「ディアッカ、私ね、結婚するみたい。」
「…はぁ??」
いつもと変わらないある日の午後の事…
休み時間になり、いつもの様に移動教室で廊下を歩いている真っ最中の事だった。
「結婚…って…が?誰と?」
「…ユウナ・ロマ・セイラン。」
「はぁ!?」
ユウナ・ロマ・セイランと言えば…
自分達の先輩に当たる人物で、父親は評議会議員。
つまり、上流階級の金持ち息子。
「父親同士が仕事の関係で良く一緒になるのよ。」
だからって…何で急に結婚の話になるんだ…?
ディアッカはに気付かれない様に唇を噛み締めた…。
伝えたい言葉
前編
「おいアスラン!」
放課後になり、ディアッカが真っ先に訪れたのはアスランの教室。
「…どうしたんだ?血相変えて…」
「が結婚するって…その話マジなのかよ!!」
思わず眉をしかめるアスランの表情を見れば返事を聞かなくても分かる。
どうやらの言っていた事は冗談では無いらしい。
「その話はしないでくれ…。
あのユウナ・ロマが自分の義理の兄になるだなんて…考えただけで吐き気がするよ。」
「…やっぱマジなのかよ…。」
「笑えない冗談なんか言う筈ないだろ?」
「はぁ…」
「…どうしたんだい?これで7回目の溜息だよ?」
「あ…いえ。何でもありません。」
まだ正式に発表されてはいないが、私はこの人といずれ結婚する事になる。
好きでもないこの人と…。
決して嫌いではないのだけれど…性格的にきっと合わない気がするのだ。
それでも、セイラン家の方から持ち掛けてくれた縁談…。
お父様がこんな申し出を断る筈が無い。
私にだって…断る理由が無い…。
だから、この結婚話は何の障害も無くスムーズに進んだ。
「あぁ…もうこんな時間か。
そろそろ帰るよ。また明日、会いに来るからね…。」
「…お待ちしています。」
ガチャ…
ユウナが客間を出ようとした時、扉が先に開き、アスランが姿を現した。
「あ…お帰りなさい。」
「ただいま、姉さん。」
「やぁ、アスラン。」
「…どうも。」
アスランはユウナの顔を見るなり、不機嫌そうに顔をしかめる。
「相変わらず嫌われてるみたいだねぇ。じゃあ、また明日。」
「気持ちは分かるけど…もう少し愛想良く出来ない?」
「…そう言われても…俺だって精一杯努力してるつもりなんだけど?」
元々、他人と関わる事を好まないアスランには無理な注文かも知れないけれど…。
アスランは私の将来の夫となる人が気に入らないらしい。
「ディアッカがショック受けてたけど?」
「あ…」
そう言われて、は沈んだ表情になる。
「別に姉さんを困らせたくて言ってるんじゃないんだ。
姉さんが決めたなら仕方ないとは思ってる。
けど、本当にそれでいいのか?それで幸せになれる?」
『幸せ』…?
幸せって…何…?
どうする事が幸せなの?
私にとって、一番の幸せは何…?
ガチャ…
「2人とも…ここに居たのか。」
「…父上…」
「お帰りなさい、お父様。」
「あぁ…。」
普段は遅くまで評議会に籠りっきりのお父様がこんな時間に帰宅なさるなんて…。
「あぁ、。」
「はい?」
「彼との婚約発表のパーティーの日取りが決まった。」
「…はい…。」
「今度の週末だ。予定は空けておくように。
それから、パーティー用のドレスを選んでおきなさい。」
「はい。」
「アスランもだ。弟としてきちんとした正装で出席して貰うからな。」
「…分かりました。」
その事を伝える為に早く帰宅したのだろうか…。
アスランは父の言葉に一層、顔を歪ませた。
何もかもが納得行かないこの話…
しかし、当事者である姉のは何の反論も無く受け入れる。
姉さんには好きな人が他に居る筈なのに…
どうしてこうも簡単に婚約の話を受け入れるのだろうか?
