出会ってはいけなかった・・・。
惹かれ合ってはいけなかった・・・。
けれど・・・
もう、後戻りは出来ない・・・。
私達は出会ってしまったから・・・。
7Days Love
<<7>>
「イザーク・・・遅いなぁ・・・。」
ホテルのロビーでは小さく呟いた。
目の前には紅茶が置かれていたが、全く手をつけないまま冷め切っていた。
『朝一番で迎えに行くから・・・』
そう約束したイザークから、何の連絡も無いまま。
戻って来たイザークの表情は何だか複雑そうだったし。
呼び出しの内容・・・複雑な事だったのかな・・・。
それとも・・・私、変だった?
そう考えた直後に1人赤面してしまう。
イザークはどうか分からないけれど、私は初めてで・・・
何が何だか分からないままイザークに身を委ねているだけで・・・
もしかして無意識の内に何か口走ってしまったのかも知れない・・・。
「どうした?顔が赤いぞ?」
「・・・イ、イザーク!?」
背後からの頭をコツンと小突いたのは、が考えていた相手・・・。
「悪い。遅くなったな。」
「・・・うぅん。平気だよ。」
「朝食、まだなんだろ?」
イザークはソファの横に置かれたのカバンを軽々と持ち上げた。
「うん。ありがとう。」
嬉しそうにイザークに腕を絡める・・・
そんな無邪気な仕草にイザークは眉を寄せる事しか出来ない。
はどうして・・・俺を愛せるんだ・・・?
何度も出そうになった言葉が喉で詰まる。
聞きたいけれど聞けない・・・。
昨夜、何度も何度も考えた・・・
刻々と迫る別れの時間。
今までの事・・・これからの事・・・
考えても答えが出なくて・・・
に会って、俺の心はまた揺れた。
こんなにも愛しいのに・・・手放したくないのに・・・
でも、俺は決して許されない罪を犯した・・・
俺の手は・・・を抱き締めていい手なのか・・・?
俺の血に染まった手は・・・に触れていい手なのか・・・?
「イザーク?どうしたの?」
「え・・・?」
朝食の時からずっと、イザークの目は遠くを見ているみたいで・・・
の表情も自然と曇る。
「やっぱり・・・幻滅しちゃった・・・?」
「?何がだ・・・?」
「一昨日の事・・・。私、初めてでどうしたらいいか分からなかったし・・・。」
恥ずかしさのあまり、は俯きながら小声で問い掛ける。
2人きりの車内だけれど、何となく恥ずかしくて・・・
「一昨日の夜のは最高に可愛いと思ったぞ。」
そんな恥ずかしいセリフがサラッと言えてしまうのは、その気持ちに偽りが無いからだろうか・・・。
を愛しいと想う気持ちに変わりはないから・・・。
それでもイザークの表情は重い。
元々、普段から笑わない人ではあるけれど・・・。
私がプラントで過ごせる時間は確実に減っていて・・・
それはつまり、イザークと離れ離れになるという事なのに・・・
彼は何も言ってくれない・・・これからの事・・・
それとも、イザークに言われるのを待っている私がいけないのかな・・・?
結局それから会話は弾む事無く・・・
気が付けば車は空港へと入っていた。
搭乗手続きも済ませたは、イザークと並んでベンチに腰掛ける。
触れそうで触れない距離がもどかしくて・・・
私達・・・これからどうなるの?
地球へ戻っても・・・2人の気持ちは一つだって・・・
そう信じてもいいんだよね・・・?
そう言葉に出来たらいいのに・・・
どうしても言葉にする事が出来ないのは・・・
イザークに隠し通そうと決めた想いがあるからなのだろうか・・・。
「どうしても・・・の口からは話して貰えないんだな・・・」
沈黙が破られたのは出発まで30分を切った時だった。
「・・・え・・・?」
イザークの言葉に不安が募る。
話して貰えない・・・?
まさか・・・
「の家族を殺したのは・・・俺なんだろう・・・?」
ドクン・・・
イザーク・・・知って・・・る?
「昨日、ディアッカと話しているのを聞いた。その後ヤツに問い詰めた。」
だから・・・
ずっと様子が変だったの・・・?
