愛情の無い結婚なんて、今のプラントでは特に珍しい事でもない。
それは俺だって十分承知していつもりだった。
だけど、自分が惚れてる女がその立場に立っていたら…
惚れてもいない男と結婚しようとしていたら…
『婚姻統制』なんて言葉に苛立ちを覚える。
好きでも無い男に取られるくらいなら…
さっさと告白でもしておけば良かったんだ…。
伝えたい言葉
後編
「私ね…子供、産みにくい体なんだ。」
「…え?」
突然のの告白にディアッカは何も返す事が出来ない。
それでも、は話し続けた。
「子供の頃に病気にかかったの。
当時、コーディネイターには珍しい病気だったらしくて…原因も不明。
度重なる投薬の末、何とか完治したんだけど、その投薬が原因で子供が出来にくい体になっちゃったんだって。」
ただでさえコーディネイター同士での出生率の低い現状。
その中で子供が産みにくい体である女性は致命的。
少しでも出生率の高い組み合わせを…と求める中でそんなの結婚は難しく…
そんな矢先にセイラン家からにと婚約の話が持ち上がった。
「是非私と結婚したいって。
私の体の事知ってて言って来るなんておかしい話じゃない?」
確かにその通りだ。
セイラン家だって跡取りは必要な筈なのに何故に婚約を…
「私との結婚なんて表向きなの。
本命の子が他に居て…でも彼女は普通の家庭の人だから釣り合わないって反対されてて…。
それで、私と表向き夫婦になったら彼女と付き合っても構わないって条件出したみたい。」
とんでもない父親だ…
ただ、ザラ家との婚姻が必要なだけ…?
それだけの為にを縛り付けて…
そして自分は他の女と堂々と不倫…ってか?
しかもそっちが本命かよ…。
「信じられねぇ…」
ディアッカは拳を握り締めて呟いた。
「でも…お父様にとっても有難い申し出だったのよ。」
だってそうでしょう?
子供を産めない娘じゃ何処にも嫁に出せないかもしれない…。
だったらいっそ、表向きだけでも何処かに嫁がせたいのが本音。
「私だって…仕方の無い事だって分かってるから…。」
そんな辛そうな目で言われてしまったらディアッカだってそれ以上は何も言えなくなる…。
エレベーターが再び動き出すまでの間、2人の空間に言葉は無かった…。
「ラクスのお陰で素敵なドレスが見つかっちゃった♪ありがとね。」
「いえ。わたくしもに喜んで頂けて光栄ですわ。」
買い物を終えた私達は行き付けのカフェに立ち寄ってティータイムを楽しむ。
「でも…今週末だなんて急なお話ですわね。」
「ホントだよね。急な誘いでごめんね。」
「いえ。特に予定も入っていませんでしたし、大丈夫ですわ。」
ラクスが来てくれるのであれば精神的にも心強い。
本当は不安で一杯なのだけれど、そんな事を言っている暇も無く話は進んでしまうし…。
それに、今更誰かに相談した所で何が変わる訳でも無いから…。
「他にはどなたかお呼びしましたの?」
「あぁ…ディアッカに声を掛けようか迷ったんだけど…。」
「…誘えませんわよ…ね。」
「…ラクス…?」
ラクスの言葉にハッと頭を上げると彼女は柔らかく、そして寂しげに微笑む。
「わたくしがの本当の気持ちに気付いていないとでも…?」
「あ…」
「辛いですわね…。」
「でも…もう決めた事だから…。」
ディアッカを想う気持ちがどれだけ強いとしても…
もしかしたらディアッカも私を想っていてくれているのかもしれなくても…
それでも、私達の道は交わらないの。
ううん。
交わらせてはいけないの…。
私ではディアッカに幸せな未来をあげられない…。
好きだから、お互いに傷付け合うだけの未来になってしまうかも知れない。
だったら…
初めから何も知らないフリをしていたらいいの。
一番気の合う異性の友達…
その線を踏み越えなければいいの…。
「まぁ…素敵ですわ、。」
「ありがと。」
時間はあっという間に流れ、婚約発表の日となった。
結局、ディアッカとは学校でもあまり話も出来なくて…
お互いに気まずいままだった。
交わす言葉は挨拶程度。
今までの私達では考えられない事だった。
それくらいに学校では行動を共にしていたし…
お互いに気を許していたから…。
淡いピンク色のドレスに身を包み、控え室で彼の迎えを待つ。
鏡に映る自分の姿を見て溜息が零れる。
目の前に映っているのは間違い無く自分なのに…
何だか別人の様な気分。
本当に…これでいいのかな…
…何思ってるんだろう…。
今更後悔したって遅いのに…。
今にも溢れそうな涙を堪えるのに必死な私が居た…。
コンコン…
「…っ…はい…。」
「、支度は出来た?」
控え室に顔を出したのはユウナ…
そして、お父様だった。
「綺麗に出来たじゃないか。さすがは私の娘だな。」
「ありがとう…ございます。」
「さぁ、行こうか…?」
ユウナから差し出された手を取り立ち上がると、何とも言えない違和感に襲われた。
私の夫となる相手なのに…。
「それにしても…アスランの奴は何をしているのだ?」
「…会場に来ていないんですか?」
「あぁ。今朝は確かにスーツを着て準備していた筈なんだが…。」
「そう…ですか…。」
もしかして…来てくれないのかしら…。
言葉には出さないけれど、アスランはこの婚約には反対してる。
それは…私の本当の気持ちを知っているから…?
