「はぁ…」







窓の外は雨模様。




窓を伝う雨の雫を見詰めながら、今日何度目になるか分からない溜息がまた1つ…。








何度も時計に目を向けてはその度に漏れる溜息。








本当は嬉しい筈なのに…その喜びの中に憂鬱な気持ちが入り混じって…







目の前に開かれたノートは真っ白のまま、何時間も経過していた。
























曖昧な受験生

























「全然進んでないね…分からない所でもあるの?」







コツン…と私の頭を小突く人物の気配にも気付かなかった私は窓越しに映る人に驚く。







「…キ…キラ!?いつの間に!?」





「ちゃんとノックもしたよ?なのに返事が無いから…入っちゃった。」





ごめんね…と苦笑しながら、隣に用意された椅子へと腰を下ろす。







「ちょっと早く着いちゃったんだけど…」




「あ…ううん。大丈夫。」





「じゃあ始めようか?」



「…はい。」












改めて気持ちを引き締めた私は、転がっていたペンを握った。





















「で、ここの数字を当てはめると…」




「あ…そっか!」






苦手な数学も、キラの教え方1つで簡単なパズルに変わってしまうみたい。




学年トップの幼馴染…。





女の子から凄くモテるキラを独り占めしてる私…。




でも皆、幼馴染だから…って何も言わない。






幼馴染=恋愛対象外




そう思ってるのかな…。








私は…そんな事これっぽっちも思ってないんだけどな…。





小さい頃からずっと一緒だったキラ。




ずっと一緒に育って来たキラ。






誰よりも近くに居たキラ。








キラを特別に想わない筈なんて無い。




私の中では…誰よりも大事で、誰よりも好きな人。



















でも…



ずっと一緒だった私達も…あと少しで離れ離れになっちゃうんだね…。















受験生の私達は、それぞれの進路に向けて必死に勉強する時期になっていて…。



今まで恋愛モードではしゃいでた女の子達も皆必死。





好きな人と同じ大学に進みたくて…



今は志望の大学に受かる事だけを考えて…






私だって…同じ立場なんだけど…




でも、どうしても頑張れないの。










キラは…遠くの学校へ行ってしまうから…






















「何だか…最近調子悪いみたいだね?」




「え?そんな事…ないよ?」




「頑張ってるみたいだけど…時々上の空になってる。何か悩み事でもあるの?」









心配してくれるのはとても嬉しいけれど…



こんな事…絶対に言えない。



言える筈が無い。










私の悩みなんて…他の人から見たらちっぽけなもので、これを口に出してしまったら困るのはキラ。








望みは1つ。





『キラ…行かないで…』





離れたくない。


ずっと一緒に居たい。



でも、それは言えない。











優秀なキラにとって、進むべき大学は大きな未来への第一歩。




私がどう頑張っても入る事の出来ない大学に、推薦で入るキラ。






おめでとう…って言ってあげなくちゃいけないのにね。




心の中にあるドロドロした気持ちが邪魔をして、素直に言葉にする事が出来ないの。
















だって…


今までは私が一番傍に居た。


でも、春からは違うの。




違う場所で過ごして…違う場所で学んで…



もしかしたら…別の女の子がキラの傍に立つのかもしれない…。







そう思うと、嫌で嫌で堪らなくなって…



勉強にも身が入らなくなっちゃって…





このままじゃ、どこの大学にも行けないよ…っ…




















「やっぱり変だよ…。」




「え?」




「ホラ、またボーッとしてる。」




「そ…そんな事…」




「今、僕が何を言ったか聞いて無かったでしょ?」




「あ…」









「もしかして…プレッシャー感じてる?もうすぐだから…。」




「…キラはいいな…」




「え?」




「もう推薦で決まってるんでしょ?」




「あ…」






今の…嫌味っぽかったかな…



何でもっと…可愛く言えないんだろう。






















「ねぇ…の志望校ってS大でいいんだよね?」




「え…?うん…。」




「滑り止めは?どこ受けるの?」






「えっと…第二希望のT大の家政科と第三希望のW大の文学部…」





「家政科かぁ…」



「??」





腕組みをしたキラは困った表情で首を捻る。






「ねぇ…第二希望、変えない?」



「へ?」




何を急に…




「だって…T大の家政科って女子しか受けられないでしょ?」




「あぁ…うん。」




「共学にしてよ。出来れば工業系とか嬉しいんだけど…。」






ちょっと待って…何を言ってるの…?




「キラ?何で共学じゃないとダメなの?」




「僕が受けれないから。」




「は!?」







何を…言ってるの?





「だってキラ…推薦で…」




「うん。アレは断ったから。」




「断った!?何で!?」











学校側から是非に…って言われたのに…



こんな話、滅多に無い事だって…先生達も大喜びしてたのに…









「だって…僕もと同じ学校に通いたいから。

 だから、第一希望も滑り止めも全部、同じ学校受けるから。」





「…キラ…?」





本気で…言ってるの?



私と同じ学校に通いたいから…推薦の話を蹴った?










は迷惑だった?」





「そんな事ない!そんな事ないけど…でも…」





「でも?」





「そんな大事な事…簡単に決めちゃっていいの?」





「簡単にじゃないよ。」





何度も何度も悩んで…考えて…



でも、考える度に浮かぶのはの顔。



















「確かに凄くいい話だけど、もっと大事な事があるって気付いたんだ。」




「もっと…大事な事?」






「…と一緒に居る事だよ。が好きだから、ずっと一緒に居たいんだ。」





「私…と…?」







僕達は小さい頃から一緒で…



誰よりも一緒に居た時間が長くて…長過ぎて…





大事な事を忘れかけていた。







が離れてしまう事がどれだけ僕にとって大きい事か…




大学に通うのは僅か4年だけど…




その間にもきっと、はどんどん綺麗になって…周りの男の子はきっと放ってはおかない。





僕の知らないが増えるなんて耐えられない。














は?僕の事、どう思ってる?」





未だ戸惑うの顔を覗き見ると、は急に頬を染めた。





「す…」



「す?」




「好き…。キラの事が凄く好き。

 だから…ずっと一緒に居たい。離れたくない。」





「うん。じゃあ決まり。」



「え?」




「第一志望に合格すれば問題無いんだけど…一応、第二志望、一緒に考え直してくれる?」



「…う…うん。」





何だか夢見たいで…頭の中がフワフワする…。




そんな私の肩を、そっとキラが抱き締めた。









、一緒に頑張ろうね。」











チュッ…と




頬に落とされたキラからのキス。











春からもずっと一緒だよ?








耳元で囁かれた声に思わず涙が零れた。





















【あとがき】


お待たせ致しました。

キラ夢、受験生設定です。

夏も終わりですが…受験生の皆様には長く苦しい夏だったと思います。

お疲れ様でした。

まだまだ厳しい日が続くとは思いますが、少しでもお勉強の励みになれば…

玲様、リクありがとうございました。

色々と悩みも多いお年頃なんでしょうね…(私はかなりふざけた高校生でしたが…)

暑さに負けず、頑張って下さいね!







2005.8.25 梨惟菜










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