫?」
「え…あぁ…」
間違いない…だ。
頬を撫でるその指で彼女の存在をようやく実感した。
「傷…痛む?」
「あぁ…思ったよりは大丈夫そうだ。」
俺を心配するの瞳は今にも泣き出しそうだった。
「メール…送ってやれなくてごめんな。」
「そんなの…気にしなくていいのに…」
ハイネの言葉に涙が頬を伝った。
抱き寄せるよりも先にが首筋に手を絡める。
「ハイネ…お誕生日おめでとう…」
耳元で囁かれた言葉に思考が停止する。
「今日ってまさか…」
「…誕生日に意識が戻るなんて…何かの巡り合わせかな?」
おめでとうが言えて良かった…
そう呟くが愛しくて…抱く腕に力を籠めた。
「…心配かけて悪かったな。」
「大丈夫だよ…こうして生きていてくれたんだから。」
例えどんなに危険な場所に居たとしても…
信じて待つだけの私には何も出来ない。
ただ…無事で戻ってくれる事を祈る事しか出来ない。
だからせめて…
貴方が新たな年を刻むこの時だけは側に居させて?
本当はもっと多くを望みたいけれど…
貴方が居てくれなくちゃ、何も始まらないから。
「…それより…大丈夫だったのか?」
「…何が?」
「地球に降りて来たりして…仕事、あっただろ?」
「…友達が送り出してくれたの。
後は引き受けるから心配するなって。」
「そうか。」
でも…驚いたな。
プラントから出た事さえ無いが単身ここまで来てくれるなんて。
普段はこんなに行動的では無い筈だ。
遠出だって滅多にしないし、休日だって家で過ごす事が多いし。
「たまには外の世界を知るのも大事ね。」
「だろ?」
「地球…私は気に入ったわ。
今度はちゃんと旅行してみたいな。」
「戦争が終わったら連れて来てやるよ。
新婚旅行として…な?」
「…ハイネ…」
「まだ…プラントには戻れそうにないけど…必ずお前の元に帰るから。
…待っててくれるか?」
「当たり前じゃない。 私じゃなくて誰が貴方の帰りを待つって言うの?」
嬉しそうに頬を染めながらは微笑む。
「愛してるぜ?
過去のも、今のも…未来のも俺が幸せにしてやるから。」
永遠を誓う言葉と共に、寄せられた唇に瞳を閉ざす。
唇が触れた瞬間に、自然と涙が零れた。
来年も…こうして側で祝える事を願いながら。
【あとがき】
もう…遅れまくりで申し訳ございません…の一言です。
偽者ハイネさん再び。
遅くなりましたがお誕生日、おめでとうございます。
某テーマパークでの大イベントは生で拝見する事が出来ず残念です。
凄い賑わいっぷりだったご様子で…。
さすが…ですね。
さて…
今回は一応、ハイネさん生存設定です。
そりゃ、生きていてくださらなければお話成立しませんもんね。
ヒロインを少し大人しいキャラに設定したつもりですが…
ハイネとの絡みが少ないのが…ねぇ…
ご容赦下さいませ。
ではでは…
ここまで読んで下さってありがとうございました。
来年のハイネさんのお誕生日も祝えますように…
2006.10.5 梨惟菜