夏祭りの夜に
県立種高等学校。通称『種校』。
7月に入り、ようやく夏本番。
夏服と笑顔がキラリとまぶしいこの季節、種校に通うとアスランは授業を終えて帰りの支度をしていた。
「!・・・帰れそう?」
「うん!帰ろう帰ろう〜」
少し日も沈みかけた教室から、二人は手を繋いで教室を後にした。
廊下を笑い合いながら歩くの目に、壁の張り紙が目に留まった。
「あ・・・アスラン!」
「ん?」
「『夏祭り開催』だってさ。明日」
「へぇ〜」
「花火大会もあるみたいだね。いいなぁ〜」
隣ではしゃぐを横目で見て、クスッと笑ったアスラン。
繋いだ手に少しだけ力を込めて、を呼んだ。
「・・・?アスラン・・・?」
「もしかして、行きたいんじゃないのか?」
「あ・・・わかっちゃった?」
「俺はのことならなんでもわかるさ」
「もうっ・・・なに言ってんのアスランっ////」
顔を真っ赤にして俯くに、またもクスリと笑みを浮かべるアスランだった。
─────翌日
「こんにちは〜」
「あら、アスラン君いらっしゃい♪今日もカッコイイわね〜」
「え?あ・・・いえ・・・そんなことは・・・」
夕方になり、を迎えにアスランは彼女の家へと立ち寄る。
そんなアスランを出迎えたの母は、ニッコリと満面の笑みを浮かべながら話をしている。
容姿の整ったアスランが娘の彼氏でよかったと、心底満足している母。
顔が緩みっぱなしの母の後ろから、慌てて着替えを終えたが走ってきた。
「ちょっとお母さん!!なにデレデレしてるのよっ」
「あら、デレデレなんてしてないわよ」
「アスランお待たせ〜っ」
アスランへと挨拶しながら彼を目に映した。
だが、普段とは違う浴衣姿のアスランに一瞬言葉に詰まる。
アスランもまた、浴衣に身を包んだに見惚れて固まっていた。
しかしフッと我にかえると、微かに頬を染めたに手を差し伸べた。
「夏祭り。行こうか」
「・・・うんっ////」
パタパタと駆け寄りながらアスランの手をとって、とアスランは家を出た。
神社に着いた二人はタコヤキを食べたり、わたあめをお互いに食べさせあったりと、祭りを十分に楽しんだ。
すっかり辺りも闇に包まれ、二人は神社裏でそっとキスを交わして神社を後にした。
夜道を歩く途中、は慣れない下駄を履いていたせいで足が擦り切れて赤くなっていた。
ずっと手を繋いで歩いていたが、の歩くスピードが遅くなったことに気づいたアスランは立ち止まる。
そしての前へ数歩進み、地面へとしゃがみ込んだ。
「・・・ほら」
「え・・・?アスラン?」
「足、痛いんだろ?おんぶしてあげるから」
「えぇっ?!い・・・いいよアスラン。だって私重いし・・・」
胸の前で両手を振って思いっきり拒否する。
そんなにアスランはフゥ・・・と息を吐いて立ち上がる。
アスランはそっとに近づいて、彼女の体を軽々と両手でヒョイっと抱き上げた。
「これのどこが重いんだ?は軽いよ」
「アスランっ・・・!お・・・下ろしてっ////」
の言う通り、そっと彼女を下ろすと笑みを浮かべて耳元に顔を近づける。
いつもよりも少し大胆な行動ばかりするアスランに、は心臓が止まりそうだった。
「の浴衣姿・・・可愛い」
「ア・・・アスランだって・・・かっこいいよ///」
「そう?」
「うん。かっこいい」
「・・・ありがと////」
照れたように笑うアスランが、浴衣効果と月明かりでいつもよりもかっこよく見えて・・・。
は顔に熱が集まるのを抑えられなかった。
アスランは再び地面へとしゃがみ、を呼ぶ。
「ほら・・・おいで」
「うん・・・////」
いくら軽いと言われたからって、女の子としては体重を気にするのは当たり前。
アスランの背に、恐る恐る乗る。
が乗ったことを確認したアスランは、ゆっくりと体を起こして彼女を落とさないように後ろに手を回す。
「俺の首に手、回して」
「え?」
「落ちそうで怖いかなって思ってさ」
「あ・・・うん///」
はアスランの首に手を回すと、そのまま彼の背にもたれかかる。
そして、疲れていたのか眠りについてしまう。
急に大人しくなったを感じ取ったアスランは、少しだけ後ろを向く。
「う・・・ん・・・アス・・・ラン・・・」
「寝てる・・・のか」
寝言で自分の名を呼ぶ彼女に、心が幸せに包まれるアスラン。
安心したように眠りにつく彼女を起こさぬように、アスランは一歩ずつ確かめるように歩む。
「・・・アスラン・・・」
「まだ俺の夢を見てるのか・・・は」
可愛い彼女の寝言にクスクスと笑うアスラン。
しかし、次の寝言に再びアスランは幸せな気持ちになるのだった。
「・・・大好き・・・」
ふいに出たその言葉に、一瞬驚いたように目を見開く。
だが自然と頬が緩み、笑みを零す。
アスランは空を軽く見上げながら、満面の笑顔でこう呟いた。
「俺もだよ」
高い高い夜空に輝くお月様は、夜道を歩くそんな二人に笑みを浮かべながら、優しい光を浴びせていた。