「はどうするの?14日。」
「え?何が・・・?」
「何って・・2月14日よ。バレンタインじゃない。」
同僚の子に言われて初めて、その日が
『女の子から男の子にチョコレートを渡して愛を告白する日』
だという事を思い出した。
「あぁ・・・バレンタインか・・・。」
「アレックスさんと過ごすんでしょ?」
『アレックス』
どうもその名前に慣れない私・・・。
確かに私の恋人の名前なんだけど、イマイチ馴染めずにいた。
「さぁ・・・どうかな?」
バレンタインデー・・・ね。
「恋人の母親の命日に、チョコなんて渡せるワケないでしょ・・・。」
一人になった私は、思わずポツリと呟いた。
思い出の日に…
「そっか・・・。もうすぐバレンタインだったな。」
「そうなのよね。地球の人達には普通のイベントなのよね。」
オーブの代表とその秘書という間柄ではあるが、
カガリと私は先の戦争で共に戦った戦友同士で・・・。
仕事中であってもごく普通に雑談する間柄だった。
「カガリはどうするの?」
「形だけの婚約者とはいえ、何もしない・・・という訳にはいかないんだろうな。」
カガリが深く溜息をついた。
「カガリも大変ね・・・。」
「まぁな。
・・・で?はどうするんだ?」
「・・・私?どうしようかな・・・。」
「せっかくだから、アスランと2人で休みでも取ったらどうだ?」
「え・・・でも・・・。」
「私の事は気にするな。どうせその日はユウナと会わないといけないだろうしな・・・。」
「カガリ、。そろそろ時間だぞ。」
会話が弾む中、部屋を訪れる1人の青年・・・。
濃紺の髪に済んだ緑の瞳・・・。
「え?もうそんな時間?」
私は慌てて腕時計に目をやる。
「秘書が時間管理出来てなくてどうするんだよ。」
「すみません。アレックス。
では代表、参りましょうか・・・。」
「あぁ。」
カガリの後について私とアレックスも部屋を出た。
「今日の予定は18時で終わりますが、夕食はどうなさいますか?」
「そうだな・・・久しぶりにキラ達と食事がしたいな。」
「分かりました。ではラクス嬢に連絡を取ってみます。
お店は任せていただいても?」
「あぁ、頼む。」
「では、いってらっしゃいませ。」
私とアレックスは会議室の前でカガリを見送った。
「じゃあ私、ラクス嬢に通信を入れるから、後はお願いね。」
「あぁ。」
事務的な挨拶。
例え恋人同士であっても今は仕事中。
それも、会議室の前でプライベートな話など出来る筈も無く、
私は踵を返して会議室の前を離れた。
今度の命日で3回忌になるのか・・・。
あの悲劇から3年・・・。
私も彼も・・・色んな事があって・・・
たくさんの悲しみを乗り越えて・・・。
だから今、こうして2人で一緒に肩を並べて働いていられるんだと思うと、
少し複雑な気分だった・・・。
「あぁ・・・もうすぐバレンタインでしたわね。」
食後の話題もバレンタイン一色だった。
キラとアスランは外に出て何か話し込んでいて、
私達は女同士で食後のお茶と会話を楽しんでいた。
「そうですわ!!、カガリさん。
3人でチョコレートを作りませんか?」
「「え・・・?」」
ラクスの突然の発言に、私とカガリは目を丸くした。
「ね?そうしましょう!!
手作りの方が気持ちが伝わるに決まっていますわ♪」
「いや・・・そういう事じゃなくて・・・ね。」
彼女は先程の会話を聞いていたのだろうか?
