同じ髪の色…
同じ瞳の色…
でも確かに違う2人の少女…
気が付けば惹かれていた『彼女』は俺をいつも避けていた。
そして…気が付けば別の男が側に居る。
その時この想いを確信したんだ。
彼女を…を『愛してる』ってね…。
姉心と冬の空
「初詣?」
「あぁ。1月1日、一緒に行かないか?」
「2人…で?」
「そう、2人だけで。」
短い受け答えの中での表情はクルクルと変わる。
最初はきょとんとした表情で…次は驚いた表情。
そして最後には頬を赤く染めて少し俯いた。
「迷惑だった?」
「そ…そんな事ない!凄く嬉しい!!」
は慌てて顔を上げて訂正する。
その必死な表情がとても愛らしい。
「じゃあ約束…な。大晦日はパーティーなんだろう?」
「あ…うん。またクリスマスパーティーみたいに挨拶ばかり…。」
「本当は大晦日も2人で過ごしたかったんだけどな…。」
小さく…の耳元で囁くと、彼女は更に頬を染める。
「ご…ごめんなさい…。」
「いいんだよ。それは俺の我が侭。俺もパーティーには招待されてるしね。」
と恋人同士になってから3日後…。
まだまだ始まったばかりの2人の関係。
クリスマスのあの夜、俺の胸の中にあったモヤモヤは消え去り、今は温かい気持ちに満ちている。
は…フラガ少佐と付き合っているのだと思っていた。
が気になって仕方の無い俺は何度も彼女に声を掛けようと試みたけれど…
はいつも避けてしまう。
自分は嫌われているんだと思っていた。
それでも気になって気になって…
いつもの事を優しく見守っているフラガ少佐に嫉妬して…
ようやく伝わった俺の想い…それだけで十分と言いたい所だけれど。
人間は欲張りだ。
1つ望みが叶えば次の望みが自然と姿を現す。
が側に居てくれて凄く幸せだけど…欲張りな心はを常に側に置いておきたいなんて言い出した。
そんな事は無茶な話だって分かってる。
だから少しでも2人だけの時間を増やしたくて…
自分がこんなに欲張りな人間だなんて思ってなかった…。
彼女を知るまでは…。
「やっぱ振袖だよな。」
「振袖…」
「絶対には振袖で来るね。」
何と言っても国家元首、アスハのご令嬢。
ウズミ様は『和』の心を重んじる方だし…
の振袖姿を確信するのは、俺の尊敬すべき人生の先輩であり…手強いライバル…。
「そっか…2人で初詣か…いいね〜。若いね〜。」
クリスマス以来、何故か俺と少佐はよく話をする。
…と言うか、彼が気さくに話し掛けてくれるようになった。
その理由は…未だに謎。
「お前、和服とか持ってるか?」
「え?いえ…俺は…」
そんな風習…プラントには無かったし…。
「おいおい…用意しとかなきゃダメだろ…。振袖には袴!コレ常識。」
「…はぁ…」
「仕方ないな…俺ので良けりゃ貸すぞ。」
「あの…フラガ少佐…」
「ん?何だ?」
「俺の事…煩わしいと思わないんですか?」
「…何で…?」
「いや…だって…俺が居なければはあなたを…」
きっとフラガ少佐を選んでたんじゃないか…?
「う〜ん…。考えた事無かったな。」
「…何でですか?」
「お前がどうこう…って問題じゃないんだよ。実際は。」
「??」
「俺自身に問題があるんだよ。
例えお前が居なくてもは俺を選んでないと思う。」
フラガ少佐の返事は…何だか深みのあるものだった。
「俺はを幸せにしてやりたいと思うし…が俺を選んでくれていたとしたら何が何でも守ってやるつもりだった。
でもな、自身が俺に魅力を感じてくれなかったら結局何も始まらないだろ?
だったらには笑っていて欲しいし、それが出来るのはお前だけ。」
少佐の言葉に…自分の中の想いが180°ひっくり返された気がした。
やはり自分よりもずっと大人な彼の考え方…
自分の側には居てくれなくても…幸せになって欲しいと願えるその器の広さ…。
「だからお前はしっかりを想ってればいいんだよ。じゃないとが不安になる。」
「…はい…。」
「本気で着て行くつもりなのか?」
「何言ってるの?毎年着てるじゃない…。」
「確かにそうだけどな…今年は去年までと違うだろう?」
「何が違うの?」
「一緒に行く相手が…だよ!」
赤い振袖を綺麗に着付けられ、伸びた髪は丁寧に纏められ…
いつも以上にその愛らしさを増しているにカガリは溜息を漏らした。
「あ…カガリも…一緒に行く…?」
アスランには2人きりで…って誘われたけど…
それが原因でカガリは怒っているのかもしれない…。
「だから、そういう意味じゃなくて!」
「…?」
目の前で頭を掻くカガリもまた、緑色の振袖を着付けられている真っ最中。
「…この際だから言っておくが…私はもうアスランの事なんてどうでもいいからな!」
「…カガリ…?」
「それより寧ろ、今はの方が心配なんだ!」
「私が心配?何で…?」
「…お前、付き合うのはアスランが初めてだろ!?」
「な…!カガリだって誰とも付き合った事無いじゃない!!」
「私の事は今は関係無いだろ!?実際まだ相手が居ないんだし!
