触れたい…
君を見てると自然と伸びる手。
そしていつも…届く前に引いてしまう手…
あと一歩が踏み出せない僕はとても臆病。
君に触れたいと思う気持ちより先に飛び出す感情は…
ガラス細工
「ってさ…触ったら壊れちゃいそうだよね…」
「…何処が…?」
「…何処がって…全部?」
僕が彼女に対して抱いている感情はアスランには理解出来ないみたいだ。
僕がの話をすると、アスランはいつも眉間に皺を寄せて聞いている。
それは不快だからとかじゃなくて…単に『理解不能』だからなんだって。
僕としてはそのアスランの思考回路が『理解不能』なんだけどね。
そんなアスランはの幼馴染。
親同士が仲が良くて小さい頃から一緒で…
でもアスランはが苦手だって言ってた。
は強気な女の子で小さい頃にはよく泣かされたんだって。
僕の目にはそんな風には映らないんだけど。
「って細くて白くて華奢だし…」
「まぁ…確かに華奢だけど…」
「何かね、日当たりのいい場所に居る時に気付いたんだけど…
日の光に当たってるってね、そのまま溶けちゃいそうなんだ。」
「………」
そのまま光と一体になって消えてしまいそう…。
そんな印象を受けた。
「…まぁ…昔から比べたら随分と大人しくはなった…よな…」
溜息混じりに答えるアスランの顔は相変わらず。
「…アスランはに対して特別な感情って抱いたりしないの?」
「俺が?を?」
「昔から知ってて、でも今のは変わったんでしょ?」
その感情が特別なものに変わる瞬間って無いのかな?
「…特別と言えば特別さ。」
「アスラン?」
「血は繋がってないのに妹みたい…これって家族愛…だろ?」
「…そっか…」
家族愛…ね…
僕は1人っ子だったし、幼馴染と呼べる人も周りに居なかったから分からないや。
アスランは簡単にに触れる事が出来る。
凄く普通に、軽く触れる事が出来る。
それが羨ましく思う。
でも僕は…そんな簡単に彼女に触れる事なんて出来ないんだ。
触れたいって感情よりも先に働く感情があるんだ。
それは…『恐怖』だった。
の瞳に僕はどう映ってる?
僕はアスランじゃないから…幼馴染とは違う存在だから…
何度も会話は交わしたけれど、僕の気持ちは未だにには届いていない。
一度触れてしまったら僕の気持ちは止まる事無く走り出してしまうんじゃないかって不安。
その不安が僕の最後の一歩を理性という形で引き止めていた。
臆病な僕は何よりも怖いんだ。
自分が傷付く事が…。
を物に例えるなら『ガラス細工』。
触れたら簡単に壊れてしまいそうな儚さ…。
透き通っていて繊細で…僕の心を掴んで離さない。
君は簡単に僕の心を捉えてしまった。
初めてアスランから紹介されたあの日…。
夏の…日差しの強い日だった。
ギラギラと照り付ける太陽が眩しくて…
でも、それ以上にの笑顔が眩しく見えて…。
その瞬間から、僕は君の虜。
「…キラって本当に器用よね…。」
「……えっ…?」
「あ、隣いい?」
「あ…うん…」
突然風のように現れたは屈託の無い笑顔で隣に腰を下ろす。
彼女が側に居るだけでその場の空気は一変する。
さっきまで軽やかに叩いていたキーが上手く叩けない。
得意分野なのに、彼女が側に居るだけで僕のペースは大きく乱れてしまう。
何て影響力のある子なんだろう…。
「速いなぁ…私なんてキラの3倍は時間掛かっちゃうもん。」
これでも遅いくらいなんだけど…
の視線が気になって実は少し指先が震えてる。
それに気付かないは澄んだ瞳で指先に見入っていた。
「唯一の得意分野だから…。」
「そう?キラってアスランと同じくらい成績優秀じゃない。」
「苦手分野を得意分野で補ってるって感じだから…。」
「でも得意分野があって羨ましいな…。
私なんて何においても全部平均的で秀でた物が無くて困ってるんだよ。」
と会話をしながらも懸命にデータを打ち込む。
何かしながら…じゃないと上手く話せないんだ。
の声だけに集中してたら頭がおかしくなっちゃいそうだから。
「あとでれくらいかかりそう?」
「え…あと…5分くらい…かな?」
「その後って予定ある?」
「ううん…課題を教授の所に提出に行くだけで他には別に…」
「じゃあ、ちょっと付き合ってくれない?
