『ハロ! Are you ready!?』






今日も元気に飛び回る…真っ赤なハロ。





彼女がこの世を去ったあの日…そのハロは私の手元へと残された。








彼女の涙…



彼女の儚げな笑顔…






あれから何ヶ月も経った今も、忘れる事は出来ない。




ううん…




忘れてはいけない…。








彼女が生きた証を…残した物を…





それを背負って生きて行くと、私達は誓ったのだから。






















貴方の為に誓うこと

































「なぁに?」








何だか何もする気が起きない午後だった…。







コロコロとベッドに転がったまま、ハロと一緒に遊んでいた。







その部屋を叩いたのは、恋人。










転がったまま見上げると、視線の先には大好きな濃紺。








仰向けに寝ていた体を起こし、ベッドの上にちょこんと座る。




そうしたら、アスランもまた、ベッドに腰を下ろした。



















「…どうしたの?」









戦争が終わってからもアスランは元気が無い。






笑顔は見せてくれるけど、その笑顔には何となく影を感じたり…。






そりゃあ…色々と思う事はあるんだと思う。





でも聞かない…聞けない…。






詮索するのは嫌い。





アスランが自分から話してくれるまで…




いつもそう思うけれど、彼は肝心な事ほど隠して話そうとしない。








信頼されていないからとかじゃない。





きっと、私に心配を掛けたくないんだと思う。










やっぱり他人行儀。







私を気遣ってくれるのは本当に嬉しい。






でも、少しは頼って欲しい…甘えて欲しい…。










しっかりしていて…面倒見が良くて…大人なアスラン。






でも…心に掛かった霧をいつも自分自身で振り払おうとしてしまう。






私は頼り無いのかな…?





心の支えにはなれないのかな?





















、そのハロを俺にくれないか?」






「え…?」







アスランが指した物は、の手の中に収まる赤いハロ。







「…どうして?」





「そのハロを…ミーアに返そうと思うんだ…。」






「え…」





















からハロを受け取ったアスランは、工具を取り出して作業を始める。






得意分野であるから、その作業も難なく済んでしまう。






数分の内に、さっきまで元気に跳ねていたハロは動かなくなった。








「…止めちゃうの…?」






「ミーアの傍に置いてやるのが一番だと思って…。」





「…それはそうだけど…」











さっきまで元気に喋ってたのに…今は動かない…ただの球体。



















、一緒に返しに行こう。」

























アークエンジェルのクルーに見送られた彼女は、手厚く葬られた。





小高い丘の墓地に、彼女は眠っている。









名前以外、何も知らなかったミーア。








それでも彼女は確かに存在した。






私の歌を好きだと言ってくれて…憧れだと…そう言ってくれた。








でも…私は何もしてあげられなかった…。








それ所か…そんな彼女に嫉妬したり…嫌な感情を抱いてしまったり…





どうして…もっと話をしなかったんだろう…。





今更後悔しても遅いけれど、もしもあの時私がもっと彼女と話をしていたら…




彼女の事を知っていたら…





あんな悲しい結果にはならなかったんじゃないだろうか…。




















彼女に良く似合うピンク色のバラの花束…。




そして、彼女が大事にしていた赤いハロを墓前に添える。






ここへ訪れるのは初めてじゃない…。




色んな人と、何度か一緒に訪れた。





それでもここへ来ると、色々な事を考えて気分が沈んでしまう。








アスランも…同じなの…?









アスランが彼女に流した涙…




あれは…後悔の涙…









守れなくて…救えなくて…






きっと…そんな気持ちで流した涙…










でも、私はアスランじゃないから…本当の彼の気持ちは知らない。



















…?」








急に背を向け、歩き始めるをアスランは追う。






、どうかしたのか?」







ここ最近、口数の少なくなった




気が付けば、戦争の終盤から互いに話をする機会が少なくなっていた。





何故だか分からない…




バタバタしていたから…と言われればそれだけの事かも知れないが、それだけでは無い気もした。














…」





少し早足で近付き、の腕を掴んだら、彼女はクルリと振り返る。





「…」




瞳には…涙が今にも溢れ出しそうに溜まっていた。












「ねぇ…アスラン。私達、少し距離を置いた方が良くないかな?」





「え…?」







あまりに突然の出来事で…言葉が出ない。







の顔は真剣で…握っていた彼女の手を思わず離してしまった。











…何で…」




そんな事を言うんだ…?











