『誕生日』



それは一年に一度しか訪れる事の無い大事な記念日。




その人がこの世に生を受けた大事な大事な記念日。




分かっているんだけど踏み出せない一歩。




『おめでとう』




たったこの一言だけでいい…




あなたに伝える事が出来たらいいのに。
































いちばん欲しいもの



































「も…ダメ…」




何度目かの溜息に疲れた私はベッドに深く深く顔を埋めた。




最近の私は溜息ばかりで自分でも嫌になる。





だから恋って嫌い。





恋が活力になる人って沢山いると思う。




でも私にとっては活力になんてなりもしない。





考えれば考えるほどに頭が痛くなるし、何も出来なくなる。





活力どころか脱力…





やめたいのにやめられない。





知らなければこんなに悩む事だって無かったし、溜息だってきっと今の半分以下で済んでる。





私の溜息の原因…




『恋』が8割、『仕事』が2割。

























、おはよ。」





「…お…はよ…」





何てキラキラした笑顔…




あまりに眩し過ぎて直視出来た事なんて一度だって無い。





正直、その辺の女の子よりずっと可愛い顔してる。





…男子が『可愛い』なんて言われたって嬉しくないと思うけど。





でも、シンを形容する言葉を考えれば『可愛い』が一番だ。




勿論、私にとってはそれだけじゃない。





真剣な目付きになったシンは『カッコいい』。



男の子なんだな…って感じる瞬間だし…ドキッとする。






心臓に悪い存在。








シンに対する感情が『恋』であると自覚してしまった以上、直視なんて出来ない。





シンの周りだけ違う空気が流れてるみたい。





シンの纏う空気が神聖なものに感じられて近付く事が出来ない。






好きで好きでどうしたらいいかなんて分からない。







だって、シンは私に『仲間』として接してくれてる。





だからその『仲間』の枠を外れてしまったら…





そう思うと怖くて怖くて…





何て臆病者なんだろう…





今の関係が変わってしまう事が怖い。





けれど、好きと気付いてしまった以上、今まで通りに接する事も出来ない。





不器用なの…何に対しても。






シンに見つめられたら動けなくなるし、シンが他の女の子と話してたらモヤモヤする。



























「シン、誕生日プレゼント、欲しい?」






思わず持っていたカップを落としそうになってしまった。





いつものメンツに囲まれるシンを遠目に眺めるのは日常的な風景。





シンにレイ、ヨウラン、ヴィーノ。


それとホーク姉妹。





そっか…もうすぐシンの誕生日だっけ…。














「欲しい物…?別に今は特に…」





「シンってキャラに合わず物欲無いなー。」







プレゼントかぁ…




どう頑張っても私には渡せないだろうな…。





まずは顔見て話せるようにならなきゃ到底無理…。






カップの中身を一気に飲み干した後、勢いよく立ち上がる。




















「あれ…?、香水変えた?」






「…え…?」





シンを取り囲むグループを通過したその時、ルナマリアが問いかけた。







「あ…ホントだ。前はイチゴの香りだったよな…。」





「え…何で知って…」






ルナより先に歩み寄って来たのはシン。





って言うか何で知ってるの!?








「あ…あの…香水って言うか…シャンプーだと思うんだけど…。」






「そうだったんだ…?香水だと思ってた。」






「…使ってたのが…昨日切れちゃって…借りたの…。」






「ふぅん…俺、イチゴの方が好きだな…。」






「え…あ…イチゴ…好きなの…?」





「あぁ、そういう事じゃなくて、いつもの香りの方がに合ってるかな…って。」





「あ…ありが…と…」























もう無理…




今日はシンに近付き過ぎた…っ…




何であんなに無防備なのよ…





絶対に挙動不審だった…心臓の音聞こえてたかも…




頬だって熱いし、絶対に赤くなってたー!!










