言いたい事は心の中で。




聞き分けの良い、理想の彼女になる為に。





それが私の合言葉。








だって、今の私の気持ちを言葉に出しちゃったら…態度に出しちゃったら…





きっと大変な事になっちゃう。





それくらいに私の心の中は複雑なのです。




でもね、私はそれを表に出さないように頑張るから…努力するから…



だからどうか、私の心の醜い部分に気付かないで下さい。























我が侭心と彼の本音























「はぁ…」






1人になると無意識の内に出てしまう溜息…今日はこれで何度目だろうか。






でも、彼の前で溜息なんて吐いたら迷惑掛けちゃうか、理由を問い詰められるかのどっちか。





心配掛けたくないの…



それが本音。





でも…言えない気持ちがどんどんと膨れ上がって制御出来なくなりそう。




ねぇ…




貴方は私のどこが好き?



どんな所に惹かれたの?




どうして私の傍に居てくれるの?























「アスラン!」





朝の食堂は沢山のクルーで込み合っている。




そんな混雑の中でも一際目立つのは赤服を纏うエリート。




短いスカートをヒラヒラとさせる彼女は無邪気な声で駆け寄るルナマリア。




そんな光景に顔を歪める彼女もまた、赤服を与えられたエリートの1人。







「あっち、空いてましたよ。一緒に食べませんか?」




「あ…いや、俺は…」



「ホラ、早くしないと座る場所無くなっちゃいますよ!?」





強引に腕を引かれ、2人は人込みの中に消えてゆく。





…明らかに困った顔をしているのに、それでもルナマリアはめげない。




そんな行動力…ある意味尊敬…。



私にはとても真似できないと思うから。














「朝から大変そうですね。」




「あ…レイ…」





「良かったら一緒に食べませんか?場所、確保したんスよ!」





「…うん。そうだね。」































さんも大変ですね。」





「え?」




「面倒じゃないですか?あの人と付き合うの。」





「面倒って…」





私とアスランが恋仲にある事は別に隠している事では無かった。




ただ、ルナマリアには言っていなかった。





初めてあったその日にアスランに一目惚れしたと宣言されてしまい…何となく告白のタイミングを失ったまま…。




『付き合ってるから手を出さないで』なんて格好悪い事言えないし…。





何だか嫌な女みたいじゃない?





だから彼女は何も知らずにアスランを毎日追い回す。





そんな光景もミネルバの日常的な一コマとなっていた。



最早誰も突っ込む余地は無い。
















「あの人、何だかんだ言ってハッキリと断らないし…。」





「…優しいから…ね…」




「優し過ぎるんですよ。俺だったら好きでもない女の子に言い寄られてもフラフラしませんけど。」




「…シンの彼女になる子は幸せねぇ…。」





「いや…俺が言いたいのは…っ!」






「シン、それくらいにしておけ。」




「レイ…」






「付き合っている以上、楽しい事ばかりでは無い。」





…レイって…




彼の一言はいつも心に響くって言うか…



色々と考えさせてくれる言葉を放ってくれる。




年下なのに何だか頼れる存在で、気が付けばさり気なく愚痴を零してしまったり…。








私が付き合っている相手は確かにアスランなんだけど、気が付けば一緒に居る相手はシンとレイ。




一緒に居て色んな話も出来て、気兼ねもしない。




異性の友達ってきっとこんな感じなんだろうなぁ…。








「食事終わったら訓練行かない?射撃の練習したいの。」





「勿論、付き合いますよ。な、レイ?」




「あぁ…。」



































「やっぱり食後はコーヒーですよね?」




「……」





「アスランさん!?」





「…え…あぁ…」





「もう…今の話、聞いてなかったですね?」






アスランの視線は食堂の出入り口に向いていた。





丁度食堂を出て行く3人の後姿が見えた。







「…あの3人、仲良いみたいですね〜。」



「え…あぁ…」




「シンってば、さんに気があるのバレバレ。」




「…そうだな…」





黒髪と金髪の間で揺れる栗色の髪の少女。





確かに自分が彼女にとって一番近い存在な筈なのに、とても遠く感じるのは何故なのだろうか…。





が他の男の前で笑っている…。




は優しくて…誰にだって平等に接する子で…




そして…鈍い子なんだ…





シンの密かな恋心にさえ気付いていない。





第三者から見ればこんなにもあからさまなのに何故気付かないのだろうか。






俺の彼女なのに…こんなに狭い空間で共に過ごしているのに恋人らしい事は何も出来ない。





隠しているつもりでは無いが、照れ屋のはわざわざ宣言する必要なんて無いと言う。




その結果がコレだ。




かと言って独占欲丸出しなのも恥ずかしい気もするし…




結局の所、そんな嫉妬心を胸の内に抱く事しか出来ない。




そんな子供っぽい一面を見せてしまったらどんな反応をするのだろうか?