「私、自信が無くなっちゃった…。」






「自信って…」






何の自信だ?





「俺に対する気持ちが…無くなったって事?」





「違う…そうじゃないの…。」





「じゃあどうして!!」






「アスランに想われてる自信が無くなっちゃったの…。」





…」





俺に…想われてる自信が無い?








「俺の気持ちが信じられないって事?」





俺の問い掛けに力無く頷く…。




どうして…






「俺は…いつもの事を想ってる。」




「でも…それだけじゃ伝わらないよ…。」





「え?」










「アスランが何を考えて…何を悩んで迷ってるか…ちゃんと言葉にしてくれないと分からない。」





…」





「いつも1人で抱え込んで…自分の中に閉じ込めて…

 それじゃあ私がアスランの傍に居る意味は無いよ?そう思わない?」






「…俺は…」






「私じゃあなたの支えにはなれない?力にはなれない?」







好きって気持ちだけじゃ、もう傍に居る事は出来ないの。




それ以上のものを求めてしまって…そしてあなたを傷付ける。




そして私も傷付いてしまう。











「アスランにとって…私は何?」






俺にとっての…?






「何でも曝け出す事の出来る相手?弱い部分も見せれる相手?」





射抜くような瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。




ただ傍に居たくて…居て欲しくて…




単純にそう思っていた俺とは違って、はずっと悩んでいたんだ。






進むべき道を模索して悩む俺を見て…




そんな風に想っていてくれたんだ…。



















「ごめん…」





今にも泣き出しそうなの顔を自らの胸に抱き寄せる。







「怖かった…」



「え?」




「本当の俺を知ったら…はどう思うんだろうって…

 そう考えたら怖くて…に嫌われるのが怖くて…そればかり考えてた。」





「アス…ラン…」








アスランの心臓の音は私のものよりもずっと高鳴っていて…



それだけで彼の不安が…動揺が伝わって来る。







の前では頼れる男で居ないと…情け無い自分は見せたらいけないって…いつもそう思ってた。」






「…バカね…弱い部分も情けない部分も含めて好きなのに…。」





…」





「私はね、そんな生半可な気持ちでアスラン・ザラを愛してるんじゃないよ?」








アスランと一緒なら…どんな苦しみだって…悲しみだって乗り越えて行ける。










「だから教えて?アスランの思ってる事全部。

 戦争の中で感じた事…ミーアに対して抱えてた気持ち…どんな些細な事でも良いの。」





どんなアスランを知っても尚、あなたに対する想いは変わらないから…。



そう胸を張って言えるから…。








その時…



頬を一滴の雫が流れた…。





私の涙…じゃない…





見上げると…そこにはアスランの涙…








「アスラン…?」




「ありがとう……」





涙と共に浮かべる優しい笑み…






こんなにも想われているのに、何を不安に思っていたんだろうか…




いつもは真っ直ぐに俺を見つめてくれて…迷いの無い瞳で愛してくれて…




それなのに、俺は何も返してあげていなかった。





こんな小さな体で…俺を支えようと頑張ってくれているなのに…。


















「俺も…を愛してる。」





「アスラン…」





「だから聞いてくれるか?」





「うん…。」






私はあなたの為に生きると決めたんだから…何があっても傍に居る。




それが永遠の愛って意味でしょう?





だから…あなたがどんなに苦しい時でも支えになれるように…



あなたの光でいられるように…








ねぇ…アスラン?




あなたが居てくれて…本当に良かった。





















【あとがき】

う…

シリアス→甘…になってます?

シリアスのまま終わってません??

一応、リクエストでは本編終了後のお話という事でしたが…。

真剣に悩んだ末、『戦場の歌姫』の番外編として書かせて頂きました。

まだDVD13巻の特典の中身が分からない為、書く事も躊躇いましたが…。

こんな形の今後はどうでしょう?の意味も込めてこんな感じで。

勿論、『戦場の歌姫』番外編という事なので曖昧な部分も含めている訳ですが…

これは追々…という事で…はい。


種の錬金術師様、リクエストありがとうございました。

こんなんで大丈夫でしょうか?

…と言いますか、勝手に番外編にしてしまって良かったのやら…

一応、見た限りでは本編を読んでいなくても大丈夫…な内容だとは思うのですが…。

また何かご意見ありましたらお願いしますね。








2005.10.13 梨惟菜












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