「なぁんか…どうよ?って感じ?」
「…何が?」
季節は巡り、桜の舞い散る季節が訪れた。
1学年上のイザークやディアッカはこの春に無事に卒業して、議員として働いている。
私とも…卒業まであと1年。
気が付けば最高学年になっていた。
「あれから半年よ?未だにイザーク様との関係に変化ナシなんてあり得ない…。」
「そんな事私に言われても…。」
結局、ハイネ様との婚約を直前にお断りした。
本当に何から何まで自分勝手な都合で…
ハイネ様には申し訳ない事をしてしまったと…何度詫びても足りないくらい。
なのに彼はちっとも怒らなかった。
それどころか逆に背中を押してくれて…
本当に…最初から最後まで優しい人だった…。
イザークが私と向き合おうと言ってくれて…気が付けば半年。
進展は…ほぼゼロ。
今までと変わらない幼馴染の関係で、登下校を共にしたり…週末にとディアッカを交えて外出したり…
何て言うか…プラマイゼロ…みたいな?
でも、『待って欲しい』なんて言われちゃったら待つしかなくて…
毎日、いつ言われるんだろう…なんてモヤモヤしながら過ごしていた。
でも…いつまで待ってもイザークからの答えは何も得られない…。
偽装恋愛
「じゃあ、今年はカフェで決まりね。」
学園祭の迫るある日…所属している天文部では学園祭の話し合いが進む。
「衣装は知り合いに借りるから…後は当日の仕事の分担とメニューの設定…それから…」
話が着々と進む中、は嬉しそうにしていた。
「…楽しそうね…。」
「勿論♪」
去年までどのサークルにも所属していなかったにとってはこういった企画は楽しみみたい。
「そうだ…。実行委員長が呼んでたわよ?」
「…私を…?何で?」
「さぁ…知らないけど…。」
「…はぁ…?」
はただ、目を丸くして聞き返す。
「あの…今…何て?」
「だからね、今年のミスコンに出て貰えないかな…と思って。」
「私がミスコン!?」
ミスコンって…あのミスコン…よね?
一昨年と去年の優勝者がの…いわゆる人気コンテスト…よね?
「何で私が…」
意味…わかんないんだけど…
「は?出ないの?」
付き添ってくれているは隣でニコニコと微笑んで…
「ホラ…私は…ね?」
左手の薬指を強調させながらにメッセージを送った。
「この時期になるとね〜。婚約しちゃう女子、増えるのよ。」
もまた同じ…。
先日、はめでたくディアッカとの婚約を発表した。
3年になると、卒業と同時に結婚をする予定で婚約を決める女子が圧倒的に多い。
男は仕事、女は家庭。
何だか古くさい気もするけれど、気が付けば一般的な方程式。
どうせ私は…ね…。
「ね?出来れば3年からも出場者を出したいのよ。」
それで、婚約の決まってない私にお声が掛かる訳ですか。
「あ〜。私ぐらいしか居ないんだ?フリーの子って。」
「あら。知らないの?密かに狙いの男子って多いのよ?」
「嘘ばっか…。」
「本当だってば。」
本当に自覚ないんだから…。
は苦笑しながらに視線を送る。
「優勝者には豪華商品よ?ね?出るだけでいいから、お願いっ!」
目の前で手を合わせて頭を下げられちゃったら…ねぇ…。
何で断れないかなぁ…私。
言いたい事はハッキリと言うタイプなんだけど、困ってる人が居ると放ってはおけない…。
この性格…呪うよ。
「お待たせ、イザーク。」
今日は久し振りにイザークが迎えに来てくれる事になっていた。
門へと向かうと、1台の車が停まっている。
運転席には…勿論イザークの姿。
「遅かったな。」
助手席に乗り込むと、イザークが先に口を開いた。
「ごめんっ!学園祭の話し合いに時間掛かっちゃって。」
…って言うか…呼び止められちゃって…が正解?
