「そろそろ雨の時間、終わるね…。」
窓の外を見ながら、は寂しそうに呟いた。
地球育ちのコーディネイターであるは、100%当たるプラントの天気が嫌いらしい。
…と言うか、調整された天気が気に入らないそうだ。
「そんなに雨が好きなのか?」
が振り返ると、長い金色の毛先から甘い香りが漂う。
「好きって言うか…。雨の音聴いてると落ち着くの。」
「雨の音が?」
「うん、そう。色んな音がするでしょ?」
雨粒の落ちる場所や、量によって変化する音…。
それがとても心地良くて…。
だかた、雨の時は窓際で過ごす事が多い。
「アスランは無い?落ち着く音とか空気とか…。」
「あるよ。」
目の前で興味深そうな目をするを、フワリと腕の中へと収めた。
「…アスラン?質問の答え…は?」
アスランの突然の行為に戸惑いながらも、は再びアスランに問う。
「とこうしてる時が一番落ち着く。」
質問の答えに、は頬を赤く染めた。
「私…この音も好きなのよ?」
「どの音?」
「アスランの…心臓の音。」
恥ずかしそうに口を開いたは、アスランの胸に顔を埋めた。
規則正しく、一定のリズムで響く心音…。
こうして抱き締められた時には、必ず彼の心音に耳を澄ます。
「やっぱりダメかぁ…。」
雨が止んで、辺りが明るくなった…。
テラスに出たは、目の前に広がる景色に溜息をついた。
「何がダメなんだ?」
「虹。やっぱプラントじゃ見れないんだね。」
雨自体、人工の物だし…虹なんて出る筈も無く…
「アスラン、知ってる?虹の麓には宝物があるのよ。」
「…は?」
の台詞にアスランは首を傾げた。
「虹の麓って…理論上は無理な話だろ?」
「もう…ロマンが無いのね。だから『宝物』なんじゃない。」
ホント、女の子はこの手の話が好きだな…。
「地球に居た時にね、何かの本で読んだの。
確かにあり得ない話だけど、そう思うとワクワクするじゃない?」
嬉しそうに喋るの髪の毛が、雨上がりの風でサラサラと揺れる。
「虹か…見てみたいな…。」
そっとの毛先に指を絡めながら、アスランはを後ろから抱き締める。
「そっか…アスランはずっとプラント育ちだもんね。」
地球は年々、コーディネイターには住みにくい環境になっていて…
の家族がプラントへ移住したのもそれが理由。
ブルーコスモスの脅威に脅えながら暮らしたくは無いから…。
それでも地球が大好きだったには寂しい事で…。
アスランと出逢わなければ、プラントの生活にも馴染めていなかっただろう。
「いつか…2人で行けるといいなぁ…。」
「そうだな。2人で虹が見れたら最高だな。」
2人で地球に行く日を互いに想像する。
プラントには無いモノが沢山ある地球…。
作られたものでは無い、自然の宝庫。
2人で海辺を散歩して…少し木陰で寄り添って休んで…
突然のスコールに慌ててみたり…
何が起こるか分からない自然の世界…。
予測の出来ない天気…。
それをアスランと一緒に感じられるだけできっと幸せ。
普段の何倍以上も世界が綺麗に映るだろう。
全ての景色、空気が新鮮で美しく感じられるのだろう。
「宝物って…何だろうな…。」
「そうだね…。気になるね。」
久しく見ていない虹に思いを馳せると
話にしか聞いた事の無い虹を思い描くアスラン。
一緒に過ごすようになって、一緒に同じ目線で同じ物を見るようになって…
同じ思いを共感していくようになった。
それでも、2人が見て来た物は世界に散りばめられた物のほんの一部に過ぎない。
どちらかが知っていて、どちらかが知らない物…
2人とも知らない物…
数え切れない多くの物がこの世に存在する。
「じゃあ…俺達の新婚旅行は地球かな…?」
「え…?」
抱き締めていた手を少し緩めたアスランには顔を見上げる。
視線の先には、アスランの柔らかい笑顔。
「もしかして…の人生プランには組み込まれて無かった?」
ちょっとだけ困ったように微笑んだアスランに、はフルフルと首を横に振った。
「ううん…そうじゃないの…。
そうなったらいいなぁ…って思ってたけど…何だか…夢みたいで。」
「じゃあ、確かめてみる?」
「え?」
直後に重ねられた唇から伝わる温もりは紛れも無く本物で…
唇が離れたのと同時に、一粒の雫が頬を伝う。
「…俺と結婚しよう。」
「…拒否権は無い言い方だね。」
「勿論。は俺と結婚するって決まってるんだよ。」
「…光栄です。」
2人が虹を求めて旅に出るのも…遠くない未来のお話。
【あとがき】
凄い久し振りにお題夢書いてみました。
前回の作品…3ヶ月前だよ…(汗)
しかもかなりシリアスな話だったので…
今回はちょっぴりほのぼの系?
甘めに仕上げてみました♪
やっぱりアスラン夢が一番書きやすい…ですね。
もはや妄想の域ですけどね…。
2005.5.28 梨惟菜
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