理由を問い質しても一向に答えてくれない姉…。
何か…隠し事をしている姉。
しかし、その理由がどうしても思い当たらなくて…。
「じゃあ明日早速ドレスを見に行こうかしら…。
やっぱりラクスに見立てて貰うのが一番よね♪」
アスランの不満とは裏腹に、無理にはしゃいで見せるは客間を後にした。
1人客間に取り残されたアスランは、ドサッとソファーに深く腰を下ろす。
「姉さんの好きな人はディアッカだろ…?」
「そう、それでドレスを見に行きたいんだけど…明日の放課後って空いてない?」
『勿論空いていますわ。の為でしたら他の用事を断ってでも参ります。』
「本当?嬉しいな♪じゃあ、明日の放課後ね。」
『はい。楽しみにしていますわ。』
ラクスとの通信を終えた私はベッドに思い切り倒れ込む。
ここ数日は色々と忙しくて…なかなか落ち着く時間が無い。
学校が終われば婚約者殿のお相手。
こんな毎日の繰り返し。
「週末か…。」
枕元に置かれた小さなカレンダーを手に取り、指でなぞる。
「おはよう、ディアッカ。」
「あぁ…。」
翌日もは何事も無かったかのようにディアッカに笑顔で挨拶をする。
昨日のショックから立ち直れないディアッカは浮かない表情で返事を返した。
「顔色良くないよ?大丈夫?」
「…大した事無いって。」
心配そうに覗き込んで来るを避けるように、ディアッカは視線を逸らした。
その反応には顔を歪める。
「そっか…ならいいんだけど…。」
入学した時から同じクラスで…
何故か気の合った2人は共に行動する事が多かった。
それなりに親しい同性の友人は居たものの、ここまで心を許せる相手は他に居なくて…。
性別を越えた友情…。
そんな関係だった。
勿論、それは表面上の事であって…。
実際にはお互いに特別な異性として意識している。
2人とも同じ感情を互いに抱いている…。
それでも越える事の出来ない、一つのライン。
その一歩手前の状態で2人は良い関係を築いていた。
しかし、の突然の婚約宣言に事態は一変する。
いつかは告げようと思っていたこの気持ち…
しかし、告げる前に切れてしまった糸…
の気持ちは自分の元には無かったのだ…。
それは仕方の無い事だと分かってはいるけれど、理性と感情は別物。
今まで通りに接したいとは思うけれど、なかなか上手く行かない。
それが、男と女の難しい所なのかも知れない。
仕方の無い事なのだけれど…
ディアッカが私を避けてしまうのは当然なのかもしれないけれど…
それでもやっぱりディアッカの側には居たいと思う私は我が侭なのでしょうか?
私には婚約者が出来てしまったのだから…
他の異性と友達としてでも付き合うのはいけない事なの?
だから…ディアッカは私を避けてしまうの…?
少し…2人の間に出来上がってしまった小さな溝…。
それが少しずつ少しずつ大きくなって…
結局、男女の友情なんて成立しないのだろうか…。
それとも…婚約者が居る身でありながらも心の奥底で他の男性を思ってしまう自分がいけないのだろうか…。
「そのエレベーター!待って!!」
今にも閉まりそうなエレベーターに向かっては叫ぶ。
中に乗っていた人物はその声に慌ててドアを抑えた。
「…ゴメンナサイっ!助かっ…!?」
顔を上げるとそこにはディアッカ。
ディアッカも声の主に気付かなかったのか…驚いた表情でを見つめる。
「ディアッカだったんだ…ありがと。」
「いや…別に…。」
2人を乗せたエレベーターがゆっくりと下降する。
ガタンッ!!
「何!?」
突然止まってしまったエレベーター。
「故障かよ…くそっ…」
ディアッカが慌てて非常ボタンを押すが反応が無い。
「停電かな…?」
「応答があるまで待つしかないか…」
よりにもよって2人きりで閉じ込められてしまうなんて…
エレベーターから外の景色が見えるのが不幸中の幸いか…
ディアッカは無言で外の景色に目を向けた…。
その時、ディアッカの視界に見覚えのある人物が飛び込んで来る。
「あの男…」
それは、間違い無くの夫となる筈の婚約者。
ちょうど裏庭に当たる場所で…
よりにもよって…キスをしている真っ最中。
ちょっと待てよ…てめぇの婚約者はここに居るだろう…?
「あ〜あ…こんな目立つ所でよくやるわね…。」
「え…?」
婚約者の浮気現場とも言える現場を目撃してしまったというのに、は意外にも淡々としていた。
「…お前…」
「知ってたよ。他に恋人が居るって事くらい。」
「じゃあ…何でそんな奴と結婚するんだ!?
そんなにアイツが好きなのかよ!!」
ずっと居た俺なんかよりも…目の前で他の女とキスしてる男がいいのか!?
「…好きなんかじゃないわ…。私も…あの人も…。」
何を…
「私達はお互いに利用し合ってるだけなの…。」
の言った言葉の意味が分からなくて…
ディアッカはただ、の次の言葉を待つしか無かった…。
愛情の無い婚約なんかに意味なんてあるのかよ…
【あとがき】
ディアッカ夢です。
前後編にしてみました。
このストーリーもサイト開設時から考えていた作品で…
問題は誰の夢にするか…という事で考えてたんですね。
全く接点の無いディアッカとユウナを敵対させてみました♪
ちょっとだけシリアスにしたつもりです。
本当はアスランの妹設定にしたかったんですけど、
よく考えたらディアッカはアスランより年上じゃん…
それじゃあクラスメイトとして成り立たない…(汗)
なので急遽お姉さんになりました。
アスランが軽くシスコン入ってます(笑)
では、後編も読んでいただけると嬉しいです♪
2005.5.19 梨惟菜
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