「あ、アスラン!」

 通路の先を歩くのは、紺色の髪の愛しい人。
それを見つけ、は明るい声を上げた。

「あ、

「どうしたの? 何か急いでるの?」

 足を止め、振り返ったものの何故か焦っている彼を見て、は首を捻る。
いつもなら、嬉しそうに微笑んでくれるのに。
手を伸ばしてくれるのに。
それが、ない。

「あ、その……ちょっと通信が入ってて…」

「そうなんだ。それは急がないといけないね。ゴメンね、引き止めて」

 が告げれば、「すまない」と、アスランは足早に去っていく。
その姿を、は悲しそうに見送った。





恋は盲目





「はぁ…」

「なに? 何ため息ついてんの?」

 レクルームで。
ドリンクを手に、ぼうっとしていたの前に顔を覗かせたのは、同じ赤のディアッカ。

「はぁ…」

 彼を見て、はもう一度ため息を零す。

「うわ! なに俺の顔見てため息ついてんだよ! 何かショックー。……何、アスランと別れた?」

「ちょっとディアッカ! 失礼なこと言わないでくださいよ!」

 ショック、などと言いながらも、ニヤリと笑ってに言うディアッカ。
そんな彼を一喝したのはニコルだ。

「アスランとさんは、みんなが羨むくらい仲良しですもんね?」

「暑苦しいばかりだ」

 ニコルの言葉に続いたのはイザーク。
ふん、と、を一瞥すると、近くのイスに腰を降ろした。

「はぁ…」

 同じくの傍に腰を降ろしたディアッカとニコルに目をやり、またはため息を漏らす。
それに、3人は顔を見合わせた。
普段なら、煩いほどアスランの惚気話をしてくるというのに…。
これは、本当で何かあったのか?と、3人の目は同時にに戻る。

「……アスラン、やっぱりラクスが好きなのかなぁ」

 その視線に気付いてか、はポツリと言葉を漏らす。

「って、アイツ、と付き合うようになって、すぐに婚約破棄しただろ?」

「正しくは、“アスランがさんに一目惚れして”すぐ、ですけどね」

 ディアッカの答えに、ニコルが付け足す。
普段ならば、それを聞いては恥かしそうに、嬉しそうに微笑むのだが……

「はぁ…」

「な、なんなんだ! はっきり言え!」

 そんなのため息にイザークが苛立ち、怒鳴る。
そんなイザークをはじーっと眺め、ぽつぽつと口を開いた。

「最近ね、アスランのところによくラクスから通信がきてるの。アスランは隠してるみたいなんだけど……そんなの、ちょっと履歴を調べちゃえばわかるじゃない?」

 「別に、わざわざ調べたわけじゃないんだよ? たまたま見つけただけで…」と、は慌てて自分の無実を証明するように言う。
そして、続けた。

「“隠してる”っていうのが……ね…」

 俯き、は手の中にあるドリンクに目を落とす。
そして、自分の服に目を落とした。

「ラクスは天使みたいに可愛いでしょ? アスラン、女の子らしい子が好きみたいだから……だから、いつも軍服着てる私、もう嫌いになっちゃったのかな、って…」

 相手はプラントのアイドルで。
そんな彼女と比べるだけでも無謀だけど。
さらに、自分はいつも変わらない赤い軍服。
ラクスは綺麗なドレスだけど、自分はアスランと同じズボンで。
髪だけでも、と、毎日ブローして頑張っていても、結局訓練でぐちゃぐちゃだ。

「はぁ…」

 最後にもう一度ため息を零すを見て、3人はまた目を合わせる。
傍から見れば、がアスランに夢中なことも、アスランがそれ以上にに夢中なことも、一目瞭然で。
結局は惚気話なのだろうか?と、思うものの、のため息は本物だ。
誰がどう声をかけるか。
3人は目だけで擦り付け合う。
そして、負けたようにディアッカが肩を竦めた。