「あぁ…もうそんな時期か…。」
壁に貼られたポスターに気付いたイザークは、去年の事を思い返す様に見入る。
「今年は何をするんだ?」
「カフェ。」
「そうか…。」
「私は多分…ウェイトレスだろうなぁ…。」
「当然だな。の腕じゃ厨房には立てないだろう。」
「しっ!失礼なっ!」
図星は図星なんだけど…何かショック…。
料理くらいはちゃんと勉強しておくべきかなぁ…。
「ねぇ。学園祭、来れる?」
「ん?そうだな…何とか予定を空けておこう。」
「良かった。楽しみにしてる。」
他愛ない会話…
これだけを第三者が聞いていたら、普通のカップルって思ってくれるかな?
でも…彼氏彼女でも何でも無い…
何て言ったらいいんだろう…。
友達以上、恋人未満?
ただの幼馴染…って感じでも無いし…。
難しい…何より曖昧な2人の関係。
いつまで続くのかな…。
「それとね…」
「何だ?」
「ミスコン…出る事になっちゃった…。」
「は!?」
イザークは叫ぶ同時に急ブレーキを掛けた。
「わ!危ないじゃん!」
何よ…急に…
「…何を考えてるんだ…お前は…」
「何って…」
「ミスコン?ふざけるな。」
「はい?」
「出るな。」
「だって…頼まれちゃったし…。」
イザーク…怒ってる…
怒ってる時のイザークは人の目を見ない。
しかも…明らかに不機嫌顔。
「しょ…しょうがないじゃん!3年になるとフリーの子って少ないし…
他に頼める子が居ないって言われちゃったし…商品は豪華だって言うし…」
『フリーの子』
その単語に…反論の言葉を失う。
確かにイザークは…の婚約者でもなければ彼氏でも無い。
返事を待たせて保留にして…未だに明確な答えを出していない。
「とにかく、俺は認めんぞ!」
「何よ…それ…」
そんな一方的に…
「もうOKしちゃったんだから今更断れないんだから!」
「そんな事は知るか!」
「私だって知らないわよ!私はイザークの所有物じゃありませんっ!」
「おい!っ!」
はドアを開けると道路へと飛び出した。
運動神経の良いは走るのも速く…あっという間に通りに姿を消して行く…。
「はぁ?それでお前、理由も言わずに一方的に反対した訳?」
呆れた表情でディアッカは溜息を吐く。
「お前…いい加減に言ってやれよ。」
「分かっている。」
いや…分かってないだろ…。
どうしてこうも不器用かね…。
が他の男と婚約するのは気に食わないと…婚約を解消させた。
その時点で自分の気持ちがハッキリしていたのかと思えば…
イザーク曰く
『分からない』
その一点張り。
好きなのだと言うのは見ていれば良く分かるのに…
本人は全くの無自覚。
こればかりは自覚しなければ意味が無い。
イザークの中でも答えは出ている。
は幼馴染なんかじゃない…
妹でも何でもない…
気が付けば…1人の女として見るようになっていた。
自分が卒業して…はまだ学生で…
毎日の様に顔を合わせる事が出来なくなって…ハッキリと理解した。
が毎日、学校の男に言い寄られていないか…
凄く気になって仕方が無い…。
言わなければ伝わらない…
は待ってくれている…
俺からの言葉を…結論を…
でも…いつどうやって伝えたら良いのかが分からなくて…
結局、またぶつかって怒らせて…振り出しに戻る。
成長していないな…俺も…
「ありがとうございましたぁ〜♪」
カフェは予想以上に繁盛していた。
案の定、ウェイトレス担当になってしまった私は店内を駆け回る。
学園祭当日…盛り上がる校内。
結局、イザークと仲直りしていない私にとっては忙しい方が丁度良い。
イザーク…来てくれないだろうなぁ…。
意地っ張りな自分に激しく後悔。
お互いがそうだから喧嘩すると厄介なのよね…。
大体、原因は何なのよ…
訳分かんないんだけど…
「おっ…盛り上がってるじゃ〜ん。」
「あ、ディアッカ!」
婚約者のご来店には嬉しそうに駆け寄った。
「へぇ…衣装、可愛いじゃん?」
ディアッカの後ろに立つイザークの姿を見付け、一瞬だけ笑顔になったが、はすぐに顔を逸らす。
そんなに視線を向けたイザークは…の着ている衣装に目を見開いた。
黒い膝丈のワンピースに…白いフリルの付いたエプロン…
いかにも客引きの為に用意された…メイド服じゃないか…
「、そろそろミスコンの時間だから行かなくちゃ。後お願いね。」
「うん…って!衣装は?」
「あぁ…時間無いからこのままで行くわ。案外ウケるかもよ?」
スカートをヒラヒラと靡かせ、は部屋を飛び出した。
「おい!!!」
「待て!」
校舎を出た所でイザークに腕を掴まれる。
「離してよ。時間に遅れちゃうじゃない!」
「だから認めんと言っただろうが!」
「知らないわよ!私が決めたんだから口出ししないで!