別の課題で分からない所があるの…。」
「ダメだ…っ」
「…何が?」
「もう僕、の事が好き過ぎておかしくなっちゃいそう…。」
「今頃気付いたのか?」
「うわ…アスラン、その言い方酷いよ。」
「そんなに好きなら告白でも何でもすればいいだろ?」
「それが出来ないから困ってるんでしょ…。」
「面倒だな…」
言える筈が無い…まともに目を見て会話も出来ないのに。
言ってしまったら今までの関係が変わってしまう事は確実なのだから。
それもきっと…良くない方向に…。
マイナス思考なのは良くないけど、想像できないんだ。
僕とが良い方向に変わるって、その光景が。
「せめて何かきっかけでもあれば言い出せる気がするんだけど…。」
「何かって?」
「クリスマスとか誕生日とかってイベントだよ。」
「…の誕生日なら来週だぞ。」
「…え!?」
「…って言うか、キラと同じ誕生日だけど…。」
「嘘っ!!」
「嘘言ってどうするんだよ。」
「だったら何でもっと早く教えてくれなかったの!?」
「…聞かれなかったし…」
誕生日が僕と同じ!?
アスランが恋愛関係に関して疎いのは分かり切ってた事だし、教えてくれなかった事はしょうがない。
って、誕生日まであと少ししかない。
「ちょっと買い物行って来るから!!」
「おい…課題は!?」
「もう終わったっ!!」
「…で、コレをどうするつもりなんだろう…。」
勢いで買ったへの誕生日プレゼントだけど…
買ったからどうぞ…なんて気軽に渡せるキャラじゃなかった自分に気付く。
誕生日が近付けば近付く程、身動きの取れなくなる自分が居る。
って言うか…もう明日だし…
やっぱり誕生日は家で家族にお祝いして貰うのかな…?
だったら尚更渡す機会が…無いような気がするんだけど…
完全にヘタレだよ…
「あ!キラっ!!」
「え?!?」
名前を呼ばれて駆け寄って来る足音に振り返る。
相変わらず今日も綺麗なに胸が高鳴った。
白いワンピースはの白い肌に綺麗に溶け込んでいて更に彼女を輝かせる。
「会えて良かった…渡したい物があって…。」
「え…?」
「本当は明日渡せたら良かったんだけど…コレ…」
がカバンから何かを取り出す。
「コレ…は…?」
「…一日早いんだけど…誕生日プレゼント、受け取ってくれる?」
「え…えぇ…!?」
「あ…あの…迷惑だった…?」
「だ…だってそんな…僕、誕生日の事なんて言ってないのに…」
「…アスランに聞いたの。明日だって。
実は…私も明日が誕生日で…何だか嬉しくて…」
少し頬を赤く染めたは俯く。
手の上に乗った箱を差し出しながら。
「貰っても…いいの…?」
「迷惑じゃ…なければ…」
「そんな…嬉しいよ、ありがとう…。」
その箱に手を差し出した瞬間、指先がの手に軽く触れた。
「あ…ごめんっ!!」
触れた衝撃で箱が手の中から落ちる。
慌てて手を伸ばすと、その箱は僕の右手と彼女の右手に包まれるようにキャッチされた。
「良かった…落ちなくて…。」
「…うん…」
「じゃ…じゃあ私、用事があるから…」
「う…うん…ありがとう…」
廊下を小走りに去るの背中を見詰めながら僅かに触れた手を覆う。
触れた部分だけが妙に熱い気がする…。
「あ…キラ、お誕生日おめでとう!!」
急に振り返った彼女は笑顔でそう告げると再び走り出した。
「あ…プレゼント…」
渡すチャンスだったのに…
手元には2つの箱…。
やっぱりダメだなぁ…僕。
溜息を吐きながら貰った箱に添えられている何かに気付く。
…メッセージカード…?
小さなカードが一枚…それをリボンの隙間から抜き取る。
「…っ……」
こんなの…不意打ちだ…っ…
きっと今、凄い真っ赤になってるんだと思う。
誰にも見られない内に帰らなくちゃ…。
明日になったらに会いに行こう。
このプレゼントを持って彼女の所へ…。
と同じようにメッセージを添えてこれを贈ろう。
『僕も君が好きだよ』
そう一言添えて…。
【あとがき】
中途半端な終わり方ですいません…
甘くも無い…キラがめっちゃヘタレキャラになっちゃってます…(汗)
ネタが浮かばなくて浮かばなくて…
考えるネタ全てが黒キャラに流れて行っちゃいそうな雰囲気だったんですよ…。
今回は珍しくキラ視点で…ハイ。
結果的には両想いなんですが、その前に終わらせてみました。
こんなパターンもまたアリかなぁ…と。
今回はヒロインの方が一枚上手?
キラ、お誕生日おめでとう!!
って事で今年も無事にお祝い出来てよかったです。
2007.5.17 梨惟菜