「はぁ…」






見ているだけで溜息が出る。





つい、視線を奪われてしまう存在感。






気が付けば私の目は彼を追っている。






彼は私にとって、そんな存在。




























あなたの手













「私、手フェチかもしれない。」








「は?」







小さな声で問題発言。





それを聞き逃さない優秀な男は私にとって幼馴染と呼べる存在。







文武両道だし顔は良いから女の子に激しくモテる人。






幼馴染じゃなかったら惚れてたかもしれない。





でも、小さい頃から一緒だから奴のへタレな部分は良く知ってる。






よくもまぁ…こんな美少年に成長したものだ。












、俺の話聞いてる?」







「え?」







振り返ればその幼馴染の姿。








「いや、全然聞いてませんでした。」







「自分から話振っておいてその反応はどうかと思うけど?」







「別に振ってないし。独り言だし…。

 アスランが勝手に私の呟きに反応したんでしょ?」







「…って言うか…今の問題発言は他ではしない方がいいぞ。」






「手フェチかもしれない…って事?」






「他の人が聞いたら引くぞ…。」






「そう?」





















ふと会話が途切れ、アスランの手元に視線を向ける。






白くて…男の子とは思えない細さの指。





何か華奢だよなぁ…。










「……」







「あぁ、アスランの手は対象外だから安心して。」







「何が言いたいんだ?」








「どうしても一番最初にね、手に目が行っちゃうのよ。」









例えば、ピアノを弾いてるニコルの手とか…


書籍を読んでるイザークの手とか…









そんな事を言っていたら再びアスランは顔を歪めた。









「何よ…アスランだってあるでしょう?」






「何が?」







「ラクスの何処が好き?って聞かれたら真っ先に何を考える?」






「はっ!?」









…駄目だこの人…





婚約者相手に初々しい顔しちゃって…





完全な恋愛初心者じゃない。








「ごめん、アスランに聞いた私が間違ってたね。」







「結局何が言いたいんだよ。」









「…ディアッカの手が気になるって事。」







「はぁ…?」


























何でだろう…。





ピアニストなニコルでは無く…



読書家なイザークでも無く…






何故か気が付けば私の目はディアッカの手を見ている。






彼の手に心奪われてる…。








自分でも理由が分からない。






ここまで来たら只の手フェチとしか思えない。



























「お、じゃん。」








「あ…」









彼は何も言わずに私を見付けると隣に腰を下ろした。






ディアッカって割とお喋りなタイプだと思っていたけど、私の前だとあまり話をしない。






なのにどうして私の隣へとやって来るのかが不思議でならなかった。









気が付けば視線の先にはディアッカの手。






腕組みをしている今の状態では指先は見えない。







4人の中で一番背が高くて体格的にもがっしりとしているから手が一番大きいのはごく当たり前の事で…






男の子…って言うよりは男の人って感じのする手。









「ん?どうした?」






「え?…あ〜…うん。」







って変な女だよな…。」







「…ディアッカこそ…普段はお喋りな癖に私と居ると喋らないじゃない。」








「お喋りって…俺は別にお喋りじゃないっつの。」







「そう?」






「相手によって違うんだよ。

 お前って普段あんまり喋らないだろ?

 アスランとは良く喋ってる癖に。」







「だってアスランは幼馴染だもの。」







小さい頃から一緒だから趣味や好みも把握している分話題も豊富になるし。





でも他の人とは同じようには行かないのが当たり前で…










「だろ?それと同じ。」







「…そっか…」









何か安心した…。




私と居ると気まずくて会話が成り立たないんじゃないかって思った事もあったんだけど…






…って何で安心してるんだろう?






顔を上げるとそこには彼の横顔。




しっかりと整った髪。





崩してる所、見てみたいなぁ…なんて思っていたら不意に彼と視線がぶつかった。













「………」





「…どうした?」






「…何でも無い…

 そろそろ部屋に戻るね…仕事まだ残ってるし…」






立ち上がった瞬間に艦が大きく揺れた。







「…きゃっ…!!」







「危ねっ…」






大きく体を傾けた私を支えてくれたのは後方に居た彼の大きな手。






「あ…ありがと…う」




「ま、無重力だから支えなくても怪我はしなかっただろうけどな…。」





そう言いながら背中を支えてくれていた彼の手はゆっくりと離れた。







触れられた部分だけが妙に熱くて…




どうしても振り返る事が出来ず、私は自室へと戻った。
























「コレは何の真似だ?」






「やっぱり何とも思わないのよね…。」






握っていたアスランの手を解放する。





ニコルやイザークの手も握ってみたんだけど、触れた部分に熱は残らない。









「それはつまり…にとってディアッカは特別な存在って事じゃないのか?」






「…特別な存在?」





「だから…好き…とか…。」







好き…?