でもな、は違うんだよ!アスランがの彼氏なんだから!」
「だから何…?」
「が何も知らない事をいい事に、アスランが何をしでかすか…。」
「カガリ…何を言い出すかと思ったら…。アスランはそんな人じゃないよ…。」
「分からないじゃないか!言っとくけどな、男は狼なんだぞ!?」
「…プッ…あははは…!!」
「何がおかしいんだ!!」
「だって…カガリって面白い…」
「私は真面目に言ってるんだぞ!?」
「…ごめんごめん…。ってもうこんな時間!?早く行かなくちゃ…!」
「あ!!?話はまだ…!」
まだ帯を締められている途中のカガリは足を踏み出す…
「カガリ様!まだ終わっていません!!」
着付けを行っている使用人に拘束されている間にもは支度を整える。
「話なら帰ってから聞くから。」
「帰ってからじゃ遅いんだぁ〜〜〜〜!!」
待ち合わせの場所でアスランは時計塔を見上げる。
約束の時間の5分前…。
自分の心がソワソワしているのは、着慣れない和服の所為か…
それとも…まだ来ぬ恋人への期待なのか…
きっとどっちも…なんだろうな…。
それに加えて、2人きりで出掛けるのは初めての事…。
周囲の女性の視線にさえも気付いていないアスランは何度も時計を見上げる。
その時…
見覚えのある黒塗りの車が通りに停められ、後部座席の扉が開かれた。
そこから姿を現したのは彼女…。
「あ…アスラン!遅くなってごめんなさい!!」
真っ赤な振袖に纏われた彼女は何だか別人のようだった。
「いや…まだ約束の時間前だよ。大丈夫。」
そう返すとはニッコリと微笑む。
「アスランも和服なのね…。」
いつもと違う彼の姿には頬を染めた。
「変…かな?」
「ううん!とても似合ってる…。」
「も…凄く綺麗だ。」
「ありがとう///」
そう言って差し出された手が何だか気恥ずかしくて…
は頬を染めながらその手をそっと取る。
「人が多いからはぐれないように…。」
「うん…。」
勿論、そんな事は口実なのだけれど。
しかりとの手を握ったアスランは、お姫様をエスコートするように先に立って歩き出した。
「やっぱり多いね…。」
「そうだな。」
「は何をお願いした?」
「…内緒…。」
元旦の神社は人で溢れ返り…2人の歩行を阻む。
それでものスペースを確保するかの様に歩くアスランを見つめながら、は幸せを噛み締めていた。
一度は切り捨てようと思っていた…彼への恋心。
カガリがアスランを望んでいるのなら…
カガリは大事な家族だから…カガリには幸せになって欲しいから…。
そう願っていたけれど、アスランは私を好きだと言ってくれた…。
それだけでも十分に幸せだけど、もっと贅沢な事をお願いしたの。
『アスランともっと沢山…ずっと一緒に居られますように』…って…。
出逢った時よりも、好きになった時よりも、片想いしていた時よりも…
時を重ねれば重ねる度、アスランを好きになって行く欲張りな私…。
「痛っ…」
「……?」
の小さな呟きが聞こえ、アスランはゆっくりと振り返る。
「あ…えっと…」
動きを止めたは気まずそうに俯く。
「鼻緒、切れたのか…。」
「…ごめんなさい…。」
「が謝る事じゃないよ。」
人込みを避けてアスランはを通路の隅へ連れて行く。
「あ…ありがとう…。」
持っていたハンカチでアスランは応急処置をしてくれる。
「ごめん…初めてやったから上手く出来なかったけど…。」
「ううん…嬉しい…。」
「人通りが少なくなるまでここで待とうか…。歩きにくいだろ?」
「え…でも…」
「あぁ…これから何か用事があった?」
「ううん!何も無いっ!」
人通りがまばらになったのは夕方近くで…
神社を出た俺達はの迎えを呼び、公園で待つ事にした。
「今日はありがとう。本当に楽しかった。」
「迷惑掛けちゃってごめんなさい…。」
「いいんだ。一緒に居られて嬉しかった。」
「うん…私も…。」
人気の無い公園…。
肌寒い風が吹き抜け、は冷気で頬を紅潮させていた。
「寒い…よな…。」
「え…ううん!大丈…」
手をの肩へと回し、抱き寄せる。
「あり…がとう…。」
アスランの胸は暖かくて…
何だか心地良い音がする…。
自分と同じ速度で高鳴る心音…。
こうしていると落ち着く…。
でも…こんな風に抱き締められるのは初めてで…
「アス…」
顔を上げた瞬間に…そっと塞がれた唇…。
触れたアスランの唇は…温かかった…
吹いている風は…触れている手は冷たいのに、温かかった…。
「ごめん…勝手に…」
唇が離れて…アスランは小さく謝罪する。
を見ていたら…急に我慢が出来なくなって…
気が付いたら口付けていた。
「ううん…。嬉しい…。」
が瞳を閉じる。
二度目のキスの予感。
の唇に自分の物を近付けたその時…。
「!!アスランっ!!」
「「…カガリ!?」」
物凄い剣幕で駆け込んできたのは、迎えの車に同行していたカガリだった。
「私の可愛いにアスランの魔の手が…っ…」
隣で項垂れるカガリと…上の空で車窓から外を眺める…。
指先で何度も唇をなぞっては甘い溜息を吐く。
「カガリ…。」
「何だ…?」
「…私…幸せよ?」
その言葉でカガリがどん底に沈んだのは数秒後のお話。
【あとがき】
双子ネタの続編。
無駄に長くて済みません(汗)
今回もムウさんが優しいお兄さん…。
あぁ…ムウ、大好きだ…。
ユーリ様、遅くなってしまってすいませんでした!
苦情をお待ちしております(汗)
2005.12.28 梨惟菜