Love & Sweet
アスラン・ザラ
綺麗に整えられた墓地に並ぶ2つの影。
墓標に添えられた花束は彼女が好きだった百合の花。
脳裏に浮かぶのは、優しかったあの人の笑顔…。
「あれからもう5年になるんだね…。」
「そうだな…。」
ゆっくりと吹く穏やかな風に吹かれながら広がるプラントの眺望に目を細める。
こうしてプラントへ戻って来たのは本当に久し振りだった。
「ここ…変わってないね。あの時のまま…。」
「他は変わっても…ここは変わらないままでいて欲しいな。」
「うん…。」
全ての始まりの場所はここなのかもしれない。
確かに亡骸は他の場所にあるけれど…あの日失った多くの魂はここにあると信じたいから。
「もっと…お話したい事は沢山あったのに…。」
「俺も…だよ。 ほとんど一緒に暮らす事は無かったから…。」
僅か15で母親を失って…父親も16で失って…
それでも真っ直ぐ前を見てるアスランは強いね…。
そう思いながらもその言葉を口に出す事は出来ない。
私が…少しでもアスランの支えになっていたらいいんだけど…。
「お〜い!アスラン、!」
遠くから名前を呼ぶ聞き覚えのある声…。
「ディアッカ!イザークも!!」
振り返るとかつての同僚の姿がそこにあった。
「久し振り!よくここが分かったね〜。」
「あぁ…評議会に行ったらお前らが戻ってるって聞いたからさ、ここじゃないか…って思って。」
「イザークも…久し振りだね。」
「元気そうだな。」
折角だから一緒に食事をしようという2人の誘いを受け、市街まで出る事になった。
レストランに入って最初に出た話題は、エレカの後部座席に置かれた大量のチョコの山。
「相変わらずモテるんだねぇ…。」
クルーゼ隊に居た頃から、赤服4人の人気は絶大で…。
私もヒヤヒヤしながらアスランに片想いしてたなぁ…。
ピルルルル…
「あぁ…俺の携帯か…。」
会話の途中でアスランの携帯が鳴って席を外す。
「なぁ…はアスランにチョコ、やったワケ?」
「え…?」
「バレンタインだろ?」
確かにバレンタインだけど…
この日はアスランのお母さんの命日でもある。
悲しい想い出の詰まった日だから…。
「バレンタインだからとか…こだわらないからね…。」
形にしなくても…気持ちは同じ場所にあるから大丈夫…。
お互いを想い合う気持ちは今までもこれからもきっと変わらないから…
そう思えるようになるだけの時間を共に過ごして来たから…。
「そう…だな…。 余計なお世話だったか…。」
「そんな事ないよ。 心配してくれてありがとう。」
「まだ何日かこっちに居るんだろ?」
「あぁ。明後日の夕方の便で戻るつもりだ。」
「じゃ、見送り行くから。」
「うん。ありがとう。」
ホテルまで送ってくれるという誘いを断り、レストランの前で2人と別れた。
久し振りにプラントの街をのんびり歩きたくて…
ホテルへと続く大通りを並んで歩く。
暫く来てないうちに随分と変わった街並み。
未だ残っているお店もあれば、違うお店に変わっている所もあって、知らない街を歩いている気分だ。
は所々で立ち止まってはショーウィンドに並ぶ洋服や小物に目を輝かせる。
嬉しそうなの横顔は凄く好きだ。
が笑っていてくれる事が一番の喜びで…一番の幸せなのかもしれない。
けれどは目を輝かせるだけで決して欲しがらない。
だから何かをプレゼントする時には凄く迷うし悩む。
もう少し物欲があってもいいと思うんだけどな…。
「久し振りにイザークとディアッカに会えて良かったねぇ…。」
「そうだな。相変わらずだったし。」
「仕事、忙しいんだろうなぁ…。」
停戦したとはいえ、まだまだ仕事は山積みだろうし…。