私がディアッカを…?









「いや、俺としてはそれ以外考えられなかったから…。」







言われてみれば思い当たる節はある…ような気もするんだけど…





だって手だよ?





気が付けば見てるのは顔じゃなくて手だよ?





それっておかしくない?






ただの手フェチじゃないの…?







考えれば考える程に疑問は募って…。







これは恋なのか否か…






自分の事なのに全く分からなくて。









アスランの事、言えないなぁ…。

























「どうした?こんな時間に呼び出したりして…。」







「…ごめんね…遅くに…。」







「や、全然いいんだけどさ…。」







どうにも人前だと柄にもなく緊張するって言うか…。






こう、軽いノリで渡せばいいんだけど、この人相手だとどうもそれが出来る自信が無い。








「…誕生日…でしょ?」





「…あと10分で…な。」






時計を見れば0時まであと10分。









「渡しておこうと思って…プレゼント。」






明日は一日スケジュールが詰まってるし。





艦内でお祝いだって盛り上がれる雰囲気でも無さそうだし…。






だけど何故かプレゼントは結構前から用意してたりして…。








小さな箱をディアッカへと差し出した。










「俺に?マジで?」






「…まぁ…いつ戻れるか分からないから前もって用意してただけなんだけど…。」






それは勿論、イザークやニコルの分も同じで深い意味は無い…つもりだ。








「開けてもいい?」





「どうぞ。」









柄にも無くディアッカは丁寧に包みを開けていく。






あぁ…やっぱりディアッカの手っていいな…。











「…高そうじゃん…」





シルバーのブレスレット。





お店で見付けた瞬間、即決で買っていた。






「そんな事無いよ。

 似合いそうだと思ったから…。」






「…サンキュ。」






ディアッカが私に笑顔を見せる。






胸がトクン…と波打った。






……トクン…?




















「折角だからコレ、に着けてもらおうかな…。」






「え?私が…?」






ディアッカから差し出されたブレスを手に取る。





差し出された左手にそっとブレスを添えた。













「…ってさ、俺の事好きだろ?」






「…え…っ…?」







ブレスを留めようとした瞬間だった。





顔を上げるとディアッカの顔があって…







「…違った?」






「…違うって言うか…良く分からなくて…」






「何で?」






近い…




顔、近過ぎ…








「手…」




「て?」





「ディアッカの手が…気になるの…。」






「俺の手?」







「他の人の手を見ても触っても何とも思わないんだけど…。

 ディアッカの手を見ると何故か気になるって言うか…。」







「それって好きって事じゃないの?」







留め終わった瞬間に手は離れ、彼の手が私の背中へと回った。







「ちょ…っ!ディアッカ!?」







引き寄せられて抱き締められる形になる。








「俺の手が気になるって事はさ、俺と手を繋いでみたい…とか、

 俺にこうやって抱き締められたら…とかって思うって事…だろ?」






「…そんな事まで考えた事は無い…けど…」







「…けど?」






「そうなのかもしれない…。」
















だって…





ディアッカの腕の中って心地良い…。






ドキドキするけど、それと同時に安心する温度。







こんな恋愛ってアリなのかな?







そう考えながらもその温もりは手放せそうに無い。
















「誕生日おめでとう…ディアッカ…。」







「サンキュ。」









あなたの腕の中で祝う誕生日。











「…それより…ディアッカはどうなの?」






「何が?」







「私の事、どう思ってる?」









「…好きでもない女にこんな事する訳無いだろ…。」









鈍い女だな…。





そう言って微笑みながら彼女の頬に口付けを落とした。
























【あとがき】

ディアッカのお誕生日夢…

また引っ越しの関係で遅くなってしまいました。

しかもかなりの突発的夢です。

ヒロイン、軽く変態?

それほど激しい変態では無いと思うのでご容赦下さい。

フェチにも色々とあると思うんですよ。

私の場合は眼鏡フェチ、声フェチなんですが。

でもディアッカの手ってきっと好きです。

大きい手が好き。

そんな感じで甘さの感じられない微妙な作品になりましたが…

ディアッカ、お誕生日おめでとうございます。







2007.4.14 梨惟菜











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