私が隠し通そうと決めていたのも知っていたから・・・?
「イザーク・・・私は・・・」
全身が震える・・・
目の前には自分の家族を殺した人・・・
でも、自分が愛してしまった人・・・
憎いと思わなかった訳じゃない。
一度は憎悪を抱いた相手だった・・・。
でも、出会ってしまったから・・・
惹かれてしまったから・・・
愛してしまったから・・・
「俺は・・・を愛する資格なんて無いんだ。」
「違う!私は・・・!!」
言わないで・・・
お願い・・・言わないで・・・
終わりになんてしたくないの・・・
「これ以上、を愛する事は出来ない・・・」
『オノゴロ行きのシャトルにご搭乗のお客様にお知らせ致します。
間もなく出発時刻となりますので、7番ゲートよりご案内致しております。』
「時間だ・・・」
立ち上がるイザークの隣で、の動く気配は無い。
「・・・」
「嫌・・・行かない・・・」
離れたくないって言ってくれたじゃない・・・
私も同じ気持ちだって言ったじゃない・・・
なのに・・・どうして・・・
「何を言っているんだ。行くぞ・・・。」
動こうとしないの腕を、強引に引き上げる。
「嫌・・・離して!!」
必死に振り切ろうとするが、軍人の男相手に敵う筈も無く、ゲートまで辿り着く。
「イザーク!どうしてなの!?」
無意識の内に流れる涙がの視界を滲ませた。
それでもイザークの表情が変わる事は無く、いつもの冷静な表情を保ったままだった。
「私は・・・イザークと一緒に居たいの!!」
ようやく言葉に出来たのに・・・
イザークの心には届かないの・・・?
「俺は・・・そこまでを愛せる自信も無いし、幸せにする自信も無い。」
その言葉に、全身の力が抜ける・・・。
「俺以外の男と幸せになってくれ・・・。」
窓際で流れる景色を眺めながら、イザークの最後の言葉を何度も思い返す。
『俺以外の男と幸せになってくれ』
もう・・・言葉を返す事すら出来なかった・・・。
『一緒に居たい・・・』
どんなに叫んでもこの声は届かない・・・
もう・・・あなたと触れ合う事は出来ない・・・
止め処なく溢れる涙を止める気力も無く、は泣き続けた・・・。
少しずつ離れて行く距離に・・・
少しずつ離れて行く心に・・・
もう・・・私の想いはあなたには届かないのね・・・。
「くそっ!」
運転席に乗り込んだイザークは力一杯ハンドルを叩いた。
これで良かったんだ・・・
これ以上、愛し合う事は出来ない・・・。
これ以上、を求めてはいけない・・・。
だから、をボロボロに傷付けて別れた。
俺を憎むように・・・
二度と一緒に居たいなんて思わないように・・・。
こうする事しか出来なかったんだ。
こうでもしないと自分が保てない。
どう償ったとしても、の家族は戻らない・・・。
俺が奪った彼女の家族・・・
彼女の幸せ・・・
そんな彼女を一瞬でも幸せにしてやりたいと思った自分が恥ずかしくて・・・
でも、これで終わりにしよう・・・
なら他にいい男がすぐに見つかる・・・。
何も知らない男に幸せにして貰った方がの為なんだ・・・。
俺以外の男だったら・・・を優しく慰めて、心の傷を癒してやる事が出来るから・・・。
空港を出たイザークは評議会へと真っ直ぐ向かう。
視界がぼやけてハッキリと見えない・・・。
イザークの瞳は涙で滲んでいた。
どうして俺達は出会ってしまったのだろう・・・
【あとがき】
ひとまずプラント編終了です。
何かメチャクチャな所で終わってるじゃねぇか…!!
そうなんですよ…。
波乱の展開です。
シリアス作品って好きなんですが、あまり書いた事がないので…
正直ここまでどんな印象なのかが分かりません。
どうなんだろう…??
次は地球編に突入しますw
一度は離れた2人の心…
さぁ、どうなるのでしょう?
ここまでお付き合いくださってありがとうございました。
続きも読んでいただけると嬉しいです。
2005.3.24 梨惟菜