未完成な…

























いつも見てた…



ただ、見てるだけだった。



でも、幸せだった。




あなたの一挙一動がとても愛しくて…




それだけが私の日常の…ささやかな幸せで…



一方的な片想いでも、それでも近くに居られる事が嬉しくて…





















「相変わらずストーカーしてんなぁ…。」






「きゃっ!」





1人耽っていると背後からポツリと囁かれて驚く。





こんな突拍子も無い事をする人なんて他に思い浮かばない。




1つ年上の幼馴染。








「…ディアッカ…ビックリさせないで…」





「これでも気を使って声を掛けたつもりなんだぜ?」




「……」





眉の形を崩しながら顔を見つめると、更に後ろにはイザークの姿。





「まったく…も趣味が悪い。」





「そんな事…無いもん…。」





「まぁ…奥手なが男に惚れたってだけでも大進歩だよなぁ…。」





そう言ってディアッカが視線を向けた先にはの想い人の姿。








奥で談笑する2人の少年。





茶色と濃紺の髪が光に照らされてサラサラと揺れる。







「まぁ、アスランじゃないだけマシだな。」




イザークが溜息混じりに呟いた。




















キラはカッコいい。




親友のアスランと並んでる姿は絵になるって言うか…




アカデミー時代は一部の女子の間で違う意味で騒がれてた。





いつも一緒なんだもん…あの2人。




他の女子よりキラを近くで見れたのはイザークのお陰。





幼馴染のディアッカがイザークと親しくて…




そのイザークはキラと仲がいいアスランをライバル視してて…




騒がしいってよく注意もされたけど…成績は優秀だったし。





私の自慢の友人。





だから、同じクルーゼ隊に配属になれてホントに良かった。




周りが知らない人だらけだったら困るもの。





















「ホラ、また目がハートになってる。」





「な…なってないっ!!」





顔は赤くなってるかもしれないけど。




さっきから頬が熱いって自分でも気付いてるし。







「ホラ、行くぞ。」





「え?」






ぐいっと腕を引かれ、食堂を奥へと進むディアッカ。




ま…まさか…






「よぉ。ここ、空いてる?」





「うん、大丈夫だよ。」





キラとアスランの座ってるテーブル…。





「じゃここにしようぜ、イザーク、。」




「え…あ…っ…」





押し負けて座らされた席はキラの真横…




ち…近っ!!