あれだけの量のチョコを受け取ってるって事は…今でも相当目立ってるんだろうな。
「明日はどうしようか?買い物でも行く?」
「う〜ん。どうしよっか…。」
「俺の用事はもう済んだし…後はの行きたい所に付き合うよ。」
「ありがとう。明日までに考えとくね。」
並んで歩きながら、同じく通りを歩くカップルに目を向ける。
手を繋いでたり…腕を組んでたり…彼が彼女の腰に手を回してたり…
ラブラブ…だなぁ…
それに比べ、私とアスランは並んで歩いてるだけ。
時々腕がぶつかったり…手の甲が触れ合ったりする程度。
手…繋ぎたいなぁ…
でもアスランは恥ずかしがる人だから、外で手なんて繋いだ事…無いかも…。
「あ…」
「何?」
「ちょっと見てってもいい?」
そう言ってが立ち止まって視線を向けた先は通りの向こう側。
ブライダル専門店だった。
「綺麗…。」
通りを渡ってショーウインドの前に立つ。
中心に置かれた真っ白なウエディングドレスに完全に心を奪われていた。
お店の奥には色鮮やかなドレスが並んでいるのが見える。
こういうの…が着たら似合うんだろうなぁ…
そう思いながら、アスランはいつものように嬉しそうなの横顔を見つめた。
「カガリが着てたドレスも凄かったよね…流石はオーブのお姫様って感じで…。」
「そうだな…。」
一緒に並べられたブーケにヴェール…数々のアクセサリー…。
男には全く無縁の世界だけど、それらを身に纏った彼女と並んで歩くのは夢でもある。
女の子程願望は強くないけどな…。
「…アスラン…?」
ドレスに釘付けになっていると、右手に暖かい何かが触れた。
アスランが私の手を握ってた。
「ごめん…私、夢中になり過ぎてた?」
いつの間にかだいぶ時間が経ってたのかも…と焦るの表情とは裏腹に、アスランは握る手に力を込める。
「結婚…しようか?」
「え…?」
「…街中で言うのも何だけど…ドレス見てるを見てたら言いたくなったんだ。」
急なプロポーズに戸惑うのは当然で…
は目をパチパチと瞬かせながらアスランを見つめる。
いつも以上に穏やかな笑顔に頬が熱くなった。
「…でも…近いうちに渡そうと思って持ってたんだ。」
「え…?」
アスランがポケットから取り出したのは小さな小箱。
さっきの言葉や箱の大きさから中身は容易に想像出来たけど…口には出せない。
その箱を開くと、ダイヤモンドの乗ったリングが1つ…。
「俺と…結婚してくれませんか?」
「…はい…。」
返事の後に薬指に通された指輪はピッタリだった。
「私もね…アスランに渡したい物があるの。」
「…何…?」
がカバンを開けて中から箱を取り出す。
「渡そうか迷ったんだけど…一度くらいは渡しても罰は当たらないんじゃないかな…って思って。」
「もしかして…」
「バレンタインのチョコ…受け取ってくれる?」
レノア様の命日だから…
そう言いながら毎年渡すのは諦めてた。
でも…本当は毎年用意してたの。
渡さずに自分で食べてたの。
でも…今なら…今年なら許されるかな…って…。
「そんな事言わずに毎年欲しいな…。」
「え…?」
「の気持ちを再確認出来るだろう?」
「そんな事しなくても…私の気持ちは変わらないわ。」
「でも嬉しいんだ…。ありがとう。」
そして…再び歩き出す。
一度繋がれた手は離される事無く、優しく絡まったまま。
ホテルまでの道程はあと少しだけど、2人の道程はまだ始まったばかり…。
【あとがき】
甘くない…
アスランなのに甘くないです。
…と言いますか…正直、アスラン書き過ぎてネタ切れ寸前?
バレンタイン=お母様の命日じゃないですか…。
なのでつい絡んでしまったのですね…。
全体的にしっとりとした仕上がりになりました。
2006.3.4 梨惟菜