「えっとさ…。アスランに限って、服がどうこう、っていうこと無いと思うぜ?」

「でも…」

「――ならさ、軍服、改造しちゃえば?」

「へ?」

 突然のディアッカの言葉に、俯いたままだったは顔をあげた。
そんなを見て、ディアッカはニヤリと笑って。

「今さ、アカデミーで制服の改造が流行ってるんだとさ。ミニスカート履いてる子もいるらしいぜ?」

 イザークとニコルにしてみれば、だから何?という話なのだが……

「――私、やってみるっ!」

 ガバッと立ち上がったのは、先ほどまで暗いオーラを漂わせていた
ありがとうね、と、ディアッカに声をかけると、レクルームからあっという間に出て行ってしまった。

「……何がどうなったんだ?」

「さぁ?」

 首を捻るイザークとニコル。
そんな2人に対し、ディアッカだけはなにやら楽しそうに頬を緩めた。







 ディアッカ達と話して数日。
は鼻歌混じりに3人を探していた。
もちろん、理由は1つ。

「う〜ん、スカートなんて久しぶり」

 ディアッカの助言で出来た黒のミニスカート。
まずは彼等に出来栄えを見てもらおうと探しているのだが…。

「あ、イザーク、ニコルっ!」

 キョロキョロと探していれば、目の前には銀色の緑の頭が。
それを目にし、はブンブンと手を振った。

「ねぇねぇ、スカート、出来たの! どうかな? 女の子らしい?」

 2人の前に立つと、はくるりと周ってみせた。
それにより、短いスカートはふわりと舞い上がり……

「イザーク? ニコル? どうしたの?」

 目の前で、何故か突然赤くなる2人。
それに、は首をかしげる。
そして、もしかして……と、口を開いた。

「あ、変? 似合ってないかな?」

 その言葉で、半ばフリーズしていたイザークとニコルが動き出す。

「そ、そんなことはないっ!」

「似合ってますよ。でも、み、短過ぎませんか、そのスカート…」

 未だ真っ赤なままで首をブンブンと横に振るイザークと、どうにか頬の赤みを押さえ、それでも恥かしそうに問いかけてくるニコル。
そんな2人を前に、は首を捻った。

「そう……なか? う〜ん、これくらいは普通だと思うんだけど…。アスランは嫌いかなぁ…」

 途端にしゅんとなるに、2人はもちろん慌てて。

「アスランの趣味など知らんっ!」

「とにかく、会ってみたらどうです? アスランなら、どんなでも好きですよ、絶対」

 2人のそんな言葉に背中を押され、は彼の部屋を目指した。



「――お、完成?」

 と、その途中で出会ったのは、このスカートを作るきっかけになったディアッカで。
もちろんは彼にも聞いてみる。

「うん。どう、どう? 変じゃない?」

「いいんじゃないの? ちょい、くるっと回ってみろよ?」

 イザークやニコルとは違い、素直に褒めてくれるディアッカに、は嬉しそうに微笑む。
そして、言葉どおりにその場でくるっと周ってみせた。
もちろん、スカートは舞い上がるわけで……

「おー、いい感じ、いい感じ」

 ニヤリというディアッカの笑みの意味も考えず、はえへへ、と、笑う。

 と、そんな様子を目撃したのは――

「なに……してるんだ?」

 聞こえてきた声に、は振り返る。
もちろん、声からすぐに相手がわかり、飛びっきりの笑顔で。

「アスラン!」

 だが、そんなに対し、アスランはどこか無表情で。
それが、彼が怒っている時の顔だと知っているディアッカは、僅かにあとずさった。
だが、は気づくこともなく。

「あのね、今、制服を改造するのが流行ってるんだって。それでね…」

 短いスカートの裾をちょっと持ち上げてみせる
それにより、すでに十分すぎるほど太股が露になっているというのに、更に白い足が見えて。
それに、アスランの頬は赤く染まった。
だが、ハッとして顔をあげれば、そこにはニヤリと笑って、彼女の太股に視線を向けているディアッカ。

! こっちに来いっ!」

「え?」

 アスランと知り合ってから。
彼のそんな荒げた声は一度も聞いたことがなくて。
は、突然腕を掴み、歩き出したアスランの背中を、瞳を大きくして見つめた。



「――どういうつもりなんだ?」

 彼の部屋に連れ込まれ。
振り返ると、これも初めて見る不機嫌な表情。
それに、は俯いた。

「だって…」

「それじゃわからない」

 口ごもるに、アスランはイライラと言葉を返す。
それに、はスカートの裾をギュッと握りしめた。

「少しでも、女の子らしい格好をしたくて…」

「軍人なのに、必要ないだろ?」

 精一杯の努力なのに。
アスランの為なのに。
それなのに、彼からはそんな言葉が返ってきて。
唇を噛み締めて、そして、ぱっと顔を上げたの瞳からは、ポロポロと涙が零れた。

「だってっ! アスランに少しでも可愛いって思って欲しかったんだもんっ!」

 ポロポロと零れる涙を手の甲では拭う。
そして、すぐにアスランに背を向けた。
部屋を出て行こうと足を動かしたその時――

「――ゴメン」

 感じた温もり。
それは、アスランの腕。
背後から、彼に抱きすくめられていた。

はどんな服を着てても、可愛いよ」

 ギュッと腕に力を入れると、そっとの手をその腕に感じた。
それから、彼女が自分を許してくれたことがわかり、アスランはほっと息をつく。
そして、頬を緩めた。
何しろ、あんな大胆なミニスカート。
しかも、その姿でディアッカとニコニコと話していたのだ。
一番初めに感じたのは怒りで。
だが、全ては自分のため。
しかも、“少しでも可愛いと思って欲しかった”なんて理由だったとわかれば……愛しさはますばかりだ。
だが、しかし、と、アスランは口を開いた。