大体、理由も言わずに反対されても納得出来ないでしょ!?」
どうしても口調がキツくなってしまう。
直したいって思うのに…イザークを目の前にしたら素直になれなくて…。
イザークの気持ちが分からないから…余計に苛々しちゃって…
もう…こんな自分が嫌い。
「そんな格好で…」
「は…?」
「そんな人目を引く格好で出たりしたらどうなるか分かっているのか?」
「え…」
掴んだ手をそのまま引き寄せられ…
イザークはを抱き締めた。
「イザ…」
「頼む…余り他の男の前に姿を晒さないでくれ…。」
震える手…
高鳴る心臓…
リアルに伝わってくる…イザークの心音…
「イザーク…時間が…」
「だから行くな…。」
シャツから漂うイザークのコロンの香りにクラクラしそう…。
「私は…イザークの何…?」
震える声で問い掛ける。
いつまで待ったら…答えをくれるの?
そして…その答えはどんな答えなの?
気になって…不安に押し潰されそうで…
それでもイザークの事が好きで…大好きで…
「悪かった…待たせたな。」
「イザ…」
「俺の答えはとっくに出ていた。なのに言い出すタイミングがなかなか掴めなくて…を不安にさせたな。」
片手を頬に添え、の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「を他の誰にも渡したくない。」
もう一度…腕の中に抱き締める。
「愛している…俺の…妻になってくれ。」
「イザーク…」
の瞳から溢れる…大粒の涙。
イザークの指先が何度拭っても止まらなくて…目元は赤く染まっていく。
それだけ…イザークの心を待ち侘びていた証拠。
ずっと愛して欲しくて…傍に居て欲しくて…
やっと…手に入れた居場所…
の冷えた唇をイザークが塞ぐ…。
唇が離れるのと同時に…眼前に銀糸が広がった。
「で?結局優勝は?」
そのままミスコンをドタキャンしたに代わり、が出場した。
結果は当然、3年連続の優勝。
「言っとくけど、今回はお前の努力に免じてを出したんだからな?」
ディアッカはイザークに詰め寄る。
「…分かっている。」
「じゃあさっさと婚約発表でもしろよ。何ならW挙式とかしちゃう?」
「「あ!それいい♪」」
とは声を揃えてはしゃぐ。
「…冗談じゃない。貴様と一緒に並んで歩けるか!」
「今日…ありがとね…。」
珍しく歩こうと言い出したイザークと並んで家路を歩く。
こうして並んでこの道を歩くのは久し振り。
一緒に登下校したあの頃を思い出しながら、懐かしい記憶が脳裏を掠めた。
「待たせたのは俺だ。」
「それはもう良いよ…。」
が手を伸ばすと…イザークはそれに応えて指を絡める。
「帰ったら…両親に報告しないとな。」
「そうだね…。きっと…喜んでくれるね。」
随分と遠回りしちゃったけど…
挫けないで良かった…
頑張って良かった…
他人を傷付けてしまったけれど…その分も幸せになろう…。
偽装から始まった想いが時を経て…本物の愛になる。
人の心は変わる…
変わらない心もある…
変わった心と…変わらなかった心…
交わりあった心…
「?どうした?」
「…ううん。何でも無い…。」
夕焼けに照らされて…並んだ2人の影は溶ける様に消えていった。
【あとがき】
ようやく完結致しました。
全9話かぁ…長かったですねぇ。
実はこのお話のネタ…当初はアスランで書く予定だったのです。
でも考えてく内に、イザークの方がイメージかな?と思いまして…。
結果、イザークで満足です♪はい。(自己満足かい)
連載のお話が完結すると何だか嬉しいです。
基本的に中途半端な人間なので、何とも言えない達成感が…♪
ここまで読んで下さってありがとうございました。
また別の作品も読んで頂けたら幸いです♪
2005.9.17 梨惟菜