「えっと…道はこっちでいいのかな…?」






「そうだな。地図通りに進めばこの道を真っ直ぐだ…。」







ハンドルを握るのは珍しく…。




助手席で地図を広げ、目的地を確認するのはアスラン。







いつもとは逆の配置…





本来ならば、運転に慣れているアスランがハンドルを握るのが当たり前の光景…。
























 かけがえのないもの






















前日の朝…









「買い物?」




『はい。お願いできますか?』








晴れた日の朝…




ラクスから送られて来た通信とメール。




そこには買い物リストがぎっしりと書かれていた。
















『では、宜しくお願い致しますわ。』






オノゴロへ移住した私とアスランとは違って、孤島で生活を続けるキラ達。




だから、必要な物を買って届けたりしている。






いつも、私かアスラン…場合によってはカガリが買い出しに出ていた。




















「明日なら丁度お休みだから…私行って来るね。」





「…も休みなのか?」





「え?アスランも?」






なかなか休日の合わない私達は、一緒に住んでいてもなかなか生活が噛み合わない。




それでも一緒に居られるだけで十分だからと…それなりに幸せで平凡な毎日を送っていた。




でもやっぱり…たまには2人でのんびり休日を過ごしたいな…って思うけど。



















「なら…2人で買い物に出掛けようか…」




「…うん!」









ここまでは…ごく普通の日常会話だった…。































「…アスラン…?」




いつもなら張り切って助手席のドアを開けてくれるアスラン。





なのに、翌日のアスランはいつもと違う行動に出た。






先に車へ向かったアスランは、何故か助手席に座っている。






の席はこっち。」




ポンポン…と…




アスランは運転席のシートを叩き、座るように促す。





「え…?私が…?」





私に運転しろ…と…?





「出来るんだろ?」




「そりゃあ…出来ない事は無い…けど…」






何故にわざわざ…私に運転を…?




アスランが運転した方が確実に早く着くと思うんですが…








「必死にハンドル握ってる、きっと可愛いと思うんだ。」





「…っ…!!」






そうやって口車に乗せられて…ハンドルを握る羽目になってしまった…。




しかも、いつも行く近場の街に行けばいいのに…


今日に限って少し遠い、行った事の無い街を指定するなんて…。





虐め?


これは虐めなの??
































「あ〜疲れた…。」




ただでさえ慣れない運転に加えて、走る道は初めての場所ばかり…。




ようやく到着したのに、既にお疲れモードの











「お疲れ様。運転、上手いじゃないか。」




「…もう帰りは運転しないからね…。」






そう言いながら、車のキーを押し付けるようにアスランに渡す。




はいはい…と微笑みながらもアスランもそれを受け取る。










「じゃあ行こうか…。」




差し出された手…



それは勿論、アスランから送られたサイン。





「うん。」




も迷わず、その手に自分のものを重ねた。




















「重かったぁ…」





リストに書かれた物を全て買い終え、その荷物を車に乗せる。




思っていた以上にその買い物の量は多くて…気が付けばお昼を回ってしまっていた。






「まだ時間はあるな…もう1回戻って買い物しようか。」




「ホント?」




「あぁ。折角出て来たんだし…。」




















「良く考えたら…こうして2人で買い物って初めてだな。」





「そうだよね…。」







…って言うか…2人で並んで歩く事さえ初めて。




そりゃあ…子供の頃は一緒にこうして過ごしたけれど…




恋人になってからは初めて。




うわ…初デート…?









「……?」






急に頬が熱くなって…思わず俯き加減になってしまう。






付き合って結構経つのに…これが初デートだなんて…







「…初めてのデートだな…って思って…。」




「そう…だよな。言われてみれば…。」













本当に…付き合って結構経つのにな…。





仕事は忙しいわ、邪魔は入るわで…



デートどころか、2人きりになれる時間すら短かったり…





一緒に住んでなかったら今の状況には耐えられなかっただろうな…。















「…って言うか…イザークとはあるんだよな?」




「はい?」





何で急にイザーク??





「ホラ…オノゴロに潜入捜査に入った時…」






そう言われて…約1年とちょっと前の記憶が蘇る。






5人でこの島へ忍び込んだあの日…




確か、二手に分かれて捜索をする事になって…イザークに強引に連れ出されたんだっけ…。




懐かしいな…




ずっと手を握られたままで何も言えなくて…



一緒に神社に行ってお参りして…お守りも買ったんだっけ…












…」




「うん?」




「今、イザークの事考えてた?」




「…話を持ち出したのはアスランでしょ?」





拗ねてる顔…



もしかしてこれは…ヤキモチ??






「ずっと聞きたかったんだけど…」



「何?」




「いつまで手、繋いでたんだ?」




「…そんな事まで覚えてたの!?」








てっきり私だけだと思ってたのに…










「…ずっと…?」




「ずっと!?」





「だ…だって!イザークってば何も言わないし!聞きにくいし!

 しかもあの時はもうアスランの事は忘れてイザークを恋愛の対象として見ようと努力してた時だし!」







何で今頃になってこんな話をしなくちゃいけないのよ…





「…こんな話…やめよう?ね?」




それでもやっぱりアスランの顔は不機嫌そうで…



気を引こうと、絡めていた手を離し、腕にしがみ付いた。




だって…今こうして傍に居るのはアスランなんだもの…。





私にはアスランしか居なくて…




イザークには本当に悪いけど、やっぱりこうして一緒にいられるのはイザークのお陰かも知れないから…。







「ね?買いたい物があるの。付き合ってくれる?」




「何が欲しいんだ?」





「色々あるのよ?折角一緒に住んでるんだもん…。」







生活用品もまだまだ揃ってないし…





「お揃いのカップとか歯ブラシとか…お部屋のインテリアも同じ色に統一させたいじゃない?

 あ、アスランって今もパジャマ派?」






模様替えが大好きならしい買い物…



折角一緒に住んでいるんだから、同棲っぽい事がしたいって…ずっとそう言ってたな。




お揃いか…







「パジャマもお揃いがいいけど…やっぱそれは無理かなぁ…?」






1人で呟きながら、色々と物色する





あぁ…平和だな…





君が目の前で無邪気に笑ってくれて…



共に過ごす時間を穏やかなものに変えてくれて…




誰よりも安らげる相手。






何も無い…こんな時間が幸せなのだと感じさせてくれる大事な人…。











「お揃いのパジャマか…悪くないかもな…」




「え?」





「あぁ…でも、ピンクとか…女の子っぽい色は遠慮したいけどな…。」






「じゃあ…アスランの瞳と同じ色にしよっか♪」





深い翠色…



凄く好きな…私を安心させてくれる色…










「そうだな…じゃ、一緒に選ぼう。」








朝目覚めたら同じ色…




お揃いの物に囲まれて2人で過ごす毎日…




そんな何気ない毎日が、かけがえの無い幸せとなる様に…






ただ、君と居られる事が俺の幸せだと…





言葉で伝えられたらどんなに幸せだろうか…。



















【あとがき】

久し振りの「歌姫」番外編。

お買い物デートとのリクでしたが…

運命編だとどう頑張ってもそんな余裕は無い(汗)

…と思いまして、一応、設定は種〜種Dの間の設定。

あんまりお買い物のシーンが入ってないです…

Blue Moon様、すみません〜(>。<)

何故か昔の話を持ち出して拗ねるアスランとか…今更?

結構こだわりそうな人かな…と思いまして…。

こんな駄文で申し訳無いです(汗)







2005.10.11 梨惟菜












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