「でも、そういう服は……出来れば、俺以外のヤツの前では着て欲しくないんだけど…」

 その言葉に、は振り返る。
そして、可愛く首をかしげた。

「どうして?」

 首を傾げて。
先ほど泣いた所為で、目が赤くて。
頬も薄紅色。
しかも、ミニスカート。

 耐えられない、とばかりに、アスランはの頬に唇を寄せる。
そして、そのまま唇を奪った。

「ぅん……アスラン…?」

 唇を離せば、はとろんとした瞳でアスランを見つめる。
そんなの大胆に晒されている太股に、アスランは手を伸ばした。

「大胆すぎて……我慢できなくなるんだよ。他の男がこうなったら、困るだろ?」

 突然触れられ、はびくりと肩を揺らす。
そして、アスランの言葉に、見事に真っ赤に頬を染めた。

「う、うん…。アスランの前だけにする…」

 赤い頬のまま、はぎゅうっとアスランに抱きつく。
そして、小さな声で漏らした。

「――でも、アスランの前でなら、もっと凄い服も着るよ?」

 抱き付かれて、愛しい人にそんなことを言われ、我慢できる男がどこにいるのだろうか? 
アスランは本能のまま、の身体を抱きしめた。
そして、そっとベッドに押し倒す。
それに、は抵抗することはなく……そっと瞼を閉じた。

 ――ビー、ビー。

 そっとアスランが唇を寄せた瞬間。
部屋に鳴り響いたのは、通信の着信を知らせる音。
アスランは一瞬動きを止め、も驚いて目を開ける。
だが、アスランはすぐにに唇を寄せる。

 ――ビー、ビー。

 しかし、鳴り止まない着信音。
それに、はとうとう声を上げた。

「ア、アスラン、出た方が…」

 完全に無視してしまおうと決め込んでいたアスランは、のその言葉に仕方なく動きを止める。
そして、大きくため息をついた。

「……はぁ…、すぐ戻ってくるから。ごめん」

 軽くの頬に唇を落とし、アスランはベッドから降りた。
そんなアスランの後姿を見ながらは体を起き上がらせる。
そして、自分の短いスカートが乱れているのを見ると、慌てて整え、ベッドの上に座りなおした。

「はい、アスラン・ザラです」

 そうしていると、通信に出たアスランの声が聞こえてきた。
それについ、は悪いことだと思いながらも耳を澄ます。

<――こんにちは、アスラン>

 聞こえてきたのはあの“ラクス”の声で。
だからこそ、更には耳を澄ました。

<アスラン、わかりまして? が欲しがっているもの>

「ラクス……またですか?」

<今度は、クリスマスプレゼントですわ。……アスランには渡しませんからね!>

「はぁ…」

 聞こえてきたのはそんな会話で。
確かに、はラクスとは知り合いだ。
この前も、誕生日にプレゼントをもらったのだが…。
ということは、最近ラクスがよくアスランに通信しているのは、自分の欲しいものを調べるため?

「あ、でしたら、服が欲しいみたいですよ。……露出の高いものがいいようなことを言っていたような…」

 自分が今まで悩んでいたことの答えがわかり、瞳を丸めていたの耳に入ったのはアスランのそんな言葉で。

「……アスラン?」

 低い声でが問いかける。
それに、はっとした表情でアスランが振り返った。

「あ゛、!」

 <まあ、がいらっしゃいますの?>と、通信機からラクスの可愛らしい声が聞こえてくる。
だが、それよりは目の前で焦るアスランをじーっと睨む。

、その……冗談だから!」

 わたわたと慌て、イスからずり落ちそうになるアスラン。
それを見て、はくすりと笑みを漏らした。
こんなに焦るアスランを見るのは初めてで。

 ――こんなアスランも好きだな。

 こうして、の悩みは終わりを告げた。

 だが、新たな悩みが1つ。

 ……でも、ナース服なんかを持ち出されたらどうしよう。

 結局アスランのためになら着てしまうんだろう。
そう考え、は苦笑を浮かべた。










▽▲言い訳▲▽
 梨惟菜さま、大変遅くなってしまい、申し訳ありません。
 そして、微妙な妨害で申し訳ありません…(というか、妨害なんてあったの?(爆)
 勝手に微エロに突入してしまいまして;
 ラブラブ…ではあると、信じ込んでいるのですが……どうでしょう?
 こんなものでよろしければ、もらってやってくださいませ。



【神威様へ…】 素敵な作品をありがとうございます! 微エロ大好きです〜! ラブラブですね…♪ アスランとラブラブ…悶えさせて頂きました♪ 本当にありがとうございます。 大事に保管させて頂きますね♪





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