カタカタカタ…
静かな室内に響く唯一の音…。
規則正しく打ち込まれるキーボード音。
その音が響く中で、私の機嫌は最高潮に悪く…
いつ爆発してもおかしくないと思う。
いつまでもおとなしい彼女だと思ったら大間違いなんだぞ。
満たされない恋心
「ねぇ…アスラン?」
「ん?」
「さっきから何やってるの…?」
「う〜ん…。ちょっと…な。」
さっきからコレばっかり。
何度同じ質問を繰り返しても同じ返事。
多分、本人も覚えていないんだと思う。
アスランはすぐ後ろのベッドで退屈そうにしてる可愛い恋人に目もくれず…
ずぅ〜っとパソコンさんと遊んでる…。
何してるのかは知らないけどさ…。
彼女よりも大事ですかい。
最近ずっとこんな調子で…。
私はここへ来ても常に放置状態。
付き合い始めて半年。
初めの頃はお互いの部屋を行き来してたのに、今では私が一方的に通う日々。
「通い妻♪いいねぇ〜♪」
ディアッカにはいつもそうやってからかわれてるけど…。
実際にはそんなに楽しい事でも無い。
これって…倦怠期ってヤツなのかなぁ…。
「ねぇっ!!」
「うわっ!!」
痺れを切らして背後から飛び付くと、流石のエースパイロット様も驚いたらしく…
ビーッ!
「えっ…?」
「が急にビックリさせるから間違ったボタン押しちゃったじゃないか!!」
何か怒られてるし…
「やり直しじゃないか…えっと…どこまで保存してたかな…」
しかも飛び付いて来た彼女を更に無視して続ける気だ…。
普通はさぁ…
『どうしたんだ?』
とか
『寂しいのか?』
とか…
聞くでしょっ!!
何でそれが無いのよ!!
「あったま来た…。」
「え?何が?」
それでも作業を止めようとしないアスランに完全にご立腹。
カチッ…
「あ!!何するんだ!!」
私との甘い時間を邪魔するヤツは排除すべし!!
パソコンの電源を落としてやると、目の前の画面は真っ暗。
その画面に顔を歪めたアスランの顔が映る。
眉間にしわが寄っててもいい男だわ…。
「…あのなぁ…」
仕方なく椅子を反転させたアスランはようやく私の方へと体を向ける。
手を伸ばして腰に回そうとして来たけれど、軽く払い除けてやったら少し驚いた顔になった。
「。何を怒ってるんだ?」
「知らない。自分の胸に聞いてみたら?」
プイッと顔を背けると、アスランの顔はより一層困った表情へと変わる。
それでも今日は許さないんだから。
私はそんなに聞き分けのいい子じゃないんだから。
「帰る。」
クルリと背を向け、扉の方へと移動すると、扉の前でアスランに手首を掴まれた。
「。」
深い溜息と共に私の名を呼ぶ。
その溜息にはどんな気持ちがこもってるの?
「何?」
いつもより低めのトーンで返事すると、肩に手を置かれ、体を反転させられる。
正面にはアスランの顔。
また困った顔してる…。
アスランは何も言わずに頬に手を添えた。
キスしようとする時のアスランの癖…。
いつもなら嬉しくて真っ先に目を閉じちゃうところなんだけど…。
今日は右手をアスランの唇に当てた。
「…?」
「当分キスしない。」
「え?」
アスランの手が緩んだ隙にするりと抜け出して廊下へと飛び出した。
「アスランのば〜か!!」
本人を目の前にこんな事を言ったのは初めてだと思う。
「足りない!
スキンシップが足りない!!」
「だからって俺達の所に来て愚痴られても困るんだけど?」
しかも勝手にお菓子まで持ち込んで…
「だって!こんな事、他のクルーには言えないでしょっ!?」
艦内で親しい仲間と言えば必然的に同じ赤服同士であって…。
アスラン絡みの事になると他に行く宛ても無い。
そうなるといつも来るのはイザークとディアッカの部屋。
「どうせお前にあげるペットロボでも作ってるんだろ?
アイツにはそれくらいしか能が無い。」
「ペットロボになんか興味ありません。アスランだって知ってるもん。」
寂しくないように…なんて与えられたペットロボットで満足出来る私じゃないの。
寂しい時にはアスランの所に行くし…。
第一、ペットロボなんか居たら四六時中煩そうで堪らないわ。
だから、アスランの作業がソレだという可能性は極めて低いのだ。
大体、彼女が怒って部屋を飛び出したのに追っても来ないなんて…。
愛を感じない…。
しかも他の男の部屋に駆け込んでるのに…。
そんな事もお構いなしですか…。
「アスラン…ホントに私の事好きなのかな…。」
「あのなぁ…本気じゃなかったらわざわざラクス嬢との婚約破棄したりしないだろ。
普通あり得ないぜ?あのラクス・クライン相手にさ。」
「そうだけど…」
でも…不安なんだもん…。
いつも私の事考えてて欲しいんだもん…。
それは私の我が侭なのかもしれないけれど…
私の頭の中はいつもアスランで一杯で、それ以外の事なんて考えられなくて…。
そりゃ…軍人なんだから他にも考える事とか、すべき事とかあるんだけど。
それでも私の気持ちはいつもアスランが一番にあって…。
アスランにとって私はそうじゃないのかな?