の抱く、理想の恋人像を崩してしまいそうな気がして…。






本当はシンやレイと一緒に居る姿だって見たくないのに…。




でも、そんな俺の本音を知られるのが怖くて、聞き分けの良い彼氏を演じてしまう。

























「よし!今日も絶好調!」






「くっそ〜!何でそんなに命中率高いんだよっ!」




スコアに目を通しながら、シンは悔しさを見せる。





「でもアスランの方がもっと優秀よ?」




射撃の技術もアスランから教わったもの。



クルーゼ隊の頃からずっと一緒だったから…トリガーを引く時の癖とか良く似てるってディアッカに言われたっけ。








あの頃は…楽しかったなぁ…。





クルーゼ隊には私しか女の子が居なくて…



だからアスランを他の女の子に取られる心配なんてなかったし…。













「じゃ、汗かいちゃったからシャワー浴びて来るね。」






「うん。お疲れ〜」











本当に疲れた…




確かにシンやレイと一緒に居るのは気が楽だけど…





いつもアスランの事ばかり考えてしまう。





こんな時アスランだったらこんな風に言ってくれるんだろうなぁ…とか…




他の人と一緒に居るのに…アスランの事ばかり。





お互いに好きで付き合ってるのに一緒に居られないなんておかしいよね…。













「「あ…」」















アスランの事を考えていたら、丁度角から現れたのは本人。









「…部屋に…戻るのか?」




「うん…射撃して汗かいちゃったから…。」





「そっか…調子はどうだ?」




「あの2人に負けるほど腕は落ちてないわよ。」







「…早く汗流さないと風邪引くな…。」



「そう…だね。じゃあまた…。」









…寛大な彼氏…




他の男の子と一緒に居ても何も感じないのかなぁ?




それとも…こうしてルナマリアにヤキモチ焼いてるのは私だけ?





『アスランに近付かないで』って言いたいのにな…。






そんな嫉妬心を表に出す事が出来なくて頭を抱えてばかり…。




















、居らっしゃいますか?」





夕方のひと時…




部屋で書類に目を通していたの部屋のインターホンが鳴る。




「レイ?」




「ちょっといいですか?」




「あ…うん。」




















「珍しいね…レイが私の部屋に来るなんて…。」




「そう言えばそうですね…。」






「何かあったの?」




「一つ…聞きたい事があって…。」





「聞きたい事?」








「シンの事を…どう思います?」




「シンの事…?」





急に何を言い出すかと思えば…





「そうねぇ…軍人としてはなかなか優秀だけど…まだまだ子供かな?

 見ていて飽きないし…弟が居たらこんな感じかな?」






「…弟…」





「それより、私からも聞いていい?」




「…何でしょう?」





「私とアスラン…釣り合ってない?」




「え?」
































「はぁ…」






執拗に追い回すルナマリアを振り切ったアスランはの部屋へと向かう通路を歩いていた。






折角こうして時間が出来たんだ。





少しの時間でもと一緒に過ごしたい。








いつも忙しいという事を理由にに構う事が出来ない。






の部屋の扉の前に立ち、インターフォンを鳴らす。










『はい?』




、俺だ。」




『…アスラン?』





すぐに開かれた扉の前にはの姿…。




そしてその先に見えたのは…ベッドに腰掛けるレイの姿…。




レイ…?




彼が…何故ここに…





気軽に部屋に入れるなんて…彼女は何を考えて…













「…アスラン?どうしたの?」





「あ…いや…」




ここでガツンと言ってやりたい。





『俺以外の男を部屋に入れるな』と。





でも…そんな事を言ったらはどう思うだろうか?




心の狭い男だと思うか?







