「よ…っと!」
棚の上に置かれた箱に手を伸ばす。
「はい、これでいい?」
隣に立つ女の子にその箱を手渡すと、彼女は笑顔で受け取る。
「ありがとう!助かっちゃった。」
「私で良かったらいつでも呼んで。」
あぁ…こんな事言いたくないわ…。
そう思いながらも困ってる子を放ってはおけなくて…つい言ってしまう。
可愛い可愛い…小柄な女の子。
高い所にある物を取ろうと一生懸命に手を伸ばして…
そんな仕草、一度でいいからやってみたいものだわ…。
HIGH or LOW
「って身長いくつ?」
「…っと…165…くらい?」
「背高いっていいよね〜♪カッコいい〜。」
…嘘です
本当は168cmです。
「そう?私は小柄な子に憧れるけどな…。」
「高い方が絶対に得だって!!」
隣の芝生は青く見える…って本当なんだなぁ…。
流石に背を縮める事は不可能とは分かっているけれど…。
「アレだよね…その赤服もビシッと決まっててカッコいいよ。」
「隊長やディアッカさんと並んでると絵になるもんね〜。」
「…そう…?」
正直…あんまり嬉しくないお言葉なんですけど…
私は「カッコいい」じゃなくて「可愛い」って言われてみたいんだけどな…。
小さい頃から気が付けば周囲の女の子よりも背が高かった。
昔は髪の毛も短くて…男の子と間違えられる事は日常茶飯事。
アカデミー時代には女の子に告白される事数回…。
ちっとも得した事なんて無いっ!!
同じくらいの身長の男とは並んで歩けないし。
…ってか拒否されるんじゃない…?
・、もうすぐ20歳。
最大のコンプレックスは「身長」…。
ジュール隊で一番背の高い女は私。
こればかりは解決のしようが無い。
もしも願いが叶うとしたら…
5cmでいい…背を縮めたいと願うだろう。
「よっ、。今ランチ?」
ディアッカ・エルスマン。
ジュール隊隊長補佐役。
身長180cm、体重58kg。
この身長にこの体重は犯罪だ。
その割にはガッシリとしてるし…。
「色々と仕事してたらこんな時間。」
「へぇ…大変だな。」
「ディアッカは?」
「俺はちょっと一服…な。」
そう言って向かいに腰を下ろす。
私との身長差…12cm。
「…何?」
からの視線を感じたディアッカが口を開く。
「あのデータ…偽造してるでしょ…」
「は…?」
「体重58kgとか絶対嘘だ…。」
「いや…嘘じゃないし…。」
疑いの眼差し…。
そりゃあね、この2年、色々と大変だったわよ。
戦争が終わっても仕事は増える一方で。
ある意味、戦争中よりも忙しかったわよ。
「…2年で9.5kg減って…信じらんない。」
「イザークは10kg減だぜ?」
「ムカつく〜!」
4kg減で大喜びしてた私は何!?
しかも伸びなくていい身長は3cmも伸びて…
「やっぱ気にしてんの?」
「…決まってるじゃない。」
「…お…噂をすればイザーク。」
「!?」
入り口に背を向けていた私は慌てて振り返る。
「ディアッカ!貴様、何をしている!!」
「…ちょっと…一服?」
「ふざけるな!まだ仕事が片付いていないだろうが!!」
イザーク・ジュール。
ジュール隊隊長。
身長177cm、体重56kg。
私の想い人で…悩みの種。
私との身長差…9cm。
9cmだよ!9cm!!
理想のカップルの身長差、10〜15cm。
前に読んだ雑誌にそう書いてあった。
2年前は10cmだったのに…
イザークはこの2年で2cm伸びて、私は3cm…。
差が縮まっちゃったのよ!
アカデミー時代から告白しようと思いつつ…タイミングを逃してて…
そして告白する勇気が出なくて…
この身長差だし?