顔を合わせなくて済むのは助かるけど…




イキナリこの距離はキツ過ぎっ…





あまりの緊張に食欲が沸かない。




一番量の少ないサンドイッチのセットを頼んでしまった。













、そんな少しで大丈夫?足りる?」





「えっ…う…うん、平気…です。」





急にキラに声を掛けられて声が裏返っちゃった…っ




さ…最悪…






「やっぱり女の子って少食なんだね…。」




わ…




ちゃんと女の子扱い…して貰っちゃった。




そりゃ…女の子なんだけど。





何とも思ってない男の子に言われるより数倍嬉しい…。





キラのふわっとした独特の雰囲気…




耳に残る優しい声…





近くに居られるだけ嬉しい…。






だってキラは人気者だもの。




特別に想ってもらえるなんて思ってない。




そんな贅沢を言ったらバチが当たっちゃう。





一緒の艦に乗れてるだけで幸せだって思わなきゃね。




























「やっぱお前、奥手すぎ。」





「だ…だって…キラを前にして普通になんて出来ない…」





ただでさえ男の子と話すのなんて苦手なのに、好きな人とだなんてもっと無理。





目なんか合わせたら気を失っちゃうかも…







「あ、そうだ。」





「え?何?」




「俺さぁ、今日中に提出しなきゃなんない書類があんだよね。」





「そうなんだ…」








「実はまだ終わって無くてさぁ…さ、午後からオフだったよな?」








「…よく分かったね、私のシフト。」






「まぁ、ちょっと小耳に挟んでね。 …頼めねぇ?」







嫌な予感はしたんだけど…







「…いい…けど…」







「悪いな。今度の休暇、お前の行きたがってた店、付き合ってやるからさ。」
























仕方ないよね…ディアッカは忙しいし…。





オペレーターの私と違って精神的にも肉体的にもハードな仕事だもの。





少しでも負担が減るなら助けてあげなくちゃ。








「失礼しま〜す。」







誰も居ない部屋だけれど、一応一言掛けて足を踏み入れた。






静かに開いたドアの先は薄暗く、入り口のスイッチで部屋に明かりを灯す。








「…あれ…?」






いつも散らかっている筈の部屋は意外な事に整頓されていた。






ルームメイトのイザークはともかく、ディアッカは結構散らかしっ放しなのに。






「えっと…」





ディアッカのデスクへと真っ直ぐ向かったは腰を降ろしてパソコンの電源に手を伸ばす。




















ビーッ










「え…?」






来客を示すインターフォンが鳴り響いた。







「えっと…」






出た方が…いいのかな…?





ディアッカかイザークに用事…なのよね?






じゃあ、私が出たらまずいかしら…。





仮にも男の人の部屋な訳だし…変に勘違いされて噂になっても大変だし…。










ビーッ









あれこれと考えている内に再びインターフォンが鳴る。







…居留守、使った方がいいかな…。








そう思った時…











『ディアッカ?居ないの?』







…この声って…







「キ…キラ!?」








『あれ?この声…?居るの?』







つい口に出してしまっていた事に気付いた時には既に遅く…







はそっとドアに近付いてロックを解除した。














「ご…ごめんなさい…私1人だったから勝手に出ていいのか迷っちゃって…」






「あ…ううん。僕の方こそ困らせちゃってごめんね。」







「そんな…キラが謝る事じゃ…」







「ぷっ…」






「え…?」







急に吹き出したキラに目を丸くした。






私、何かおかしな事言った?








