ありのままの君でいて



































「ねぇ…アスラン?」






「うん?」







「私…最近変なんだ。」








「は?」








がポツリと呟いた一言に、アスランはキーを叩いていた手を止めた。





、いつも言ってるけど、話す順序がおかしいぞ?」






まずは主語を言ってくれないと何の話だかさっぱり分からない。




それがの特徴と言えばそうなのだけど…





で、何から話したら良いのか分からないらしく、困り顔をしていた。














アスランは溜め息を一つ吐くと、ベッドに座るの横へと腰を下ろした。






「で?何が変なんだ?」





「…あのね…何だか胸がドキドキするんだ。」





「は?」






の一言が想定外の言葉だった為、アスランも目を丸くする。







「ドキドキって…」






そう言われて連想される言葉といえば一つしかない。





アスラン自体、その手の話題はあまり得意分野では無いが…




それ以上には縁遠い話らしく、今までにそれらしい話題が出た事は無い。









大事な幼馴染だ。




ある意味衝撃的な発言だったが、聞いてしまった以上は確認せざるを得ない。









「…それは…誰に対してドキドキするんだ?」





聞きたいような…聞きたくないような…





そして、が発した言葉にアスランはガクリと肩を落とす事になる。









「…キラと居ると…ドキドキするの。」























まぁ…


俺にそんな話を振って来た時点で自分では無いとは思ったけれど…





まさかあのがキラに恋をしているなんて…





に自覚は無い。




けれど、ずっとの傍に居た俺にはすぐに分かった。







は本気だ。







は本当に奥手というか鈍感というか…




俺がずっと一緒に居た所為か、色恋沙汰にはかなり疎い。





アカデミー時代、は相当人気があったけど、俺が男を寄せ付けなかった。





だからは純真無垢なまま…





そして俺は、頼れる幼馴染…そして兄みたいな扱いを受けていて…






ある意味、恋愛対象から一番遠い存在になってしまっていた。







こうなったら、に相応しい男が現れるまでは絶対に守ってやる…という意気込みでいたが…








「キラか…」






正直…少し…いや、かなり複雑だ。





申し分ない相手なだけに複雑なんだ。







は幼馴染だし…キラだって親友だし…






に芽生えた感情の名を彼女に教えてあげるべきか否か…





思い悩むアスランに眠れない日々が訪れた。
























「アスラン、あのね…」






数日後、が再び思い詰めた表情でアスランに話しかける。






「どうしたんだ?」







「私…キラの事が好き…みたい。」






衝撃がアスランに襲い掛かった。






「ラクスに相談したの。

 そしたら、『それは恋ですわ』って教えてくれた。」





な…




よ…余計な事を…






「何だか実感沸かないね。」





そう言いながらも、の頬は赤く染まっていて…何だか知らない女の子に見えた。



























さぁ、どうしよう…。







自分の気持ちを自覚してしまったは思い悩む。






これが恋…






今までアスラン以外の男の人と接する機会なんて全然無かった。





だから、キラと2人になるとどうしたらいいか分からなくなる。







優しくて頼りになって…安心出来る存在。







目が合うだけで恥ずかしくなったり…




声を聴いてるだけで嬉しくなったり…






アスランと居る時とは違う…。






















?どうかしたの?」






「え…っ!?」






覗き込まれた瞳に自分の姿が映り、は激しく動揺した。





その自分の映る瞳はアメジスト色で…






自分が初めて『恋』という感情を自覚した相手。










「え…?キラ…?」






ここは確か自分の部屋で…





ベッドに座って考え事をしていて…







確認するかの様に辺りを見回すと、並んでいる物は確かに自分の部屋にある物ばかり。







じゃあ、どうしてキラがここに…?










