First Date




















予定の無い午後。




大好きな彼と2人だけで過ごす大事な時間。





特別な事は無いけれど、一緒に居られるだけで十分幸せ。






アスランの手作りのハロを転がしながら幸せを心から感じていた。




















、今度の週末、どこか行かないか?」







アスランから先に切り出された言葉。







「そうね…特に予定も無いし。

 久し振りに皆で遠出でもする?」










週末と言えばいつものメンバーで賑やかに過ごすのが定番。




だから今回もそうなのだと思っていた。








「え?いや、そうじゃなくて…。」





「遠出じゃないの?近場?」






「いや、2人で…出掛けないか?」
























これが俗に言う…「デート」のお誘い…ってやつ?






アスランはクールでカッコ良くて成績優秀で…





アカデミーでも絶大の人気を誇る。






そんなアスランと私が付き合っているなんて奇跡に近いお話。















「2人…で…?」






「あぁ。俺達、付き合ってるんだし、2人で出掛けるのはおかしくないだろう?」







「…う…ん…。」







何だか改めて言われると恥ずかしい。





実は付き合ってるって実感があんまり無かったと言うか…。







『好きだ』と告げてくれたアスランに、密かに彼に想いを寄せていた私は純粋に嬉しくて涙した。





ずっと見つめているだけの存在だと思っていたから…





そんな人が目の前で私に想いを告げてくれるほど嬉しくて幸せな事なんて無い。






だから、それだけで十分幸せだったの。









でも…アスランの突然の誘いはとても驚いたけれど嬉しくて…






約束の日まで私は眠れぬ夜を数えながら過ごした。


































待ちに待った週末。






昨夜は着て行く服に散々迷ってつい夜更かし。





目元が少しだけ寝不足で赤いけれどお化粧で何とか誤魔化して。






悩んだ末に決めた桜色のワンピースに白いニットのカーディガンを羽織る。




きっとこの色は彼の濃紺の髪に良く映える。






部屋の扉をそっと開けて、周囲を注意深く観察しながら廊下へと出た。






週末なのに宿舎の廊下は静まり返っていた。




それもその筈。





時刻はまだ早朝だから。









『絶対にイザーク達に見つかるなよ。』







アスランにそう言われて待ち合わせの時間を早くして、外で待ち合わせる事にした。



































「お待たせ!アスラン。」







軍の宿舎から少し離れた公園で彼は待っていた。





小走りで自分の元へと駆け寄って来る彼女に自然と頬は綻ぶ。




桜色のワンピースがとても似合っていて、愛しい彼女が自分の恋人で居てくれる現実を改めて嬉しく思った。






彼女は知らない。





密かに彼女に恋焦がれている男が何人も居ると言う事を。





本人に自覚が無いだけに常にハラハラさせられて…でもそんな嫉妬心は表には出せなくて。







眩しい笑顔、つい耳を傾けたくなってしまう甘い声。







同僚のイザークも彼女を想っているなんて本人はまったく気付いていない。






イザークはイザークで俺の事は認められないらしく、何かにつけては邪魔をして来るのだ。






週末になって外出しようとすれば必ずディアッカや二コルを引き連れて妨害をする位だ。





だから、今日こそはと意を決し、を早朝から呼び出したのだった。


































「えっと…今日は何処へ行くの?」






助手席へと誘導されたは緊張した面持ちで運転手に問い掛ける。






車は海岸沿いを走り、昇り始めた朝日が海面をキラキラと照らす。





の行きたい所なら何処へでも。」





「え…」




そう言われて戸惑う。




アスランが何か計画を立ててくれているものだと思い込んでいたから。






「もしかして…迷ってる?」





「…うん…アスランにお任せするつもりだったの…。」






「そう…だな…俺も何も言わなかったし。

 そうだ…今度のパーティーのドレスはもう決まった?」





「あ…ううん、まだ。」





「じゃあ、買い物にでも行こうか。」