とにかく何か言葉を発さなければ…












「アスランっ!見つけたっ!!」





「わ!ル…ルナマリア!?」





急に横から現れたルナマリアが腕にしがみ付く。




その瞬間、はムッとした顔になった。





「何でさんの部屋に……ってレイ!」





の先に見えるレイの姿にルナマリアは驚きの声を上げる。





「やだぁ…2人、いつの間にそんな関係になっちゃったんですかぁ!?」




「え!?何を…!」





「レイも言ってくれればいいのに…水臭いんだからぁ〜。」






「だから違…」






否定しつつも絡められた彼女の腕が気になって気になって…





何でアスランはその手を振り解かないの…?




目の前に彼女が居るのに…




それとも、私よりもルナマリアの方が好きになっちゃった…?












グルグルと…




頭の中には色んな感情が渦巻く。














ルナマリアの無邪気な笑顔に対する嫉妬心と…




その手を振り解かないアスランに募る不安と…






そして何も言えない自分に対する苛立ち…





















今にも泣き出しそうになる瞳を堪え、腕を伸ばした。









「え…?」





空いた方のアスランの腕を強引に引っ張る。






それに驚いたのは、腕を絡めていたルナマリアだけではない。











「…アスランは…私の恋人なの!だから離して!」







「え?嘘…」





「嘘じゃないから!ずっと付き合ってるんだから!」









…」






























「…ごめんなさい…」






「何が?」






「あんな言い方して…驚いたでしょう?」







「あぁ…確かに驚いたな。」










だって…嫌だったの。







目の前でアスランが他の女の子と腕を組んでるなんて…。







「でも…嬉しかったな。」





「え?」





があんな風に言ってくれて…。」







「本当に…そう思ってる?」






「あぁ。思ってるよ。」








「私…アスランが思ってるような子じゃない。」






…?」







「私…本当は凄く我が侭なの。アスランを独り占めしたくて仕方ないの。」







驚いた…。





が俺と同じ事を思っていてくれたなんて…。








「例えば?教えてくれないか?」






「…だって…言ったら絶対に軽蔑されちゃう…。」






「しないよ。きっと俺も同じだから。」





「?」





「だから言って。が今思ってる事全て。」

















「…アスランとルナマリアが一緒に居るの…見たくない。」





「ルナマリアだけ?」





「ううん…他の女の子と一緒に居るのは見たくない。

 それに…いつだって私の事、見てて欲しいし…私の事…考えてて欲しい…。」





が何か言えば言う度にアスランの顔は綻んでゆく。







「アスラン?何がおかしいの?」




「いや…嬉しいんだよ。」






「嬉しい…?」

















そう言うと、アスランはをフワリ…と抱き上げる。






「ひゃっ…!」






「…軽いな…ちゃんと食事してる?」






「し…してるよっ!」






を抱きかかえたまま、ベッドに腰を下ろした。









「俺も同じ事、思ってるよ。」





「同じ事?」






「いつもシンやレイと一緒に居るのが気に入らない。」





「…シンとレイは…ただの仲間だよ?普通に仲間として話してるだけ…。」






「でも部屋に入れてた。」





「アスランだって…!ルナマリアが腕を組んでも何も言わなかったじゃない。」






「でも俺は彼女の事は何とも思って無い。」






「でもルナマリアは…!」





「シンだって君の事が好きだぞ?」





「…へ?シンが?」






「やっぱり気付いてなかった?」



























「じゃあ、今回はおあいこ…って事で。」





そう言うと、アスランは目を閉じる。





「アスラン…?」





「仲直りのキス。」





「な…私がするの!?」






「腕を組むのと部屋に入れるの、どっちが罪が大きいと思う?」





「う…それは…」






言われた事を冷静に考えてみると、やっぱり私だったら…




ルナマリアがアスランの部屋に居たらと思うと…





アスランの言い分が正しいの…だろうな…。











観念してアスランの唇にキスをする。






凄く恥ずかしいけど…



ホントの気持ち…伝わったからいいかな…?










「俺は我が侭なも大好きだから…これからもどんどん我が侭言っていいよ。」





甘いキスの後にはアスランの甘い言葉が待っている。



























【あとがき】

本当にすいません!

煮詰まりました(汗)

擦れ違いシリアス…じゃないですよね…?

シリアスなネタが浮かんで来ない…あうぅ…(-ω-`)

擦れ違い…にはなってると思うんですが…ハイ。

華宮せれん様、お待たせしてしまった上にこんな駄作で申し訳ないです(汗)






2005.11.8 梨惟菜










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