「お互いに謝り合っててもキリが無いよね…」







「あ…う、うん…そうよね…」







「で…ディアッカは?居ないの?」







「うん…多分訓練中じゃないかな…」






「おかしいな…ディアッカに呼ばれて来たんだけど…。」







「え…?」





首を傾げるキラの背後に静かに伸びる手に気付いた時には既に遅かった。








「わっ!!」


「きゃっ!!」









急に視界が狭くなったと思ったら、身動きが取れなくなっていた。










目の前には…赤…





大きな手が私の背後でバランスを崩さないように支えてくれている。









「ご…ごめんっ!」



「わ…私こそっ!!」








抱き合う形になっていたと気付いた2人は慌てて距離を保つ。









「ってアレ!?」




「え?」





「扉にロックが掛かってる。」





















絶対にディアッカの仕業だ…





私をこの部屋に来させたのも、キラを呼び出したのも…。





そしてキラの背中を押して彼をここへ押し込んだのも…







…もしかして…









「……?」






ディアッカのパソコンの電源を入れてみる。








「やっぱり…」





書類が未完成だなんて真っ赤な嘘。





完成してるじゃない…。





































「…やっぱり開かない?」






「うん…外側からじゃないと無理みたい。」







何度か解除を試みたものの、扉が開く気配は一向に無くて…








「大丈夫だよ。少なくとも夕食の時間になれば一度戻って来ると思うし。」






「う…うん…」






流石にこの状況は…キツイかも…





2人部屋と言っても所詮は戦艦。





お世辞にも広いとは言えない空間に男女が2人きり。






心臓が今にも飛び出しそうな勢いで高鳴っていて張り裂けそう。







「大丈夫?」





「えっ…!?」






「何か…顔色悪くない? 気分悪いとか?」






「あ…う…うん…だ…大丈…夫」






聞こえちゃうんじゃないかって位心臓がドキドキしてて…





怖い…




キラに知られてしまうのが怖い…





知られてしまって…今の関係が壊れてしまう事が怖い…








ただの同僚でいいと願っていたのに…どうしてディアッカはそれを壊そうとするんだろう…。

















ううん…ディアッカは悪くない。




勇気の無い私を心配して…私の手を引いてくれようとしているのに…






一歩が踏み出せない私。










『好き』って…言えればどんなに楽だろう…




























「そう言えばずっと気になってたんだけど…」






「え?」








キラがふと言葉を発したのは数分後の事。





どうしても自分から話題を振る事が出来ず、もキラの言葉に反応を示す。











ってディアッカと仲良いよね。」





「あ、うん。幼馴染なの。家が隣で両親が仲良くて…」






「あ、そうなんだ。てっきり付き合ってるんだと思ってた。」







「そんな!ディアッカはお兄ちゃんみたいな存在だもの!

 それに私ずっと…っ…」







「え?」








ずっと…




私はずっと…キラの事が…







急に体が凍り付いたみたいに動けなくなった。







ずっと…





その先の言葉…言ってもいいの…?







キラは私とディアッカが付き合ってるって思ってたのに…






言ったって玉砕するだけなのに…







でも…




















「…キラの事が好きです…って言ったら…どうしますか…?」








「え…?」
















ずるい言い方…




普通に『好きです』って言いたかったのに…逆に問いかける様な事…








答えなんて分かり切った恋なのに。




















「それが本当なら…僕は嬉しいよ?」






「え…っ…?」






「僕はずっと見てたから…の事。」







「う…そ…」







「本当。ずっとの事、見てたよ。

 いつも一緒に居るディアッカやイザークが羨ましかったし。」








怖くて見れなかった彼の顔を、勇気を出して視界に入れる。







柔らかい笑顔が私を見つめてた。






いつも遠くから見てた笑顔が今、目の前にある。
















「本当に…僕の事が好き?」






「す…好き…です…」






「確かめても…いい?」






「え…?」













フワリ…と大きな腕に包まれて…顎に片手が添えられる。






視界一杯にキラの優しい笑顔が広がって…







「キ…」







名前を呼び切る前に唇を塞がれた。









「ん…」









頭がクラクラする…





憧れで終わると思ってた恋なのに…確かに私の腕の中にあって…












「好きだよ…。」








唇を離したキラはそう告げてギュッと抱きしめてくれた。








眩暈がしそう…。








今なら死んでもいいや…ってくらいに幸せ。






でもやっぱり今死ぬのは嫌。





少しでも長く、この幸せを噛み締めていたい。


























プシュー























扉の開く音で我に返る。









「おっと…いい感じじゃ〜ん。」







ニヤニヤと外から覗き込んで来たのは勿論この作戦の首謀者。







「きゃあっ!!」






恥ずかしさのあまり、キラの胸を押していた。








「まったく…世話の焼ける奴だ。」






ディアッカの独断だと思ってたのに、隣にはイザークの姿。









「イ…イザークもグルだったの…!?」






「当たり前だろう?この部屋は俺の部屋でもあるんだ。」








は…恥ずかしいなんてレベルじゃない…っ…









「何かアレだな…娘を嫁に出す父親の気分。」





「間抜けな事を言うな、ディアッカ。」








「じゃ、の部屋に行こうか。」





「え…っ…?」





今にも泣き出しそうなの顔を覗き込んでキラは微笑んだ。








「折角両想いになったんだし、もっとその余韻を味わいたいんだけど…。」





流石にいつまでも人様の部屋は悪いよね…。








「え…あ…その…っ…」








真っ赤になったの手を引く。







「ありがとう、ディアッカ、イザーク。」





小さく呟いて部屋を後にした。
































【あとがき】

久々のリク夢…

白坂美由紀様、待たせ致しまして申し訳ございません。

キラinザフトでクルーゼ隊所属と言う事で…

お友達2人を勝手にディアイザにしてしまいました。

実在キャラの方が場面のイメージが沸き易いかな…と思いまして。

頑張って頑張って内気なヒロイン…ですが、ちゃんと内気に仕上がっていますでしょうか?

リクエストありがとうございました。





2006.12.30 梨惟菜









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