不機嫌

















「う〜〜〜〜」




今日もは朝からヤキモキしていた。





毎朝の事とはいえ、その様子を傍らで見ているシホもイライラして仕方が無い。






「あのねぇ……」



「言わないで!もう十分過ぎるくらいに分かってるから!」




シホの言葉を拒絶しつつも、再び唸り始めるにシホも溜息。











「よし!仕事しよう!」




「は?」




「そうよ!さっさと仕事片付けなくちゃ!」





自分にそう言い聞かせ、は工具を片手に格納庫へと駆け込んで行った。






















「ジュール隊長ぉ〜♪」





食堂では女子達の黄色い声が飛び交う。




その群れの中心に座るのは、この隊の隊長であるイザークと、その補佐のディアッカ。





元クルーゼ隊のトップエリート2人は女子に絶大なる人気を誇っていて…



ジュール隊志願兵の女性率は圧倒的だった。





とにかく凄い競争率で…



その中から選ばれて晴れてボルテール勤務となった女子達の気迫は凄い。






朝から自分をアピールしようと躍起になる女子達にイザークもウンザリだった。









「シホ!」




そんな群れに視線を送っていたシホに気付いたイザークが彼女を呼び止める。





はどうした?一緒じゃないのか?」




なら…もう格納庫へ行きましたよ。仕事があるからって…。」




「…そうか…」











隊長も大変だなぁ…と思いつつ、シホも後片付けを済ませて食堂を出た。























「お〜い…〜。」





下から自分を呼ぶ声が聞こえる。



ひょこっとコックピットから顔を出すと、残念ながらディアッカの姿。






「おいこら!残念そうな顔すんな!」




「…し…してないよ?」




「嘘吐け…」




どうせイザークでも待ってるんだろうと思いつつ…ディアッカは空中を移動しての元へと近寄った。










「調子はどうだ?」




「調子も何も…隊長は滅多に前線にお出になりませんし?」





私の仕事は隊長の愛機、スラッシュザクファントムの専属整備士。





他のパイロットのザクに比べ、機体の損傷率の少ないこの機体における仕事は少なくて…



定期的にメンテナンスするのがメインの仕事になってるくらいだ。






だから、私を除く整備士達は他の機体と掛け持ちだったりするんだけど…


何故か私は配属になってからずっと、隊長機しか触らせてもらえない。





女だからって馬鹿にされてるのかな…。
















「ディアッカ、袖がしわになっちゃってる…。」




は手を伸ばし、しわになった彼の軍服の袖を軽く伸ばしてやる。




「お…サンキュ。」




「今朝も派手に囲まれてたもんね…。」





「やっぱ気にしてるんだ?」



「え…?」






「イザークの事。あれじゃ、なかなか声掛けれないもんな。」



「そ…そんな事…。」





気まずそうに俯く姿を見て、やはりそうだとディアッカは確信する。





手先は器用な癖に、不器用で控え目な女の子…。



少しでも他の女子みたいな勢いがあればいいのに…と思うが、目の前の少女にそんな要求は無理だろう。





イザークもきっと…そんな控え目な子だからこそ気にしてる…。




















「イザークから伝言。」



「え…?」




「今日の整備データ、後で部屋まで届けるように…だってさ。」











伝言を伝えたディアッカは軽くウィンクしてから格納庫を出て行った。





















今日もイライラする…。



毎日イライラする…。



イザークの周りにいる女の子達に嫉妬してる。




でも、あの群れの中には混ざりたくは無い。



他の女の子達なんかと一緒にして欲しくない。





だから、いつも遠目にその様子を見る事しか出来なくて…。



そんな自分にイライラして…。



そんな私を見て、シホもイライラして…。





悪循環。



















「あ…!」




廊下を歩いていると、数名の女の子と遭遇する。






「もしかしてそれ…隊長へのお届け物?」




手の中にある1枚のディスクを見て、女の勘が働いたのか…



勿論、応えはYes。




「あ…うん…。今日の整備データの…。」




「いいなぁ〜。隊長の専属整備士!羨ましい〜!」



私としては毎日言い寄れるあなた達の方が羨ましいですが…。





「クルーゼ隊でも一緒だったんでしょ?」



「…まぁ…」



一応、同期でヴェサリウスに配属にはなったけど…。













「ね、そのディスク、私達が届けてあげるよ。」



「え…?」





下心ミエミエの申し出に、困った表情でディスクを握り締めた。





「協力してよ〜。少しでも隊長とお近付きになりたいんだってば。」




まただ…



イライラして来た…。




胸の中がモヤモヤする感じで…



今にも泣き出しそうな気持ちで…