ユウナに導かれながら控え室を出ると、会場まで長い通路が続く。
ドレスの裾を踏まないようにもう片方の手で裾を持ちながら、ゆっくりと歩き始めた時だった。
「!!」
背後から私を呼ぶ声…。
私の大好きな…優しさのこもった声…。
振り返らなくたって誰かなんてすぐに分かった。
「ディア…ッカ…?」
どうしてここに…?
振り向くとディアッカとアスランの姿があった。
「アスラン…お前、今まで何をしていたのだ?
それに君は…確かエルスマン家の…?」
お父様が2人に顔をしかめると、ディアッカは突然土下座をした。
「ディアッカ!?」
「パトリック様!無理を承知でお願い致します!!
この婚約、今すぐに取り消しては貰えないでしょうか!?」
「な…」
何を…言っているの…?
「君は何を言っているのか分かっているのかね!?
大体、どういうつもりなのだ!?」
「彼女の体の事は聞いています!それでも諦め切れません!
を俺に…俺の妻に貰えないでしょうか!?」
ディアッカの懇願に裾を握っていた手が口元を押さえる。
ディアッカが…私の為にお父様に頭を下げて…
そして…私を妻にしたいと…そう懇願しているだなんて…。
「君は言っている意味が分かっているのか?
を妻にするという事は、君は一生、父親にはなれないと言う事なのだぞ?」
お父様の言葉に胸がチクンと音を立てた。
私が一番恐れている事…。
子供が産めないという事は、ディアッカに父親になる喜びを与えてあげられない事…。
自分が母親になれないという事はずっと昔から覚悟していた事だから仕方が無い。
けれど、それを夫となる人にまで背負わせなければいけない…。
それが辛くて仕方なくて…
「は勿論、夫となる人間にも訪れる苦しみだ。
それを、ユウナ君なら託す事が出来ると確信したからこの婚約に踏み切ったのだ。
君には…の苦しみを共に背負うだけの覚悟があるのかね?」
「あります!!」
ディアッカは迷わずに即答した。
「俺は…俺にはとの未来意外は考えられない!
ユウナ・ロマとは違う!!表向きだけの夫婦なんかじゃなく、心からを想っています!
それに…子供の事にしたって、可能性はゼロじゃない!」
力強い言葉にお父様が大きな溜息を漏らした。
こんなに強く…そして真っ直ぐに想いをぶつけて来る人間が他にいただろうか…
「ユウナ君…」
「パ…パトリック様?まさか…」
ユウナに振り返るお父様に何を感じたのか…
私の手を握っていた手を一層強めて一歩下がる。
「今更申し訳ないのだが…最後ににチャンスを与えようと思う。」
「パトリック様!!」
「、聞きなさい。」
「…はい…。」
「後は自分で決めるんだ。」
「え…?」
「ユウナ君との安定した結婚生活を望むのか…
エルスマン家の息子と先の見えない未来を望むのか…。
私はもう、これ以上お前に無理強いはしない。」
それだけ告げると、お父様は先に会場へと向けて歩き始めた。
「どちらの手を取って会場に現れたとしても私は心から祝福しよう。」
「お父…様…」
「、俺は本気だからな…。本気でお前と結婚したいと思ってる。
子供なんて結婚してから考えればいいだろ?が居なきゃ何も始まらないんだよ。」
今でもユウナに握られたままの手…。
それでも怯む事無くディアッカは自分の想いを私にぶつけて来る。
その想いに胸が締め付けられそうになって…
息も出来ないくらいに張り裂けそう…。
「…お前を愛してる…」
「ディア…ッカ…っ…」
その一言に、抑えていた涙が一気に溢れた。
「!?」
「…ごめんなさい…私…あなたとは結婚出来ません。
彼を…ディアッカを愛してるの…。」
握られた手が一瞬緩み、私はそこから自らの意志で抜け出した。
目の前で待つ、彼の胸へと飛び込むと、ディアッカは優しく受け止めてくれる。
「本当に…私でいいの…?」
「じゃなきゃ駄目だ。」
ガクリとその場に膝をつくユウナに対し、アスランは勝ち誇った様に微かに微笑む。
「よし、じゃあ行くか。」
「え!?行くって何処に!?」
ディアッカは軽々と私を抱き上げるとそのまま廊下を歩き始めた。
「何処って…会場に決まってるじゃん?
パトリック様も認めてくれた事だし…早々と婚約発表と行こうじゃないの♪」
「で…でも…!!」
「に悪い虫が付かないように、早めに手を打っておかないとな。」
「…バカね…。」
結局、私にはディアッカ以外の人なんて考えられないのに…。
未来に不安は沢山あるけれど…
ディアッカとならきっと乗り越えられる…
それくらいに、貴方の存在は大きい。
「私…ディアッカの事、幸せにしてあげられないかもよ?」
「上等!俺は幸せにして貰いたくてお前を選んだ訳じゃないからな。」
「じゃあどうして…?」
「俺がお前を幸せにするんだよ♪」
そう微笑みながら迷わず告げるディアッカに、再び涙が溢れ出た。
「ありがとう…大好きよ…。」
だから、誰よりも幸せな花嫁にしてね…?
【あとがき】
クサッ!!
ディアッカ!クサいセリフ吐き過ぎ!!
ユウナ立場無さ過ぎ!!
個人的にはとても満足している作品です。
こんなので申し訳ないですが…(汗)
基本的にシリアスなお話からハッピーエンドに持ち込むのが好きな管理人でして…。
もっと別のパターンにしろよ!ってカンジですよね?
…修行します。
2005.5.21 梨惟菜
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