「何回も声を掛けたんだけど返事が無くて…ロック、開いてたから勝手に入っちゃった。

 ボーッとしてたけど…大丈夫?調子でも悪いの?」






心配そうにキラは再び顔を覗き込む。





その近過ぎる距離に心臓が大きく跳ねたのが分かった。










「あ…う、ううん!大丈夫!平気平気!!」






「でも、顔赤いよ?熱あるんじゃない?」







それはキラを意識してるからです…とも言えないし…




益々赤くなる頬を両手で押さえると、は立ち上がった。







「わ、忘れてた!ラクスとお茶する約束してたんだった!!」







我ながら苦しい言い訳に聞こえたけれど、どうもこの空気には馴染めなくて…





























「そう言えば…もうすぐキラとカガリさんのお誕生日でしたわね。」








「あぁ…そう言えばそうだったな。」








カガリ自身も忘れていたかのように、ラクスの一言でカレンダーに目をやる。









「…プレゼント…どうしよう…」






誕生日という単語に、は再び頭を抱え込む。






用意したくても出来る状況では無い。










でも好きな人がこの世に生まれた日…





何か思い出に残るプレゼントをしてあげたいって思う…。













「プレゼント…ですか…」







ラクスが頬に手を当てて考え始めた。








「いっそ、『あたしをプレゼント♪』なんてやってみたらどうだ?」










ブッ…









丁度、紅茶を口に含んでいる真っ最中に、カガリがとんでもない事を口に出す。










「…ゲホッ…ゲホッ…!」





まだ熱い状態である紅茶を一気に流し込んでしまったは案の定むせ返った。










「な…何言っ…」







顔が真っ赤なのはむせている所為か…それとも別の理由か…









「冗談だよ冗談。」





「笑えない冗談はやめてっ!」







ようやく呼吸を整えたは涙目でカガリに訴えた。













「大事なのはお祝いしたいという気持ちではないでしょうか…。」






「ラクス…」






が気持ちを込めて伝えれば、きっとキラも喜んで下さいますわ。」







「そう…かな…」








「きっと伝わりますわ。」






























「キラ…居る?」






珍しい時間帯に珍しいお客…。





部屋の扉の向こうから聞こえるその声には聞き覚えがあった。







「居るよ。どうしたの?」






パソコンに向かって作業をしていたキラはその手を止め、扉の向こうへ問い返す。









「えっと…今、忙しい?お話しちゃ駄目かな…?」






遠慮がちに問い掛けるその声に、キラは笑みを零した。









返事の代わりに開かれた扉には思わず顔を見上げる。





扉の向こう側に、部屋の主が立っていた。







「どうぞ。入って。」






優しいその笑顔に、の頬も自然と緩んでいた。





















「どうしたの?こんな時間に珍しいね。」





「ご…ごめんね…こんな時間に…迷惑…だよね…。」






「そんな事無いよ。夜はなかなか寝付けないから。

 あ、何か飲む?」





「あ、ううん、気にしないで!」






促されて椅子に腰を下ろしたは落ち着かない様子。






「何かあったの?」






「えっと…」






問い掛けても口篭るばかりで話は一向に進まない。






いつもの彼女らしくないな…とキラも首を捻った。









そしてが時折見つめる先にある物に気付いたキラは、彼女がここへ来た理由を悟る。
























ピピピピッ…





突如鳴り始めた機械音には顔を上げる。





その音を発していたのはキラの部屋にあったデジタル時計。





時刻は丁度0時になった所。








「あ…キラ…!」





「何?」





「あ…えっと…その…」





「何??」




言わなくちゃ…




笑顔のキラを見ていたら緊張して来ちゃって言葉が上手く出て来ない…











「あの…お誕生日…おめでとう…」




ようやくその一言がキラに言えた。





「え…?」




言い切ったのと同時に、の体はキラの腕の中にあった。







「キ…キラ!?」




「凄く嬉しい…」





抱き締める腕を強め、が自分の腕の中にいる事を確認する。





「どうしても一番に言いたくて…えっと…」





「うん…ずっと時計見ながらソワソワしてたよね…。」





「気付いてた…んだ?」




「途中から…ね。」






気付かれてたんだ…恥ずかしい…




頭の中でそう思いながら…キラの心音に気付く。





ドキドキいってる…





私と同じ…







「あのね…本当はプレゼントを用意したかったんだけど…」




「そんなの気にしなくていいよ。がおめでとうって言ってくれただけで嬉しい。」






ラクスの言ってた通りだった。




ちゃんと喜んでくれた…。









「あ…でもね…」




言葉を続けようとしたその時…





「あ…」




不意に塞がれた唇。




反射的に瞳を閉ざす。




キラの腕がより一層、強くを抱き締める。




キュッ…と彼の袖を握り締めた。














…好きだよ。」





唇が離れて一番最初に告げられた言葉に、は目を見開く。






「本当…に…?」




と居ると僕もドキドキする。」





「…その話…」





「ごめん…アスランに聞いちゃったんだ。

 アスランは僕がに片想いしてる事、知ってたから。」






「じゃあ…知って…?」





恥ずかしいっ!




今までの行動を思い返しては赤面した。







「嬉しかったよ。凄く。」






「わ…私も…キラが好きだから嬉しい…。」






抱き締めていた両手がの両頬に添えられる。







「お誕生日おめでとう…キラ。」





もう一度だけその言葉を告げ、唇は再び塞がれた。


























【あとがき】

キラ生誕記念でございます。

タイトル関係ない気がしますが気にしないで下さい(恥

黒キラ?黒くないよね??

黒キラは人気のご様子ですが…私は白キラが好き。

基本的に純粋な少年で居て欲しいの…っ

黒キャラって苦手ですし…

アスランがちょっと痛々しい役どころでした。

たまにはこんなアスランも良し…かな…と。

とりあえずお誕生日に間に合って良かったです。




2006.5.18 梨惟菜









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