「自分で行くから。」




「え〜。何でぇ〜?」




「届けるだけじゃなくて、ちゃんと内容の補足説明もしなくちゃいけないの。

 あなた達じゃ出来ないでしょ?」




私なりの…精一杯の抵抗。



仕事まで他の子に取られちゃったら、私はただの無能。



そんなのは絶対にゴメンだから…。






「急ぐから行くね。」





















「隊長、です。」




『あぁ…入れ。』





「失礼します。」







ロックが解除され、隊長室の扉が開かれる。



綺麗に整頓された部屋には必要最低限の物しか置かれていなくて…



物静かな雰囲気を醸し出していた。









「今日の整備データをお持ちしました。」





「……」




「はい?」



「落ち着かないな…その敬語…。」




「え?」




「以前は普通に会話していたのに、今更お前に敬語を使われると落ち着かん。」




「でも…今は上司と部下ですし…。」



「それはそうなんだが…。」





言葉によって壁を作られている気がしてどうにも落ち着かない。



それは、も密かに感じていた事ではあるけれど、

ここが軍という場所である以上は年齢など関係は無い。







「ならばこうしよう。」



「え?」




「2人きりの時には敬語を止める。名前も呼び捨てで構わん。」



「は…?」




何故…急にそんな事を言い出すのかが理解できなくて…



困った顔をしていると、イザークが目の前へとやって来た。







「最近…あまり話をしていなかったな。」



白い指が、私の髪に絡まった。



「ちょ…っ…!」



それを拒もうと、距離を置こうとしたが、もう片方の手でそれを阻まれてしまった。




「こうされるのは迷惑か?」



「や…そうじゃなくて…髪の毛…痛んでるから…」




普段は機体を触っているその手はボロボロで…


髪の毛だって油にまみれてお世辞にも綺麗とは言えない。






「一生懸命やってくれている証だ…。」



「…っ…」




恥ずかしすぎて顔がまともに見れない。





はいつまで経っても変わらないな。」




「え…?それ…どういう…」




「誰に対しても平等で…何事においても控え目で…それがお前の魅力だ。」




「隊長…」



「イザークだ。」




そう言って、イザークは手の甲に唇を落とした。




「…っ…///」




何故急にこんな事をされるのかさえも分からず、ただ真っ赤になってイザークを見る。





「どうして俺がお前を他の機体に触らせないか知っているか?」




「…私が女で…他の人に比べたら劣ってるから…?」




「…半分当たりで、半分外れだ。」



「?」






当たりは、「女だから」。



外れは、「劣っているから」。






の能力の高さは承知している。


仕事だって丁寧で完璧だ。



ただこれは…イザーク自身の我侭なのだ。



女だから…他の男の傍には極力近寄らせたくない。









「機体だけではなく、俺自身の専属になってくれると嬉しいんだが…?」



どうだ…?



…と、甘く耳元で囁かれた。




流石にその意味を理解できないほど鈍くは無いけれど…



自惚れてもいいのか…と、躊躇ってしまったり…。







「わ…私なんかでいいの…?」



「言っただろう?控え目な所が魅力的だ…と。」




煩い女は嫌いだ。


かと言って、すぐに泣く弱い女も嫌いだ。




控え目でおとなしくて…


だが、しっかりとしていて滅多な事では泣かない、芯の強い女…。




ようやく見つけた理想の女。






アスランやディアッカに取られやしないか…いつもヤキモキしていた。




隊長の権限を利用して専属整備士にするなんて、卑怯だとも思ったが…



少しでも傍に置いておきたくて…我を通した。
















「嬉しい…」




は床を蹴って、イザークへと抱き付いた。




「私…イザークの事がずっと好きだった…。」



「俺もだ。お前が一番大事な女だ。」







軽く触れるだけのキスをすると、互いの頬は僅かに赤く染まる。




翌朝から、食堂で女子が群がる事は無くなり…



代わりに隊長の隣で真っ赤になりながら食事をするの姿が見られる様になったという…。



密かにボルテールの名物になっている事を2人は知らない。






















【あとがき】

控え目な整備士ちゃんに、キャラ違いまくりのイザークです。

わ〜誰だよコレ…

ありえない…こんなイザークありえない…。

夢なので…大目に見てやってください。

ゲスト出演のシホちゃん。

出す意味はあったのだろうか…ってくらいに少ししか出て無いです。

彼女、本編では喋った事さえ無いのにねぇ…。

いい子なんでしょうか?それさえ分からない。

ちょっとは喋らせてあげて下さいよ…。


さなだ様、こんな感じになりました。

リクありがとうございました。

ここまで読んで下さった様もありがとうございます。








2005.9.2 梨惟菜










TOP