「…うん!」



































とは言ったものの、早朝に飛び出して辿り着いた街はまだ目覚めるには早過ぎた。





開店時間まではまだ少し時間があるようだ。






通りのカフェが数件開いている程度で日中は活気溢れる街もまだ静かな時間を刻んでいる。








「失敗だったな…早過ぎた。」





「そうね。」





車から降りたアスランは手を差し出してをエスコートした。






「このままで歩いても構わない?」





「…う…うん…」





そう答えるとアスランは微笑んで指先をのそれに絡めた。








「店が開くまでお茶でもして過ごそうか…。」





「そう…ね…」






でも朝食と一緒に紅茶を飲んだばかりでお腹も一杯だし…。





悩みながら辺りを見渡して、はある場所に視線を止めた。








「アスラン…映画でも観ない?」





丁度開いたばかりの映画館がの目に飛び込んで来た。






「映画か…暫く観てないな。」





「でしょう?今開店したばかりみたいだし…行こ?」





「そうだな…行こうか。」





何を上映しているかなんて下調べはしていなかったけど、とりあえず映画館へと足を踏み入れた。



































映画は…失敗だったかも…




観終えた2人は併設されていたカフェに居た。






映画が始まってもアスランの手は添えられたままで…映画以上にそれが気になって集中出来なかった。





大好きな純愛映画だったけれど、映画の内容もうっすらとしか記憶に残っていない。







「映画は失敗だったかな…。」







「え…?」






飲み終わったアイスティーのグラスに残る氷をストローで突付いていたにアスランが呟いた。





「折角2人で居るのに2時間もスクリーンを観てたらの顔が見れなかっただろ?」





「…っ…!」






何でこの人はこう…恥ずかしいセリフをサラッと真顔で言ってしまうのだろう…。




真っ赤になったは慌てて顔を逸らす。






、顔真っ赤。」




「だ…だって!」





素直な反応が可愛くて、つい悪戯をしたくなってしまう。






「冗談だよ…そろそろ行こうか。」


































「ねぇ、どっちのデザインが好き?」





2着のドレスの間に立ってはアスランに意見を求めた。




色は同じピンク色。




デザインは両極端。




右手には膝丈程度の長さのドレス。

胸元にはドレスと同じ色のバラのコサージュが縫い付けられたシンプルなデザイン。




左手には足首まで隠れる長さのドレス。

全体的に細身に作られていて何より気になるのは胸元が少し広がっている点だった。

身体のラインも強調されそうな大人っぽいデザイン。







「俺の好みは右側かな…。」






どっちも似合うだろうと内心思っていたが即決で右手のドレスを指した。




左手のドレスはかなり魅力的だし、男としては見てみたいのが本音だった。



…が、恋人としては他の男にまで見せる事は出来ない。








「そっか。じゃあこっちにするね。」





アスランの一言では右手のドレスを買う事にした。


































「ごめんね…たくさん買い込んじゃって。」




ドレスの後にはアクセサリー類をじっくりと選んで…



ドレスの色に合わせて黒のストール。




ピンクパールのネックレスとピアス。




「ベッドの上でいいか?」





「うん。」






ベッドの上へ買った物一式をドサッと置いた。





それにしても…






「見事にピンクで統一させたな…。

 そんなにピンクが好きだったっけ?

 ブルー系も似合うと思うんだけど…。」




「ん〜。別にそういう訳でも無いよ。

 前はブルー系の服も着てたりしたし。」





「今は何で着ないんだ?」

















「…アスランの髪の色が紺色だから。」





「はぁ?」





「一緒に並んだ時に暖色系の色が映えるでしょう?

 ブルー系だと映えないんだもの…。」





の言葉に頬が熱くなった。





か…可愛い…っ…




暖色系の色を好んで着る理由が自分にあったと知って喜ばない男が居るだろうか?












「折角公の場で紹介して下さるって言うから見栄えも大事でしょ?」






「……何の話をしてるんだ?」





公の場?