アスランのお母さんの命日・・・。
それは元婚約者の彼女も十分承知している筈だ。
「、確かにアスランにとってバレンタインは忘れる事の出来ない悲しみを生みましたわ。
でも・・・いえ、だからこそ、の気持ちを改めて伝えるべきだとは思いません?」
「ラクス・・・。」
「今のアスランにとって、こそが一番大事な存在なのですから・・・。」
血のバレンタインで母親を・・・
ヤキン・ドゥーエで父親を・・・
彼にはもう、残された家族は居なかった・・・。
もちろん、ラクスもカガリも・・・
そして私も・・・。
「きっと、受け取ってくれますわ。」
「はぁ・・・どうすんだコレ・・・。」
テーブルの上に置かれた箱を見つめる。
白い包装紙に包まれ、赤いリボンでラッピングされたその箱には、
昨日、ラクスとカガリと3人で作ったチョコレートケーキ。
勢いで作ってしまったものの、渡すタイミングが掴めずにいた。
2月14日・・・バレンタインデー。
すでに半日が経過している・・・。
コンコン・・・
私の部屋の扉を叩く音・・・。
その音に反応して、私は慌てて箱を冷蔵庫の中に収めた。
「・・・はい!!」
「?俺だ。入るぞ?」
声の主はアスラン・・・。
そう言えば、カガリが今日はアスランにも休みを取らせるって言ってたっけ・・・。
ガチャ・・・
そんな事を考えている内に、扉は開かれた。
「・・・アスラン?今日は仕事は・・・?」
「あぁ、カガリに休めって言われて・・・。
カガリもユウナの所へ行かなくちゃならないって言ってたし。」
「あ・・・そうなんだ・・・。」
カガリもぶつぶつと文句を言いながらも、真剣にケーキ作ってたなぁ・・・。
「も休みなら言ってくれれば良かったのに・・・。
半日、無駄になっちゃったじゃないか・・・。」
「・・・そうね。ごめん。」
「いや、いいんだ。
せっかくだから、どこか行こうか・・・?」
「行きたい所って・・・ここ?」
「うん、そう。」
アスランに頼んで連れて来て貰った場所は、海岸だった。
海水浴のシーズンでもないから、人の気配は全く無く、
寄せては返す波の音だけが耳に残る。
「で?その花は?」
腕に抱えた白百合の花束・・・。
「レノアおば様、好きだったでしょう?」
そっと波打ち際に近づき、その花束を水に浮かべる。
「母さん・・・に?」
「うん。プラントへ行ってあげられないから、ここで・・・ね。」
波に揺られ、白百合の花が少しずつ姿を小さくしてゆく・・・。
その光景を見つめるの瞳は本当に儚げで・・・。
気が付けば、アスランはを後ろから抱き締めていた。
「・・・アスラン・・・?」
「ありがとな・・・。」
「なぁ・・・」
「・・・なぁに?」
帰り際の車中で、アスランが躊躇いがちに私に問い掛けた。
「今朝・・・カガリはプレゼントらしい箱を持って出たんだけど・・・。
その・・・ひょっとして、バレンタイン・・・の?」
「・・・あぁ、そうよ。昨日の夕方、ラクスと一緒に・・・ね。」
今頃、ケーキを渡して2人で食べてるのかしら・・・?
その光景を想像して、ちょっと頬が緩んでしまった。
何だかんだ言って一生懸命だったもの・・・。
「俺には・・・ないの?」
「へ?」
「その・・・バレンタインの・・・贈り物?」
まさかアスランからそんな事を言われるとは思っていなかったから、
驚きの眼差しで彼の横顔を見る・・・。
頬が少し紅潮した彼は、運転中である為、誤魔化す事も出来ず・・・
「・・・前、向いててくれよ・・・。」
恥ずかしそうに私にそう言った・・・。
「ある・・・けど。
渡しても・・・いいの?」
「・・・当たり前だろ!?
・・・っていうか、貰えないと困るんだけど!!」
「あぁ!!アスラン!!前見て、前!!」
「あ、うわぁっ!!」
「今日は確かに母さんの命日だけど・・・
でも、それに固執してたらいつまでたっても貰えないじゃないか。
悲しい日だからこそ、からの確かな気持ちが欲しいんだ。」
いつになく真面目に話すアスランに、私の頬も熱くなる・・・。
あぁ・・・
私、この人の支えになれているんだなぁ・・・。
そして、この人に支えられてるんだなぁ・・・って実感した。
「部屋に置いてあるから、帰ったら一緒に食べよう?」
「じゃあ、早く帰らなくちゃな・・・。」
「安全運転でお願いね?」
「勿論。」
こうやって私達は2人で同じ場所へ帰ってゆく。
それが永遠になる事を祈りながら・・・。
【あとがき】
ちょっと早いですが、バレンタイン夢です。
初のキリリク頂きました〜♪
何か・・・ねぇ。
上手く書ききれてなくて・・・
本当に反省でございます。
リクしてくださった種莉様、本当にありがとうございました。
満足していただけましたでしょうか?
今後の参考にもさせていただきたいので、是非感想などいただけたら嬉しいです♪
2005.1.17 梨惟菜