イザークがオペレーターの女の子と話している所を見る度に思う。
…絶対に小柄な女の子の方が釣り合ってる。
あぁ…小柄な女の子になりたい。
「どうした?元気が無いな…。」
俯くの様子をイザークが気遣う。
「ん?大丈夫。元気よ。」
「そうか?ならいいが…。」
「さ、私も書類、片付けなくちゃ。」
は立ち上がると2人に手を振って立ち去った。
「無理してんな…の奴。」
「そうだな。心当たりは無いのか?」
やっぱり…自分が原因とは分かっていないらしい。
まぁ、分かっていたらも悩む必要も無いんだけど…。
イザークの鈍さもディアッカは十分に承知している。
密かにばかり気に掛けている事も…。
「婚約させられるらしいぜ?」
「何!?」
あからさまな嘘でさえ信じてしまうイザーク。
の事となるとその持ち前の冷静ささえも失ってしまう。
「20歳になるまでに自分で相手を見つけなかったら…って条件があるみたいだぜ。」
ディアッカに聞かされた言葉に、イザークは硬直した。
「玉砕覚悟で告白してみたら?」
「なっ…!!」
「見てりゃ分かるって。何年一緒に居ると思ってんの?」
「せめて160前半…」
自分の姿を鏡に映し…は1人思い悩む。
「イザークの背…伸びないかなぁ…。」
もはや、それを祈るしかない。
自分の背を縮めたいという…物理的に不可能な問題は諦めるしかなく…。
でも、いつも同じ事で悩んで…の繰り返し。
ビーッ…
訪問を告げるインターホン。
「はぁい」
面倒だな…なんて思いながら、確認もせずに扉を開く。
どうせ…同僚の女の子からのお茶のお誘いとかだろうな…なんて思いながら…。
そのつもりで、自分よりも小さい女の子を見るつもりで視線を下に落とす。
…が、目の前に人の顔は無く…
変わりに視界に飛び込むのは…白…
「…イザーク!?」
少し首を上げると、イザークの顔。
「話がある…。少しいいか?」
「あ…うん…。」
部屋へと招き入れると、イザークはベッドに腰を下ろした。
少し距離をおいて、も同じくベッドに腰を下ろす。
「…何故隣に座る?」
「え…いや…何となく?…向き合った方がいい?」
立ち上がろうとした瞬間…手首を掴まれた。
「いや…そのままでいい。」
「…はい…。」
「その…婚約の事…なんだが…」
暫くの間、沈黙が続いて…
イザークが思い切って話を切り出した。
「…婚約?」
話の筋が見えなくて、は首を傾げた。
「俺では…駄目か?」
「…は…?」
何?何の話…?
「俺もまだ…軍人としては半人前だが…を養うくらいは問題無い。」
「え…あの…イザーク?」
「お前に苦労はさせない。知らない男と結婚するくらいなら、俺の所に来い。」
「イザ…」
え?何?どういう事…?
「…イザーク…何の話してるの?」
「だから…婚約させられるんだろう?」
「…誰が?」
「お前以外に誰がいるんだ…」
「…誰がそんな嘘を…」
「…嘘!?」
直後に思い浮かぶのは、褐色の肌の同僚…いや、部下。
「…ディアッカの奴!!」
ようやく騙されたのだと気付いたイザークは真っ赤になって立ち上がる。
「イザーク!待って!!」
それを阻むようにがイザークの腕を掴んだ。
「今の…どういう事?」
「いや…俺は…」
「さっきのは…同情で言ってくれたの?」
の瞳は真剣そのもの…。
イザークがどんな想いでそう言ってくれたのか…
それだけが気になって仕方が無い。
「俺が同情でそんな事を言う人間に見えるのか!?」
「見えないから聞いてるの!」
依然、イザークの腕をしっかりと掴むの手…
微かに震えるその手に気付いたイザークもまた…の瞳を見つめ返した。
「さえ迷惑でなければ…俺と婚約しないか?」
「イザーク…」
胸が震えるような気持ち…
「…私…なんかでいいの?」
「……」
「私…身長高いし…何か釣り合ってないし…それでもいいの?」
戸惑いながら…困惑しながら…
は震える声で問い掛ける。
そんな様子を見たイザークはフッ…と笑みを零した。
「俺は気にしていない。それに…」
「え…」
スッ…と伸ばされた手がの顎を捕え…そっと唇を塞いだ。
「キスがしやすくていい高さだ。」
「…っ///」
イザークの悪戯な笑み…
ずっと悩み続けていたの心を一瞬で溶かす、魔法の言葉。
これからはこのコンプレックスもきっと…前ほどは気にならない。
イザークが傍に居てくれるから…ね。
【あとがき】
細かく調べてみました。
イザーク、ディアッカの身長と体重。
運命での設定が発表された時は目を疑いましたよ〜。
激やせすぎ!!
羨ましいよ…。
全キャラ、ほぼ体重減ってるんですよね〜。
ヘビーだわ…戦争…。
今回のリクは「身長が高くて悩むヒロイン」でしたが…。
私は中途半端な身長なので、背の高い女性には憧れます。
コンプレックスも人それぞれ…。
…という事で…アイズ様、お待たせしました。
ご希望に添えられているかどうか…。
いつもありがとうございます。
また感想をお聞かせ下さいね。
2005.9.19 梨惟菜