紹介?






「アスラン…聞いてないの?

 今度のパーティーでパトリック様が正式な婚約者としてお披露目して下さるって。」






「父上が!?」








聞いていないも何も!




俺はとの交際をまだ父には話していない。




今度のパーティーで紹介しようと思っていた所なのにどういう事だ?











「俺は今度のパーティーで紹介するつもりでまだ何も話してないのに何故…」






「そうだったの…?

 実はこの間パトリック様に偶然お会いして…。

 その…見られちゃってたみたい。」





「…何を?」





「わ…別れ際に…キスした所…」






「…な…!!」





アレを…父上に見られていたのか…!?

















「てっきり婚約の話、アスランも知ってるんだと思ってた…。」







アスランも聞かされているのだと思っていたは表情を沈ませて俯いた。





確かに正式にプロポーズされた訳じゃないものね…。






勝手に舞い上がっていた自分が何だか恥ずかしくなってしまう。









「いや…それは…」





勿論、嬉しいに決まっている。




将来の相手なんて以外には決して考えてなどいないのだから。






















…」




「…え?」





両手を彼女の肩に添えると、は顔をゆっくりと上げた。




アスランの真剣な表情に背筋が自然と伸びる。








「俺と結婚してもらえませんか?」





「え…」





「ちゃんと自分の口で言って、ちゃんとから返事を貰ってからでないと婚約の発表なんて出来ない。」




「アスラン…」





「俺の妻に…なって頂けますか?」




「…はい。」





目頭が熱くなって、涙が一滴頬を伝った。



それを指先で掬ったアスランはそっと唇を彼女のものへと寄せる。



それに応える様にも瞼を落とした時だった。




















〜〜〜〜っ!!」





叫び声と扉が開いたのはほぼ同時だった。





「今まで一体何処に…っ!?」




扉を開けてイザークの瞳に映るのは、キスまであと数センチの2人の姿。







「ア…アスラン…貴様ぁっ!!」




「イザークっ!ちょっ…!!」





の制止も聞かずに間に割り込んだイザークはアスランの襟を掴む。






「貴様…今に何を…っ」





「何って…見て分からなかったか?」





「ふざけるなぁっ!!」


































「もう…折角のプロポーズが台無し。」





「プ…プロポーズ!?」





の言葉にイザークは再びアイスブルーをアスランへと鋭く向けた。







「いい加減に諦めてくれないか?」





「冗談じゃない!貴様のような腰抜けにを任せられるかっ!!」






「でももうOKしちゃったし…」





!この男に騙されるな!!」








「あ〜あ。またやってるよ…。」





騒ぎを聞き付けてディアッカも顔を出す。






「お願い…イザークを止めてよ…。」





「俺に死ねって?」








「アスラン!勝負だっ!!」






「何で?」





「チェスに決まっているっ!!」







「ちょっと!私を無視して話を進めないで!!」








既に戦闘モードに入ったイザークは意気込んで我を忘れていた。






、こうなったイザークは止められないよ。」





「もう…仕方ないんだから。」





「でも、さっきのは中途半端で俺も納得出来ないからな…。」





「え……んっ…」





顔を上げたら視界が遮られて…




アスランの優しい唇でそっと塞がれた。





「お休み…また明日…な。」




























【あとがき】

遅くなりましたが…20万Hitフリー配布用に書かせて頂きました。

初々しいカップル…のつもりだったんですけどね…。

ギャグなんだか甘いんだか分からないオチになりましたが…。

一応、フリー配布にさせて頂きます。

こんな駄文を持ち帰って下さる方は希少かと思われますが…。

お持ち帰りの際には必ず掲示板もしくはメールで一言お知らせ下さい。

あとは当サイトのリンクも忘れずにお願い致します。

では、皆様のお陰で20万Hit、本当にありがとうございました。

これからも宜しくお願い致します。





2007.1.12 梨惟菜







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