二人だけの夜
「さんっ!誕生日おめでとうございます〜っ!!」
朝、いつものように艦長室へと向かった。
タリアとのミーティングを済ませ、彼氏でもあるアスランと共に部屋を後にした。
アスランとが恋人同士だということは、艦長しか知らないこと。
他の皆には、このことはトップシークレット。
普段どおり二人で休憩室に立ち寄った時、シンやルナマリア、レイやメイリンなどミネルバクルー全員から突然祝福の言葉を受けた。
一体何事かとよくよく考えてみれば、本日は7月20日。
・・・自分の誕生日なわけで。
隣でクスッとアスランが苦笑しながら、の呆気にとられた横顔を見つめていた。
それに気づいたは少し頬を染めながら、アスランを軽く睨んでみせた。
「アスラン?まさか私の顔見て笑ってるんじゃないでしょうね?」
「いやいや、そんな滅相もない」
「嘘っ!だって今も顔が笑ってる・・・」
「ぷっ・・・」
あからさまに、の態度を見て笑うアスラン。
笑いをこらえるアスランに、はブーっと口を尖らせながらも、その笑顔に見惚れていたのも確か。
自分の彼氏ながらも、やはり何をしてても似合ってしまうところが惚れた弱味というやつで。
アスランがに耳打ちをしようとしたその時、は体ごとルナマリアにひっぱられてしまった。
「あ・・・」
に伝えたいことがあったのだが、タイミングを見事に逃してしまったアスランは間抜けな声を出してその光景を眺める。
一方、連れ去られた当の本人は、アスランが何か言いたそうにしていたのを名残惜しく感じながらも流されるままに。
「今日は皆でさんの誕生日を祝いますから!覚悟しておいてくださいよ?」
「あ・・・ちょっ・・・ルナマリア?!」
「日頃はフェイスとしての活動も大変でしょう?だから今日は楽しんでください!」
そう、はアスランと同じフェイス。
戦闘指揮はアスランの次に任されていて、ルナマリアとシンには特になつかれていた。
せっかくの誕生日をアスランと過ごしたかったのだが、たまには二人に付き合うのもいいか・・・とは肩をすくめた。
休憩室の奥へと案内されたは、そこに用意された椅子へと座らされる。
辺りを見回してみれば、丁寧に飾り付けられた壁や豪華な食事が並んでいる。
自分のために、皆は前から支度してくれていたんだ・・・と心が温まる。
「さん、誕生日おめでとう」
「シン!」
「へへっ!俺さ、さんの為にプレゼント買ってきたんだ〜」
「え?なになに?」
ワクワクしながらシンを見つめる。
シンは満面の笑みを浮かべながら、後ろに隠していた手をバッと前へ差し出す。
両手で握っていたそのプレゼントを、そっと手を開けてに見せる。
シンの手から出てきたのは、可愛い誕生石のレプリカのネックレスで。
それを照れた様子で渡すシンが、とてつもなく可愛くて思わずは彼を抱きしめる。
「シン〜!ありがとうっ!!」
「さんっ・・・?!////」
突然のことに頬を染めるシンを、ジーっと横目で睨むルナマリア。
彼女ものことが大好きなだけに、シンが抱きしめられているのが気に入らないようだ。
ルナマリアもここぞとばかりにシンを押しのけて、にプレゼントを渡す。
彼女のプレゼントは手作りのクマのぬいぐるみで、再度抱きしめたい衝動にかられたはルナマリアを抱きしめた。
「二人とも、素敵なプレゼントありがとう」
にっこりと二人に笑顔を見せると、シンもルナマリアも嬉しそうに照れ笑いを浮かべていた。
その後も次々と渡されるプレゼントに、笑顔を浮かべてそれらを丁寧に受け取った。
あれからクルー全員が作ってくれたケーキを食べたり、さまざまなもてなしをうけた。
さすがのフェイスといえども、こんなに長いパーティーは久しぶりで結構疲れがたまってきていた。
気づけば辺りはすっかり日も暮れ、月が主役となる時間帯。
皆が居る休憩室をこっそりと抜け出し、は外のデッキへと出て、風に当たっていた。
「アスランとゆっくり過ごしたかったな〜・・・」
皆が祝ってくれたことはとても嬉しかった。
だけど欲を言うならば、大好きなアスランとこの日を過ごしたかった。
誕生日のこの日も、残りあと数時間で終わりを告げる。
それが余計に寂しくなって、目に涙がジワリと浮かぶ。
そんなを、後ろからそっと抱きしめた人物が居た。
「誰っ・・・?!」
驚いて後ろを振り返って見れば、そこに居たのはアスランで。
まさかこんなところに彼が居るだなんて思わなくて、は目を見開いたまま呆然とする。
「なんでアスランが此処に・・・」
そこから先の言葉は、アスランによって遮られた。
ふいに、彼の唇がそっと自分へと重なる。
「んっ・・・」
触れるだけの優しいキス。
だけど触れている時間が長くて、思わず息が続かなくなる。
トントンとアスランの胸をそっと叩いて、苦しくなった合図を彼に送る。
だけどアスランは、それを無視してキスを続ける。
「んんっ・・・ふぅっ・・・」
もう限界だと、自然との頬には涙が伝う。
それを見て、アスランはそっと唇を解放した。
「も・・・もう!アスランっ・・・」
「シンのことを抱きしめたりした罰だ」
「え・・・?」
「俺以外の男に触るなんて、許した覚えはないんだけど?」
「アスラ・・・ン・・・」
「さすがにあれは、良い気分じゃないな」
フッと笑みを零しながら、アスランは優しくの体を抱きしめる。
「・・・ごめんね、アスラン」
「いや、俺も少し意地悪してすまなかった」
「ううん。アスランが嫉妬してくれて嬉しかったよ」
「も嫉妬してくれたら、俺としては嬉しいかな」
「誰に嫉妬すればいいのよ?」
「ラクス・・・とか?」
「・・・アスランのバカ」
「バカって・・・それはないだろ?」
クスクスとお互い笑い合って、はアスランの背に手を回す。
アスランはそっと、の耳元で甘い口調で囁いた。
「この世に生まれてきてくれてありがとう。」
「・・・!」
「愛してるよ。これからも・・・ずっと君だけを」
「アスラン・・・っ」
アスランはを抱きしめる腕に力を入れて、ギュッと彼女を抱きしめる。
そんなアスランの温もりの中で、は嬉しさと幸せで涙をそっと流していた。
アスランは片腕を自分のポケットへ入れると、そこから小さな箱を取り出しての目の前へと差し出した。
「これは・・・?」
「俺からのプレゼント」
「ありがとう、アスラン」
やんわりと笑みを零しながら、はその箱を受け取る。
そしてそっと丁寧に包装されていたものを取ると、中から指輪のケースが姿を現した。
そのケースをアスランはの手から取ると、フタを開けて中から指輪を取り出す。
そのままの左手を手に取り、薬指へと指輪をゆっくりと通す。
全ての行動が終わると、アスランは微笑んでの手を離した。
「誕生日おめでとう」
「あ・・・りがとう・・・アスラン」
自分の左手に、存在を主張しながら光るその指輪が嬉しくて、は涙が止まらなかった。
同時に、ずっと永遠に彼と共に生きようと思うのだった。
月明かりに照らされたアスランを、は涙で滲む視界で捉える。
表情を伺おうにも、涙が邪魔をして知ることができない。
アスランは再びを抱きしめると、小さな声でこう言った。
「いつか必ず本物をプレゼントするから、それまで待ってて」
・・・と。