「ようこそいらっしゃいました。今日はお庭においでですので、どうぞお入り下さいませ。」
「すみません。失礼します。」
珍しく使用人に出迎えられたアスランは、ゆっくりと邸内へ入った。
相変わらず華やかに彩られた玄関…。
いつも必ずと言ってもいいくらいに出迎えてくれる婚約者は珍しく居ない。
使用人に言われた通り、アスランは庭へと続く廊下を進んで行った。
今日はどんな格好なのかな…
笑顔で出迎えてくれるだろうか…
持って来た花を気に入ってくれるだろうか…
自分を見た時、彼女はどんな風に微笑んでくれるのかを想像しながら…
優しい時間
庭へと近付くと、明るい笑い声が聞こえて来た。
紛れも無く、愛しい婚約者とその妹の声…
楽しそうに談笑する2人の元へと挨拶に入ろうと思ったその時、つい立ち止まってしまった。
2人の会話の内容が原因で…
「そろそろお付き合いして半年ですわね。アスランと。」
「…そうね…。」
目の前の双子は、自分の話で盛り上がっている様で…
そうなると少々、入りにくくなってしまう。
「そろそろ…プロポーズがあっても宜しい頃ではありません?」
「え!?」
プ…プロポーズ!?
「え…えっと…でも…」
急に言葉に詰まってしまうとは逆にラクスは嬉しそうに続ける。
「アスランは素敵な方ですわね。わたくし、色々と試させて頂きましたのに、なかなか動じませんし…。」
そう…
時にはの振りをして振舞ってみたり…
時にはデートの尾行をしてみたり…
時には見舞いに来たに同行してみたり…
思い返せば、ラクスには色々と妨害…いや、テストをされていたな…。
それも大事な姉を思うが故…なのだろうか…。
「アスランでしたら…安心してを任せられますもの。」
ラクスが柔らかく微笑み…
それに対しては頬を染めて照れくさそうに微笑み返した。
「は…どんな風にプロポーズされたいですか?」
「え…?」
の理想のプロポーズ…
思わず、息を止めてその場に佇んでいる自分…
仮にも婚約者だと言うのに何をコソコソと…
そう思いつつも、何故か聞いておきたくて耳を傾けた。
「きっと…アスランに言ってもらえたらそれだけで幸せよ…。」
好きな人からずっと一緒にいて欲しいと言われるんだもの…。
どんな風に言われてもきっと嬉しい。
ううん…嬉しくない筈が無いの。
泣いちゃうかもしれない…
「そんな日が来るのが楽しみですわね…。」
「う〜ん…」
数日後…アスランは自宅で悩んでいた。
結局、の口から明確な答えは出なくて…
盗み聞きしていたという罪悪感もあり、本人に直接聞く訳にもいかず…
プロポーズか…
よく考えてみれば、男にとっても女にとっても一生に一度の一大イベントの1つ…。
何て言ったらいいのか…
やっぱり一緒に指輪も贈るべきだよな…?
それとも、一緒に選びに行った方がいいか…?
あぁ…その前に彼女の指輪のサイズを知らない…。
じゃあ…花だけ贈ってやっぱり一緒に選びに行く…?
気が付けば頭の中はプロポーズの事で一杯。
『きっと…アスランに言ってもらえたらそれだけで幸せよ…』
彼女のその一言だけで舞い上がっている自分…。
俺だって…が頷いてくれたらそれだけで幸せだ。
婚約者であるのに、具体的な将来の話はほとんどしていない。
週に3日くらいのペースで彼女の自宅に通って…月に2回のペースで外でデートして。
ごく普通の恋人同士。
でも、始まりは『婚約者』だったんだ…。
結ばれるべくして出逢ったんだ…。
ここから先は…俺が…
「こんにちは、アスラン。」
今日は玄関先で出迎えてくれた。
「こんにちは。。」
いつも通り、来る道で買った花束をに差し出すと、彼女も嬉しそうに微笑んで受け取る。
「いつもありがとうございます。凄く綺麗なお花ばっかりでとても嬉しい。」
サンルームに入ると、は早速花を花瓶に活け始める。
が花を活ける姿を見るのがとても好きで…
俺はいつも、彼女の横顔を見ながら微笑む。
「今日はラクスも朝から出掛けてしまっていて…こうして2人でお話するのは久し振りね。」
「そうだな…。」
ラクスには申し訳ないが…絶好の機会だと思ったのもまた事実。
「…」
「はい…。」
「大事な話があるんだ。聞いてくれるかな?」
「はい。」
真剣な眼差しに応じるもまた、真剣な瞳で向かい側に座った。
「俺達が出会って…もう半年になる。」
「はい。」
「それで…俺も色々考えたんだけど…」
「はい…」
「俺と結…」
婚してくれないか…?
そう言おうとしたその時だった。
ピルルルルッ!
「あ…ごめんなさい…ちょっと失礼します。」
サンルームの通信機が鳴り始めた。
脱力感…
思わず、テーブルに顔を伏せた。
『、アスランはいらっしゃいました?』
通信の相手は…またタイミング良くラクスだった。
「えぇ。丁度さっきいらした所よ。」
『さっき、お店での好きそうなお洋服を見つけましたの。』
「え…?」
『そのお洋服、1点物だそうですわ。急がないと売れてしまうかもしれませんし…今からお2人でいらしては?』
その言葉に惹かれたは、チラリとアスランを振り返る。
「…じゃあ…行こうか…」
「はい!」
「アスラン…大事なお話の途中でごめんなさい…。」
「いや…いいんだ…」
「続き…車の中でも宜しければ…聞かせて下さいませんか?」
「そうだな…また…今度にするよ。」
「そう…ですか…?」
今度こそ邪魔の入らないシチュエーションを作って…
ハッキリと自分の気持ちをに伝えよう。
アスランは堅く心に誓うのだった。
【あとがき】
こうしてほのぼのと物語を発展させて行くお話も楽しいですね。
気が付けばシリーズ化している『Twins』ネタ。
遂にアスランのプロポーズまでやって来ました!
が、やはり最大の敵はラクスなのでしょう。
彼女の場合、計算なのか天然なのか…
そんな所がなかなか可愛らしくて私は好きです。
沙迦羅様、お待たせ致しました。
こんな感じの仕上がりでいかがでしたでしょう?
2005.8.24 梨惟菜