男と女って…愛情に差があるものなのかな…?
「ホラ。そろそろ部屋に帰れって。いつまでも居られたら迷惑なんだよ。」
「何よ…意地悪…。」
結局最後には追い出されて部屋に戻るしかなくなっちゃう…。
今は1人になりたくないんだけどなぁ…。
けれど、ここを追い出されてしまっては行く宛ても無い…。
「何コレ…」
部屋に戻ると、扉と床の隙間に封筒が挟まっていた。
抜き取ってから部屋に入り、ベッドに身を沈めてから封筒を開く。
そこにはパソコンで作られた手紙…。
『へ…
大事な話があるんだ。
今夜0時になったらデッキまで一人で来て欲しい。
待ってるから…。 アスラン・ザラ』
大事な話…?
しかも真夜中に…
まさか…別れ話…とか…?
約束の時間にデッキに向かうと、アスランが宇宙を眺めながら一人待っていた。
思い詰めた表情…。
時折、切なそうな表情になって目を伏せて…。
こっちまで切なくなっちゃいそう…。
「アスラン…話って何…?」
フワリと体を浮かせながらアスランに近寄ると、アスランの手が伸ばされる。
その手を取り、ゆっくりと床に足を付ける。
「、誕生日おめでとう。」
「へ…?」
突然のセリフにただ目を丸くする。
「もしかして…忘れてたのか?」
「今日って…あ…ホントだ…。」
色々考え過ぎてて自分の誕生日すら忘れてしまっていたらしい。
0時を回ったから間違いなく今日は私の誕生日だった。
「てっきり誕生日の事で拗ねてるんだと思ってたんだけど…。」
「違うわよ。そんな事じゃないもん…。」
「じゃあ何を怒ってたんだ?」
…自分の胸に聞けって言ったのに…
そんな困った顔されると罰が悪いっていうか…
「アスランが…全然構ってくれないから…。」
思わず伏せてしまった目…。
何だか目を合わせる事すら怖くなっていた…。
「何だ…それで拗ねてたんだ…。」
「だって…」
思わず反論ようとして顔を上げると、アスランに唇を塞がれる。
「…っ…」
逃げようとしてもいつの間にか体は拘束されていて…
身動きを取る事すら出来ない状態だった。
何度か胸をトントンと叩いて抵抗を試みるけれど…
何度やったってアスランの力に敵う筈も無い。
数秒経って解放された唇から空気を取り込む。
アスランはそのまま私を抱き締めて…
「…結婚…しないか…?」
「え…っ…?」
小さな声だけれど確かに聞こえた言葉…。
驚いて顔を上げると、頬を紅潮させて目を逸らすアスランの顔。
こんな顔を見るのは私が初めてアスランに告白をした時以来だろうか…。
「どうしても今日…言いたくて…。
その間に父上に許可をとったり…色々と根回ししてて…。」
アスランは私の左手を取ると、薬指に指輪を通す。
「ずっと宇宙暮らしだったからちゃんとした指輪も用意出来なくて…。」
シンプルなシルバーのリング…。
「もしかしてコレ…アスラン…が…?」
だから…最近忙しそうにしてたの…?
全部私の為に…?
「返事…聞かせてくれないか…?」
言葉より先に涙が零れて… その粒が宙に舞う。
嬉しくて胸が張り裂けそうで…
ずっと不安だった自分が情けなくて…
それ以上にアスランが愛しいと思えて…
「返事なんて一つしかないのに…。」
「それでもちゃんとの口から聞かせて欲しいんだよ。
嬢、俺と結婚して貰えませんか?」
「…はい。」
【あとがき】
何だコレ…
アスランが構ってくれなくて拗ねるヒロイン…。
気付けばただのバカップル…。
最初の予定ではギャグになるかも…なんて気持ちで書いていましたが…
気付けば激甘…?
最近、管理人はアスランに飢えておりまして…
本編ではヘタレ度全開だし…。
夏美様、いつもありがとうございます。
こんな仕上がり具合になってしまいました。
いかがでしたでしょう?
2005.5.16 梨惟菜