「…シャンプー…買いに行こう…」







我ながら単純だなぁ…




好きな人の一言で一喜一憂。






ちょうど午後からはオフだし…








そう思って上着を脱いだ時…











ー、居るー?」





インターフォンの音と同時にメイリンの声。









「…えっと…どうしたの…?」





扉を開放するとホーク姉妹の姿。







「午後からオフでしょ?買い物行かない?」






「…え…と…」




















































「あ、お前らも買い物?偶然じゃん…。」






街へ繰り出せば知り合いの姿。





基地から一番近い街だからオフになれば当然の光景なんだけど…






「って言うか、とホーク姉妹が一緒って珍しくない?」









珍しいというか…初めてだと思うんですけど…





誘われるがままに同行していたら男性陣と遭遇して…







「あぁ、愛用のシャンプーが切れてたって言ってたからきっと買い出しに行くんじゃないかな…って誘ってみたの。」






…そうだったんですか…




って言うか…シンに会っちゃうならもっとオシャレして来れば良かった…


















シンの私服姿…




オシャレだし…凄い似合ってるし…





モテるんだよね…きっと…。







「で?男子達も買い出し?」






「まぁ…そんなところ。」

































「…あ…コレ…」





シンに似合いそう…




フラッ…と立ち寄ったアクセサリー売場。




メインで並んでいるのは男性向けのアクセサリー。





私の目に留まったのはシンプルなシルバーのブレス。




















「いいじゃない…買っちゃえば?」





「えっ!?」





「シンに…でしょ?」





「な…なんで…」






「ん〜…見てれば分かるって言うか…」






「私、そんなに分かり易い?」






「…まぁ…ね。」






やだ…




これじゃ今まで以上にシンの顔が見れなくなっちゃう…。










「それ、買うの?」






「…ううん…そこまで親しくも無いのに渡せないし…」






「…それじゃいつまで経っても進展しないじゃない。」






「…進展するなんてありえないと思うし…。」






「そうかなぁ…。」





















「じゃ、ちょっと行って来るね。」




「うん、気を付けて。」






一通りの買い物を済ませてカフェに入った。





まだ少し見たい物があると言い、荷物を預けたホーク姉妹は再びショップへ向かう。






パワフルだなぁ…。












「ここ、いい?」





「え…っ…」





突如目の前に現れたシンに驚いている間にシンは目の前に腰を下ろした。







「…ヨウラン達…は…?」





「まだ買い物あるって荷物だけ預けてった。」





「…そう…」










気まずい…







「シン…って…」





「…何…?」





何か言わないと…



そう思って考え抜いて出た言葉が今後の人生を大きく左右するなんて思ってなかった。














「何で…欲しい物、答えなかったの…?」






「え…?」





「今朝…ヨウラン達に聞かれてたでしょ?プレゼントに何が欲しい?って。」






「あー」







「物欲無いよな…って。欲しい物…無いの?」











そう問い掛けたらシンは何だか悲しそうな顔で微笑んだ。









「一番欲しい物は絶対に手に入らないから…。」






一番…欲しいもの…?







「お金で買える物だったら良かったのにな…」










あ…





「…ごめん…」





「え、何でが謝るんだよ…」





「思い出したく…無かったよね…」







シンはプラント出身じゃなかったんだ…








「でも忘れちゃいけない事だから…気にしないで。」





「…うん…ごめん…」





「また謝る…。」





「あ…」




















「でも…欲しいなぁ…ってものはあるかも…。」





「え…何…?」





「…。」





「…?」






が欲しい。」






「…はい…?」








が好き。」

















え…





ええええええー!?




















「何で…私…?」





「何でだろう…。」





あまりに急な告白で冗談なんじゃないかと思ってしまう。




夢…なのかもしれない。




さっきまであんなに煩かった心臓の音がピタリと止んでる。





さっきまでまともにシンの顔が見れなかったのに、冷静に見つめ返す自分が居る。












「…あんまり笑わないよな…って。」





「…え、そう?」




それはきっと…シンが近くに居る時だけだと思う。




自覚はあるもの。




シンが近くに居ると思うと緊張で素直に表情が出ない。






「笑った顔が見たいな…って思ってて。

 そしたら凄く気になり始めて目で追うようになってて…。」





目で…追う…?




それはつまり、見られてたって事…ですか…?









「他の奴の前では笑ってるのに何で俺には笑ってくれないんだろう…って。」






急に煩く騒ぎ始めた私の心臓。






「ヤキモチなんだな…って気付いてさ、自覚したんだ。」






























「わ…私…」




「うん?」




「プレゼント…買ってないの…。」





「…プレゼント?」





やっと開いた口が勝手に喋り始める。







「あの…シンに似合いそうなブレスレットを見付けて…買おうと思ったんだけど…

 私なんかがプレゼントするのは不自然かなって思っちゃって買えなくて…」






だって…



目を見て話す事さえ出来ない私を好きだなんて…思わないでしょ?




シンの周りにはもっといっぱい魅力的な女の子が居るでしょ?







「…俺、プレゼントなんてねだってないよ?」




「そう…じゃなくて…

 シンが好き…だから…単純にお祝いしたくて…」





喜んでくれる顔が見れればそれで良かった。




でも、渡す勇気が無くて…それどころか買う勇気さえ無くて…








「あの…もし、私がプレゼントを渡したら…受け取って貰えますか?」





「…………」






問い掛けたら、シンは驚いたように目を見開いた。








さ、俺の話、聞いてた?」




「え?」




「俺は『が欲しい』って言ったんだけど…。」





「え…あ…うん…」





「だから、が傍に居てくれたらそれだけでプレゼントになるんだけど?」




「や…ちゃんと形に残る物を贈りたい…んですけど…」







「…まぁいっか。

 はちゃんと俺の気持ちに応えてくれたワケだし。

 あ、でも1つだけ条件があるんだけど。」





「…何?」









ふと顔を上げると、シンが私の隣に移動して来て耳元で囁いた。









「…俺とお揃いの物、身に着けてくれる?」































































「で、結局お揃いのネックレスなんだ?」





「…最初に見てたのはブレスレットよね?」





「…シンが…常に身に着けていられる物がいいって言うから…。」






「確かに手首は外さないといけないもんねー。」




「シンってば確信犯♪」





「でも良かったじゃない。2人だけで誕生日を過ごせて♪」





「ちゃんと『おめでとう』って言えたんでしょ?」







「き…聞かないでっ!!」














何度思い返しても顔から火が出そう…




シンが思ってた以上に独占欲が強かった事。




2人きりになったら凄く甘えて来る事。





新しいシンを知れば知るほど、ドキドキが増えていく。






やっぱり私にとって『恋』はまだまだ活力にはなりそうに無い…。


























【あとがき】

2週間以上遅くなってしまいましたが…

シンちゃん、お誕生日おめでとうございます。

何だか設定が激しく曖昧なヒロイン。

勢いで出来上がってしまった感じですが…

お読み下さいましてありがとうございます。



2007.9.17 梨惟菜







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