「こんな感じでどうかな?」
目の前で着せられた衣装をヒラヒラとさせるラクスは嬉しそうに鏡の前で回転して見せた。
「とても素敵ですわ!ありがとうございます。」
「ギリギリになっちゃってごめんね?」
「いいえ。わたくしの方こそ…無理を言ってしまってすみません。」
場内のスタッフが慌しく駆け回る今日はラクス・クラインの野外コンサート。
チケットは即日完売。
会場の周辺では彼女の歌声だけでも…と、チケットを逃したファン達が群がる状態。
ラクスの友人である私は、この日の為に…と、ステージ衣装を1着頼まれていた。
洋服のデザインを趣味とする私に是非…と、恥ずかしながらもラクスのイメージに似合う服を作らせて貰った。
「では…も楽しんでいらして下さいね?」
「うん、ありがとう。」
夜空に咲く花
「凄い人だね〜。」
人込みを掻き分けて辿り着いたのは、ラクスが用意してくれた最前列の席。
そこで待つのは、恋人のアスランと友人のキラ、カガリ。
「ラクス、緊張してなかった?」
「うん。流石は人気アイドルだね〜。これだけの人の前で歌うのに…」
野外だけあって、観客は想像以上に多い。
もう夏は終わるとはいえ、今日も残暑厳しい一日となっていて…
そんな炎天下の中、この人数が同じ会場に押し寄せていると、一種の蒸し風呂状態だ。
額に滲む汗をタオルでそっと拭うと、アスランが優しく腕を引いた。
「、こっちにおいで?」
「あ…ありがとう…」
アスランが見せてくれる、さり気ない優しさ。
隣の人に押し潰されない様にと、カガリとアスランの間に立たせてくれる。
『花火が始まったら…2人で抜け出そうか…』
そっと…耳元で囁かれた声に思わず顔が緩んでしまい…
「うん…」
カガリに聞こえないように…一言だけ小さく返した。
陽も落ちた海沿いの野外ステージでは大人気の歌姫の声が響く。
切なさを醸し出すそのメロディーは男性の心を魅了し…女性の心に共感の意を抱かせる。
しっとりと響く…甘い…切ない…恋の歌…
気が付けば、アスランと手を絡め合っていた右手に温もりを感じた。
こうしているだけで彼の体温を感じる。
一緒にいられる事の幸せを実感させてくれる。
『そろそろ…移動しようか?』
コンサートも終盤に差し掛かった頃…アスランが再び私に耳打ちをした。
握られたままの手をキュッと握り返す事でその意を伝えようとしたその時…
「何処に行くんだ?まだコンサートは続いてるのに…」
コソコソと話をしている2人に聞き耳を立てていたカガリが私の反対側の手を掴む。
「あ…えっと…」
「折角だから、コンサートが終わった後に楽屋に行かないか?きっとラクスも喜ぶし…な?」
きっと…
私達が抜け出そうとしていたのに気付いたんだと思う。
ガッチリと私の手を掴んだまま、カガリは再びステージへと目を向けた。
困ったなぁ…
コンサート後の目玉になっている花火…。
アスランと2人だけでゆっくりと見ようと思ってたのに…。
掴まれた腕を振り解く事が出来ず、私はキラキラと輝くステージへと再び視線を向けた。
「皆さん!今日はありがとうございました〜!」
笑顔で手を振るラクスに贈られる無数の歓声。
最高潮に盛り上がる場内…
最後の歌を歌い終えたラクスは、笑顔でステージの隅から隅まで手を振り続ける。
「それでは皆さん!最後にわたくしと一緒に楽しんでくださいな!」
ラクスがそう告げた瞬間…
フッ…
会場の照明全てが落とされた。
ザワッ…
闇に包まれた場内に湧き上がるざわめき…
そして…カガリが掴んでいた手が一瞬だけ緩んだその時…
『アスラン、今の内!』
カガリの腕から抜け出した私は、アスランの袖を掴んだ。
「あれっ!?!?」
「最後の…演出かなぁ…?」
手を繋いで海岸まで駆けて来た私達は、砂浜に腰を下ろした。
「ラクスからのお礼かもしれないな…。」
「でも、助かっちゃったね。」
「そうだな。」
「今頃カガリ…私達の事探してるんだろうね。」
「キラもきっと探してるな…。」
「カガリ、アスランの事好きなんだもん」 「キラ、の事が好きだからな…」
同時に発した言葉に驚き、互いに顔を見合わせた。
「え?嘘…」
「そうなのか…?」
同性だからこそ分かる恋心…
異性だからこそ分からない恋心…
ぶつかった視線に目を細め、どちらからかクスクスと笑い出した。
「アスラン…大好き。」
「俺もが好きだ。」
そっと手を重ね合って…寄せ合う唇…
その唇が重なったその時…
バーン!!
夜空に大きな花が一輪咲いた…。
【あとがき】
遅くなってしまって済みません。
花火大会です。
逆ハー目指して書こうとしていたのですが…
黒キラ…黒カガリ…!
と、必死になっていたら、何故かキラとカガリしか出て来ませんでした(汗)
ふうら様、申し訳ないです〜(汗)
2005.8.24 梨惟菜